賃貸経営でしばしば問題となる敷金とは、賃貸借契約の締結時などに預かり、その後滞納賃料や原状回復費用などに充当できる保証金のような位置づけのものです。
敷金の取り扱いや敷金を充当できる原状回復費用などについてわかりやすく解説します。
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賃貸経営で知っておくべき敷金の役割
賃貸経営において、敷金に関してトラブルになってしまうケースは少なくありません。
しかし、その大半は賃貸物件オーナーが敷金についての正しい知識を持っていなかったり、知っていてもあえて入居者に対して無理な請求をしたりすることなどから起きるものです。
無用なトラブルを防ぐためには、賃貸物件オーナーが敷金についての正しい知識を持っておくことが大切です。
はじめに、敷金は何のために預かるのか、敷金の役割について解説しましょう。
家賃滞納時に備えた保証金
敷金を預かる目的の一つは、万が一入居者が家賃を滞納した際に、滞納された家賃に充当するためです。
家賃の滞納が生じた場合、賃貸物件オーナー側の判断で預かっていた敷金を家賃に充当することができます。
そのうえで、減ってしまった分の敷金を追加で差し入れることを、入居者に対して請求することが可能です。
なお、敷金を滞納分の家賃に充当するかどうかは賃貸物件オーナー側の自由であり、入居者側から敷金を家賃に充当するよう請求することは認められません。
退去時の原状回復費用への充当
賃貸借契約が終了した際には、入居者は借りていた物件を、借りたときの原状に戻す義務を負います。
一般的に、原状回復は入居者みずからの手によって行うものではなく、賃貸物件オーナーが外部の業者などへ費用を支払って委託して行うことが多いでしょう。
このうち、入居者に請求可能な原状回復費用がある場合、まずは預かっていた敷金から充当し、不足分を入居者に請求することが一般的です。
預かっていた敷金が入居者の負担すべき原状回復費用より多い場合には、残った敷金は原則として入居者に返金しなければなりません。
また、借主が残存する敷金の返還を求めることができるのは、借主が物件を明け渡した後からになります。
原則として敷金を充当できない原状回復の例
敷金が物件を入居者が入居したときの状態に戻すための費用であるからといって、その負担をすべて入居者に負わせることができるわけではない点には注意が必要です。
たとえば、次のような原状回復は入居者ではなく、賃貸物件オーナーが負担すべきものとされています。
そのため、これらの修繕にかかった費用を敷金から費用を充当したり入居者に支払いを求めたりすることはできません。
経年劣化によるもの
経年劣化によるものの原状回復にかかる費用は、原則として入居者に負担させることはできません。
経年劣化とは、年月の経過にともなう建物や設備などの自然な劣化や損耗などのことです。
そのため、次のような費用は、原則として賃貸物件オーナー側が負担すべきとされています。
- 特に破損などはしていないものの次の入居者確保のために行う畳の裏返しや表替え、網戸の張替え、浴槽や風呂釜の取替え
- フローリングのワックスがけ
- 入居者が通常の清掃をしていた場合の、全体のハウスクリーニング
- エアコンの内部洗浄
- 台所やトイレの消毒
こういった年数の経過による劣化の回復費用や、次の入居者を募りやすくするために物件をきれいに保つためにかかる費用は、賃貸物件オーナーの負担となります。
通常の使用によるもの
