仕組債に関するトラブルは、少なくありません。
では、仕組債に関するトラブルが多いのはなぜなのでしょうか?
また、仕組債にまつわる主な裁判例には、どのようなものがあるのでしょうか?
今回は、仕組債の特徴や主な裁判例について、弁護士が詳しく解説します。
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仕組債とは
仕組債は、債券(企業などが、投資家から資金を借り入れるために発行する有価証券。代表例は「国債」や「社債」)の一種です。
ただし、仕組債は通常の債券とは異なり、特別な「仕組み」を有しています。
この「仕組み」とは、日本証券業協会のホームページによると、「スワップやオプションなどのデリバティブ(金融派生商品)を利用することにより、投資家や発行者のニーズに合うキャッシュフローを生み出す構造を指す」とされています。※1
同じく日本証券業協会によると、「スワップ」とは金利(固定金利と変動金利)や通貨(円と外貨)を交換する取引であり、「オプション」とはあらかじめ約束した価格で1か月後や1年後など将来に売ったり買ったりできる権利を指すと説明されています。
つまり、仕組債とは通常の債券にさまざまな条件を組み込んだ金融商品です。
ここでは、非常に複雑な金融商品であると理解しておくとよいでしょう。
仕組債でトラブルが発生する主な原因
仕組債にまつわるトラブルは、少なくありません。
主なトラブルは、仕組債を購入した個人や企業が予想外の損失を被ってしまい、そのような商品であるとは知らなかった(説明を受けていなかった)として投資勧誘を行った証券会社などに損害賠償請求をするものです。
仕組債にまつわるトラブルが発生しやすい最大の原因は、仕組債が個別株式や投信信託と比べると複雑な商品であることにあると考えられます。
仕組債はその債券ごとにさまざまなオプションが組み込まれており、商品の性質を理解することは容易ではありません。
中には、証券会社の販売員さえ理解が難しい商品もあるほどです。
そのため、販売員の説明不足や投資家の理解不足から「儲かりそう」などと考えて投資をしてしまい、想定外の損失を被るケースが後を絶ちません。
問題のある仕組債販売の一例
証券会社など投資商品を取り扱う金融機関と一般の投資家との間には、情報の格差があることが一般的です。
そのため、特に仕組債などの複雑な商品を販売する際は、「有価証券等の特性やリスクを十分に把握し、当該有価証券等に適合する顧客が想定できないものは、販売してはならない」こととされています(投資勧誘規則3条3項)。
では、問題のある仕組債の販売には、どのようなものが挙げられるでしょうか?
ここでは、トラブルが生じた際に、販売手法に問題があると判断されやすいケースを2つ紹介します。
このような販売手法による仕組債を購入し損失を被ってしまった場合は、弁護士へご相談ください。
リスクの理解が難しい相手への販売
1つ目は、リスクの理解が難しい相手への販売です。
先ほども解説したように、仕組債は個別株式等に比べると複雑な商品であり、端的にいってしまえば、より「プロ向け」の商品です。
そのため、リスクの理解が難しい相手への販売は、問題があると判断される可能性が高いでしょう。
リスクの理解が難しいかどうかは個別的に判断されることとなりますが、一般的には、投資経験がない高齢者への販売は特に慎重に行うべきであるといえます。
このように、リスクの理解が難しい相手への仕組債の販売は、「適合性原則違反」として違法性が認定される可能性があります。
仕組債のメリットのみを強調した販売
2つ目は、仕組債のメリットだけを強調した販売です。
確かに、仕組債はその仕組みの性質と市場の状況がマッチした際には、大きなリターンを得られる可能性があるでしょう。
しかし、その一方で元本が大きく毀損する可能性や当初の投資額以上の損失を被る可能性などもあり、一般的な株式投資などと比較してもリスクが高い商品です。
そのため、仕組債のメリットだけを強調した販売は不適切といえるでしょう。
このように、十分な説明をしないまま仕組債を販売した場合は、「説明義務違反」として違法性が認定される可能性があります。
