公開 2024.05.16BusinessTopics

会社の吸収合併の手続きの流れは?概要とスケジュールを弁護士がわかりやすく解説

会社法

2社以上の会社が1つの会社となることを、合併といいます。
合併にはさまざまな種類がありますが、中でも1社が存続し、他の会社が消滅する形の合併が「吸収合併」です。

吸収合併をするには、どのような手続きが必要となるのでしょうか?
また、吸収合併のスケジュールは、どのような点に注意して組み立てればよいのでしょうか?

今回は、取締役会設置会社である株式会社同士が吸収合併をする場合の手続きとスケジュールについて、弁護士がくわしく解説します。

目次
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吸収合併とは

吸収合併とは、2社以上の会社が合併するにあたって、1社だけが存続し、他の会社が消滅する形態の組織再編です。
吸収合併の場合、消滅する会社(「消滅会社」といいます)の権利義務は、すべて合併後に存続する会社(「存続会社」といいます)に承継されます。

なお、合併の種類にはほかに、複数の会社が新たに会社を設立し、新たに設立した会社に権利義務を承継させる「新設合併」があります。

吸収合併の手続きの概要とスケジュール例

吸収合併をする場合、非常に多くの手続きが必要となります。
ここでは、取締役会設置会社である株式会社同士が吸収合併をすることを前提に、存続会社側で必要となる手続きとスケジュールの例を紹介します。

日程 手続
吸収合併の計画立案
基本合意・秘密保持契約の締結
デューデリジェンス
適時開示
保振機構への通知
臨時報告書の提出
合併契約承認取締役会
合併契約の締結
株主総会招集のための取締役会
(有価証券届出書・有価証券通知書の提出)
6/1 債権者への通知・公告
株主への通知・公告
事前開示書類等備置開始
6/10 株主総会招集通知発送
6/25 合併契約承認株主総会
7/2 合併の効力発生
事後開示書類備置開始
7/2以降 合併の登記申請(効力発生日から2週間以内)

なお、実際に必要となる手続きやスケジュールは、上場の有無や定款の定め、合併の条件などによって異なる可能性があります。
そのため、実際に吸収合併を進めようとする場合には、弁護士のサポートを受けて手続きの洗い出しやスケジュールの設定をすることをおすすめします。

公正取引委員会への合併の届出等

ある分野においてシェアの上位を占める企業同士が合併すると、市場が寡占状態となり、公正な競争が制限されるおそれがあります。
そのため、次の場合には合併をしてはなりません(独禁法15条1項)。

  • その合併によって一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる場合
  • その合併が不公正な取引方法によるものである場合

また、所定の方法によって算出したその会社と会社が属する企業集団の国内売上高の合計額が200億円を超える会社が、国内売上高が50億円を超える他の会社と合併しようとする場合には、合併に関する計画を作成し公正取引委員会へ届け出なければなりません(同2項)。
ただし、同一の企業集団内の会社の合併である場合には、例外的にこの届出は不要です(同2項)。

この届出が受理されてから30日を経過するまでは合併をしてはならないことから、合併の効力発生日の30日前までに届出が受理されるよう、計画的に行う必要があります(同15条3項、同10条8項)。
なお、通常はいきなり届出をするのではなく、合併を計画している時点から公正取引委員会に事前相談を行います。

ただし、事前相談はあくまでも届出に関する相談であり、その合併が独占禁止法に違反しないかどうか公正取引委員会に判断してもらえるわけではありません。
計画している合併が独占禁止法に違反しないかどうか事前に確認したい場合は、弁護士へご相談ください。

適時開示等

会社が上場会社である場合、合併することを決定したら、ただちにその内容を開示しなければなりません(有価証券上場規程402条1号k)。
なぜなら、合併は投資家の投資判断に大きな影響を及ぼす可能性があるためです。
これと併せて、所定の書類を証券会社に提出することも必要です。

また、会社が株式等振替制度を活用している場合は、原則として、吸収合併の決定後速やかに保振機構に通知しなければなりません。
ただし、一定の場合には通知が不要となるため、保振機構に確認するか弁護士へご相談ください。

臨時報告書の提出

臨時報告書とは、投資家を保護する目的で、一定の場合に提出すべき書類です。
上場会社など一定の会社が吸収合併をすることを取締役会で決定した場合、その旨を記載した臨時報告書を遅滞なく内閣総理大臣(財務局長等)に提出しなければなりません。

