故人が遺言書を遺していなかった場合、故人の遺産は原則として法定相続に基づいて分割され、各相続人が相続することになります(法定相続人が1人しかいない場合を除く)。
今回は、遺言書が遺産相続に果たす役割と、有効な遺言書を書くためのポイントを弁護士が詳しく解説します。
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遺言書とは
遺言書とは、故人が生前に「自分の死後に実現したい」という意思を書面に表したものです。
遺言書の内容は法的効力を持つものとそうでないものがありますが、遺産相続に関しての故人の遺言は、民法に基づく遺留分(一定の相続人が最低限度相続できる遺産の保証分)を除いて、法定相続に優先するものとされています。
もう少しわかりやすく、例を挙げて説明しましょう。
ある資産家が亡くなったとき、「遺産のすべてを長男に渡したい」という遺言を遺したとします。
しかしこの場合、遺された配偶者や二男が遺産をまったく受け取ることができないのはあまりにも気の毒なので、遺留分によって奥さんと二男は民法で認められる最低限の遺産を相続し、残りの遺産が長男に相続されることになります。
遺言書の種類
遺言書には、次の種類が存在します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者本人が全文を自筆する形式の遺言書です。
自筆証書遺言は、遺言者がその全文、日付、氏名を自書して、これに印を押さなければなりません。
また、訂正方法も「その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押す」など、要件が厳格に定められています。
もっとも手軽な遺言方法である一方で、要件を一つでも誤れば無効となってしまう点で不安が残る遺言書の形態です。
なお、2020年7月10日から自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度が始まっています。
保管制度を利用することで、形式的な要件を保管時に確認してもらえるため形式的な要件を満たさず無効となるリスクを下げることができる他、偽造や変造、紛失のリスクをなくすことが可能となりました。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証人の面前で作成する遺言書です。
公証人の他、証人2名の立ち合いが必要となります。
作成には公証役場へ手数料がかかりますが、自分で文章を書く必要がないため、もっとも無効になりづらい形態の遺言書であるといえます。
また、作成をした遺言書の原本は公証役場で保管がされるため、偽造や変造、紛失などの心配もありません。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、あらかじめ作成をして封をした遺言書を、公証役場で保管してもらう形式の遺言書です。
誰にも内容を知られることなく作成ができる点はメリットですが、公証役場で内容を確認してもらえるわけではないことなどもあり、現実的にはあまり利用されていません。
特別方式の遺言
上に挙げた3つの「普通方式の遺言」の他、特別方式の遺言も存在します。
特別方式の遺言とは、普通方式の遺言では遺言を作成できない何らかの事情がある場合に使用される遺言の形態です。
特別方式の遺言には、次の4つが存在します。
- 死亡の危急に迫った者の遺言
- 伝染病隔離者の遺言
- 在船者の遺言
- 船舶遭難者の遺言
このような際にも、遺言書を作成する道があることを知っておくとよいでしょう。
遺言書の持つ効力
遺言書の持つ主な効力は、次のとおりです。
遺産の分け方の決定
遺言書の効力のうちもっとも代表的なものに、遺産の分け方の決定があります。
たとえば、「次の不動産は長男である太郎に相続させる」旨の遺言書を作成しておけばその不動産は相続が起きた後で実際に長男である太郎さんが取得することになりますし、「遺産のうち金3,000万円はお世話になった山田一郎(住所〇〇、生年月日〇〇)に遺贈する」旨の遺言書を作成しておけば、金3,000万円は実際に山田一郎さんが取得することになるわけです。
