公開 2024.05.16BusinessTopics

簡易吸収合併の手続きの流れは?スケジュールの例を交えて弁護士がわかりやすく解説

会社法

一定の要件を満たす場合、吸収合併において「簡易吸収合併」を選択できます。

簡易吸収合併は、どのような点で「簡易」なのでしょうか?
また、簡易吸収合併では、どのような手続きが必要となるのでしょうか?

今回は、簡易吸収合併に必要な手続きやスケジュールの例について、弁護士がくわしく解説します。

目次
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簡易吸収合併とは

吸収合併とは、合併後に残る会社(「存続会社」といいます)が、合併によって消滅する会社(「消滅会社」といいます)の権利義務をすべて承継する形の合併です。

このうち、簡易吸収合併とは、存続会社側の株主総会を経ることなく行える吸収合併を指します。
存続会社での株主総会を省略できるのは、簡易吸収合併ができるケースでは、株主に及ぼす影響が軽微であるためです。
なお、消滅会社では、株主総会を省略することはできませんので、ご注意ください。

簡易吸収合併を選択するには、次の要件をすべて満たさなければなりません(会社法796条2項、795条2項)。

  1. 合併にあたって存続会社が消滅会社の株主に交付する株式などの合計額が、存続会社の純資産額の5分の1(定款で、これを下回る割合を定めた場合は、その割合)を超えないこと
  2. 次のいずれかに該当し、ないこと
    1. 存続会社に合併差損が生じる場合
    2. 存続会社が公開会社ではなく、かつ合併に際して消滅会社の株主に存続会社の譲渡制限株式を交付する場合

また、議決権の6分の1以上の株主(定款に特別な定めがない場合に限ります。)が「反対株主の反対株主の株式買取請求に係る通知または公告」から2週間以内に吸収合併に反対する旨の通知をしたとき、存続会社は吸収合併契約を承認する株主総会決議を経る必要が生じます(同796条3項)。
この株主総会決議による承認は、効力発生日の前日までに受けなければなりません。

簡易吸収合併の手続きとスケジュールの例

簡易吸収合併をするには、どのような手続きが必要となるのでしょうか?
ここでは、簡易吸収合併をする場合に存続会社側で一般的に必要となる手続きと、スケジュールの例を紹介します。

日程 手続
吸収合併の計画立案
基本合意・秘密保持契約の締結
デューデリジェンス
適時開示
保振機構への通知
臨時報告書の提出
合併契約承認取締役会
合併契約の締結
(有価証券届出書・有価証券通知書の提出)
9/1 債権者に対する通知又は公告
株主に対する通知又は公告
事前開示書類等備置開始
債権者異議手続
10/1 合併期日(効力発生日)
合併対価の交付
事後開示書類等備置開始
10/1以降 合併の登記申請(効力発生日から2週間以内)

なお、ここで紹介するのは、取締役会設置会社である株式会社同士が合併する場合における、一般的な手続きとスケジュールです。
会社の状況や定款の定め、上場の有無などによって、必要な手続きやスケジュールは変動します。

また、先ほど解説したように、一定の議決権を有する株主が合併に反対した場合は、存続会社でも例外的に株主総会が必要となります。
そのため、実際に簡易吸収合併を行う際は、合併など組織再編にくわしい弁護士のサポートを受けるようにしてください。

公正取引委員会への合併の届出等

ある分野でのシェアの高い企業が合併すると、合併後に存続会社の独り勝ちとなることで、公正な競争が制限されるおそれがあります。
そのため、独占禁止法(以下、「独禁法」といいます)の規定により、次の場合の合併は禁止されています(独禁法15条1項)。

  • その合併によって、一定の取引分野の競争を実質的に制限することとなる場合
  • その合併が、不公正な取引方法によるものである場合

また、「所定の方法で算出したその会社と会社が属する企業集団の国内売上高の合計額が200億円を超える会社」が、「国内売上高が50億円を超える他の会社」と合併する場合には、合併に関する計画を作成して公正取引委員会へ届け出なければなりません(同2項)。
ただし、同一の企業集団内の会社の合併である場合には、届出は不要です(同2項)。

この届出が必要である場合、届出の受理から30日を経過するまでは、合併をしてはなりません。
そのため、合併の効力発生日の30日前までには届出が受理されるよう、スケジュールを組む必要があります(同15条3項、同10条8項)。
なお、届出の提出前には、公正取引委員会に事前相談をすることが一般的です。

適時開示等

合併は、投資家の判断に大きな影響を及ぼす可能性があります。
そこで、存続会社が上場会社である場合は、合併を決定したら直ちにその内容を開示するとともに、証券会社に所定の書類を提出しなければなりません(上場規程402条1号k)。
また、会社が株式等振替制度を活用している場合は、保振機構への通知も必要となります。

臨時報告書

存続会社が上場会社など一定の会社である場合、合併を決定したら、その旨を記載した臨時報告書を遅滞なく内閣総理大臣(財務局長等)に提出しなければなりません。
臨時報告書とは、投資家保護などの目的から、合併など一定の事情が生じた際に提出すべき書類です。

合併契約承認取締役会の開催

吸収合併にあたっては、存続会社と消滅会社との間で合併契約を締結します。
この合併契約を締結するには、取締役会による承認が必要です。

合併契約の締結承認は重要な業務執行の決定であることから、定款などで個々の取締役に委任することはできないのが原則です(会社法362条4項)。

合併契約の締結

存続会社と消滅会社とで、合併契約を締結します。
吸収合併契約では、次の事項を定める必要があります(同749条)。

  1. 存続会社と消滅会社それぞれの商号と住所
  2. 存続会社が吸収合併に際して消滅会社の株主に対してその株式に代えて交付する株式、社債、新株予約権などの数や額、算定方法など
  3. 2の割当てに関する事項
  4. 消滅会社が新株予約権を発行しているときは、存続会社がその新株予約権に代えて交付する存続会社の新株予約権や金銭などの内容、数、算定方法など前号に規定する場合には、吸収合併消滅株式会社
  5. 4の割当てに関する事項
  6. 効力発生日

