公開 2024.06.10BusinessTopics

簡易株式交換とは?手続きの流れとスケジュール例を弁護士がわかりやすく解説

会社法

一定の要件に該当する場合、手続きの負担を少し軽減できる簡易株式交換を選択できます。

簡易株式交換とは、どのような手法なのでしょうか?
また、簡易株式交換をするには、どのような手続きが必要となるのでしょうか?

今回は、簡易株式交換の概要や必要な手続き、スケジュールの例などについて、弁護士がくわしく解説します。

目次
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簡易株式交換の概要

はじめに、簡易株式交換の概要を解説します。

株式交換とは

株式交換とは、ある会社が他の会社の発行済み株式の全部を取得することで、100%親子会社関係を創設する組織再編手法です。
株式交換ではそれぞれ、次の株式を取得します。

  • 株式交換完全親会社:株式交換完全子会社の株式
  • 株式交換完全子会社の株主:原則として、株式交換完全親会社の株式

株式交換は合併のように複数の会社を統合するものではないため、株式交換完全親会社は、株式交換完全子会社の潜在的な負債を承継しません。
また、原則として、まとまった資金の手当ても不要です。
このように使い勝手がよいことから、株式交換は組織再編の中でも比較的よく使われる手法の一つです。

簡易株式交換とは

簡易株式交換とは、株式交換完全親会社側の株主総会決議を省略する株式交換です。
なぜなら、簡易株式交換ができる要件に該当する株式交換は、株式交換完全親会社の株主に及ぼす影響が軽微であるためです。
株主総会を省略できることから、手続きの負担やコストの軽減につながります。

簡易株式交換をするための要件

簡易株式交換をすることができるのは、次の合計額が、株式交換完全親会社の純資産額の5分の1を超えない場合です(会社法796条2条)。
ただし、5分の1を下回る割合を提案で定めることもできます。

  1. 株式交換完全親会社が株式交換に際して株式会社完全子会社の株主に交付する株式交換完全親会社の株式数×1株あたり純資産額
  2. 株式交換に際して交付する株式交換完全親会社の社債その他の財産の帳簿価額の合計額

ただし、これらの要件を満たす場合であっても、次のいずれかに該当する場合は株主総会の省略ができません。

  • 株式交換完全親会社に株式交換差損が生じる場合
  • 株式交換完全親会社が公開会社でない場合で、株式交換に際して株式交換完全子会社の株主に対して株式交換完全親会社の譲渡制限株式を交付する場合
  • 一定以上の数の株式を有する株主が一定の期間内に株式交換に反対する旨の通知をした場合

簡易株式交換によって株式交換完全親会社の株主総会を省略できるかどうか判断に迷う場合は、あらかじめ弁護士へご相談ください。

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簡易株式交換の手続きとスケジュールの概要

簡易株式交換をするには、どのような手続きが必要なのでしょうか?
ここでは、取締役会設置会社である株式会社同士が簡易株式交換をすることを前提として、必要となる主な手続きとスケジュール例を解説します。

日程 株式交換完全親会社 株式交換完全子会社
株式交換の計画立案

基本合意

適時開示

保振機構への通知

臨時報告書の提出

株式交換契約承認取締役会

株式交換契約の締結

(種類株主総会招集のための取締役会)

株式交換の計画立案

基本合意

適時開示

保振機構への通知

臨時報告書の提出

株式交換契約承認取締役会

株式交換契約の締結

株主総会招集のための取締役会

6/10 (種類株主総会招集通知発送) 株主総会招集通知発送
(有価証券届出書・有価証券通知書の提出)
事前開示書類等備置開始 事前開示書類等備置開始
6/11 (種類株主総会の日の2週間前の日) 株主総会の日の2週間前の日
反対株主の株式交換に反対する旨の会社に対する通知
6/25 株式交換契約承認株主総会
臨時報告書の提出
公正取引委員会への株式取得届出及びその受理
債権者に対する公告・催告 債権者に対する公告・催告
債権者異議手続 債権者異議手続
株主に対する通知又は公告 株主に対する通知又は公告
反対株主の株式買取請求
登録株式質権者等に対する通知又は公告
株式取得禁止期間の経過
振替機構への通知
9/30 株式交換期日の前日 株式交換期日の前日
10/1 株式交換期日(効力発生日) 株式交換期日(効力発生日)
事後開示書類等備置開始 事後開示書類等備置開始
10/12 登記変更(登記事項に変更が生じた時から)

なお、必要な手続きやスケジュールは、会社の状態などによって異なる可能性があります。
そのため、実際に簡易株式交換をしようとする際は、組織再編にくわしい弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

公正取引委員会への届出

国内での事業支配力が過度に集中となる株式交換などは、独占禁止法(以下、「独禁法」といいます)により禁止されています(独禁法9条2項)。
また、国内売上が一定超の会社同士が株式交換をするなどの場合には、あらかじめ公正取引委員会へ届け出ることが必要です(独禁法10条2項など)。