人がその場所で生活などをする以上、物件に多少の傷みが生じることは通常です。
人に物件を貸して賃料を得ている以上、通常の使用による劣化については本来賃料に反映させるべきものであると考えられます。
そのため、入居者に賃料とは別途で通常の使用で生じた損耗の原状回復費用を請求することはできません。
たとえば、次の修繕にかかる費用は、原則として賃貸物件オーナーが負担すべきとされています。
- 家具の設置による床やカーペットのへこみ、設置跡
- 日照などによる畳やクロスの変色やフローリングの色落ち
- テレビや冷蔵庫などの後部壁面の黒ずみ
- 壁に貼ったポスターや絵画の跡
- 入居者所有のエアコンを設置したことによる壁のビス穴や跡
- 下地ボードの張替えまでは不要な壁の画鋲やピンなどの穴
- 地震で破損したガラス
- 構造により自然に発生した網入りガラスの亀裂
- 破損や紛失がない場合の鍵の取替え
- 機械の寿命による設備機器の故障
このような劣化や損傷は、人が物件を使用する以上当然に起こり得るものです。
そのため、これらの修繕にかかる費用は原則として入居者に負担させることはできず、預かっている敷金から充当することもできません。
原則として敷金を充当できる原状回復の例
入居者の管理や管理が悪かったことで生じた損耗や、入居者が通常の使用をしなかったことで生じた損耗の原状回復に要する費用は、入居者へ請求することが可能です。
では、それぞれ具体的に見ていきましょう。
賃借人の手入れや管理が悪いことで生じた損耗
入居者の手入れや管理が悪いことで生じた損耗の回復にかかる費用は、入居者へ請求することが可能です。
具体的には、次のようなものが挙げられます。
- カーペットに飲み物等をこぼしたことによるシミやカビ
- 冷蔵庫下のサビ跡
- 使用後の手入れが悪いことで付着した台所の油汚れ
- 結露を放置したことにより拡大したカビやシミ
- クーラーから水漏れし、入居者が放置したため腐食した壁
- 清掃や手入れを怠ったことによるガスコンロ置き場や換気扇などの油汚れ、すす
- 清掃や手入れを怠ったことによる風呂、トイレ、洗面台の水垢、カビなど
これらは、入居者が日ごろからきちんと清掃をし、手入れをしていれば発生しなかったはずの損耗です。
そのため、回復にかかる費用は敷金から充当することができ、不足分は入居者に対して請求することができます。
通常の使用をしなかったことで発生した損耗
通常の使用以外による損耗の回復にかかる費用は、入居者へ請求することが可能です。
たとえば、次のようなものがこれに該当します。
- 引越作業で生じたひっかきキズ
- 賃借人の不注意で雨が吹き込んだことなどによる畳やフローリングの色落ち
- タバコのヤニや臭い
- 下地ボードの張替えが必要となる壁のくぎ穴やネジ穴
- あらかじめ設置された照明器具用コンセントを使用せず天井に直接照明器具をつけたことによる跡
- 落書き等の故意による毀損
- 飼育ペットによる柱などのキズや臭い
- 日常の不適切な手入れや用法違反による設備の毀損
- 鍵の紛失や破損による取替え
- 戸建て住宅の場合、草取りが適切におこなわれていなかったことにより生い茂った雑草
これら、入居者の使用方法が通常とは異なることで生じた劣化や入居者に不注意や故意で生じた損傷などの回復にかかる費用は、入居者に対して請求することができます。
いわゆる「敷引契約」は有効?
物件の賃貸借契約において、いわゆる「敷引契約」が盛り込まれる場合があります。
では、この敷引契約は有効なものなのでしょうか?
