合併には、吸収合併と新設合併の2つがあります。
同じ合併であっても、吸収合併と新設合併では必要な手続きが大きく異なります。
では、新設合併では、主にどのような手続きが必要となるのでしょうか?
また、新設合併のスケジュールは、どのような点に注意して設定すればよいのでしょうか?
今回は、新設合併で必要となる手続きやスケジュールの例について、弁護士がくわしく解説します。
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新設合併とは
合併には、吸収合併と新設合併があります。
このうち、吸収合併とは合併後に1社(「存続会社」といいます)が残り、その他の会社(「消滅会社」といいます)の権利義務がすべて存続会社に承継される形の合併です。
たとえば、A社がB社を飲み込む形での合併がこれに該当します。
一方、新設合併とは、当事会社はすべて合併によって消滅し、消滅会社の権利義務をすべて新たに設立する会社(「新設会社」といいます)が承継する形の合併を指します。
たとえば、A社とB社が消滅し、新たに設立したC社がA社とB社の権利義務を引き継ぐものなどがこれに該当します。
なお、吸収合併の場合には一定の要件を満たすことで一部の手続きを省略できる「簡易吸収合併」や「略式吸収合併」の制度がありますが、新設合併にはこのような規定はありません。
新設合併の手続きの概要とスケジュール例
新設合併には、さまざまな手続きが必要となります。
ここでは、取締役会設置会社である株式会社2社が新設合併をする場合を前提に、必要な手続きとスケジュールの例を紹介します。
日程 | 手続 |
---|---|
新設合併の計画立案 基本合意・秘密保持契約の締結 デューデリジェンス 適時開示 保振機構への通知 臨時報告書の通知 合併契約承認取締役会 合併契約の締結 株主総会招集のための取締役会 |
|
6/10 | (有価証券届出書・有価証券通知書の提出) |
株主総会招集通知発送 | |
事前開示書類等備置開始 | |
株主総会の日の2週間前の日 | |
反対株主の合併に反対する旨の会社に対する通知 | |
6/25 | 合併契約承認株主総会 |
臨時報告書の提出 | |
公正取引委員会への合併届出・受理 | |
債権者に対する公告・催告 | |
債権者異議手続 | |
株主に対する通知又は公告 | |
反対株主の株式買取請求 | |
登録株式質権者に対する通知又は公告 | |
反対株主の株式買取請求期間満了 | |
債権者異議手続の終了 | |
合意により定めた日 | |
振替機関への通知(振替株式の場合のみ) | |
合併禁止機関の経過 | |
9/30 | 合併期日の前日 |
10/1 | 合併期日(効力発生日) |
なお、ここで紹介するのは一般的なスケジュールの例です。
必要な手続きやスケジュールは、会社の状況や定款の内容、上場の有無などによって異なる可能性があるため、実際に新設合併をする場合は弁護士へご相談ください。
公正取引委員会への合併届出等
ある取引分野において上位シェアを占める会社同士が合併すると、その取引分野における競争が事実上制限されるおそれがあります。
そのため、独占禁止法(以下、「独禁法」といいます)の規定により、次の場合には合併ができません(独禁法15条1項)。
- その合併により、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合
- その合併が、不公正な取引方法によるものである場合
また、消滅会社のいずれか一方が属する企業集団の国内売上高の合計額が200億円を超え、かつ合併しようとする他の消滅会社の国内売上高が50億円を超える場合は、合併に関する計画を作成してあらかじめ公正取引委員会へ届け出なければなりません(同条2項、同10条2項)。
ただし、同一の企業集団に属する会社同士の合併である場合は、この届出は不要です。
なお、この届出の受理から30日を経過するまでは合併ができません(同15条3項、同10条8項)。
そのため、予定している合併の効力発生日の30日前までに届出が受理されるようにスケジュールを組む必要があります。
また、届出がスムーズに受理されるよう、公正取引委員会に事前相談を行うことが一般的です。
適時開示等
上場会社が合併しようとする場合、業務執行機関が合併することを決定したら、その旨を直ちに開示しなければなりません(上場規程402条1項k)。
併せて、証券取引所に所定の書類を提出することも必要です。
また、消滅会社が株式等振替制度を活用している場合は、保振機構への通知も必要となります。
臨時報告書
消滅会社が有価証券報告書提出会社である場合、新設合併の決定後遅滞なく、内閣総理大臣(財務局長等)に臨時報告書を提出しなければなりません(金商法24条の5項4号)。
臨時報告書に記載すべき事項は次のとおりです。
