公開 2024.05.16BusinessTopics

略式吸収合併とは?手続きの流れとスケジュールを弁護士がわかりやすく解説

会社法

吸収合併をする場合において、一定の要件を満たすときは、略式吸収合併の手続きが選択できます。

略式吸収合併ができるのは、どのような場合なのでしょうか?
また、略式吸収合併をするには、どのような手続きが必要となるのでしょうか?

今回は、略式吸収合併に必要となる手続きを解説するとともに、スケジュールの例を紹介します。

目次
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略式吸収合併とは

略式吸収合併とは、支配関係のある会社同士が合併するにあたって、被支配会社の株主総会を経ずに行う吸収合併です。
まずは、略式吸収合併ができるケースとできないケースについて解説します。

実際に支配関係にある会社同士が合併しようとする際は、略式吸収合併ができるかどうか、あらかじめ弁護士へご相談ください。

略式吸収合併ができる場合

略式吸収合併ができるのは、特別支配関係にある会社同士が合併する場合です。

特別支配関係とは、一方の会社がもう一方の会社の議決権の10分の9以上を有している場合などを指します(会社法468条1項)。
なお、被支配会社が定款で10分の9を上回る割合を定めた場合には、その定款で定めた割合で特別支配関係であるかどうかが判定されます。

略式吸収合併ができない場合

合併によって存続する会社(「存続会社」といいます)と合併によって消滅する会社(「消滅会社」といいます)が特別支配関係にない場合は、略式吸収合併はできません。
また、存続会社が消滅会社の特別支配会社であっても、次のすべてに合致する場合には、略式吸収合併はできないとされています(同784条1項ただし書)。

  1. 合併対価等の全部または一部が譲渡制限株式等である
  2. 消滅会社が公開会社である
  3. 消滅会社が種類株式発行会社ではない

反対に、消滅会社が存続会社の特別支配会社であり、次の2つの要件を満たす場合にも略式吸収合併はできません(同796条1項ただし書)。

  1. 合併に際して、消滅会社の株主に対して存続会社の譲渡制限株式を交付する
  2. 存続会社が公開会社ではない

略式吸収合併の手続きの概要とスケジュール例

略式とはいえ、吸収合併ではさまざまな手続きが必要となります。
ここでは、取締役会設置会社である株式会社同士が合併する場合を前提に、必要な手続きとスケジュールの例を紹介します。

なお、特別支配会社が存続会社となり、被支配会社が消滅会社となることが前提です。
また、種類株式は発行していないものとします。

日程 存続会社の手続 消滅会社の手続
吸収合併の計画立案

独占禁止法による制限の確認

合併契約承認取締役会

合併契約の締結

適時開示

保振機構への通知

臨時報告書の提出

株主総会招集のための取締役会

(有価証券届出書・有価証券通知書の提出)

吸収合併の計画立案

独占禁止法による制限の確認

合併契約承認取締役会

合併契約の締結

適時開示

保振機構への通知

臨時報告書の提出

6/10 株主総会招集通知発送
事前開示書類等備置開始 事前開示書類等備置開始
6/11 株主総会の日の2週間前の日
反対株主の合併に反対する旨の会社に対する通知
6/25 合併契約承認株主総会
臨時報告書の提出
債権者に対する公告・催告 債権者に対する公告・催告
債権者異議手続 債権者異議手続
株主に対する通知又は公告 株主に対する通知又は公告
反対株主の株式買取請求 反対株主の株式買取請求
登録株式質権者に対する通知又は公告
振替機構への通知(振替株式の場合のみ)
9/30 合併期日の前日 合併期日の前日
10/1 合併期日(効力発生日) 合併期日(効力発生日)
合併対価の交付
事後開示書類等備置開始
10/14 合併変更登記、消滅会社の解散登記

ここで紹介するのは一般的なケースであり、会社の状態や定款の定め、上場の有無などによって必要な手続きやスケジュールが変動します。
そのため、実際に略式吸収合併をしようとする際は、合併手続きにくわしい弁護士へご相談ください。

独占禁止法による制限の確認

独占禁止法(以下、「独禁法」といいます)の規定により、合併が一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合などには、合併できません(独禁法15条1項)。

また、一定規模以上の会社同士が合併する場合は、公正取引委員会への届出が必要です。
ただし、略式吸収合併の要件を満たす場合は同一企業結合集団内での合併に該当するため、届出は不要となります(同条2項ただし書)。