敷引特約とは
敷引特約とは、あらかじめ定めた敷金の一部を償却し、償却をした部分は退去時にも返還しない旨を定めた特約のことです。
たとえば、差し入れた敷金の50%など契約で定められた金額が自動的に償却され、たとえ入居者が負担すべき原状回復費用などが一切ない場合であっても返還しないとする特約などがこれに該当します。
つまり、敷引きの対象となる部分の敷金は「敷金」という名ではあるものの、その実態は返却が前提とされない礼金と同様のものだと考えるとよいでしょう。
敷引特約には地域性があり、主に西日本でよく設けられている特約です。
高額すぎるものでなければ敷引特約は有効
敷引特約は、原則として有効です。
ただし、自動的に償却されて返却されない部分の敷金があまりにも高額である場合には、消費者の利益を一方的に害するものであるとして無効とされる可能性があります。
月額賃料の2倍弱から3.5倍程度であれば有効であるとした判例はあるものの、どの程度の金額や割合であれば有効であるのかが法令などで明確に定められているわけではありません。
万が一争いになった場合には、その物件がある地域の商慣習や他に礼金などを受け取っていたかどうかなどを踏まえて判断される可能性があります。
そのため、新たに敷引契約を取り入れようとする場合には、不動産法務に詳しい弁護士へ契約の内容についてあらかじめ相談することをおすすめします。
賃貸経営で敷金トラブルを防ぐための対策
賃貸経営において入居者と敷金トラブルに発展してしまうことのないよう、賃貸物件オーナーはあらかじめ次のような対策を講じておきましょう。
敷金のガイドラインを理解する
どのような原状回復費用であれば賃貸物件オーナーが負担すべきで、どのような原状回復費用であれば入居者に請求できるのかを判断する一つの指針となるのが、国土交通省住宅局が公表している「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」です。
ガイドラインは法律そのものではありませんが、このガイドラインは原状回復の費用負担に関して非常に参考になります。
賃貸物件オーナーはこのガイドラインを一読し、理解しておくとよいでしょう。
敷金の取り扱いを契約書に明記する
原状回復をめぐるトラブルとガイドラインを参考にしたうえで、どのような原状回復費用であれば敷金から充当したり入居者に請求したりできるのか、契約書などに明記しておくとよいでしょう。
ガイドラインにあるように、フローリングや壁、設備など、原状回復費用の負担が問題となり得る箇所ごとにケースごとの費用負担者を定めておくとわかりやすいといえます。
また、敷引きの取り扱いをする場合には、必ず契約書に明記してください。
契約書に記載がなければ、原則として敷金を償却することはできません。
入居者は、不動産契約のプロではない場合がほとんどです。
そのため、誰が読んでも疑義の生じることのないよう、敷金の取り扱いについて明確に定めておくことをおすすめします。
入居前に入居者立ち合いのもと物件の写真を残しておく
原状回復費用を敷金から差し引いたり入居者に請求したりする際、その損耗が入居時から存在したものではないかとの点で疑義が生じる場合があります。
そのため、入居の前に入居者立ち合いのもとで、物件内の写真をつぶさに撮影し、契約書に添付するなどして残しておくとよいでしょう。
契約書作成時に弁護士に相談する
賃貸物件オーナーが使用する賃貸借契約書のひな型を作成する際やひな型を修正する際などには、弁護士に相談をして確認してもらうとよいでしょう。
敷引契約や原状回復の費用負担など、賃貸物件オーナーとしては、できるだけ自身に有利な内容で設定したいと考える場合が少なくないかと思います。
しかし、いざトラブルになった際にその内容が消費者の利益を一方的に害するものであるなどと判断されてしまえば、その条項が無効となるなど、むしろ賃貸物件オーナーにとって不利な結果となってしまうかもしれません。
インターネット上などを探せば、賃貸借契約書のひな形などは見つかるかと思います。
しかし、そのひな形が、必ずしも所有する物件や締結したい契約の内容に沿っているとは限りません。
契約書を整備する際には、インターネット上のひな形などをそのまま使用するのではなく、不動産法務に詳しい弁護士まで相談した方がよよいでしょう。
まとめ
敷金は、賃貸経営において、しばしば入居者とのトラブルの原因となります。
しかし、その大半は賃貸物件オーナーが法律やガイドラインを軽視するなどして、入居者である消費者に一方的に不利となる契約を締結したり、本来は請求できないはずの原状回復費用を無理に請求したりすることから起きるものです。
無用なトラブルを防ぐため、敷金に関する賃貸借契約書を整備する際や敷金の取り扱いについてお困りの際には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。
Authense法律事務所には敷金や原状回復の費用負担など不動産法務に詳しい弁護士が多数在籍しており、賃貸物件オーナー様を法律の視点からサポートしております。
Authense法律事務所の弁護士が、お役に立てること
建物の賃貸において、敷金の返還に関してトラブルになることはよくあります。
そのため、賃借人から敷金の返還や敷金を未払い賃料に充当することを求められた場合に、毅然と対応することが重要です。
賃貸借契約や不動産に詳しいAuthense法律事務所の弁護士にご相談することをお勧めします。
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