2021年4月に賃貸不動産の共有に関する規定が改正されました。
共有物の変更や管理の定義が明確化されたほか、行方不明の共有者についての対処方法が創設されています。
賃貸不動産の共有に関する規定の改正のポイントをわかりやすく解説します。
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相続時に賃貸不動産を分ける4つの方法
相続財産が預貯金などの金融資産ばかりであれば、法定相続分どおりに分けることは容易といえます。
金融資産であれば、必要な金額だけをそれぞれ配分しやすいためです。
しかし、相続財産が金融資産のみというケースは、それほど多くはありません。
それどころか、賃貸不動産など分けづらい財産が相続財産の大半を占めるという場合も少なくないでしょう。
はじめに、相続で賃貸不動産を分ける4つの方法を紹介します。
現物分割
現物分割とは、それぞれの財産をそれぞれの取得者に割り当てる形で遺産を分ける方法です。
たとえば、「自宅不動産とA銀行の預金は長男が取得し、賃貸不動産は二男が取得し、B銀行の預金は長女が取得する」などの場合がこれに該当します。
しかし、現物分割できっちりと法定相続分で分けることは容易ではありません。
財産を過不足なく現物で分けられるケースは、それほど多くはないためです。
代償分割
代償分割とは、一部の相続人が財産を取得する代わりに、他の相続人に対して金銭を支払う形で財産を分ける方法です。
たとえば、「遺産の大半を占める賃貸不動産を長男が取得する代わりに、長男から二男と長女へそれぞれ2,000万円の金銭を支払う」という場合がこれに該当します。
金銭で調整をするため、遺産を平等に分けやすい点が代償分割のメリットです。
ただし、財産を取得する人(例でいうところの長男)が、代償金を支払うだけのお金を持っている必要があります。
換価分割
換価分割とは、遺産を売却して得た金銭を分ける方法です。
たとえば、「遺産の大半を占める賃貸不動産を売却して、売却の結果得たお金を長男、二男、長女で平等に分ける」などがこれに該当します。
金銭を分配するため、平等に分けやすい点がこの方法のメリットです。
一方で、亡くなった方(「被相続人」といいます)が残してくれた遺産を手放すことになる点が、換価分割の最大のデメリットだといえます。
また、売却の条件などについて相続人間で争いが生じてしまう可能性もあります。
たとえば、長男としては5,000万円でも良いからできるだけ早く売りたいと考えている一方で、長女としては6,000万円以上でなければ売却しないと考えているなど、売却についての考え方が相続人間で異なる場合があるためです。
共有分割
共有分割とは、遺産を共有のままとする方法です。
たとえば、「遺産の大半を占める賃貸不動産を、長男、二男、長女がそれぞれ3分の1ずつの割合で相続する」などがこれに該当します。
平等に分けることができ、かつ代償金などのまとまった金銭のやり取りが不要である点がメリットですが、デメリットも少なくありません。
共有分割の問題点については、次でくわしく解説します。
賃貸不動産を共有分割する際の問題点
賃貸不動産を共有分割する場合には、デメリットをよく理解したうえでおこなわなければなりません。
他の分割方法が難しいからといって安易に共有分割を選択してしまえば、単なる問題の先送りとなりかねないためです。
賃貸不動産を共有分割することの問題点は、次のとおりです。
賃貸不動産の変更などで他の共有者の同意が必要になる
賃貸不動産を共有すると、賃貸不動産についての大きな決断をする際に、その都度他の共有者の同意が必要となります。
これについての法律の規定は、次のとおりです。
- 共有物の変更(売却や増改築など):共有者全員の同意
- 共有物の管理(賃貸など):共有者の持分の過半数の同意
- 共有物の保存(軽微な修繕など):他の共有者の同意は不要
つまり、共有である以上は共有者が単独でできる行為はかなり限定されており、共有となっている賃貸不動産に手を加える際には、他の共有者の同意が必要になる場面が多いということです。
そのため、共有者同士の意見がまとまらない場合には争いに発展するリスクがあります。
賃貸不動産の他の共有者と連絡を取り合う必要がある
上で解説をした変更や管理のときでなくとも、賃貸不動産の共有者同士は連絡を取り合わざるを得ない場面が数多く存在します。
たとえば、軽微な修繕をした場合に一部の共有者がまとめて支払った費用を他の共有者へ請求する場合や、入居者トラブルへの対応方法の相談などです。
そもそも相続での話し合いがうまくまとまらなかった結果として共有分割を選択したような場合には、共有者同士の関係性がよくない場合も少なくないでしょう。
そうした間柄であるにもかかわらず連絡を取り合わざるを得ない状況は、心理的なストレスの原因となりかねません。
また、些細なことからトラブルに発展してしまう可能性もあるでしょう。
相続を繰り返すことで共有関係が複雑になる
年月が経過すると、共有者にも相続が起き、代替わりが生じます。
その結果、長男の子や妻と二男の子や妻、長女の子や夫が共有者となる可能性があるのです。
関係の遠い人同士の共有となれば連携を取ることは難しく、賃貸不動産の変更や管理についての同意を得ることがより困難となってしまいかねません。
関係者の数が増えれば増えるほど、他の共有者の持分を買い取って共有を解消することなどもより困難となります。
共有分割を選択する際には、共有者間の現時点での関係性のみならず、いずれは共有者が亡くなり代替わりが起きることも考慮しておくべきでしょう。
2021年民法改正で賃貸不動産の共有規定はどう変わったか
共有については、さまざまな問題点が指摘されていました。
そこで、2021年4月28日に、共有について定めている民法の改正法が公布されています。
この改正法は公布から2年以内に施行されるとされており、2023年4月頃までに施行される予定です。
共有について改正された主な内容は、次のとおりです。
共有物の変更に関するルールが明確化された
従来、共有物の変更については、次のように記載されているのみでした。
(共有物の変更)
第251条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
これだけでは、どこまでの行為が「変更」に含まれるのかの判断が困難です。