合併契約承認取締役会

合併契約を締結する前に、存続会社と消滅会社がそれぞれ取締役会で合併契約を承認します。

合併契約の締結

取締役会での承認を受け、存続会社と消滅会社との間で合併契約を締結します。
合併契約では、次の事項を定めなければなりません(会社法749条)。

  1. 存続会社と消滅会社それぞれの商号と住所
  2. 存続会社が吸収合併に際して消滅会社の株主に対してその株式に代えて交付する株式、社債、新株予約権などの数や額、算定方法など
  3. 2の割当てに関する事項
  4. 消滅会社が新株予約権を発行しているときは、その新株予約権に代えて交付する存続会社の新株予約権や金銭などの内容、数、算定方法など
  5. 4の割当てに関する事項
  6. 吸収合併の効力発生日

作成した合併契約書は登記申請でも必要となるほか、事前開示での開示書類の一つともなります。

適時開示等

上場会社である場合、吸収合併が決定したら直ちにその内容を開示しなければなりません(上場規程402条1項)。
併せて、所定の書類を証券取引所に提出することも必要です。
会社が株式等振替制度を活用している場合は、保振機構への通知も必要となります。

臨時報告書

上場会社など一定の会社である場合、取締役会で吸収合併が決定したら、遅滞なく臨時報告書を内閣総理大臣(財務局長等)に提出しなければなりません。
合併は、投資家による投資判断に大きな影響を及ぼし得るものであるためです。

有価証券届出書の提出等

次の要件にすべて当てはまる場合、内閣総理大臣(財務局長等)に対し、有価証券届出書を提出しなければなりません。
なお、届出の効果は原則として受理日から15日を経過した日に生じますが、一定の場合を除き、申出をすることで届出の翌日に効力が発生する取り扱いを受けられます。

  • その吸収合併で、消滅会社の株主等に存続会社の株式等が発行または交付される
  • 消滅会社による事前開示書類の備置きが、特定組織再編成発行手続または特定組織再編成交付手続に該当する
  • 消滅会社が開示会社である
  • 消滅会社の株主等に発行または交付される有価証券について、開示が行われていない
  • 発行価額または売出価格の総額が1億円以上である

また、これらに該当せず有価証券届出書の提出が不要な場合でも、発行価額または売出価格の総額が1,000万円超1億円未満であるなど一定の場合には、有価証券通知書の提出が必要となります。

事前開示

吸収合併をする前に、会社は一定の事項を記載した書面等を作成して本店に備え置かなければなりません(会社法782条1項、794条1項)。
備置き期間は、次のうちいずれか早い日から、合併の効力発生後6か月を経過する日までです(会社法782条2項、794条2項)。

  • 合併承認株主総会の2週間前
  • 反対株主の買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日
  • 新株予約権買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日
  • 債権者異議手続の公告または催告のいずれか早い日

事前開示すべき事項は、次のものなどです(会社法施行規則182条、191条)。

  1. 吸収合併契約の内容
  2. 合併対価の相当性に関する事項
  3. 合併対価について参考となるべき事項(消滅会社のみ)
  4. 吸収合併に係る新株予約権の定めの相当性に関する事項
  5. 計算書類等に関する事項
  6. 重要な後発事象等の内容(存続会社のみ)
  7. 吸収合併が効力を生ずる日以後における吸収合併存続会社の債務の履行の見込みに関する事項
  8. これらの事項に変更が生じたときは、変更後の事項

備置きの期間中は、会社の株主や債権者がこれらの事項を閲覧したり、謄本の交付を請求したりすることができます(会社法782条3項、794条3項)。
ただし、閲覧や謄本交付の請求ができるのは会社の営業時間中に限られるほか、謄本の交付などをする場合は会社が一定の手数料を徴収することが可能です。

合併契約承認株主総会

存続会社となる特別支配会社は、吸収合併の効力発生日の前日までに、株主総会特別決議の承認を受けなければなりません(同783条1項、795条1項)。
一方、略式吸収合併の場合は、消滅会社となる被支配会社では株主総会決議による承認が不要です(同784条1項、796条1項)。

債権者異議手続

吸収合併にあたって、会社の債権者は合併に対する異議を述べることができます(同789条1項1号、799条1項1号)。
債権者が異議を述べる機会を確保するため、予定している効力発生日前日の1か月前までに次の事項を公告し、かつ知れている債権者に対して個別に催告することが必要です(同789条2項、799条2項)。

  1. 吸収合併をする旨
  2. 相手方である会社の商号と住所
  3. 会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
  4. 債権者が一定期間内に異議を述べることができる旨

ただし、官報のほか、定款に定めた日刊新聞または電子公告で公告をした場合には公告だけでよく、債権者に対する個別の催告は不要となります(同789条3項、799条3項)。