仮に遺言書がなければ、相続が起きてから遺産を分けるには、原則として相続人全員の話し合いである「遺産分割協議」を成立させる必要があります。
遺産分割協議の成立には相続人全員の同意が必要ですので、一人でも納得しない相続人がいれば、遺産分割協議を成立させることはできません。
一方、あらかじめ遺言書ですべての財産について行先が決まっていれば、遺産分割協議をする必要はなく、遺言書に従って粛々と遺産を分けることが可能となります。
遺言執行者の決定
遺言執行者とは、遺言書に書かれた内容どおりに遺言書を実現する責任者のことです。
この遺言執行者は、相続が起きてから家庭裁判所で選んでもらうこともできますが、あらかじめ遺言書で定めておいた方がスムーズでしょう。
遺言執行者は未成年者と破産者以外は誰でもなることができますので、家族の誰かを指定しても構いません。
ただし、自分が亡くなった後で遺言執行の手続きをしてもらう必要がありますので、自分よりも若くて健康な人を選んでおいた方がよいでしょう。
また、弁護士などの専門家に遺言執行者を依頼することも可能です。
特に、争いが予見される場合や執行の内容が複雑である場合、遺言書どおりに確実に執行をして欲しい場合などには、弁護士などの専門家へ依頼しておくことをおすすめします。
相続人からの廃除に関すること
遺留分のある推定相続人(将来相続人になる予定の配偶者、子、孫、親など)が次の行為をしたときには、家庭裁判所の許可を受けることで、その人の相続の権利を剥奪することができます。
- 被相続人に対して虐待をしたとき
- 被相続人に重大な侮辱を加えたとき
- 推定相続人にその他の著しい非行があったとき
これを、「相続人からの廃除」といいます。
また、いったん家庭裁判所から廃除の許可が下りた相手に対して、廃除の取り消しをすることも可能です。
これら廃除に関する手続きは被相続人が生前に行うこともできますし、遺言書で記載をして、相続開始後に遺言執行者に手続きをしてもらうこともできます。
なお、廃除対象者が遺留分のある推定相続人に限定されている理由は、遺留分のない人であればわざわざ廃除の手続きなどを経なくとも、その相手に何も相続させない旨の遺言書を作成すれば事足りるためです。
遺留分については、後ほど改めて解説します。
認知に関すること
認知とは、男性がいわゆる婚外子を、自分の子であるとして認めることです。
認知の手続きは生前にすることもできますし、遺言書に記載をして、相続開始後に遺言執行者に手続きをしてもらうこともできます。
後見人の指定に関すること
未成年者の親権を持っている場合には、自分が亡くなった後でその未成年者の後見人となるべき人を遺言書で定めておくことが可能です。
未成年後見人とは、未成年者の監護養育、財産管理など、未成年者のために親権者と同様の役割を担う者を指します。
たとえば、子のもう一方の親が離婚や死亡などですでに親権を持っていない場合において、唯一の親権者である親が亡くなると、その後未成年の子の身上監護を担う人がいなくなってしまいます。
こうした場合に備えて、遺言書において、たとえば信頼できる自分の姉を未成年後見人として指定しておくことが可能です。
無効と判断されない遺言書の書き方
せっかく作成した遺言書が無効であると判断されてしまわないためには、次の点に注意したうえで作成するとよいでしょう。
公正証書遺言で作成する
遺言書には、先ほど解説したように、3つの普通方式の遺言と、特別方式の遺言が存在します。
遺言書が無効とされてしまわないためには、これらのうち、公正証書で遺言書を作るとよいでしょう。
なぜなら、公正証書遺言は自分で文章を書く必要がなく、書き方を誤ったり要件を満たさなかったりすることで無効となるリスクが限りなく低いためです。
また、公証人と証人2名の立ち合いがあることから、本人が本人の意思で遺言書を作成したとの証明がしやすいといえます。
さらに、公正証書遺言の原本は公証役場で保管がなされるため、偽造や変造、紛失の心配などもありません。
そのため、より確実に有効な遺言書を遺したい場合には、公正証書で遺言書を作成することをおすすめします。
自筆証書遺言なら遺言書の要件をよく確認して作成する