変更に該当してしまえば共有者全員の同意が必要となるため、行為を主導する共有者としては、行おうとしている行為が変更に該当するかどうかが大きな問題となります。
しかし、条文のみでは判断のしようがないため、個別事情に応じて解釈や判断に委ねられていました。
そこで、改正では変更の後ろにカッコ書きを設け、変更に該当する行為かどうかの判断の基準を定めています。
(共有物の変更)
第251条 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない
これにより、共有者全員の同意が必要とされる「変更」が、形状や効用に著しい変更を伴うものに限定されました。
これと併せて、共有者の一部が行方不明である場合には、行方不明の共有者以外の同意のみで変更行為ができるよう、裁判所へ請求できる制度も創設されています。
共有物の管理に関するルールが明確化された
共有物の変更と同様、共有物の管理についても定義が明確化されていませんでした。
改正法では、短期賃貸借など一定の行為を管理行為に該当すると明記するとともに、形状や効用の著しい変更を伴わないものは変更行為ではなく管理行為に該当すると整理しています。
改正法により「管理」に該当するとされた賃貸借は、それぞれ次の期間を超えないものです。
- 樹木の栽植または伐採を目的とする山林の賃借権等:10年
- 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等:5年
- 建物の賃借権等:3年
- 動産の賃借権等:6ヶ月
つまり、3年以内の期間で行うアパートなどの賃貸であれば、共有者の持分の過半数で行うことができるということです。
また、他の共有者が行方不明である場合や管理行為への賛否を明らかにしない場合などには、これらの共有者を除いた共有者の持分の過半数で管理行為ができるよう裁判所へ請求できる制度なども創設されました。
共有解消のルールが整備された
改正により、共有を解消する共有分割のルールが明確化されています。
従来の規定では、共有分割について次のように定められているのみでした。
(裁判による共有物の分割)
第258条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
しかし、この規定の記載のみでは、そもそも共有者の一部が行方不明などで協議をすることさえできない場合には、共有分割の請求ができないこととなります。
そこで、改正法では次のように定められました。
(裁判による共有物の分割)
第258条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
これにより、協議が不調である場合のみならず、協議をすることができない場合であっても共有分割の請求ができることが明確化されています。
行方不明の共有者の持分を取得できる制度が創設された
これまで、共有者の一部が行方不明となってしまった結果、共有物の変更や管理に支障が出てしまうケースが少なからず存在していました。
そこで改正法では、行方不明となった一部の共有者の持分を他の共有者が取得できるよう裁判所へ請求できる制度が新設されています。
請求が認められれば、行方不明となった共有者の持分を他の共有者が取得することが可能です。
残った共有者が複数いる場合には、残った共有者の元々の共有持分で按分した分をそれぞれ取得することとなります。
不動産共有に関する規定の改正がされた理由
不動産共有についての規定が改正された背景には、所有者不明土地の問題があります。
所有者不明土地とは、相続登記がなされないまま長期間放置されたなどの理由により、もはや誰が所有者なのかわからなくなってしまった土地のことです。
土地の所有者が不明となれば、その土地上にある空き家が危険な状態となった際に誰に連絡を取ったら良いかわかりません。
また、その土地を活用しようにも誰に使用の許可を取って良いのかわからず、使いようのない土地となってしまいます。
これと同様の問題が共有不動産にも生じていたことが、今回改正がなされた主な理由です。
共有者の一部が登記をしないまま住所を移転して連絡が取れなくなったり、共有者が亡くなったらしいとの情報があってもその相続人が誰なのかわからなかったりなどの事情が生じている不動産は、決して少なくありません。
特に、相続を繰り返し事実上の共有者が数十人など非常に多人数となってしまう「メガ共有地」ともなれば、全員とスムーズに連絡が取れるケースの方が珍しいほどでしょう。
こうした事情から他の共有者の同意が取り付けられず、大規模修繕などが行えない賃貸不動産の存在が問題となっていたのです。
このような背景から、仮に共有者の中に所在のわからない人がいたとしても大規模修繕など必要な措置を取ることができるよう、今回の改正がなされました。
不動産共有に関する規定の施行後も共有相続は慎重に
共有についての規定が改正され、万が一共有者の中に行方不明となる人が生じた場合であっても、救済の道が開けることとなりました。
しかし、改正後であっても、安易に共有相続を選択することはおすすめできません。
改正により、共有に関するすべての問題が解決されたわけではないためです。
共有相続は、いずれ共有の解消という新たな問題の火種となることがお多く、問題の先送りでしかありません。
安易に共有とするのではなく、弁護士へ相談しながら後に問題が起きづらい分割方法を検討すると良いでしょう。
まとめ
2021年の民法改正により、共有に関する規定が変更されました。
共有となっている賃貸不動産についてお困りの方にとって、この改正により解決への道が開けるかもしれません。
これまでの法制度では解決が難しかった案件であっても、改正法の適用で解決できる場合があります。
共有となっている賃貸不動産でお困りの際には、ぜひオーセンスまでご相談ください。
オーセンスには、不動産法務にくわしい弁護士が多数在籍しており、物件オーナー様の困りごとを総合力で解決に導きます。
Authense法律事務所の弁護士が、お役に立てること
共有者の間で仲が悪くなったり、他の共有者が不明の場合には、賃貸不動産の管理に多くの問題が生じます。
このような問題の根本的な解決としては、共有物分割請求により、共有状態を解消することだと思います。
弊所には、不動産法務に詳しい弁護士が多数在籍しており、共有物分割請求も対応可能ですので、ぜひ弊所にご依頼ください。
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