インボイス制度が2023年10月からスタートしました。
インボイス制度とは、消費税を算定する際に仕入税額控除の対象となる請求書を、適格請求書(インボイス)発行事業者が発行した一定の請求書に限定する制度です。
今回は、消費税の納税区分ごとに企業がとるべき対応の選択肢について詳しく解説します。
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インボイス制度とは
はじめに、インボイス制度の概要を解説します。
なお、消費税率は厳密にいうと10%ではなく消費税率7.8%と地方消費税率2.2%の合計額であり、8%(=消費税率6.24%+地方消費税率1.76%)とされているものもあります。
しかし、インボイス制度の説明を単純化するため、本記事においては消費税率を10%であるとして解説します。
概要
インボイス制度とは、消費税を計算する際に仕入税額控除の対象となる仕入れや経費の支払いを、適格請求書(これを「インボイス」といいます)の発行を受けた仕入れや経費の支払いに限定する制度です。
消費税の課税事業者が納付すべき消費税は、原則として「商品などを売り上げた際に受け取った消費税」から「商品を仕入れたり経費を支払ったりした際に負担した消費税」を差し引いて算定します。
- 納付すべき消費税=(商品などを売り上げた際に受け取った消費税)-(商品を仕入れたり経費を支払ったりした際に負担した消費税)
この「商品を仕入れたり経費を支払ったりした際に負担した消費税」を納付すべき消費税の計算上差し引くことを「仕入税額控除」といいます。
これまでは、仕入れ先などが消費税の課税事業者であるかどうかを問わず、すべての仕入れや経費の支払いが仕入税額控除の対象とされていました。
インボイス制度が始まると、この仕入税額控除の対象となる仕入れや経費の支払いがインボイスの発行を受けた仕入れや経費の支払いに限定されることとなります。
そして、このインボイスを発行することができるのは「インボイス発行事業者」として登録を受けた事業者のみであり、この登録を受けられる事業者は消費税の課税事業者に限定されます。
導入の目的・背景
インボイス制度が導入された最大の目的は、益税をなくすことであると言われています。
益税とは、免税事業者が受け取った消費税を指します。
消費税の免税事業者は、消費税を納める必要がありません。
一方で、消費税分を上乗せした請求書を発行することは自由とされていました。
この点について適切な消費税の把握という観点から、インボイス制度が制定されました。
いつから開始される?
インボイス制度は、2023年10月1日より開始されました。
ただし、一定の経過措置が設けられています。
インボイス制度開始後の消費税の納税義務から見る事業者の区分
インボイス制度開始後における消費税の納税区分は、原則として次の3パターンとなります。
- 課税事業者(本則課税)
- 課税事業者(簡易課税)
- 免税事業者
インボイス制度への対応を解説する前に、納税区分を確認しておきましょう。
課税事業者(本則課税)
本則課税による課税事業者とは、消費税制度が本来予定している課税事業者の区分です。
本則課税による課税事業者が1年間に100万円(税込110万円)を売り上げて80万円(税込88万円)の仕入れや経費の支払いをした場合、2万円(=10万円-8万円)の消費税を納める必要が生じます。
本則課税の課税事業者のほとんどが、インボイス発行事業者としての登録を受けることとなるでしょう。
課税事業者(簡易課税)
課税事業者(簡易課税)とは、消費税の課税事業者のうち、消費税を簡易的に計算することが認められている事業者です。
基準期間(個人事業者は前々年、法人は前々事業年度)における課税売上高が5,000万円以下の事業者は、本則課税ではなく簡易課税を選択することが可能です。
簡易課税とは、仕入税額控除の対象額が業種ごとに設定された次の「みなし仕入率」を使って算定する課税方式です。
事業区分 | 事業の種類 | みなし仕入率 |
---|---|---|
第一種事業 | 卸売業 | 90% |
第二種事業 | 小売業等 | 80% |
第三種事業 | 製造業等(建設業、製造業等) | 70% |
第四種事業 | その他(飲食店業等) | 60% |
第五種事業 | サービス業等(運輸・通信業、金融・保険業、サービス業) | 50% |
第六種事業 | 不動産業 | 40% |
第五種事業に該当する事業を営む簡易課税事業者が1年間に100万円(税込110万円)を売り上げた場合、実際の仕入れや経費の支払い額にかかわらず5万円(=10万円-10万円×50%)の消費税を納める必要が生じます。
簡易課税と本則課税のいずれが消費税の納税額が少なくなるのかは、その事業者のビジネスモデルなどによって異なります。
そのため、一概に判断できるものではありません。
簡易課税であってもインボイス発行事業者に登録することができるため、簡易課税の課税事業者のほとんどがインボイス発行事業者としての登録を受けることとなるでしょう。
免税事業者
免税事業者とは、消費税の納税義務が免除されている事業者です。