仕組債の販売にまつわる主な裁判例
仕組債の販売にまつわる主な裁判例を4つ紹介します。
なお、いずれも販売した金融機関側に問題があったとの結論となっています。
裁判例で確認できるとおり、「よくわからないまま仕組債を購入してしまい、損失を被った」という場合などには、金融機関への損害賠償請求などができる可能性があります。
仕組債に関してお困りの際は、金融商品にまつわるトラブルに詳しい弁護士へご相談ください。
70歳の母親(高齢)と43歳の長女への販売の違法性が肯定された事例
70歳の母親(高齢)と43歳の長女の女性顧客らが仕組債や信用取引などに投資したことに関し、適合性原則違反や説明義務違反、過当取引等の不法行為に基づく損害賠償請求を行った事例です。※2
この件で、母親は70歳と高齢であり、長女には父親から相続した株式を投資信託の買付資金として売却した以外に投資経験がありませんでした。
そして、母親と長女はいずれも、中長期投資で配当が入るのが一番であると回答していたようです。
そうであるにもかかわらず、母親が被告預かり資産である1億円のうち5,214万500円を、長女が預かり資産の半額以上である2,000万円超を仕組債に投資するに至っています。
この事例では、それぞれ次の不法行為が肯定されました。
- 母親について
- 仕組債:適合性原則違反(過失相殺6割)
- 株式信用取引:適合性原則違反と過当取引(過失相殺2割)
- 長女について
- 仕組債:適合性原則違反(過失相殺6割)
- 外国株取引:過当取引(過失相殺5割)
なお、この件は双方から控訴されています。
一人暮らしの高齢女性への適合性原則違反及び説明義務違反が肯定された事例
平成20年4月から9月にかけて、昭和5年生まれの一人暮らしの女性が預金先の金融機関から証券会社を紹介され、4つの仕組債の勧誘を受けて合計約7,000万円でこれらを順次購入して多額の損失を被ったことから、証券会社と銀行に対して損害賠償請求に至った事例です。※3
昭和5年生まれの場合、平成20年頃には70代後半でした。
この女性はこれまで株式取引経験はなく、これ以前に証券会社に口座を開設したこともなかったとされています。
また、この取引より前である平成18年には要支援1の認定を受けていたほか、取引開始後には各取引開始前の時期を発症日とした認知症の診断を受けています。
このような事情から、この女性が商品の難解なリスクの内容や大きさを十分に理解した上で購入したものとは認め難いと認定されました。
その結果、銀行に対する損害賠償請求は勧誘に関与した事実が認められないとして棄却されている一方で、証券会社のついては適合性原則違反と説明義務違反が認められ、3,038万6,615円の損害賠償請求が認容されています。
途中売却の損失リスクについての説明義務違反を肯定した事例
取引時点では78歳であった会社経営者である顧客(取引時点では会長であり、社長は長男に承継済)が仕組債を購入したものの損失を被り、証券会社に対して損賠賠償請求を行った事例です。※4
顧客は、平成17年から18年に仕組債を2度購入し、これらでは利益を得ています。
一方、その後さらに平成18年から平成19年かけて購入した2つの仕組債を平成24年に売却し、これにより損失が生じました。
この事例では、顧客の属性や投資経験、経済事情の知識・理解力、収益性重視の意向などから、適合性原則違反は否定されています。
また、多くの説明義務違反についても否定をしているものの、唯一、途中売却時の元本割れリスクに関しての説明義務違反を肯定し、1,195万7,799円の損害賠償請求を認容しました。
なお、この件では控訴がされています。
株式会社とその代表者への販売で説明義務違反や錯誤無効が肯定された事例
売上高が9億円規模である株式会社とその代表者が仕組債を購入し損失を被ったことについて、証券会社に対して損害賠償請求を提起した事例です。※5
この事例では、顧客の属性や取引経験に照らし、適合性原則違反は否定されています。
一方で、この件では「リスクについて十分説明を受け十分に理解した」旨のチェックを行っていたものの、顧客が元本保証の商品と誤信して購入したと判示して説明義務違反を認め、5,475万1,355円の損害賠償請求を認容しています。
