公開 2024.10.21Legal Trend

「令和5年度金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~」とは? 弁護士がわかりやすく解説します

会社法

2024年6月、「令和5年度金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~」が公表されました。本事例集では、金融商品取引法に違反した各種の事案を具体的に掲載し解説されています。
2023年度、どのような違反があったのか。2023年度の違反のトレンドはどのようなものなのか、弁護士が解説します。

目次
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2023年度はインサイダー取引が増加

「金融商品取引法における課徴金事例集」は、証券取引等監視委員会事務局が制作している事例集で、2024年版も同年6月に公開されました。
本事例集では、2023年度に証券取引等監視委員会が課徴金勧告を行った事案を紹介。事例を踏まえてインサイダー取引や不公正取引を防止しようという意図で編纂されています。

2024年版の事例集の特徴として、インサイダー取引の割合が大きいことが挙げられます。
2023年度に17件の課徴金勧告が行われたなかで、13件がインサイダー取引となっており、およそ76%を占めています。
過去数年を振り返ってみると、2021年度が全勧告件数12件のうちインサイダー取引が6件、2022年度が14件中8件となっており、2023年度は若干インサイダー取引の数も割合も増加していることがわかります。

インサイダー取引の割合が増加している背景には、ひとつの事案で芋づる式に違反者が発覚している点が挙げられます。
「事例集」のp44の「事例6」では、ひとつのインサイダー取引の事案で一挙に4人に課徴金勧告がなされています。
ひとりの違反が発覚することで、その背後にいる複数の違反者にも摘発の手が伸びているということでしょう。
少額でも違反者には勧告がなされています。
【令和5年度勧告一覧】と題された一覧を見てみると、1,303万円の課徴金が課せられた事案の他に、わずか27万円の課徴金というケースも見られます。
額の多寡にかかわらず、証券取引等監視委員会は不正については厳しく取り締まっていることがわかります。

2023年度不公正取引の具体的な事案

高速取引行為による不公正取引に対する初の課徴金勧告

今回、初めて証券取引等監視委員会が課徴金勧告を行った事例として、「高速取引行為による不公正取引に対する初の課徴金勧告」が掲載されています。
本件は、米国籍の法人である違反行為者が高速取引行為により、自らに有利な株式等の売買を行うことを企て、6銘柄の取引において、偽計を用いたという事案です。
米国籍の法人は、証券取引所の近隣に自社サーバーを構築し、高速取引ができるような体制を作ったうえで、大引けの100万分の1秒前のタイミングで、IOC注文によるポジション構築と、あらかじめ発注しておいた引け条件付き注文のうち、当該ポジションを超える数量の取消し等を行い、自身に有利な売買を行うことを企てました。
偽計を用いた6取引すべてにおいて同様の手法が取られていたことに証券取引等監視委員会は注目。高速取引行為による不公正取引と看破し、課徴金勧告に至っています。

また、どこまでがインサイダー取引に当たるのか、判断が難しいケースがあります。
p36「事例3」では、インサイダー取引規制の対象となる「重要事実」のひとつである「バスケット条項」に関する事例が紹介されています。
上場会社の子会社であるA社の社員が、 同社の社員らがX社の子会社であるY社とA社との間で締結した契約の履行に関し、重要な事実を知りました。
職務上、その情報を知りながら公表前にX社の株式を売ったことで、3人に課徴金勧告がなされています。
そのうちのひとりはX社の子会社の子会社の社員で、当人はおそらく末端の末端の社員として、自らがインサイダー取引を行っているという自覚もなかった可能性があります。
たとえ自覚がなくても、バレないと思っても、インサイダー取引が発覚した場合、厳しく課徴金勧告されることがわかります。
コラム10「第一次情報受領者について」では、会社関係者以外の人からもたらされた情報でもインサイダー取引に当たるケースが解説されています。
インサイダー取引規制において、会社関係者等からインサイダー情報の伝達を受けた者は第一次情報受領者となり規制の対象となりますが、その第一次情報受領者からインサイダー情報の伝達を受けた者は、基本的にはインサイダー取引規制の対象とはなりません。

しかし、会社関係者から直接インサイダー情報を聞いていない場合であっても、第一次情報受領者として、インサイダー取引規制の対象となる場合もあります。
コラム10では、発行体(A社)との契約締結者であるB社の取引祭であるC社の役員が、B社の社員からA社の重要事実を職務上伝達を受け、その内容を同じ社内の役員に話したところ、この役員が株取引を行いインサイダー取引とされた事例が紹介されています。
社外の人間であっても、第一次情報受領者となることがわかる事例として注目です。

インサイダー取引を防ぐためには

インサイダー取引を防ぐためには、正しくルールを理解する必要があります。
また、自社の社員にインサイダー取引を行わせないためには、社員教育や知識・知見の共有も有用でしょう。
公表されている「事例集」を活用し、どんな行為がインサイダー取引に当たるのか。誰が第一次情報受領者とされるのかを学び、社内ルールを作成したり社員研修等で知見を共有すると良いかもしれません。
インサイダー取引が発覚した場合、課徴金勧告など金銭的な罰則以外にも、企業のイメージを損なうなど大きな悪影響が想定されます。
社内規則の構築や、社員研修などで社内のコンプライアンス意識を高めるには、金融トラブルに詳しい弁護士にセミナーを依頼する、社内体制の整備をお願いすると良いでしょう。
自社内のコンプライアンスに不安を抱える企業のご担当者は、一度、法律事務所に相談しましょう。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

伊藤 新

(第二東京弁護士会)

第二東京弁護士会所属。大阪市立大学法学部卒業、大阪市立大学法科大学院法曹養成専攻修了(法務博士)。企業法務に注力し、スタートアップや新規事業の立ち上げにおいて法律上何が問題となりうるかの検証・法的アドバイスの提供など、企業 のサポートに精力的に取り組む。また、労働問題(使用者側)も取り扱うほか、不動産法務を軸とした相続案件などにも強い意欲を有する。

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