やむを得ず公正証書遺言ではなく自筆証書遺言を遺す場合には、遺言書の要件をよく確認したうえで作成しましょう。
自筆証書遺言は要件が非常に厳格に定められており、一つでも要件を満たさなければ無効となるおそれがあります。
たとえば、次のような自筆証書遺言は無効となったり後のトラブルになったりする可能性が高いため、注意が必要です。
- 押印がない
- 遺言書の本文が手書きされていない
- 日付が明確に記載されていない(「吉日」表記は無効)
- 添え手をした介助者の意向が反映された形跡がある
- 訂正方法が誤っている
自筆証書遺言を、自分一人で問題なく有効に作成することは、実はさほど容易ではないことを知っておきましょう。
遺留分に注意する
遺留分とは、子や配偶者など一部の相続人に保証された、相続での最低限の取り分です。
遺留分を侵害する内容であるからといって、遺言書が無効になるわけではありません。
しかし、遺留分を侵害した遺言書を遺してしまうと、後にトラブルとなる可能性があるため注意が必要です。
たとえば、長男と二男の2人が相続人であるにもかかわらず、長男に全財産を相続させる旨の遺言書を遺したと仮定しましょう。
この遺言書は、他の要件を満たしている限りは有効です。
ただし、相続が起きた後で二男から長男に対して、「遺留分侵害額請求」がなされる可能性があります。
遺留分侵害額請求とは、自分の遺留分を侵害した分を、金銭で支払うようにとの請求のことです。
この請求がなされると、長男は二男に対して、侵害した遺留分相当の金銭を実際に支払わなければなりません。
無効になるわけではないものの、このようなトラブルの原因となりかねません。
遺言書を作成する際には、遺留分についてよく理解をしたうえで作成する必要があります。
医師の診断書を取得する
判断能力に疑問がある人がかなり複雑な内容の遺言書を遺した場合などには、本当に本人が本人の意思で作成したものであるのかについて疑義が生じてしまいかねません。
そのため、相当高齢であったり、認知症の疑いがある人などが遺言を遺す場合には、可能な限り医師の診断書を取得して、遺言書とともに保管をしておくとよいでしょう。
早いうちに作成する
一般的には、高齢になるにつれて判断能力が衰えていく傾向にあります。
判断能力が衰えてしまったり認知症となってしまったりすれば、有効な遺言書を作成することは徐々に難しくなっていくでしょう。
そのため、遺言書を作成する意向がでてきたら、判断能力に問題がないできるだけ早いうちに作成をしておくことをおすすめします。
可能な限り家族などに内容を伝えておく
遺言書は、自分一人の意思で作成することが可能です。
そのため、作成にあたって、家族に相談をしたり家族の同意を得たりする必要はありません。
しかし、たとえば家族が集まったタイミングで遺言書の内容について告げておくことで、遺言書が本当に本人の意思で作成したものであることが明確となります。
そのため、状況が許すのであれば、あらかじめ本人の口から家族などに対して遺言の内容を伝えておくとよいでしょう。
専門家のサポートを受けて作成する
問題のない内容で遺言書を作成することは、実はさほど容易なことではありません。
たとえ形式上は問題がなかったとしても、相続開始後のトラブルの火種となりかねない遺言書は多数存在しています。
そのため、遺言書の作成をする際には、専門家へサポートを依頼することをおすすめします。
まとめ
遺言書には、遺産の分け方をあらかじめ決めておくなどさまざまな効力が存在します。
しかし、せっかく遺言書を作成しても、無効であると判断されてしまえば何の意味もないどころか、トラブルの火種となってしまいかねないでしょう。
そのため、相続開始後に効力を有する遺言書を作成したい場合には、専門家のサポートを受けることをおすすめします。
Authense法律事務所には、遺言書や相続問題に詳しい弁護士が多数在籍しております。
遺言書の作成サポートを受けたい場合や、家族が遺した遺言書に疑義が生じている場合などには、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
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