公開 2024.06.17BusinessTopics

株式移転とは?必要な手続きの流れとスケジュールを弁護士がわかりやすく解説

会社法

株式移転とは、完全親子会社関係を創設する組織再編手法の一つです。

株式移転をするには、どのような手続きが必要なのでしょうか?
また、株式移転のスケジュールは、どのような点に注意して設定すればよいのでしょうか?

今回は、株式移転の必要な手続きを解説するとともに、スケジュールの例を紹介します。

目次
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株式移転とは

株式移転とは、1社以上の会社がその発行済株式の全部を、新たに設立する会社に移転させる手続きです。
株式を移転させる会社を「株式移転完全子会社」、新たに設立された会社を「株式移転設立完全親会社」といいます。

株式移転によって、完全親子会社関係が創設されます。
株式移転は、会社がホールディング会社(持株会社)体制に移行する際によく使われる手法です。

株式移転に必要な手続きとスケジュールの概要

株式移転をするには、どのような手続きをどのようなスケジュールで行えばよいのでしょうか?
ここでは、株式移転完全子会社が1社である場合を前提に、必要となる主な手続きとスケジュールの例を紹介します。

日程 株式移転設立完全親会社 株式移転設立完全子会社
株式移転の計画立案

基本合意・秘密保持契約の締結

適時開示

保振機構への通知

臨時報告書の提出

株式移転計画承認取締役会

株式移転計画の作成

適時開示(追加)

株主総会招集のための取締役会

6/10 株主総会招集通知発送
(有価証券届出書・有価証券通知書の提出)
事前開示書類等備置開始
6/11 株主総会の日の2週間前の日
反対株主の株式移転に反対する旨の会社に対する通知
6/25 株式移転計画承認株主総会
臨時報告書の提出
債権者に対する公告・催告
債権者異議手続
株主に対する通知又は公告
反対株主の株式買取請求
登録株式質権者等に対する通知又は公告
反対株主の株式買取請求期間満了
債権者異議手続の終了
登記手続期限の起算日として株式移転をする会社が定めた日
振替機関への通知
9/30 株式移転期日の前日 株式移転期日の前日
10/1 株式移転期日(効力発生日) 株式移転期日(効力発生日)
株式移転設立完全親会社の設立登記
株式移転対価の交付
事後開示書類等備置開始 事後開示書類等備置開始

ただし、ここで紹介するのは一般的なケースにおける代表的な手続きであり、会社の状況などによってはこれら以外の手続きが必要となることがあります。
株式移転を行おうとする際は、組織再編にくわしい弁護士のサポートを受けて、具体的な状況に応じたスケジュールを設定してください。

適時開示等

株式移転完全子会社が上場会社である場合、業務執行の決定機関が株式移転を決定したら、直ちにその内容を開示しなければなりません(上場規程402条1項1号j)。
併せて、証券取引所に対して一定の書類を提出する必要もあります(同421条1項)。
株式移転完全子会社が保振制度を活用している場合など一定の場合には、保振機構への通知も必要です。

臨時報告書の提出

株式移転完全子会社が有価証券報告書提出会社である場合、業務執行機関が株式移転を決定したら、遅滞なく内閣総理大臣(財務局長等)に臨時報告書を提出しなければなりません(金商法24条の5)。

臨時報告書に記載すべき内容は、次の事項などです。

  1. 株式移転の目的
  2. 株式移転の方法、株式移転比率、その他株式移転計画の内容
  3. 株式移転比率の算定根拠
  4. 株式移転設立完全親会社の商号、本店所在地、代表者氏名、資本金額、純資産額、総資産額、事業内容

記載事項に変更が生じた場合には、訂正報告書の提出も必要です。

株式移転計画承認取締役会の開催

株式移転完全子会社で取締役会を開催して、株式移転計画を承認します(会社法362条4項)。

株式移転計画の作成

株式移転をするには、株式移転計画を作成しなければなりません(同772条)。
株式移転計画は登記申請の添付書面となるため、書面での作成が必要です。

株式移転計画に記載すべき主な事項は次のとおりです。

  1. 株式移転設立完全親会社の目的、商号、本店所在地、発行可能株式総数
  2. 株式移転設立完全親会社の定款で定める事項
  3. 株式移転設立完全親会社の設立時取締役の氏名
  4. 株式移転設立完全親会社の機関設計の内容と、その内容に応じた各役員の氏名または名称
  5. 株式移転完全子会社の株主に交付する株式の数、またはその数の算定方法と株式移転設立完全親会社の資本金・準備金の額に関する事項
  6. 5の株式の割当てに関する事項

