コラム

公開 2021.11.09

賃貸物件を相続する際の流れと注意点を、弁護士が解説します

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賃貸物件を相続することになった場合の流れや注意点についてわかりやすく解説します。賃貸物件の評価額の計算は居住用物件と異なるため注意が必要です。物件を誰が相続するのか決める遺産分割協議の方法や必要書類も紹介します。賃貸物件を相続することになった場合は、弁護士などの専門家に相談すると良いでしょう。

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賃貸物件の評価は居住用物件とどう異なる?

賃貸物件を相続する際には、その評価方法や相続の流れなど、居住用物件の相続とは異なる点が多数あります。
まずは、賃貸物件と居住用物件の評価方法の違いについて解説しましょう。

評価額とは

不動産の価額は1つではありません。
例えば、不動産を売却する際の価額である「時価」、相続税を計算するための「相続税評価額」、そして固定資産税を計算するための「固定資産税評価額」はそれぞれ異なっています。

ここで解説する「評価額」とは、このうち相続税の計算をする際に使用する「相続税評価額」を指すと考えてください。

建物の評価額

そして、賃貸物件の建物の相続税評価額は、次のように計算します。

賃貸物件の建物の相続税評価額=自用建物評価額-(自用建物評価額×借家権割合)

計算式中の「借家権割合」は、2021年9月現在すべて30%とされています。
例えば、自用建物の評価額が3,000万円である場合、賃貸物件の建物の評価額は次のように求められます。

賃貸物件の建物の相続税評価額=3,000万円-(3,000万円×30%)=2,100万円

賃貸している以上、所有者がその建物を自由に使うことはできないため、その分評価が下がっているイメージです。

土地の評価額

では、賃貸物件の敷地である土地(「貸家建付地」といいます)は、どのように評価するのでしょうか?
賃貸物件の土地も、建物と同様に所有者が自由に使うことはできません。
そのため、自用地とした場合の評価額よりも低く計算をすることとなっています。

貸家建付地の評価額の計算式は、次のとおりです。

  • 賃貸物件の建物の相続税評価額=自用地評価額-(自用地評価額×借地権割合×借家権割合)
  • 借地権割合:30%~90%の7段階で設定されており、その土地の借地権割合は国税庁が公表している「路線価図」で確認できます。ほとんどの地域では、50%または60%です。
  • 借家権割合:30%

例えば、借地権割合が50%の地域にある自用地評価額5,000万円の貸家建付地の評価額は次のように求められます。

貸家建付地の評価額=5,000万円-(5,000万円×50%×30%)=4,250万円

マンションの評価額

賃貸物件が一戸建てではなくマンションやアパートである場合は、どのように評価額を算出すれば良いのでしょうか?

基本的な考え方は前記のとおりですが、一部が空室となっている場合や賃貸していない場合には、前述の計算式に賃貸割合を乗じて計算します。
自用の建物や土地と比べて賃貸している建物やその敷地は相続税評価額が減額されるところ、貸していない部分まで減額すると整合性が取れないため、この賃貸割合で調整すると考えると良いでしょう。

例えば、全10室のうち8室を賃貸している場合で相続税評価額を求めてみましょう。
建物を自用とした場合の評価額は1億円、土地の自用地評価額は2億円、その地域の借地権割合は50%とします。

マンションとして利用している建物の評価額

マンションとして利用している建物の評価額は、次のとおりです。

賃貸物件の建物の相続税評価額=自用建物評価額-(自用建物評価額×借家権割合×賃貸割合)

例で挙げたケースをこれに当てはめると、次のように計算できます。

賃貸物件の建物の相続税評価額=1億円-(1億円×30%×8室/10室)=7,600万円

マンションの敷地の評価額

マンションの敷地として利用している土地(貸家建付地)の評価額は、次のとおりです。

貸家建付地の評価額=自用地評価額-(自用地評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合)

これを例のケースに当てはめると、次のようになります。

貸家建付地の評価額=2億円-(2億円×50%×30%×8室/10室)=1億7,600万円

賃貸物件と居住用物件の評価の違い

このように、賃貸物件の場合は、居住用建物と比べて相続税の評価額が低くなります。
所有者とはいえ、他者へ賃貸している以上、その建物や建物の建っている敷地を自由に使うことはできないため、その分調整されるのです。

この仕組みを利用して相続税を節税するために、アパートを建築する人もいます。

賃貸物件を相続する流れ

では、亡くなった人が賃貸物件を持っていた場合、その賃貸物件を相続するにはどのような手順を踏めば良いのでしょうか?
順を追って解説します。

賃貸物件の残債務などを確認する

亡くなった人が賃貸物件を持っていた場合には、まずその物件に債務(ローン)が残っていないかどうか確認しましょう。
現金一括で賃貸物件を建てる人は稀で、多くの場合ローンが残っているためです。

