公開 2024.05.27BusinessTopics

新設分割とは?手続きの流れとスケジュール例を弁護士がわかりやすく解説

会社法

新設分割とは、既存の会社から切り出した権利義務の全部または一部を、新たに設立する会社に承継させる会社分割です。

新設分割をするにはどのような手続きが必要なのでしょうか?
また、新設分割のスケジュールは、どのように設定すればよいのでしょうか?

今回は、新設分割に必要な手続きやスケジュール設定の考え方について、弁護士がくわしく解説します。

目次
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新設分割とは

会社分割とは、会社の権利義務の全部または一部を分割し、これを他の会社に承継される組織再編手法です。

このうち、既存の会社に権利義務を承継させるものを「吸収分割」といいます。
一方、新たに設立した会社に承継させるものが「新設分割」です。

新設分割ができる会社形態の制限

新設分割は、どのような会社形態であっても行えるものではありません。
新設分割ができる会社形態は、それぞれ次のとおりです。

分割会社

新設分割において、権利義務を切り出す側の会社を「分割会社」といいます。
分割会社となれるのは、株式会社と合同会社だけです。

なお、株式会社には、特例有限会社(有限会社の廃止以前から存在する有限会社で、商号以外は株式会社として扱われている)を含みます。

新設会社

新設分割において、権利義務を承継させるために新たに設立される会社を「新設会社」といいます。
新設会社は、株式会社や合同会社のほか、合資会社や合名会社とすることも可能です。
ただし、有限会社は新たに設立できないことから、有限会社を新設会社とすることはできません。

新設分割で必要となる手続きとスケジュール例

新設分割をするためには、どのような手続きが必要となるのでしょうか?
ここでは、分割会社と新設会社がいずれも取締役会設置会社である株式会社であり、分割会社が1社である場合を前提に、スケジュールの例を紹介します。

日程 承継会社 分割会社
吸収分割の計画立案

適時開示

保振機構への通知

臨時報告書の提出

労働者の過半数で組織される労働組合、これがない場合は、労働者の過半数の代表者との間の会社分割についての理解と協力を得るための協議開始

労働者との協議開始

労働協約中の新設分割計画記載部分の労使合意

新設分割計画承認取締役会

適時開示(追加)

新設分割計画の作成

株主総会招集のための取締役会

労働者への通知

労働組合等への通知

労働者異議申出手続

(有価証券届出書・有価証券通知書の提出)

6/10 株主総会招集通知発送
事前開示書類等備置開始
6/11 株主総会の日の2週間前の日
反対株主の吸収分割に反対する旨の会社に対する通知
労働者異議申出手続期日
6/25 新設分割計画承認株主総会
臨時報告書の提出
債権者に対する公告・催告
債権者異議手続
株主に対する通知又は公告
反対株主の株式買取請求
登記手続期限の起算日として分割会社が定めた日
登録株式質権者等に対する通知又は公告
(保振機構への通知)
反対株主の株式買取請求期間満了
債権者異議手続の終了
9/30 分割期日の前日 分割期日の前日
10/1 分割期日(効力発生日)・変更登記 分割期日(効力発生日)・変更登記
分割対価の交付
事後開示書類等備置開始 事後開示書類等備置開始

ただし、会社の状況や定款の定め、上場の有無などにより、必要な手続きが異なることがあります。
また、複数の会社が分割会社となる共同新設分割の場合には、ここで紹介する以外の手続きが必要となる可能性があります。

新設分割をお考えの際は、組織再編にくわしい弁護士へご相談ください。

適時開示等

分割会社が上場会社である場合、業務執行機関が新設分割を行う旨を決定したら、直ちにその内容を開示しなければなりません(上場規程402条1項I)。

併せて、所定の時期に証券取引所へ所定の書類を提出することも必要です(同421条)。

また、分割会社が振替株式を発行している場合などは、取締役会での決定後速やかに、保振機構に対して新設分割計画の内容を通知します。

臨時報告書の提出

分割会社が有価証券報告書提出会社である場合、一定の新設分割をするときは、内閣総理大臣(財務局長等)に対して遅滞なく臨時報告書を提出しなければなりません。
臨時報告書に記載すべき主な事項は、次のとおりです。

  1. 新設分割の目的
  2. 新設分割の方法、分割会社に割り当てられる新設会社の株式の数、その他新設分割計画の内容
  3. 新設分割に係る割当ての内容の算定根拠
  4. 新設分割後における新設会社の商号、本店所在地、代表者氏名、資本金額、純資産額、総資産額、事業の内容

