立退料の税務上の取り扱いについて弁護士がわかりやすく解説します。
立退料を受け取った際は、税金の対象になります。一方で、立退料を支払った場合には経費に算入することが可能です。
消費税の取り扱いについても紹介します。
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立退料にも確定申告は必要
立退料とは、物件オーナー側の都合で賃借人が物件から立ち退く際に、物件オーナーから支払われることのある金銭です。
立退料を受け取った場合には課税の対象となるため、原則として確定申告が必要となります。
所得区分
立退料を受け取った場合、どの所得区分となるのかは、立退料の性質によって次のように異なります。
- 資産の消滅の対価補償としての性格のもの:借家権など権利の対価の額に相当する金額を立退料として受け取った場合には、借家権など権利の譲渡であると考えられるため、「譲渡所得」となります。
- 収入または必要経費の補填としての性格のもの:店舗物件から立ち退いた場合など、その物件でおこなっていた事業の休業等による収入や必要経費を補填する意味合いを持つ立退料は、「事業所得」となります(営んでいた事業の規模によっては「雑所得」の場合もあります)。
- その他の性格のもの:これら以外の場合には、「一時所得」となります。
どの所得に該当するかの判断に迷う場合には、管轄の税務署もしくは申告を依頼する税理士へ相談するとよいでしょう。
立退料にかかる税金
立退料にかかる税金について、さらに掘り下げて見ていきましょう。
立退料を受け取った賃借人側と、立退料を支払った賃貸人側とに分けて解説します。
借主
立退料を受け取った場合の所得区分は、先ほど解説したとおりです。
それぞれの所得区分における計算方法は、次のようになります。
譲渡所得
譲渡所得の金額は、次の式で算定されます。
- 課税譲渡所得金額=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額
受け取った立退料から、その権利の取得に要した費用などを控除して課税譲渡所得金額を算定します。
事業所得
事業所得の金額は、次の式で算定されます。
- 総収入金額-必要経費=事業所得金額
事業所得に該当する場合には立退料単体で計算をするのではなく、営んでいる事業の収入に立退料を算入して事業所得金額を算定することとなります。
一時所得
一時所得の金額は、次の式で算定されます。
- 一時所得金額=総収入金額-その収入を得るために支出した金額-特別控除額(最大50万円)
その年に、立退料の他にも一時所得の対象となる収入があった場合には、それらの金額を合算して総収入金額を算定します。
そこから、その収入を得るために直接要した金額を差し引き、最後に50万円の特別控除額を差し引いて一時所得金額を算定します。
計算式内に「最大」50万円と記載しましたが、これは「総収入金額-その収入を得るために支出した金額」を上限として最大50万円まで控除できるという意味です。
一時所得金額が、特別控除額を理由にマイナスとなることはありません。
一時所得にはこの50万円という特別控除がありますので、立退料を含む一時所得の対象となる総収入金額がそもそも50万円以下なのであれば、立退料に対して税金はかかりません。
なお、一時所得金額は最終的に給与など他の所得と合算されて税額が計算されますが、合算される額は一時所得金額の2分の1のみです。
貸主
賃貸人が立退料を支払った場合には、原則として何らかの所得の経費に算入することが可能です。
どの所得の経費として取り扱われるのかは、次の状況によって異なります。
- 賃貸している建物やその敷地を譲渡するために支払う立退料:譲渡に要した費用として、「譲渡所得」の金額の計算上控除されます。
- 上記以外で、不動産所得の基因となっていた建物の賃借人を立ち退かすために支払う立退料:「不動産所得」の金額の計算上、必要経費になります。
原則として、上の2つのパターンのいずれかに該当することとなるでしょう。
なお、次のケースでの立退料は、それぞれ次のように取り扱われます。
- 土地や建物等を取得する際に、その土地や建物等を使用していた者に支払う立退料:土地、建物等の取得費になります。
- 敷地のみを賃貸し、借地人が敷地上の建物を建てている場合に、借地人に立ち退いてもらうための立退料:借地権の買い戻しと考え、土地の取得費になります。
立退料が非課税になるケースはある?
立退料を受け取った場合には、上で解説をしたとおり、何らかの税金の対象となります。
非課税となることはありませんので、確定申告を忘れないように注意しましょう。
ただし、一時所得に該当する場合には、50万円の特別控除額が存在するため、仮に立退料とその年に受けた一時所得に該当する金額の合計額が50万円以下であれば、確定申告や納税をする必要はありません。
消費税の4要件
立退料を受け取った場合、消費税はどうなるのでしょうか?