相続人は原則としてこのローンを引き続き返済していかなければなりませんので、借入先の金融機関や毎月の支払額などをきちんと確認することから始めてください。
なお、債務があまりにも多額であり、賃貸収入などを加味しても今後支払っていくことが難しい場合には、相続放棄を検討します。

ただし、相続放棄をした場合は、借金のみならずプラスの財産も一切相続する権利がなくなります。
相続放棄をする際は、この点をよく考えたうえで行うようにしましょう。

賃貸物件の管理や修繕などの状態を確認する

債務の確認と併せて、賃貸物件の管理状況や修繕の状況なども確認します。
例えば、管理会社への委託状況や修繕積立金の不足の有無、間近に控えている修繕があるかどうかなどを確認しておくと良いでしょう。

管理会社へ委託していれば、管理会社への連絡が必要となる他、今後も発生する管理費を把握する必要がありますし、修繕を控えていれば大きな出費を伴う可能性もあるためです。

火災保険などの状態を確認する

賃貸物件を所有している場合には、その建物に火災保険を掛けていることが一般的です。
契約者が亡くなった以上、この火災保険の名義も変更する必要があるため、火災保険に関しても確認しておきましょう。

賃貸物件を相続する人を決める

賃貸物件の状態が確認できたら、賃貸物件を相続する人を決めてください。

亡くなった人が遺言書を遺していれば、原則としてその遺言書に従います。
遺言書がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行い、誰がその物件を相続するのか決めることが必要です。
遺産分割の方法については後述します。

相続登記をする

賃貸物件を相続する人が決まったら、法務局で相続登記を行います。
相続登記をする際の必要書類についても後述するので参考にしてください。

保険会社や管理会社などの契約を変更する

賃貸物件を相続する人が決まったら、その賃貸物件で契約している保険会社や管理会社との契約も変更しましょう。

賃借人に賃料振込口座変更の連絡をする

賃料の振込口座が亡くなった方の個人口座である場合は、賃借人へ連絡のうえ賃料の振込先口座も変更します。

賃貸物件を相続する際の遺産分割の方法

賃貸物件を相続する際の遺産分割の方法

賃貸物件を相続する際の遺産分割には、次の4つの方法が存在します。
それぞれ一長一短ありますので、状況に合わせてどの方法で遺産分割をするのかを検討してください。

現物分割

現物分割とは、「賃貸物件AとX銀行の預金は長男が相続し、賃貸物件BとY証券会社の有価証券は長女が相続する」というように、財産ごとに相続する人を決めていく分割方法です。
最もシンプルな遺産分割の方法といえる一方で、相続人の数だけ物件があることや、物件の評価額が同等であることは稀であるため、現物分割で平等に分けることは難しいともいえます。

代償分割

代償分割とは、「賃貸物件は長男が相続する代わりに、長男から長女に対して3,000万円の代償金を支払う」というように、誰かが代表して物件を相続する代わりに、その他の相続人に対して金銭を支払う分割方法です。
同等の価値のある財産が相続人の数だけなくとも選択できる分割方法である一方で、代償金を支払う相続人が支払えるだけの金融資産を所有していなければ難しいというデメリットがあります。

換価分割

換価分割とは、「賃貸物件を売却し、その売却で得た代金を相続人間で分ける」というように、財産を換価して金銭で分割する方法です。
財産を平等に分けやすいというメリットはあるものの、物件を手放すことになる点や、売却に伴い譲渡所得税が課される点などデメリットも少なくないため、慎重に判断する必要があります。

共有分割

共有分割とは、賃貸物件を相続人の1人が取得するのではなく、相続人が共有で取得する分割方法です。
この方法は平等に見える一方で、物件の管理が煩雑になる点が大きなデメリットといえます。
なぜなら、物件の賃貸借契約を締結したり大規模修繕を行ったりする際に、その都度共有者の同意が必要となるためです。

また、その時点では長男と二男の共有であったとしても、その後年数が経ち長男や二男も亡くなった際には、長男の子などと二男の子などが物件を共有することになり、権利関係が複雑になっていく点も大きなデメリットといえます。
共有分割は問題の先送りでしかありませんので、できれば避けた方が良いでしょう。

賃貸物件を相続する際の必要書類

賃貸物件の名義を変える相続登記には、どのような書類が必要となるでしょうか?
ここでは、遺産分割協議で物件の所有者を決めた場合の一般的な必要書類について解説します。
なお、相続人が亡くなった人の子ではなく、兄弟姉妹や甥姪である場合などは、これら以外の書類も必要となるため、専門家や管轄の法務局へ相談してください。

不動産の登記事項証明書

賃貸物件の相続登記をする際には、まずその不動産の登記事項証明書を取得しましょう。
土地と建物とは別の不動産ですので、それぞれ取得するようにしてください。

登記事項証明書は相続登記の添付書類ではありませんが、登記申請書や遺産分割協議書を正しく作成するには、登記事項証明書を確認する必要があるためです。
登記事項証明書は、全国どこの法務局でも取得できます。