労働者との協議

分割会社は、新設分割を行うにあたって、労働者の理解と協力を得るよう努めなければなりません(労働契約承継法7条)。
これを受け、「平成12年12月27日労働省告示第127号(以下「告示」といいます)」では、労働者との協議の開始前に次の者と協議して、労働者の理解と協力を得るよう努めることとされています。

  • 労働者の過半数で組織される労働組合がある場合:その労働組合
  • 労働者の過半数で組織される労働組合がない場合:労働者の過半数の代表者

また、告示では、次の者に対して一定の通知期限日までに一定の事項を十分に説明して希望を聴取したうえで、一定事項の協議をすべきとされています。

  • 承継される事業に従事している労働者
  • 承継される事業に従事していない労働者であって、新設分割計画にその者の労働契約が新設会社に承継される旨の定めがある者

この「通知期限日」とは、新設分割承認株主総会の日の2週間前の日の前日を指します(同2条3項1号)。
そして、協議すべき事項は次の事項などです。

  • その労働者に係る労働契約承継の有無
  • 承継するとした場合または承継しないとした場合の、その労働者が従事することを予定する業務の内容
  • 就業場所その他の就業形態等

取締役会の開催

取締役会を開催し、新設分割計画を決定します(会社法362条4項)。

新設分割計画の作成

取締役会決議を経たうえで、新設分割計画を作成します。
新設分割計画では、次の事項を定めなければなりません(同763条)。

  1. 新設会社の商号、本店所在地、発行済株式数、事業目的
  2. その他、新設会社の定款で定める事項
  3. 新設会社の設立時取締役の氏名
  4. 新設会社の機関設計の内容と、監査役や会計参与など役員の氏名または名称
  5. 新設分割に際し、新設会社が分割会社から承継する資産、債務、雇用契約その他の権利義務に関する事項
  6. 新設分割に際し、新設会社が分割会社に対してその事業に関する全部または一部に代えて交付する新設会社の株式の数またはその算定方法と、新設会社の資本金及び準備金に関する事項
  7. 新設分割に際し、新設会社が分割会社に対して社債や新株予約権、新株予約権付社債を交付するときは、これらに関する一定の事項
  8. 新設会社設立日に、分割会社が一定の全部取得条項付種類株式の取得や一定の剰余金の配当を行うときは、その旨

新設分割計画は登記の添付書類となることから、書面で作成することが一般的です。

労働者による異議申出手続き

分割会社は、次の労働者に対して一定事項を書面で通知しなければなりません(労働承継法2条1項)。

  • 承継される事業に主として従事している労働者
  • 承継される事業に従事していない労働者であって、新設分割計画にその者の労働契約が新設会社に承継される旨の定めがある者

法律上、この通知は通知期限日までに行うこととされていますが、告示では次のうちいずれか早い日と同日に行うのが望ましいとされています。

  • 新設分割計画を本店に備え置く日
  • 新設分割計画承認株主総会の招集通知発送日

また、新設分割計画に労働契約を新設会社に承継させる旨の定めがない労働者は、書面による異議の申出ができます。
異議の申出ができる期間は、通知日から異議申出期限日(通知期限日の翌日から株主総会日の前日までの期間内で、会社が定めた日)までです。
ただし、実際に通知をした日から異議申出期限日までは、少なくとも13日を置かなければなりません。

なお、分割会社が労働組合との間で労働協約を締結している場合は、労働組合に対する一定の通知も必要です。

労働者関係の手続きに問題があれば、後にトラブルとなるおそれがあります。
弁護士へ相談したうえで必要な手続きを漏れなく行うよう、特にご注意ください。

有価証券届出書の提出等

分割会社が開示会社であり、かつ新設分割に伴う有価証券の発行価額の総額が1億円以上であるなど、一定の要件に該当する場合は有価証券届出書を内閣総理大臣(財務局長等)に届け出なければなりません。
この届出の効力が生じるのは受理から15日を経過した日であるうえ、効力が発生するまでは新設分割ができないとされています。
そのため、届出のタイミングに注意が必要です。

ただし、一定の申出をすることで、届出の翌日に効力を発生させる取り扱いを受けられる可能性があります。
また、有価証券届出書の提出が不要な場合でも、発行価額の総額が1,000万円超であるなど一定の場合は、有価証券通知書の提出が必要です。

事前開示

分割会社は、新設分割計画の内容など一定事項を記載した書面等を作成し、これを本店に備え置かなければなりません(会社法803条1項)。
備え置くべき期間は、次のうちいずれか早い日から、新設会社の設立から6か月を経過する日までです。

  1. 新設分割計画承認株主総会の2週間前の日
  2. 反対株主の株式買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日
  3. 新株予約権買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日
  4. 債権者異議手続の催告または公告のいずれか早い日
  5. 1から4以外の場合には、新設分割計画の作成日から2週間を経過した日