有価証券届出書の提出等

次のすべてに該当する場合、株式移転完全子会社は、有価証券届出書を内閣総理大臣(財務局長等)に届け出なければなりません。

  1. 株式移転完全子会社が開示会社である
  2. 株式移転で株式移転完全子会社の株主等に、株式移転設立完全親会社の有価証券発行または交付される
  3. その株式移転に係る事前開示書類の備置きが、特定組織再編成発行手続きまたは特定組織再編成交付手続きに該当する
  4. 株式移転完全子会社の株主等に発行または交付される有価証券について開示がされていない
  5. 発行価額の総額が1億円以上である

この届出の効力が生じるのは、原則として受理から15日を経過した日であり、効力が発生するまでは株式移転ができません。
ただし、一定の申出をすることで、届出翌日に効力を発生させる取り扱いを受けられる可能性があります。

なお、有価証券届出書の提出が不要な場合でも、発行価額の総額が1,000万円超1億円未満であるなど一定の場合には、「有価証券通知書」の提出が必要です。

事前開示

株式移転完全子会社は、一定事項を記載した書面等を作成し、これを本店に備え置かなければなりません(会社法803条1項)。
備置きが必要な期間は、次のうちいずれか早い日から株式移転設立完全親会社設立後6か月を経過する日までです(同2項)。

  1. 株式移転計画承認株主総会の2週間前の日
  2. 反対株主の株式買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日
  3. 新株予約権買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日
  4. 債権者異議手続の催告または公告のいずれか早い日

事前開示書類等に記載すべき事項は、次のものなどです。

  1. 株式移転計画の内容
  2. 株式移転の対価の相当性に関する事項
  3. 株式移転完全子会社の新株予約権者に交付する新株予約権等についての定めの相当性に関する事項
  4. 重要な偶発事象等の内容
  5. 債権者異議手続で異議を述べることができる債権者があるときは、効力発生日以後における株式移転設立完全親会社の債権者に対する債務の履行の見込みに関する事項

株式移転完全子会社の株主など一定の者は、この事前開示書類等の閲覧や謄抄本の交付請求などができます(同3項)。

株式移転計画承認株主総会の開催

株式移転計画の承認は、株主総会の特別決議で行います(同804条1項)。
株主総会での承認は、効力発生より前に行わなければなりません。

また、株式移転完全子会社が上場会社である場合は、株主総会による承認後遅滞なく臨時報告書の提出が必要です。

債権者異議手続

一定の債権者は、株式移転に異議を述べることができます(同810条1項)。
異議申述の機会を確保するため、株式移転完全子会社は次の事項を公告するとともに、異議を述べることができる債権者のうち知れている者に対して個別に催告しなければなりません(同2項)。

ただし、官報など一定の方法で公告をする場合には公告だけで足り、個別の催告までは不要です。
この異議申述期間は1か月以上を確保しなければならず、異議申述期間が経過するまでは株式移転による設立登記ができません。
そのため、設立登記の予定日から逆算をして、スケジュールを組む必要があります。

債権者に公告や催告をすべき事項は、次のものなどです。

  1. 株式移転をする旨
  2. 株式移転完全子会社の計算書類に関する一定の事項
  3. 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨

異議申述期間内に債権者が異議を述べた場合、株式移転完全子会社は原則として、その債権者に対して弁済や担保の提供など相当の措置をとらなければなりません(同5項)。
ただし、株式移転によってその債権者を害するおそれがない場合を除きます。

一方で、期間内に異議を申述しなかった債権者は、株式移転を承認したものとみなされます(同4項)。

反対株主の株式買取請求

株式移転に反対する株主は、次の2つの要件をいずれも満たすことで、会社に対して株式を公正な価格で買い取るよう請求できます(同806条1項)。

  1. 株主総会に先立って株式移転に反対する旨を通知したこと
  2. 株主総会で株式移転に反対したこと

株主に買取請求の機会を確保するため、株式移転完全子会社は、株式移転計画承認株主総会から2週間以内に、次の事項を株主に通知または公告をしなければなりません(同3項、4項)。

  • 株式移転をする旨
  • 株式移転設立完全親会社の商号と住所

この通知は、株主総会の招集通知とともに行うことも可能です。
ただし、株主総会の基準日時点での株主と、通知を要する株主とが異なる場合は、個別で通知する必要が生じます。