登記申請書

相続登記を申請するには、登記申請書を作成する必要があります。
銀行預金の相続手続き書類のような穴埋め形式ではありませんが、法務局のホームページに記載例がありますので参考としてください。

遺産分割協議書

遺産分割協議書とは、遺産分割協議の結果を記し、相続人全員が実印で捺印をした書類です。
登記をしたい賃貸物件の登記事項証明書をもとに正確に記載したうえで、その物件を誰が相続するのか明確に記載してください。

相続人全員の印鑑証明書

遺産分割協議書に押した印が実印であることの証明として、相続人全員の印鑑証明書を添付します。

被相続人の出生から死亡までの連続する戸籍・除籍・原戸籍謄本

相続登記の申請には、亡くなった人(被相続人)の出生から死亡までの連続した戸籍謄本、除籍謄本、原戸籍謄本も必要となります。
相続人が遺産分割協議に押印した人以外に相続人がいないのかどうか、これにより確認するためです。

被相続人の住民票の除票又は戸籍の附票

被相続人の最後の住所のわかる住民票か戸籍の附票も必要です。
住民票の除票は被相続人の最後の住所地を管轄する市町村役場で、戸籍の附票は被相続人の最後の本籍地を管轄する市町村役場で取得します。

相続人全員の戸籍謄本

相続登記には、相続人全員の戸籍謄本も必要です。
これにより、その時点で相続人全員が生存していることを確認します。

不動産を相続する相続人の住民票

賃貸物件の新しい所有者の住所を正確に登記するため、その物件を取得する人の住民票も添付します。

不動産の固定資産評価証明書又は評価通知書

賃貸物件の相続登記をする際には、登録免許税を支払わなければなりません。
登録免許税は、登記をする物件の固定資産税評価額の1,000分の4とされています。

この登録免許税を計算するため、登記をする物件の固定資産税課税証明書か評価通知書の添付が必要です。
これらは、物件の所在地を管轄する市町村役場で取得できます。

賃貸物件を相続した場合に必要な税務申告

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最後に、賃貸物件を相続した場合に必要となる税務申告についても確認しておきましょう。

相続税の申告

賃貸物件を相続した際は、まず相続税の申告の要否を確認しましょう。
相続税の申告は、亡くなった人の持っていた財産総額に一定の贈与を足し戻した額が、相続税の基礎控除額を超える場合に必要となります。
相続税がかかるかどうかの基準ともなる相続税の基礎控除額の計算方法は次のとおりです。

相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

賃貸物件を所有していた人が亡くなった場合には、相続財産がこの基礎控除額を超える可能性が高いと考えられます。
そのため、早期に専門家へ相談されることをおすすめします。
なお、相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内です。

準確定申告

賃貸物件から収入を得ていた人が亡くなった場合は、原則として所得税の準確定申告も必要となります。
準確定申告とは、亡くなった人の確定申告のことです。 準確定申告の期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内です。
通常の確定申告とは期限が異なることに注意してください。

毎年の確定申告

賃貸物件を相続した人は、以後その賃貸物件からの収入を得ることとなります。
そのため、以後はその賃貸物件の収支につき確定申告しなければなりません。
賃貸物件を取得した人は、毎年忘れずに申告するようにしましょう。

まとめ

賃貸物件の相続は、その評価方法や行うべき手続きが居住用の物件とは異なります。
賃貸物件の特性を理解し、漏れなく手続きを進めるようにしましょう。

賃貸物件の相続手続きに困った場合や遺産分割協議がまとまらずに困った場合、以後の賃貸物件経営に際しての相談がしたい場合などは、ぜひ弁護士へご相談ください。

オーセンスの弁護士が、お役に立てること

弊所では、相続分野についてチームを立ち上げて取り組んでいます。
遺産分割の際には、様々な事情を考慮しなければなりません。特に相続財産に賃貸物件のような収益不動産がある場合には、その収益不動産をめぐって紛争が激化しやすいため、弊所の弁護士に相談し、最適な遺産分割ができるようにしましょう。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(千葉県弁護士会)
千葉県弁護士会所属。創価大学法学部卒業後、創価大学法科大学院を修了。不動産法務(建物明渡請求訴訟)、離婚問題などの一般民事、インターネット上の誹謗中傷問題に関する発信者情報開示請求・記事削除請求など、様々な案件に取り組んでいる。Google検索における企業名のサジェスト汚染に対する削除申請や、大手SNSサイトへの発信者情報開示請求が認められた実績を有し、対応ノウハウの蓄積が少ないデジタル領域を含む近時の法律問題の解決にも強い意欲を持つ。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら
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