基準期間の課税売上高が1,000万円以下であり、かつ一定の特定期間における課税要件にもあてはまらない事業者は、消費税の免税事業者となることができます。
免税事業者は、消費税の申告や納税が不要です。
ただし、免税事業者のままではインボイス発行事業者としての登録を受けることができず、免税事業者は例外なくインボイスを発行することができません。
インボイス制度の導入で影響を受けること
続いて、インボイス制度の導入による主な影響について解説します。
課税事業者にとっての影響
インボイス制度の開始により、インボイス以外の請求書を仕入税額控除の対象とすることができなくなりました。
つまり、インボイスを発行できない免税事業者からの仕入額に消費税額が記載されていたとしても、その金額は消費税の計算上控除することができません。
免税事業者にとっての影響
課税事業者に上記の影響が生じることから、課税事業者である取引先から取引を断られたり、消費税額分の値下げを要求されたりする可能性があります。
インボイス制度への対応:売り手側
ここからは、事業者の立場ごとにインボイスへの対応を紹介します。
まずは、売り手としての立場からの対応について解説します。
課税事業者である場合
消費税の課税事業者は、本則課税であっても簡易課税であっても、インボイス発行事業者として登録することが可能です。
売り手としての機会損失を防ぐため、インボイス発行事業者として登録をする一択となるでしょう。
なお、要件に沿ったインボイスを発行する必要があるため、発行する請求書の様式を確認しておく必要があります。
免税事業者である場合
免税事業者は、免税事業者のままではインボイスを発行することができません。
そのため、課税事業者となってインボイス発行事業者としての登録をするか、免税事業者であり続けるかの2択となります。
それぞれのメリットとデメリットは、それぞれ次のとおりです。
インボイス発行事業者になるメリット
インボイス発行事業者となる最大のメリットは、これまでどおり取引先と取引しやすくなることです。
また、免税事業者が多い業種である場合は、今後取引を開始するうえでインボイス発行事業者であることが1つのアピールポイントとなるでしょう。
インボイス発行事業者になるデメリット
インボイス発行事業者になるには、その前提として課税事業者となる必要が生じます。
そのため、原則どおり消費税を納税しなければなりません。
免税事業者のままでいるメリット
免税事業者のままでいることの最大のメリットは、消費税を納税する必要がないことです。
申告への負担も生じません。
免税事業者のままでいるデメリット
免税事業者のままでいる場合、仕入税額控除の対象とならないことを理由に取引先から取引を断られたり、消費税分の値下げを要求されたりする可能性があります。
インボイス制度への対応:買い手側
続いて、買い手としての立場からのインボイス制度への対応について解説します。
課税事業者(本則課税)である場合
インボイス制度の開始により、本則課税の課税事業者はインボイス発行事業者以外からの仕入れを仕入税額控除の対象とすることができません。
これによる税額増加の影響が大きい場合は、取引先を変えたり取引額を見直したりすることが選択肢となります。
その場合、後ほど解説する下請法や独占禁止法に違反しないよう注意が必要です。
課税事業者(簡易課税)である場合
課税事業者であっても簡易課税の適用を受けている場合、取引先がインボイス発行事業者であってもなくても税額への影響はありません。
なぜなら、簡易課税の事業者は先ほど紹介をしたみなし仕入率を使って仕入税額控除を算定するためです。
免税事業者である場合
買い手が免税事業者である場合は、取引先がインボイス発行事業者であってもなくても税額への影響はありません。
自社が免税事業者であれば、そもそも消費税を納める義務がないためです。
インボイス制度に関するその他の情報と注意点
インボイス制度に関して知っておくべきその他の情報は次のとおりです。
- 一定の経過措置が設けられている
- インボイス制度への対応が対象となる補助金がある
- 独占禁止法違反や下請法違反に注意する
一定の経過措置が設けられている
激変緩和の観点から、免税事業者等からの仕入れについても、インボイス制度の開始から6年間は仕入税額相当額の一定割合が控除可能な経過措置が設けられています。
経過措置によって仕入控除の対象となる割合は次のとおりです。※1
期間 | 仕入控除の対象となる割合 |
---|---|
2023年10月1日~2026年9月30日の3年間 | 8割 |
2026年10月1日~2029年9月30日の3年間 | 5割 |
2029年10月1日~ | 0割(控除不可) |
すなわち、2023年10月1日を境に免税事業者からの仕入額の一切が仕入税額控除の対象から外れたわけではありません。
そのため、この経過措置の期間中に対応を検討することも1つの手です。
インボイス制度への対応が対象となる補助金がある
免税事業者がインボイス発行事業者となる際は、コストを要することが少なくありません。
そのため、これを対象とした補助金制度が設けられています。