新設分割計画承認株主総会

分割会社は、新設分割の効力発生の前までに、株主総会の特別決議で新設分割計画の承認を受けなければなりません(同804条1項、309条2項12号)。
また、分割会社が上場会社であるときは、株主総会による決議後、遅滞なく内閣総理大臣(財務局長等)に臨時報告書を提出することが必要です(金商法24の5  4項)。

債権者異議手続

分割会社の債権者のうち、次の者は新設分割について異議の申述ができます(会社法810条)。

  • 新設分割後に、分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる債権者
  • 分割対価として交付された新設会社の株式を、分割会社が全部取得条項付株式の取得対価や剰余金の配当として株主に分配する場合における債権者

債権者に異議申述の機会を確保するため、分割会社は一定事項を公告したうえで、知れている債権者には個別で通知しなければなりません(同810条2項)。
ただし、官報など一定の方法で公告をした場合には、個別催告は不要となります。

異議申述期間は1か月以上を確保する必要があるため、この公告や催告は、新設会社の設立予定日の前日から1か月前までに行う必要があります。

反対株主の株式買取請求

分割会社の株主のうち、次の両方の要件を満たした者は、株式を公正な価格で買い取るよう会社に対して請求できます(同806条1項、2項)。

  • 新設分割に反対する旨を、株主総会に先立って通知したこと
  • 株主総会で、新設分割に反対したこと

株主に対して買取請求をする機会を確保するため、分割会社は新設分割計画承認株主総会の決議日から2週間以内に、次の事項を株主に通知するか公告しなければなりません(同3項、4項)。

  1. 新設分割をする旨
  2. 新設会社の商号と住所

株式の買い取りを希望する株主は、この通知または公告から20日以内に、請求に係る株式の数を明らかにして会社に対して請求します(同5項)。

登録株式質権者等に対する通知または公告

新設分割計画承認株主総会から2週間以内に、分割会社は登録株式質権者などに対し、新設分割する旨を通知しなければなりません(同804条4項)。
この通知は、公告に変えることもできます(同5項)。

振替機関への通知

次のいずれにも該当する場合、分割会社は、新設会社設立日の2週間前までに、振替機関に対して一定事項を通知しなければなりません。

  1. 分割会社が、分割対価として交付された新設会社の振替株式を、新設会社の成立日に、全部取得条項付種類株式の取得対価または剰余金の配当として分割会社の株主に交付する
  2. 新設会社の株式と分割会社の株式がいずれも振替株式である

効力発生日

新設分割の効力は、新設会社の設立登記日に生じます(同764条1項)。
この日をもって、新設分割計画の定めに従い、分割会社の権利義務が新設会社に承継されます。

この設立登記と分割会社の変更登記は、次のうちいずれか遅い日から2週間以内に行わなければなりません(同924条)。

  1. 新設分割計画承認株主総会の決議日
  2. 新設分割をするための種類株主総会の決議日
  3. 株式買取請求に係る通知または公告から20日を経過した日
  4. 新株予約権買取請求に係る通知または公告から20日を経過した日
  5. 債権者異議手続の終了日
  6. 新設分割をする会社が定めた日

分割対価の交付

新設分割計画に従い、分割会社に対して新設会社の株式や社債、新株予約権などが交付されます。

事後開示

分割会社は新設会社の共同し、新設会社の設立後遅滞なく、一定事項を記載した書面等を作成し本店に備え置かなければなりません(同811条2項)。
備え置くべき期間は、新設会社の成立日から6か月間です。

上場会社が新設分割をした場合は、効力発生日以後速やかに、この事後開示書類の写しを証券取引所に提出しなければなりません。

まとめ

新設分割に必要となる手続きと、スケジュールの一例を解説しました。

新設分割をする際は、債権者や株主などに所定の通知や公告をする必要があるほか、労働者との協議なども必要です。
加えて、上場会社の場合は、適時開示などさらに多くの手続きを踏まなければなりません。

必要な手続きを漏らしたりスケジュール設定を誤ったりすると、本来の予定日に新設分割ができなくなるおそれがあります。
必要な手続きを適切なスケジュールで漏れなく遂行するため、新設分割をしようとする際は、組織再編にくわしい弁護士のサポートを受けることをおすすめします。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

高橋 直

(千葉県弁護士会)

早稲田大学法学部卒業。早稲田大学大学院法務研究科修了。企業法務を中心に活動。ベンチャー企業から上場企業まで幅広く支援。エンタメ業界、バイオ・繊維業界、ファッション業界、インターネット権利侵害問題に注力、豊富な実績を有する。離婚・相続問題、刑事事件、交通事故被害などの一般民事案件の実績も多数。

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