株主による買取請求ができる期間は、この通知または公告から20日以内です(同5条)。
ただし、買取請求をする株式が振替株式である場合は、権利の行使ができる期間は、振替機関から会社に対して個別株主通知がされた日から4週間が経過するまでの間です(振替法154条2項、3項)。

買取請求がされた場合、株式移転完全子会社は、株式移転の効力発生日から60日以内に買取対価を支払わなければなりません(会社法807条1項)。
効力発生日から30日以内に買取価格の協議がまとまらない場合、株式移転完全子会社または買取請求をした株主は、裁判所に対して価格決定の申立てをすることができます(同2項)。

登録質権者等への通知または公告

株式移転完全子会社は、株式移転承認株主総会の決議日から2週間以内に、株式移転をする旨を登録株式質権者などに対して通知しなければなりません(同804条4項)。
この通知は、公告に代えることも可能です(同5項)。

振替機関への通知

次の2つのいずれにも該当する場合、株式移転完全子会社は、株式移転の効力発生日の2週間前までに、振替機関に対して一定事項を通知しなければなりません。

  1. 株式移転完全子会社の株式が振替株式である
  2. 株式移転設立完全親会社が、株式移転に際して振替株式を交付しようとする

振替機関に対して通知すべき事項は、次の事項などです。

  • 株式移転完全子会社の振替株主に交付する振替株式の銘柄
  • 株式移転完全子会社の振替株式の銘柄

効力発生日

株式移転をする場合、次のうちいずれか遅い日から2週間以内に、株式移転完全親会社の設立登記をしなければなりません(同925条)。

  1. 株式移転計画承認株主総会の決議日
  2. 株式移転をするための種類株主総会の決議日
  3. 反対株主の買取請求に係る通知または公告から20日を経過した日
  4. 新株予約権買取請求に係る通知または公告から20日を経過した日
  5. 債権者異議手続が終了した日
  6. 株式移転をする会社が、登記手続き期限の起算日として定めた日

株式移転の効力は、株式移転設立完全親会社の設立登記がされた日に生じます(同774条1項)。
設立時点で、株式移転完全親会社は、株式移転完全子会社の発行済株式のすべてを取得し、同時に株式移転完全子会社の株主は、株式移転設立完全親会社の株主となります(同2項、3項)。

株式移転の対価の交付

株式移転の対価は、株式移転完全親会社の設立後、株式移転完全親会社から株式移転完全子会社の株主に対して交付されます。
株式移転の対価は株式移転完全親会社の株式とされることが多いものの、他に社債や新株予約権などとすることも可能です。

事後開示

株式移転完全子会社は、効力発生日(株式移転完全親会社の設立日)後遅滞なく、株式移転完全親会社と共同して次の事項を記載した書面等を作成しなければなりません(同811条1項2号、会社法施行規則210条)。

  1. 株式移転が効力発生日
  2. 株式移転完全子会社における、株式移転差止請求の経過に関する事項
  3. 株式移転完全子会社における、株式買取請求の経過に関する事項
  4. 株式移転完全子会社における、債権者異議手続の経過に関する事項
  5. 株式移転によって株式移転設立完全親会社に移転した、株式移転完全子会社の株式の数
  6. その他、株式移転に関する重要な事項

この事後開示書類等は、効力発生日から6か月間、株式移転設立完全親会社と株式移転完全子会社それぞれの本店に備え置かなければなりません。
備置きの期間、株式移転設立完全親会社の株主など一定の者は、事後開示書類等の閲覧や謄抄本の交付請求ができます。

まとめ

株式移転の概要や必要な手続き、スケジュール設定の例などについて解説しました。

株式移転とは、1社以上の会社がその発行済株式の全部を、新たに設立する会社に移転させる手続きです。
これにより、100%親子会社関係が創設されます。

株式移転をするには、株主総会や株主への通知または公告など、さまざまな手続きが必要です。
中には、手続きをしてから一定期間を経るまで株式移転ができない手続きもあるため、スケジュール設定に注意しましょう。

株式移転に必要な手続きや適切なスケジュールは、会社の状況や株式移転の内容などによって変動します。
株式移転をしようとする際は、必要な手続きを漏らさないよう組織再編手続きにくわしい弁護士に相談したうえで、手続きの洗い出しやスケジュールの設定を行ってください。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

松井 華恵

(第二東京弁護士会)

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