- 自社以外の消滅会社の商号、本店所在地、代表者氏名、資本金額、純資産額、総資産額、事業内容
- 自社以外の消滅会社の過去3年間に終了した事業年度の売上高、営業利益、経常利益、純利益
- 自社以外の消滅会社の大株主の氏名または名称、発行済株式総数に占める持株割合
- 自社以外の消滅会社との間の資本関係、人的関係、取引関係
- 新設合併の目的
- 新設合併の方法、新設合併に係る割当ての内容、その他の新設合併契約の内容
- 新設合併に係る割当ての内容の算定根拠
- 新設会社の商号、本店所在地、代表者氏名、資本金額、純資産額、総資産額、事業内容
なお、提出後に内容に変更が生じたら、訂正報告書の提出が必要です(同5項)。
合併承認取締役会の開催
合併契約の締結前に、合併契約の承認が必要です。
新設合併契約の承認は、取締役会で行います(会社法362条4項)。
合併契約の締結
合併契約が承認されたら、消滅会社同士で合併契約を締結します。
合併契約書に記載すべき事項は、次のとおりです(同753条)。
- 消滅会社の商号と住所
- 新設会社の目的、商号、本店所在地、発行可能株式総数
- その他、新設会社の定款で定める事項
- 新設会社の設立時取締役の氏名
- その他、新設会社の機関設計に関する次の事項
- 会計参与設置会社である場合:設立時会計参与の氏名または名称
- 監査役設置会社である場合:設立時監査役の氏名
- 会計監査人設置会社である場合:設立時会計監査人の氏名または名称
- 新設会社が、新設合併に際して消滅会社の株主などに対して交付する、その株式に代わる新設会社の株式の数またはその数の算定方法、新設会社の資本金と準備金の額に関する事項
- 6の株式の割当てに関する事項
- 新設会社が、新設合併に際して消滅会社の株主などに対して新設会社の社債等を交付するときは、その社債等に関する事項
- 8の社債等の割当てに関する事項
- 消滅会社が新株予約権を発行しているときは、新設合併に際して新設会社が新株予約権者に対して交付する、新設会社の新株予約権または金銭に関する事項
- 10の新株予約権または金銭の割当てに関する事項
なお、作成した合併契約書は事前開示の対象となるほか、登記の添付書類としても必要となります。
有価証券届出書の提出等
新設合併が次のすべてに該当する場合には、内閣総理大臣(財務局長等)に対して有価証券届出書を提出しなければなりません(金商法4条1項)。
この届出の効果は受理日から15日を経過した日に生じますが、期間の短縮が適当ではない一定の場合を除き、申出をすることで届出の翌日に効力が発生する取り扱いを受けられます。
ただし、消滅会社による事前開示書類の備置きより前に行う必要があります。
- 新設合併で、消滅会社の株主等に新設会社の株式等が発行または交付される
- 事前開示書類の備置きが、特定組織再編成発行手続または特定組織再編成交付手続に該当する
- 消滅会社が開示会社である
- 発行価額の総額が1億円以上である
なお、上記「4」に該当しない場合であっても、上記「1」から「3」に該当しかつ発行価額の総額が1,000万円超1億円未満である場合には、有価証券通知書の提出が必要です。
事前開示
消滅会社は、次の一定の事項を記載した書面等を作成し、本店に備置かなければなりません(会社法803条1項、2項)。
備置きの期間中、消滅会社の株主や債権者は書類を閲覧したり、謄本の交付を請求したりすることができます(同803条3項)。
事前開示すべき事項は次のものなどです(会社法施行規則204条)。
- 新設合併契約の内容(合併契約書)
- 合併対価の相当性に関する事項
- 他の消滅会社(清算会社以外)の最終事業年度に係る計算書類等の内容と、重要な偶発事象等の内容等
- 貸借対照表(他の消滅会社が清算会社である場合)
- その消滅会社(清算会社を除く)についての重要な偶発事象等の内容と、最終事業年度がないときは成立日における貸借対照表
- 効力発生日以後における新設会社の債務の履行の見込みに関する事項
- 1から6の事項に変更が生じたときは、変更後の事項
事前開示書面等は、次のうちいずれか早い日から新設会社の成立後6か月を経過する日まで備置く必要があります。
- 新設合併について承認を受ける株主総会の日の2週間前の日
- 反対株主の買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日
- 新株予約権買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日
- 債権者異議手続の公告または催告のいずれか早い日
合併承認株主総会
新設会社成立の日の前日までに、消滅会社は株主総会の特別決議で新設合併契約の承認を受けなければなりません(同804条1項)。
臨時報告書の提出