なお、債権者が異議を申し立てることができる期間は1か月以上設ける必要があり、1か月が確保できない場合には、公告や催告から1か月を経過するまで合併の効力が生じません(同750条6項)。
そのため、スケジュールを設定する際は、特にこの公告や催告のタイミングに注意が必要です。

反対株主の株式買取請求

吸収合併に反対する株主は、会社に対して自己の有する株式を買い取るよう請求できます。
この株式買取請求をするには、原則として、株主総会に先立って吸収合併に反対であることを通知したうえで、株主総会で吸収合併に反対しなければなりません。

しかし、略式吸収合併では被支配会社で株主総会決議がされないことから、株主総会での反対などは不可能です。
そこで、消滅会社となる被支配会社の株主のすべてが、株主買取請求をすることができます(同785条2項2号かっこ書、797条2項2号かっこ書)。

ただし、存続会社となる特別支配会社は、株主買取請求をすることはできません。

なお、会社はこの株式買取請求の機会を確保するため、効力発生日の20日前までに株主に対して次の事項を通知する必要があります(同785条3項、797条3項)。

  • 吸収合併をする旨
  • 相手会社の商号と住所

ただし、特別支配会社である株主に対しては、通知をする必要はありません。

登録質権者への通知または公告

消滅会社は、効力発生日の20日前までに、登録株式質権者に対して吸収合併をする旨の通知または公告をしなければなりません(同783条5項)。

振替機関への通知等

消滅会社の株式が振替株式であり、かつ存続会社が吸収合併に際して振替株式を交付しようとするときは、消滅会社は効力発生日の2週間前までに振替機関に通知しなければなりません。
また、消滅会社の株式が振替株式である一方で、存続会社が振替株式ではない株式を交付する場合も同様です。

一方、消滅会社の株式が振替株式ではない一方で、存続会社が振替株式交付する場合は、消滅会社は次の2つの手続きをする必要があります。

  1. 効力発生日の1か月前までに、株主等に対して、振替株式を記録するための口座を通知すべき旨の通知をする
  2. 効力発生日後遅滞なく、必要な事項を通知する

効力発生日

吸収合併の効力発生日は、原則として合併契約であらかじめ定めた日です(同749条1項6号)。
消滅会社は効力発生日に解散し、消滅会社の有していた権利義務はすべて存続会社へと承継されます。
また、効力発生日、株主の異動の効果も生じます。

合併対価の交付

吸収合併の対価は、存続会社の株式とすることが一般的ですが、金銭などを交付することもあります。
合併対価などの金銭を交付する場合は、あらかじめ定めた期限までに対価を交付します。

なお、合併前において消滅会社が自己株式を有していることもあるものの、自己株式について対価の割当ては行いません。

事後開示

効力発生日後、存続会社は遅滞なく一定の事項を記載した書面を作成し、本店に備置かなければなりません(同801条1項、会社法施行規則200条)。
これを事後開示といいます。

事後開示すべき内容は、次のとおりです。

  1. 吸収合併の効力発生日
  2. 合併の差止請求手続の経過に関する事項
  3. 株式買取請求の経過に関する事項
  4. 新株予約権買取請求手続の経過に関する事項
  5. 債権者異議手続の経過に関する事項
  6. 吸収合併により存続会社が消滅会社から承継した重要な権利義務に関する事項
  7. 消滅会社の事前開示書類等(吸収合併契約の内容を除く)
  8. 変更の登記をした日
  9. その他、吸収合併に関する重要な事項

事後開示書類等の備置き期間は、効力発生日から6か月間です(同3項)。
なお、上場会社である場合は、事後開示書類の写しを証券取引所に提出しなければなりません(上場規程402条1項k)。

登記申請

吸収合併の効力発生日から2週間以内に、本店所在地において登記をしなければなりません(会社法921条)。
吸収合併では、次の登記の申請が必要です。

  • 存続会社:変更登記
  • 消滅会社:解散の登記

消滅会社の解散は、合併の登記をするまで第三者に対抗できないとされています。
そのため、できるだけ早期の登記申請をおすすめします(同750条2項)。

まとめ

略式吸収合併の概要を紹介するとともに、略式吸収合併で必要となる主な手続きとスケジュール設定のポイントを解説しました。

特別支配関係にある会社同士が合併する場合には、略式吸収合併が選択できます。
略式吸収合併では、被支配会社側の株主総会決議の省略が可能です。

しかし、それでも吸収合併をするためには通知や公告、書類の備置きなどさまざまな手続きをしなければなりません。
実際に略式吸収合併を行う際は、必要な手続きを漏らさないよう、組織再編の手続きにくわしい弁護士のサポートを受けるようにしてください。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

中巻 星栄

(第二東京弁護士会)

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