補助金とは、一定の要件を満たしたうえで申請し、応募の中から採択されることで、国や地方自治体などから返済不要のまとまった資金を受け取ることができる制度です。
インボイス制度への対応で使える可能性がある補助金は、次の2つが挙げられます。
- IT導入補助金
- 小規模事業者持続化補助金
補助金の活用をご検討の際は、中小企業診断士などの専門家へご相談ください。
IT導入補助金
IT導入補助金とは、中小企業や小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けた ITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金です。
IT導入補助金には「通常枠」のほか、会計ソフトなどの導入に使える「デジタル化基盤導入枠(デジタル化基盤導入類型)」、インボイス制度に対応した受発注システムなどを補助対象とする「デジタル化基盤導入枠(商流一括インボイス対応類型)」などがあります。
インボイス制度への対応の有無にかかわらず、企業が会計ソフトなどを新たに導入する際は「通常枠」の適用対象となる可能性があります。
通常枠の補助上限額は、原則として150万円未満、一定の要件を満たしたソフトを導入する際には450万円以下です。
また、取引関係における企業がインボス制度に対応した受発注ソフトを導入し、これを下請け企業など取引関係にある他の企業に対しても無償で利用させる場合には、「デジタル化基盤導入枠(商流一括インボイス対応類型)」の対象となる可能性があります。
この枠の補助上限額は350万円です。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金とは、小規模事業者等が取り組む販路開拓などの取り組みや、これと併せて行う生産性向上の取り組みを支援するため、これに要する経費の一部を補助する補助金です。
販路開拓とは新たな顧客の開拓や販売ルートの開拓のことであり、営業活動にかかる費用であればその多くがこの補助金の対象となります。
たとえば、チラシの印刷費用や展示会への出展費用、ウェブサイトの制作費や広告出稿費などが広く補助対象です。
小規模事業者持続化補助金にはもっとも多くの事業者が申請する「通常枠」のほか、別途要件を満たすことで申請できる4つの特別枠が設けられています。
「通常枠」の補助上限額は50万円です。
ただし、免税事業者がインボイス発行事業者となるなど一定の要件を満たす場合は、補助上限額にさらに50万円が上乗せされます。
また、「特別枠」では補助上限額が200万円に引き上げられています。
こちらも、インボイス特例に該当する一定の条件を満たす場合は、補助上限額がさらに50万円上乗せされます。
独占禁止法違反や下請法違反に注意する
独占禁止法(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律)とは、公正かつ自由な競争を促進する法律です。
また、下請法(下請代金支払遅延等防止法)とは、下請取引の公正化や下請事業者の利益保護を目的とした法律です。
インボイス発行事業者でないことを理由として、一方的に取引金額を引き下げたり取引を断ったりした場合、独占禁止法や下請法に違反する可能性があります。※2
公正取引委員会が公表している資料では、次の行為は独占禁止法や下請法に違反する可能性がある例として挙げられています。
- 発注者(買⼿)が下請事業者に対して、免税事業者であることを理由に消費税相当額の⼀部⼜は全部を⽀払わない⾏為(下請法4条1項3号)
- 下請事業者が課税事業者になったにもかかわらず、免税事業者であることを前提に⾏われた単価からの交渉に応じず、⼀⽅的に従来どおりに単価を据え置いて発注する⾏為(同4条1項5号)
- 「課税事業者にならなければ取引価格を引き下げる、それにも応じなければ取引を打ち切る」などと⼀⽅的に通告すること
ただし、下請法はすべての取引を規制する法律ではなく、対象として規制されるのは、発注者である親事業者と下請事業者の資本金額に一定以上の差がある場合のみです。
インボイス制度の開始を機に取引先との取引を見直したい場合や取引先から不利な要求をされてお困りの際は、弁護士へご相談ください。
まとめ
インボイス制度が2023年10月よりすでに開始されています。
自社での対応が完了していない場合は、早期に対応する必要があります。
まずは、制度の仕組みを十分に理解しておくことをおすすめします。
そのうえで、顧問税理士や弁護士に相談をして自社がとる具体的な対応を検討するようにしてください。
記事監修者
Authese Professional Group記事監修チーム
Authense Professional Groupに所属している有資格者が監修し、ビジネスにまつわる諸問題や事例についてわかりやすく解説しています。 Authense Professional Groupは、「すべての依頼者に最良のサービスを」をミッションとして、ご依頼者の期待を超えるリーガルサービスを追求いたします。どうぞお気軽にご相談ください。
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