2024年7月31日、文化庁から「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」がリリースされました。
本リリースでは、AI開発者、AI提供者、AI利用者、業務外利用者(一般利用者)、権利者に向けて、著作権に関するリスクをどう低減していくのか、具体的な方策について取りまとめられています。
本リリースの内容について、弁護士がわかりやすく解説します。
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AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンスとは?
2024年7月31日に、文化庁は「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」をリリースしました。
本リリースは、「著作権と生成AIとの関係で生じるリスクを低減させる上で、また、自らの権利を保全・行使する上で望ましいと考えられる取組みを、生成AIに関係する当事者(ステークホルダー)の立場ごとに分かりやすい形で紹介する」ことを意図して出されたものです。
文化庁文化審議会著作権分科会法制度小委員会、内閣府知的財産戦略推進事務局、総務省・経済産業省などで行われた議論を取りまとめ、ひとつの資料としてリリースされています。
資料は第1部と第2部に分かれています。
第1部は「AI開発・提供・利用のチェックリスト」と題され、AI開発者、AI提供者、AI利用者、業務外利用者(一般利用者)に向けて最新の議論がまとめられています。
第2部は「権利者のためのガイダンス」と題され、著作権法上の権利を有する権利者の方向けに生成AIとの関係で、自らの著作物等がどのように利用される場合があるのか、侵害がある場合、どのような対抗措置を取ることができるのか等についてまとめられました。
1.
AI開発者のリスク低減方策について
では、第1部「1.AI開発者のリスク低減方策」から見ていきましょう。
AI開発において、著作権法第30条の4の取り扱いが重要になってきます。
著作権法第30条の4では、
(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
とされ、例えばAI学習データの収集等のために行われる著作物の複製等には、権利者の許諾を要しないとされてきました。
しかし、AI学習データとして収集するケースであっても、「享受」目的が併存している場合には、同条が適用されないため注意が必要です。
1-1-1では、その具体例が示されています。
1-1-2では、「AI学習用のデータセットとして、有償で提供されているデータベース著作物」を、AI学習のために無許諾で複製等する場合は、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない」とする著作権法第30条の4ただし書に該当する可能性があることが示されています。
1-1-3では、クローラで自動にデータを取れないような技術的措置が取られている場合にも、著作権法第30条の4ただし書に該当し、著作権法第30条の4が適用されない場合があることが示されています。
1-1-6では、学習データである著作物をそのまま出力させるような学習方法がとられている場合、学習済みモデルの廃棄請求が認められる場合がある旨書かれています。
1-2-1では、学習データである著作物と類似したものの生成を防止する技術的措置の採用を検討するように呼びかけられています。
1-2-2から1-3にかけては、学習データの出所がわかるようにする等によるトレーサビリティの向上や、どんなものを学習に使っている、著作権侵害防止に向けてどんな取組みを行っているかなどの情報提供も望まれるとされました。
このような情報提供等についてはAI開発者だけではなくAI提供者も同様です。
2.
AI提供者のリスク低減方策
2-1-1は「学習データである著作物と類似したものの生成を防止する技術的措置」について、AIシステム実装時にもその採用を検討するよう書かれています。
AI提供者については、システムが利用される場面をより意識した情報提供、すなわち利用者が確認しやすいよう平易でアクセスしやすい形での情報提供が望まれており、詳細に記載されています
AIシステムの実装の在り方、サービスの提供の方法によっては、AI利用者による著作権侵害についてAI提供者も責任を問われる場合があります。そこで2-2-2では利用規約等の整備について書かれています。利用のルールを適切に定めることで、AI提供者が責任を問われるリスクを低減させることが可能になります。
なお、AI提供者であってもAI開発者から提供を受けた基盤モデルにファインチューニングを施す場合などには、AI開発者の側面も持ちますから、AI開発者のリスク低減策についても参照する必要があります。
3.