合併承認取締役会の開催

会社が吸収合併をする際は、合併する会社と合併契約を締結します。
この合併契約を締結する前に、契約内容を取締役会で承認するステップが必要です。

合併契約の締結は重要な業務執行の決定であることから、定款などで個々の取締役に委任することはできません(会社法362条4項)。

なお、合併しようとする会社が取締役会非設置会社である場合は、取締役の過半数で承認します。

合併契約の締結

吸収合併をする際は、存続会社と消滅会社との間で合併契約を締結します。
この契約では、次の事項を定めなければなりません(同749条)。

  1. 存続会社と消滅会社それぞれの商号と住所
  2. 存続会社が吸収合併に際して消滅会社の株主に対してその株式に代えて交付する株式、社債、新株予約権などの数や額、算定方法など
  3. 2の割当てに関する事項
  4. 消滅会社が新株予約権を発行しているときは、存続会社がその新株予約権に代えて交付する存続会社の新株予約権や金銭などの内容、数、算定方法など前号に規定する場合には、吸収合併消滅株式会社
  5. 4の割当てに関する事項
  6. 吸収合併の効力発生日

これらの事項は、書面にしなければ契約の効力が生じないわけではありません。
しかし、トラブル予防の観点から書面化することが望ましいうえ、合併の登記をする際にも契約書の添付が必要となることから、書面で契約を締結するのが一般的です。

有価証券届出書の提出等

吸収合併が以下のすべてに該当する場合には、内閣総理大臣(財務局長等)に対して有価証券届出書を提出しなければなりません。

  • 合併の対価として、消滅会社の株主に対して存続会社の有価証券(株式等)が発行または交付されること
  • 消滅会社が開示会社であること
  • 消滅会社の株主等に発行または交付される有価証券について、開示が行われていないこと
  • 消滅会社の株主等が50名以上であること
  • 発行価額または売出価格の総額が1億円以上であること

この届出は、消滅会社による事前開示書類の備置きより前に行う必要があります。
また、届出の効果は原則として内閣総理大臣(財務局長等)による受理日から15日を経過した日に生じますが、一定の場合を除き、申出をすることで届出の翌日に効力が発生する取り扱いを受けられます。

なお、有価証券届出書の提出が不要な場合であっても、発行価額または売出価格の総額が1,000万円超1億円未満であるなど一定の場合には、有価証券通知書の提出が必要です。
金商法上必要な手続きは状況によって異なりやや複雑であるため、あらかじめ弁護士へご相談ください。

事前開示

吸収合併にあたっては、会社は一定の事項を記載した書面等を作成し、本店に備え置かなければなりません(会社法782条1項、794条1項)。
これにより事前開示すべき事項は、次のものなどです(会社法施行規則182条、191条)。

  1. 吸収合併契約の内容
  2. 合併対価の相当性に関する事項
  3. (消滅会社のみ)合併対価について参考となるべき事項
  4. 吸収合併に係る新株予約権の定めの相当性に関する事項
  5. 計算書類等に関する事項
  6. (存続会社のみ)会社財産の状況に重要な影響を与える事象
  7. 吸収合併が効力を生ずる日以後における吸収合併存続会社の債務の履行の見込みに関する事項
  8. 1から7の事項に変更が生じたときは、変更後の事項

これらは、次のうちいずれか早い日から合併の効力発生後の6か月を経過する日まで、備え置く必要があります(会社法782条2項、794条2項)。

  • 合併承認株主総会の2週間前
  • 反対株主の買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日
  • 新株予約権買取請求に係る通知または公告のいずれか早い日(消滅会社のみ)
  • 債権者異議手続の公告または催告のいずれか早い日

備置きの期間中、会社の株主や債権者はこれらの事項を閲覧したり、謄本の交付を請求したりすることができます(同782条3項、794条3項)。
ただし、閲覧や謄本交付の請求ができるのは会社の営業時間中に限られ、謄本の交付の請求などには会社が手数料を定めて徴収することができます。