事前開示

吸収合併は、会社の株主や債権者に影響を与える可能性があります。
そこで、存続会社は次の事項を記載した書面等を作成し、本店に備え置かなければなりません(同794条1項)。

  1. 吸収合併契約の内容
  2. 合併対価の相当性に関する事項
  3. 吸収合併に係る新株予約権の定めの相当性に関する事項
  4. 計算書類等に関する事項
  5. 会社財産の状況に重要な影響を与える事象の内容
  6. 吸収合併が効力を生ずる日以後における吸収合併存続会社の債務の履行の見込みに関する事項
  7. これらの事項に変更が生じたときは、変更後の事項

これらは、次のうちいずれか早い日から合併の効力発生後6か月を経過する日まで備え置く必要があります(同2項)。

  • 合併承認株主総会の2週間前
  • 反対株主の買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日
  • 新株予約権買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日(消滅会社のみ)
  • 債権者異議手続の公告または催告のいずれか早い日

備置きの期間中、会社の株主や債権者は会社の営業時間中はいつでも次の事項を請求できます(同3項)。

  • 閲覧
  • 謄本や抄本の交付
  • 電磁的記録に記録の閲覧
  • 電磁的記録の内容を記載した書面の交付の請求

債権者異議手続

会社の債権者は、合併に対して異議を述べることができます(会社法789条1項、799条1項)。
そこで、異議を述べる機会を確保するため、効力発生日前日の1か月前までには次の事項を公告し、かつ知れている債権者に対して個別に催告しなければなりません(同789条2項、799条2項)。

  1. 吸収合併をする旨
  2. 相手方である会社の商号と住所
  3. 会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
  4. 債権者が一定期間内に異議を述べることができる旨

ただし、次のいずれかの方法で公告をした場合には、債権者に対する個別の催告は不要となります(同789条3項、799条3項)。

  • 官報
  • 定款で定めた日刊新聞または電子公告

債権者が意思を申し立てることができる期間は1か月以上設ける必要があり、公告や催告から1か月を経過するまで合併の効力が生じません(同750条6項)。
そのため、特にスケジュールに注意する必要があります。

反対株主の株式買取請求

吸収合併に反対する株主は、会社に対して自己の有する株式を公正な価格で買い取るよう請求できるのが原則です(同797条1項)。
ただし、簡易吸収合併である場合、存続会社の株主は株式買取請求をすることができません。

なお、一定以上の議決権を有する株主が合併に反対したことによって株主総会が必要となった場合には、存続会社の株主も株式買取請求が可能となります。

効力発生日

吸収合併の効力は、原則として、合併契約であらかじめ定めた日に生じます(同749条1項6号)。
消滅会社は効力発生日時点で解散し、消滅会社の有していた権利義務はすべて存続会社へと承継されます。
同時に、存続会社の株式を割り当てられた消滅会社の株主が存続会社の株主となるなど、株主の権利異動の効果も生じます。

なお、消滅会社と存続会社とが合意することで、効力発生日を変更できます(同790条1項)。
この場合は、それぞれ次の日までに変更後の効力発生日を公告しなければなりません(同2項)。

  • 原則:変更前の効力発生日の前日まで
  • 変更後の効力発生日が、変更前の効力発生日より前の日である場合:変更前の効力発生日の前日まで

合併対価の交付

吸収合併に際して消滅会社の株主に交付する対価は、存続会社の株式とすることが一般的です。

ただし、それ以外の株式や金銭、社債、新株予約権などとすることもできます。
また、存続会社の株式を配分したうえで、端数分を金銭などで調整することも可能です。
効力発生日後は、あらかじめ定めた期限までに合併対価の交付を行います。

なお、消滅会社が自己株式を有していることもありますが、この自己株式については対価の割当ては行いません。

登記申請

吸収合併の効力発生日から2週間以内に、本店所在地において登記を申請します(会社法921条)。
吸収合併の場合、次の登記をそれぞれ申請します。

  • 存続会社:変更登記
  • 消滅会社:解散の登記(存続会社の代表者が、代表して行う)

なお、消滅会社の解散は、合併登記をするまで第三者に対抗できません(同750条2項)。
そのため、吸収合併による登記は、効力発生後できるだけ速やかに行うことをおすすめします。

まとめ

簡易吸収合併の概要と、簡易吸収合併で必要となる存続会社側の手続き、スケジュール設定のポイントなどについて解説しました。

簡易吸収合併では通常の吸収合併とは異なり、原則として存続会社側での株主総会が不要となることが大きな特徴です。
また、存続会社の株主は、原則として株式買取請求もできません。
ただし、一定以上の議決権を有する株主が反対する旨を通知した場合には、例外的に株主総会が必要となるほか、株主買取請求権も復活します。

簡易吸収合併は通常の吸収合併より「簡易」であるとはいえ、それでも多くの手続きが必要です。
万が一必要な手続きが漏れてしまうと大きなトラブルとなるおそれがあるため、手続きの洗い出しやスケジュールの設定は慎重に行わなければなりません。

必要な手続きは、会社の状況や上場しているかどうか、定款の内容、合併契約の内容などによって変動します。
そのため、実際に簡易吸収合併を行おうとする際は、合併など組織変更手続きにくわしい弁護士のサポートを受けるようにしてください。

記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

水谷 友輔

(第二東京弁護士会)

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