なお、この件では控訴がされています。
仕組債は複雑な商品であり、形式上の確認書面にチェックが入っていても説明義務違反が認定される可能性のあることが読み取れる事例です。
仕組債でお困りの際に弁護士へ相談するメリット
仕組債にまつわるトラブルでお困りの際は、金融商品にまつわるトラブルに強い弁護士へご相談ください。
最後に、弁護士に相談する主なメリットを3つ解説します。
違法性の有無を想定しやすくなる
1つ目は、違法性の有無を想定しやすくなることです。
仕組債など金融商品にまつわるトラブルは、裁判になった際に勝算があるかどうか、自分で判断することは容易ではありません。
やみくもに金融機関に損害賠償を求めたり裁判を申し立てたりすれば、時間と労力だけを浪費してしまう結果となる可能性があります。
また、十分な証拠がないなど準備が不足した状態で裁判に臨んでしまうと、不利となるおそれもあるでしょう。
仕組債など金融商品にまつわるトラブルに強みを持つ弁護士へ相談することで、そのケースにおいて自身の求める主張が認められそうかどうかあらかじめ予想しやすくなり、これを踏まえて法的措置を講じるかどうかや金融機関への請求内容などを検討できるようになります。
また、主張が裁判で認められるために十分な証拠があるかどうかなど、裁判で有利な結果を得るためのアドバイスなども受けることができます。
裁判に至る前に解決が図れる可能性がある
2つ目は、裁判に至る前に、裁判外で解決を図れる可能性が高まることです。
金融機関の販売方法や説明内容に不備があったとしても、自身でこれを主張して裁判外での解決を図るのは容易ではないでしょう。
一方、弁護士に依頼して弁護士が代理で交渉した場合は、裁判に至る前に解決が図れる可能性もあります。
ただし、裁判外での解決が可能であるかどうかはその事案や相手方の出方によっても異なるため、具体的なケースに応じて弁護士へご相談ください。
裁判手続きなどを任せられる
3つ目は、裁判手続きなどを任せられることです。
金融機関とのトラブルは、裁判にまで発展することが少なくありません。
しかし、裁判手続きは複雑であり、自分で行うのは困難です。
また、裁判への出頭が必要となれば、これが大きなストレスになることもあるでしょう。
そもそも、裁判となれば金融機関側も弁護士が対応することが通常であり、一個人で対応することが現実的ではありません。
弁護士へ依頼することで、裁判手続きなどの対応を一貫して任せることができます。
裁判にも弁護士が代わりに出頭してくれるため、安心であるうえ自身の希望を効果的に主張してもらえます。
まとめ
仕組債にまつわる裁判例を紹介するとともに、仕組債にまつわるトラブルが多い理由やトラブル発生時に弁護士へ相談すべき理由などについて解説しました。
仕組債は非常に複雑な金融商品であり、投資経験の浅い人や高齢者がその仕組みを理解することは容易ではありません。
そうであるにもかかわらず、よく理解しないままに仕組債に投資をしてしまって損失を被った場合は、金融機関に対して損害賠償請求ができる可能性があります。
仕組債で想定外の損害を被ってお困りの際や、仕組債など一般的に理解が難しいとされる金融商品に高齢の家族が投資している際などには、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。
Authense法律事務所には金融商品にまつわるトラブルにくわしい弁護士が多数在籍しており、仕組債に関するトラブルでも多くの解決実績があります。
参考文献
記事執筆者
伊藤 新
(第二東京弁護士会)第二東京弁護士会所属。大阪市立大学法学部卒業、大阪市立大学法科大学院法曹養成専攻修了(法務博士)。企業法務に注力し、スタートアップや新規事業の立ち上げにおいて法律上何が問題となりうるかの検証・法的アドバイスの提供など、企業 のサポートに精力的に取り組む。また、労働問題(使用者側)も取り扱うほか、不動産法務を軸とした相続案件などにも強い意欲を有する。
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