届出が必要である場合、届出の受理から30日間を経過するまでは株式交換ができないため(独禁法10条8項)、タイミングにご注意ください。
なお、銀行のように業法によって一定の株式交換が制限されている業種もあります。

適時開示等

当事会社が上場会社である場合、株式交換をする旨を決定したら、直ちにその旨を開示しなければなりません(上場規程402条1号i)。
これを「適時開示」といいます。

また、証券取引所に対し所定の書類を提出することも必要です(同421条1項)。
さらに、一定の場合には、保振機構への通知も必要となります(株式等の振替に関する業務規程12条、株式等の振替に関する業務規程施行規則6条・別表1の1(13))。

臨時報告書の提出

当事会社が有価証券報告書提出会社である場合、一定の株式交換をする旨を業務執行の決定機関が決定したら、遅滞なく臨時報告書を提出しなければなりません(金商法24条の5)。
臨時報告書に記載すべき事項は次のとおりです。

  1. 相手会社の商号、本店所在地、代表者氏名、資本金額、純資産額、総資産額、事業内容
  2. 相手会社の直近3年間の売上高、営業利益、経常利益、純利益
  3. 相手会社の大株主の氏名または名称と、発行済株式総数に占める大株主の持株割合
  4. 相手会社との資本関係、人的関係、取引関係
  5. 株式交換の目的
  6. 株式交換の方法、株式交換比率、その他株式交換契約の内容
  7. 株式交換比率の算定根拠
  8. 株式交換完全親会社の商号、本店所在地、代表者氏名、資本金額、純資産額、総資産額、事業内容
  9. 株式交換に係る割当て内容が株式交換完全親会社の株式や社債等以外の有価証券である場合、その有価証券の発行者に関する1から4の事項

臨時報告書の提出後に変更が生じたら、訂正報告書の提出も必要です。

取締役会の開催

株式交換契約の内容の決定は、取締役会で行います(会社法362条4項)。
なお、簡易株式交換の場合、株式交換完全親会社が監査役等設置会社であるときは、株式交換完全親会社の取締役会は株式交換契約の内容決定を取締役に委任できます(同399条の13第5項20号、同条6項)。

株式交換契約の締結

当事会社同士で、株式交換契約を締結します。
株式交換契約では、次の事項などを定めます(同767条、768条)。

  1. 株式交換完全親会社と、株式交換完全子会社の商号と住所
  2. 株式交換完全子会社の株主に対して株主交換完全親会社が交付する株式、社債、新株予約権等の数または額と、それらの算定根拠等
  3. 2の割当に関する事項
  4. 株式交換完全子会社の新株予約権者に対して、株式交換完全親会社が自社の新株予約権を交付するときは、その内容に関する事項と割当てに関する事項等
  5. 効力発生日

なお、株式交換契約は口頭であるからといって効力が生じないわけではありません。
しかし、トラブル防止の観点のほか、株式交換契約書は登記の添付書面となるため(商業登記法89条1号)、書面で契約を締結することが一般的です。

有価証券届出書の提出等

株式交換完全子会社が開示会社で、かつ株式交換完全子会社の株主等に発行または交付される有価証券の発行価額の総額が1億円以上であるなど一定の場合は、内閣総理大臣(財務局長等)に対して有価証券届出書を届け出なければなりません(金融商品取引法4条1項)。
この届出の効力が生じるのは、原則として、受理から15日を経過した日です(金融商品取引法8条1項)。

届出の効力が発生するまでは株式交換の効果を生じさせることができないため、提出のタイミングに注意が必要です。
ただし、一定の申出をすることで、届出の翌日に効力を発生させる取り扱いを受けられる可能性があります(金融商品取引法8条3項)。

また、有価証券届出書の提出が不要な場合でも、有価証券の発行価額の総額が1,000万円超であるなど一定の場合には、有価証券通知書の提出が必要です(金融商品取引法4条6項)。

事前開示

当事会社は、株式交換契約の内容など一定事項を記載した書面等を作成したうえで、これを一定期間本店に備え置かなければなりません(会社法782条1項、794条1項)。
書面等を備え置くべき期間は、次のうちいずれか早い日から、株式交換の効力発生日後6か月を経過する日までです。

  1. 株式交換について承認を受ける株主総会の2週間前の日
  2. 反対株主の株式買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日
  3. (株式交換完全子会社のみ)新株予約権買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日
  4. 債権者異議手続の催告または公告のいずれか早い日
  5. (株式交換完全子会社のみ)1から4以外の場合には、株式交換契約の締結日から2週間を経過した日