はじめに、消費税の対象取引となる4要件について解説しましょう。
国内取引であること
消費税の課税対象は、国内取引のみです。
国外にある資産を譲渡した場合や国外でサービスの提供が行われた場合には、消費税の課税対象とはなりません。
事業者による事業であること
消費税の対象は、事業者による事業としての取引のみが対象です。
たとえば、個人の中古車販売業者が行う中古車の売買は、事業として行う売買になります。
一方、給与所得者がたまたま自分の自家用車を手放す行為や中古品販売サイトで自分の使った中古品を売る行為などは、事業として行う売買ではないため消費税の課税対象外です。
対価を得ていること
対価を得て行うもののみが、消費税の課税対象となります。
たとえば、寄附金や補助金などは一般的には対価性がありませんので、消費税課税の対象とはなりません。
資産の移転等の対価であること
消費税の対象となるのは、事業として有償で行われる商品や製品などの販売、資産の貸付けおよびサービスの提供に限定されます。
たとえば、給与の支払いはこれに該当しないため、消費税の課税対象とはなりません。
立退料の性質と消費税
先ほど解説した消費税の要件に当てはめて、受け取った立退料が消費税の課税対象となるかどうか見ていきましょう。
なお、そもそもこの問題が生じるのは、立退料を受け取った者が事業者である場合のみです。
個人が自宅として使用していた物件から立ち退く場合に受け取る立退料には、消費税はかかりません。
営業補償金としての場合
店舗の立ち退きをする場合には、その場所で営業を続けていれば得られたであろう金額として、営業補償金としての意味合いで立退料が支払われる場合があります。
結論からお伝えすると、この場合の立退料に消費税はかかりません。
なぜなら、消費税4要件のうち、「資産の譲渡等の対価」に該当しないためです。
このことは、消費税基本通達に、次のように明記されていることからも明らかです。
「建物等の賃借人が賃貸借の目的とされている建物等の契約の解除に伴い賃貸人から収受する立退料(不動産業者等の仲介を行う者を経由して収受する場合を含む。)は、賃貸借の権利が消滅することに対する補償、営業上の損失又は移転等に要する実費補償などに伴い授受されるものであり、資産の譲渡等の対価に該当しない。」
移転補償金としての場合
立ち退きにともない移転をすることの補償としての意味合いで、立退料が支払われる場合があります。
この場合であっても、立退料は消費税の対象外です。
営業補償金の場合と同様に、「資産の移転等の対価」に該当しないためです。
賃借権の譲渡対価としての場合
建物を借りて使用している場合には、原則として借家権という権利が発生しています。
単に建物から立ち退くのみであれば、借家権は譲渡ではなく単に「消滅」しているのみであるため、消費税の対象ではありません。
一方で、たとえば物件オーナー以外にその建物を使いたいという第三者が現れ、交渉の結果、自分がその建物から立ち退いて第三者が建物の使用を引き継ぐ場面があります。
この場合にこの第三者から受け取った立退料は、賃借権の譲渡対価としての性質を帯びるといえるでしょう。
そのため、この場合の立退料は「資産の移転等の対価」に該当するため、消費税の課税対象となります。
立退料にまつわる税金の裁判事例
立退料にまつわる税金の裁判事例として、次のものが存在します。
事例1
事業者が納める消費税は、原則として、その事業者が受け取った消費税から、支払った消費税(仕入税額控除)を差し引いた額です。
そのため、仕入税額控除に算入できる金額が大きいほど、事業者が納めるべき消費税は低くなります。
この事例では、製造販売等を営むA社が賃借人らに立退料3億円超を支払って建物の明渡しを受けた後、支払った立退料を消費税の申告の際に仕入税額控除の金額に算入したところ、原処分庁から否認されたものです。
A社はこれを不服として東京地裁へ申し立てたものの、東京地裁は「立退料の支払いにより賃借権を消滅させる行為は課税仕入れに該当しないため、仕入税額控除は認められない」旨を判示し、納税者の訴えを棄却しました。
事例2
賃借人が建物の一部を転貸していました。
その状態で賃借人が建物を明け渡すこととなり、建物所有者から立退料を受け取ったうえで、自らも転貸人に対して立退料を支払っています。
賃借人が建物所有者から受け取った立退料を一時所得として税務申告したところ、原処分庁はこれを不動産所得の収入金額にすべきだと主張したものです。
これに対して国税不服審判所は、次のように分けて考えるべきこととしました。
- 賃借人が受け取った立退料のうち、転貸人に支払った立退料相当の金額部分:不動産所得の収入金額
- 賃借人が受け取った立退料のうち、上記以外の部分:一時所得
事例3
弁護士が事務所の明渡しにともない賃貸人から受領した立退料が、一時所得と事業所得のいずれに該当するかの判断が争われた事例です。
弁護士はこれを一時所得として確定申告をしましたが、東京地裁は、旧事務所から新事務所への移転によって増加する事業所得に係る必要経費を補填する趣旨のものとして授受されていることから、事業所得に該当すると判示して弁護士側の請求を斥けています。
第三者から立退料を受け取る場合
一般的に、立退料は建物所有者である賃貸人から、建物を使用していた賃借人に対して支払われるものです。
しかし、例外的に第三者から立退料が支払われる場合があります。
たとえば、賃借人が貸しビルの一室で店舗を営んでいたところ、その場所で事業を行いたいと考えた第三者が賃借人に対し、その場所を使用する権利を譲って欲しいと頼んできたようなケースです。
当然、そのように頼まれたからといって、その第三者へその場所を使う権利を明け渡す義務があるわけではありません。
その場所の権利を明け渡すのであれば、お互いが納得できる条件の折り合いが付くことが大前提となります。
そのうえで、通常は賃貸借契約書にて無断転貸は禁じられていますので、所有者の承諾を得ることも必要です。
このような段階を踏んだうえで話し合いがまとまれば、第三者からもともとの賃借人に対して、立退料が支払われます。
この場合の立退料は、上でも解説をしたとおり「資産(借家権)の移転等の対価」に該当するため、原則として消費税の課税対象となります。
併せて、借家権を譲渡したものとして、譲渡所得の課税対象となるでしょう。
まとめ
立退料にかかる税金は、受け取った立退料の性質によって異なります。
どのような場合であっても同じ課税方法となるわけではありませんので注意が必要です。
立退料についての税務処理に悩んだら、管轄の税務署か税理士へ相談することをおすすめします。
立退料については、その税務処理もさることながら、立退料や立ち退き交渉などで問題に突き当たることが少なくありません。
Authense法律事務所には、立退料や立ち退き交渉に詳しい弁護士が多数在籍しております。
立ち退き交渉でお困りの際は、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
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