株主総会で新設合併が承認されたら、次の事項を記載した臨時報告書を遅滞なく内閣総理大臣(財務局長等)に提出します(金商法24条の5第4項)。
- 株主総会の開催年月日
- 決議事項の内容
- 決議事項に対する賛成・反対・棄権の意思表示に係る議決権の数、決議事項の可決要件、決議の結果
- 「3」の議決権の数に株主総会に出席した株主の議決権の一部を加算しなかった場合には、その理由
債権者異議手続
消滅会社の債権者は、新設合併に対して異議を述べることができます(会社法810条1項1号)。
なぜなら、合併によって権利が害される可能性があるためです。
債権者が異議を申し立てる期間を確保するため、効力発生日前日の1か月前までには次の事項を公告するとともに、知れている債権者に対して個別催告が必要です(同2項)。
- 新設合併をする旨
- 他の消滅会社と新設会社の商号と住所
- 消滅会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
- 債権者が一定期間内に異議を述べることができる旨
ただし、官報のほか定款で定めた時事に関する事項を掲載する日刊新聞や電子公告で公告する場合は公告だけで足り、個別催告は不要となります。
なお、公告や催告から1か月が経過しなければ新設合併による設立登記ができないため、スケジュールに特に注意しなければなりません。
反対株主の株式買取請求
新設合併に反対する株主は、会社に対して株式を公正価格で買い取るよう請求できます(同806条1項)。
株主が株式買取請求をするには、次の要件をいずれも満たさなければなりません(同2項)。
- 株主総会に先立って、新設合併に反対する旨を会社に対して通知したこと
- 株主総会で、新設合併に反対したこと
この買取請求の効果は、新設合併の効力発生日に生じます(同807条6項)。
株式買取請求の機会を確保するため、合併承認株主総会から2週間以内に、消滅会社は株主に対して次の事項を通知または公告しなければなりません(同806条3項、4項)。
- 新設合併をする旨
- 他の消滅会社の商号と住所
- 新設会社の商号と住所
株式買取請求がされると、消滅会社は新設会社の設立日から60日以内に対価を支払う必要が生じます(同807条1項)。
買取価格は、原則として会社とその株主との協議によって決定しますが、協議がまとまらないこともあるでしょう。
新設会社の設立から30日以内にこの協議が調わない場合、株主または会社は、期間の満了日から30日以内(つまり、本来の支払期限まで)に裁判所に対して価格決定の申立てができます(同2項)。
この期間内に申立てがされない場合は、期間の満了後、株主はいつでも買取請求を撤回できます(同3項)。
登録質権者等への通知等
消滅会社は、新設合併を承認する株主総会決議から2週間以内に、登録株式質権者等へ新設合併の通知をしなければなりません(同804条4項)。
この通知は、公告に変えることもできます(同5項)。
振替機関への通知
消滅会社や新設会社の発行する株式が振替株式である場合、状況に応じて一定の通知が必要となります。
通知の概要とスケジュールはそれぞれ次のとおりです。
- 消滅会社の株式も、新設会社が交付する株式も振替株式である場合:効力発生日の2週間前までに振替機関に一定事項を通知
- 消滅会社の株式が振替株式ではなく、新設会社が振替株式を交付する場合
- 1. 効力発生日の1か月前までに、株主等に対して、振替株式の新規記録をするための口座を通知すべき旨などの通知
- 2. 効力発生日後遅滞なく、振替機関に一定事項を通知
- 消滅会社の株式が振替株式であり、新設会社が振替株式ではない株式を交付する場合:効力発生日の2週間前までに、振替機関に効力発生日等を通知
効力発生日・登記申請
新設合併の効果は、新設会社の設立登記時点で生じます(同754条1項)。
効力発生によって消滅会社は解散し、新設会社に権利義務が承継されます。
また、消滅会社の株式は、設立と同時に新設会社の株主となります。
許認可が必要な事業を営んでいる場合には、許認可の承継手続きについても確認しておきましょう。
合併対価の交付
消滅会社の株主には、新設会社の株式が交付されることが原則です。
ただし、これに加えて新設会社の社債や新株予約権などを交付することもできます。
まとめ
新設合併に必要となる主な手続きと、スケジュールの例について解説しました。
新設合併をする際は、取締役会や株主総会、通知、公告など非常に多くの手続きが必要となります。
手続きを漏らしてしまうと大きなトラブルに発展する可能性があるほか、スケジュール設定を誤ると予定していた日に新設会社が設立できないおそれもあります。
そのため、合併など組織再編手続きにくわしい弁護士のサポートを受け、必要な手続きの洗い出しやスケジュール設定を慎重に行ってください。
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