会社の株主や一定の債権者はこの閲覧期間中、閲覧や謄本の請求などができます。

株式交換契約承認株主総会

株式交換契約の承認は、株主総会の決議で行います。
株主総会決議による承認は、効力発生日の前日までに受けなければなりません(同783条1項、795条1項)。

簡易株式交換である場合、株式交換完全親会社では株主総会が不要です。
ただし、特別決議を阻止できるだけの数の株式を有する株主が株式交換に反対する旨を一定期間内に通知したときは、原則どおり株主総会が必要となります。(同796条3項)。

債権者異議手続

株式交換完全親会社の債権者は、次のいずれかに該当する場合、株式交換について異議を述べることができます(同799条)。

  • 株式交換の対価が、株式交換完全親会社の株式やこれに準じるものではない場合
  • 株式交換契約新株予約権が、新株予約権付社債に付された新株予約権である場合

異議を述べることができる債権者がいる場合においては、債権者に異議申出の機会を確保するため、当事会社は一定の事項を公告するとともに、知れている債権者には個別で催告しなければなりません(同789条2項、799条2項)。
ただし、官報や定款に記載した日刊新聞による方法などで公告をした場合は、個別の催告は不要となります(同789条3項、799条3項)。

債権者異議申述期間は少なくとも1か月を確保しなければならず、公告や催告から1か月を経過しなければ株式交換ができません。
そのため、効力発生日前日から1か月前までには催告や公告を行う必要があります。

反対株主の株式買取請求

株式交換完全子会社の株主のうち株式交換に反対する者は、会社に対して株式を買い取るよう請求できます。
買取請求ができる期間は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までです(同785条1項)。

株式買取請求ができる株主は、次の2つの要件をいずれも満たした者です。

  • 株主総会に先立って株式交換に反対する旨を通知したこと
  • 株主総会で株式交換に反対したこと

買取請求の機会を確保するため、株式交換完全子会社は効力発生日の20日前までに、株主に対して次の事項を通知するか公告しなければなりません(同3項)。

  1. 株式交換をする旨
  2. 相手会社の商号と住所

一方、簡易株式交換の場合、株式交換完全親会社の株主は原則として株式買取請求ができません(同797条1項)。

ただし、効力発生日20日前までの通知または公告は、原則どおり行う必要があります。
また、一定以上の株式を有する株主が反対したことによって株主総会をすることとなった場合には、株式交換完全親会社の株主も株主買取請求ができます。

登録株式質権者等に対する通知または公告

株式交換完全子会社は株式交換の効力発生日の20日前までに、登録株式質権者などに対して、株式交換をする旨を通知しなければなりません(同783条5項)。
この通知は、公告に変えることもできます(同6項)。

振替機関への通知

一定の場合において、株式交換完全子会社は振替機関や株主に対する通知が必要となります。
必要な通知や通知すべきタイミングは状況によって異なるため、あらかじめ弁護士へご相談ください。

効力発生日

株式交換の効力は、原則として株式交換契約で定めた日に発生します(同768条1項6号)。
この日をもって、株式交換完全親会社は株式交換完全子会社の株式をすべて取得します。
同時に、株式交換完全子会社の株主は、株式交換契約の内容に従い、株式交換完全親会社の株式などを取得します。

なお、効力発生日は当事会社間の合意により変更できます。
効力発生日を変更した場合は、それぞれ次の日までに公告しなければなりません(会社法790条2項)。

  • 効力発生日を早める場合:変更後の効力発生日の前日まで
  • 効力発生日を遅らせる場合:変更前の効力発生日の前日まで

事後開示

株式交換完全子会社は、株式交換完全親会社と共同して一定事項を記載した書面等を遅滞なく作成し、本店に備え置かなければなりません(同791条1項2号)。
備え置くべき期間は、効力発生日から6か月間です(同791条2項・801条3項3号)。

事後開示書面に記載すべき事項は、次のものなどです(会社法施行規則190条)。

  • 効力発生日
  • 株式交換の差止請求手続きの経過に関する事項
  • 株式買取請求手続きの経過に関する事項
  • 債権者異議手続きの経過に関する事項
  • 株式交換により株式交換完全親会社に移転した株式の数など
  • その他株式交換に関する重要な事項

登記申請

株式交換完全親会社は、株式交換により資本金額や発行済株式総数などに変更が生じることがあります。
変更が生じた場合は、変更から2週間以内に本店所在地において登記をしなければなりません(会社法915条1項)。

まとめ

簡易株式交換の概要や必要な手続き、スケジュールの例などを解説しました。
簡易株式交換とは、一定の要件を満たすことで、株式交換完全親会社側の株主総会を経ることなく株式交換をする手法です。
株主総会を省略できることで、手続きのコストや負担を減らす効果期待できます。

しかし、簡易とはいえ、さまざまな通知や届出、公告などは原則どおり必要です。
必要な手続きを漏らさないよう、実際に株式交換をしようとする際は、組織再編にくわしい弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

中巻 星栄

(第二東京弁護士会)

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