2024年6月21日、総務省は、SNS等を提供する大規模事業者に対して、SNS等におけるなりすまし型「偽広告」への対応を文書で公表しました。
蔓延する有名人の写真を無断で使い、あたかも本人が推薦しているかのような「偽広告」に待ったをかけた今回の対応はどのような意味・効果があるのでしょうか。弁護士がわかりやすく解説します。
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総務省による要請の概要
今回の要請はどのような内容なのでしょうか。
6月21日、総務省は同内容の要請を2者に送っています。
- Meta Platforms, Inc.
- 一般社団法人ソーシャルメディア利用環境整備機構
①はFacebookの運営会社、②はSNS等のサービスを提供する企業が加盟している団体です。
「偽広告」が多く見られたFacebookには直接、その他のSNS等を提供する大規模事業者には加盟団体を通じて、平均月間アクティブユーザ数が1,000万人以上であるSNS等を提供する企業を対象に通知の内容を届けています。
文書の内容は大きくふたつに分けられます。
- 広告出稿時の事前審査等について
- なりすまし型「偽広告」の削除等
1.広告出稿時の事前審査等についての内容は次のとおりです。
- 広告の事前審査基準を策定(既に当該基準を策定している場合は、基準の実効性を確認し、対応が不十分な点を踏まえた改定を行うことを含む。)・公表するとともに、当該基準を含め、利用規約等を踏まえた適正な対応を実施すること。
- 自社が提供するSNS等におけるなりすまし型「偽広告」を端緒とした詐欺の手口・実態等を踏まえた審査を実施すること(例:クローズドチャットを遷移先として設定している広告を原則として取り扱わないこと)。
- 上記①の対応を確実に実施するため、特に日本語並びに日本の社会、文化及び法令を理解する者を十分に配置するなど、事前審査体制を整備し、その整備状況を公表すること。
- なりすまし型「偽広告」によってなりすまされた被害者(その法定代理人を含む。以下同じ。)から通報があった場合、それ以降における当該被害者に関するなりすまし型「偽広告」の事前審査を強化すること。
- 事前審査における広告主の本人確認のプロセスや実効性を検証し、対応が不十分な点を改善するなど、本人確認の強化に向けて取り組むこと。
2.なりすまし型「偽広告」の削除等についての内容は次のとおりです。
- 利用規約等を踏まえ、貴社が現在自ら実施している、なりすまし型「偽広告」に係る技術的な手段も用いた情報収集・削除等の取組をより積極的に推し進めること等も含め、SNS等におけるなりすまし型「偽広告」について削除等の適正な対応を実施すること。
- 削除対応の迅速化及び運用状況の透明化
SNS等におけるなりすまし型「偽広告」について、下記①から⑤までの対応を実施すること。- ① 利用者に分かりやすい削除の申出を受け付ける方法を整備し、公表すること。
- ② 削除等の対応に当たる人材に関して、日本語並びに日本の社会、文化及び法令の理解が不十分であるとの指摘があることを踏まえ、削除等の対応に当たる人材として、日本語並びに日本の社会、文化及び法令を理解する者の十分な配置を行うこと。
- ③ なりすまされた被害者から削除の申出を受けてから遅滞なく(例:1週間以内)判断を行い、削除を実施した場合にはその旨、削除を実施しなかった場合にはその旨及びその理由を申出者に対して通知すること。
- ④ 削除等の実施に関する基準を策定し、公表すること。
- ⑤ 削除の申出件数及び実施件数、アカウント停止の申出件数及び実施件数並びに削除等の対応に当たる人的・技術的体制(特に、削除等の対応に当たる人材のうち日本語を理解する者の人数)を公表すること。
問題のポイント
なりすまし型の「偽広告」は、SNSを中心に広く拡散されました。
著名人の写真を大きく掲載し、あたかもその当該人物が文章で書かれている商品・サービスを強く推薦しているかのような体裁で閲覧者を騙し、商品・サービスの購入へと結びつけました。
今回、総務省の発表では、「なりすまし型『偽広告』は、閲覧者に財産上の被害をもたらすおそれがあるだけでなく、なりすまされた者の社会的評価を下げるなどなりすまされた者の権利を侵害するおそれもあり」と記載されました。
偽広告に騙されて閲覧者が財産上の被害を受けるおそれだけではなく、なりすまされた人物の社会的評価を下げる可能性についても言及されています。
大規模SNS事業者は、前述の「事前審査基準」と「削除」によって、これらの「偽広告」に対応するようにと指導がなされました。
影響があると考えられる企業
これまでは主に著名人の写真がなりすまし型の「偽広告」では使われてきました。
ですが、個人の写真だけではなく、企業などの集団を詐欺の要素に用いた「偽広告」が作成・拡散される可能性もあります。
もしも、自社の名前や写真、サービスなどを勝手に使われ「偽広告」として拡散されていた場合は、前述の指導によって今後Facebookなどの大規模SNSが策定することになる削除体制に則って削除依頼を出すことになるでしょう。
現状は具体的な方法は指示されていませんが、大規模SNSは、削除の依頼を受けた場合には「遅滞なく(例:1週間以内)判断を行い、削除を実施した場合にはその旨、削除を実施しなかった場合にはその旨及びその理由を申出者に対して通知すること。」とされています。被害者が1週間以内に何らかの回答が得られるよう、社内体制の整備が要請されています。
総務省からの指導を受けて対応をしなければならない企業の定義は次のとおりです。
「当該企業又はその関連会社が日本国内における平均月間アクティブユーザ数が1,000万人以上であるSNS等を提供する企業」。
自社がこの定義に当てはまる場合には、急ぎ社内体制を整備していきましょう。
今後注目するべき点
現状は大規模SNS事業者に対して、「偽広告」の審査と削除の基準を策定するようにとの指示は出ていますが、具体的な内容については言及が避けられています。
唯一、具体的に定められているのは、削除の申し出を受けた場合には遅滞なく「一週間以内に」対応するという点。
今後、大規模SNS事業者がが、被害者からの削除等の申し出を具体的にどのように受け、どのように社内で処理していくのか、具体的な対応策が注目されます。
現状ではたしかに具体的な言及はなされていませんが、「偽広告」を撲滅するために政治的な判断からこのような要請がなされたと考えられます。
その意味で、「要請が出されたこと」自体に意味があると言えるかもしれません。
記事監修者
高橋 直
(千葉県弁護士会)早稲田大学法学部卒業。早稲田大学大学院法務研究科修了。企業法務を中心に活動。ベンチャー企業から上場企業まで幅広く支援。エンタメ業界、バイオ・繊維業界、ファッション業界、インターネット権利侵害問題に注力、豊富な実績を有する。離婚・相続問題、刑事事件、交通事故被害などの一般民事案件の実績も多数。
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