AI利用者(業務利用者)のリスク低減方策
AI利用者(業務利用者)とは、事業活動におけるAIシステム・サービスの利用が念頭に置かれており、医療業界での画像診断・分析、化学業界での研究開発への活用、広告業界での広告制作といったもののほか、社内での事務作業効率化での活用など、利用場面は広がっています。
3-1-1では「利用しようとする生成AIについての適切な情報確認」が求められており、安全性を考慮した適正利用のために、
- 生成AIの仕組み及び特性
- AIシステム・サービスで使用されている学習済みモデルに関する情報
- AIシステム・サービスの利用規約等
- AIシステム・サービスの利用に関する、従業員等に対する適切な著作権教育
について事前に確認することが必要とされています。
適正利用をするにあたって、利用規約などを確認し遵守して使うなど、AIの仕組みや特性、利用上のルールを理解して活用するように求められています。
これらはAI提供者に対して期待される情報提供等の取組み(2-2-1,2-2-2等)と密接に関連しています。
3-1-3は、AI利用場面における著作権法第30条の4の適用に関する記述です。既存の著作物をプロンプトとして入力する場合、「入力した既存の著作物と類似する生成物を生成させる」といった目的がある場合、「享受」目的が併存しているとして、著作権法第30条の4が適用されない場合があるので注意が必要です。
3-1-4では、生成物の生成と利用では著作権侵害の判断が異なり得ることについて注意喚起がされています。AI生成物の生成自体は適法に行える場合でも、生成物をさらに利用しようとする場合は、著作権侵害を生じさせないか確認が必要です。
権利者の許諾を得て利用することを想定し社内検討用に生成する場合には、著作権法第30条の3により適法に行うことができますが、その生成物をSNSで発信してしまえば著作権侵害になる可能性が高いです。
3-1-5では、生成物の利用に先立って、既存の著作物と類似した生成物となっていないか確認することが求められています。AIを活用して作った生成物が、既存の著作物と似ている場合はNGです。
4.
業務外利用者(一般利用者)のリスク低減方策
4は一般利用者に向けたリスク低減策を取りまとめています。
4-1-1は「利用しようとする生成AIについての適切な情報確認」と題し、次の4点を確認するように求めています。
- 生成AIの仕組み及び特性
- AIシステム・サービスで使用されている学習済みモデルに関する情報
- AIシステム・サービスの利用規約等
- AIシステム・サービスの利用に関する、適切な著作権理解の習得
ほかにも、私的利用する分には問題はないが、SNSで発信すると著作権法に抵触するおそれがある旨なども記載されています。
また、既存の著作物と類似したものを生成させた場合、仮に利用者自身は既存の著作物があることを認識していなかったとしても、当該生成AIの開発・学習段階で当該既存の著作物を学習していた場合には、利用者による著作権侵害となりうるとされています。この点から、生成物が既存の著作物に類似していないか、インターネット検索の活用などによって確認することが必要とされています(4-1-5)。
また、学習データである既存著作物と類似したものの生成を防止する技術的措置が採用されたサービスを利用することも、利用者にとってのリスク低減策となるでしょう。
第2部 権利者のためのガイダンス
第2部では権利者に向けたガイダンスがなされています。
「似ている」ということの考え方や、似ているだけではなく依拠しているという点も認められないと著作権侵害にはならないことが説明されています。
また、著作権侵害があったらなにができるかについても書かれています。
さらに、権利制限規定(著作権侵害とならない場合)についても紹介されています
「自身の作品がAI学習に利用されることへの対応」では、著作権法第30条の4を意識した内容が書かれています。たとえば、クローラによる収集を防ぐための具体的な方策についてアドバイスがなされており、そのことが著作権法第30条の4による学習利用を回避することにつながります(1-1-3参照)。
また、実際に著作権を侵害された場合の相談窓口についても取りまとめられているので、参考にしてください。
最後に
生成AIの登場により、法律が想定していなかった新たな問題が生じているのが現状です。
生成AIの活用がますます広がっていくと同時に、開発者、利用者、権利者といったあらゆる立場から不安の声も挙がり、法規制のあり方や既存の法律の解釈等について様々な議論が行われています。
本ガイドラインは、それらの議論の成果の一つとして、AIと著作権について、現行の法律の中でどう対処するべきかの考え方をまとめています。
現状は、日に日に最新の技術が開発されるなか、既存の法律の枠組みでなんとかやっている状態と言えるかもしれません。
ただ、AI技術が日進月歩で進化しているなかでは、既存の法律の枠組みを前提として、法律ではなく本ガイドラインをはじめとした指針等を策定・活用するという現在の方向性は、一定の有用性があります。
AIの開発・提供・利用等に関して疑問に思う点があったら、まずは本ガイドラインを参照してみてください。
記事監修者
亀山 大樹
(第二東京弁護士会)早稲田大学法学部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。遺産、離婚などの家事事件、不動産会社やメーカーの顧問業務、交通事故の示談交渉、労働問題など幅広い分野で精力的に活動する。また、法律相談会、遺産相続や任意後見、家族信託に関するセミナー・講演にも積極的に取り組んでいる。
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