合併承認株主総会

吸収合併をするには、効力発生日の前日までに、株主総会の決議で吸収合併の承認を受けなければなりません(同783条1項、795条1項)。
このうち、存続会社では特別決議(出席株主の2/3以上の賛成による決議)によることが必要です(同309条2項12号)。
なお、消滅会社も原則として特別決議でよいものの、一定の場合は特殊決議(議決権を有する株主の半数以上かつ2/3以上の議決権の賛成による決議)や総株主による同意が必要となります(同309条3項2号、783条2項)。

存続会社の取締役は、株主総会において次の事項を説明しなければなりません(同795条2項、3項)。

  • 吸収合併で存続会社に合併差損が生じる場合:その旨
  • 存続会社が吸収合併によって、消滅会社が保有する自己株式を取得することとなる場合:取得する自己株式に関する事項

臨時報告書の提出

上場会社の場合、取締役会において吸収合併が決議されたら、臨時報告書を遅滞なく内閣総理大臣(財務局長等)に提出しなければなりません。ただし、合併によって会社の資産が10%以上増加することが見込まれず、かつ、売上高が3%以上増加することが見込まれない場合には、臨時報告書の提出は不要です。
この臨時報告書に記載すべき事項は、主に次のとおりです。

  1. 相手会社に関する事項(商号、事業内容、財務情報、株主情報等)
  2. 吸収合併の目的
  3. 吸収合併の方法
  4. 吸収合併にかかる割当内容の算定根拠
  5. 合併後の存続会社の商号、本店所在地、代表者、事業内容、財務情報等

債権者異議手続

合併によって、会社の債権者の権利が害される可能性があります。
そのため、会社の債権者は、合併に対して異議を述べることができます(会社法789条1項、799条1項)。

債権者が意思を申し立てることができる期間(「債権者異議申述期間」といいます)は1か月以上設ける必要があり、1か月が確保できない場合には、1か月を経過するまで合併の効力が生じません(同789条2項、799条2項)。
そのため、予定している効力発生日前日の1か月前までには、次の事項を公告し、かつ知れている債権者に対して個別に催告することが必要です(同789条2項、799条2項)。

  1. 吸収合併をする旨
  2. 相手方である会社の商号と住所
  3. 会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
  4. 債権者が一定期間内に異議を述べることができる旨

ただし、次のいずれかの方法で公告をした場合には、債権者に対する個別の催告は不要となります(同789条3項、799条3項)。

  • 官報
  • 定款に定めた日刊新聞または電子公告

債権者が期間内に異議を申し立てた場合において、合併によりその債権者を害するおそれがあるときは、その債権者に対して弁済や担保の提供、信託などの措置を講じなければなりません(同789条5項、799条5項)。
一方、期間内に異議が申述されなかった場合は、その債権者は合併を承認したものとみなされます(同789条4項、799条4項)。

反対株主の株式買取請求

吸収合併に反対する株主は、会社に対して、自己の有する株式を公正な価格で買い取るよう請求できます(同797条1項)。
この株式買取請求をするには、次の2つの要件を満たさなければなりません(同2項)。

  1. 原則として、株主総会に先立って吸収合併に反対する旨を会社に対して通知したこと
  2. 株主総会で、吸収合併に反対したこと

株式買取請求は、効力発生日の20日前から効力発生日の前日までに行う必要があります(同5項)。

この株式買取請求の機会を確保するため、会社は効力発生の20日前までに、株主に対して次の事項を通知しなければなりません(同3項)。

  1. 吸収合併をする旨
  2. 相手会社の商号と住所

なお、会社が公開会社である場合と、株主総会決議で合併契約の承認を受けた場合には、通知に代えて公告をすることができます(同4項)。

株式買取請求がされた場合、会社は効力発生日から60日以内に対価の支払いをしなければなりません(同798条1項)。
株式の買取価格は原則として、会社とその株主との協議によって決定します。

しかし、価格の協議がまとまらないこともあるでしょう。
効力発生日から30日以内にこの協議が調わない場合、株主または会社は、期間の満了日から30日以内に裁判所に対して価格の決定の申立てをすることができます(同2項)。

期間内(効力発生日から60日以内)に価格決定の申立てがされない場合は、その期間の満了後、株主はいつでも買取請求を撤回できます(同3項)。

なお、裁判において買取価格が決定された場合、会社は本来の支払日(効力発生日から60日後)以降の利息を支払わなければなりません(同4項)。
ただし、会社が公正であると考える価格を株主に対して支払った場合、その支払日以降の利息の支払いを免れることが可能です(同5項)。

効力発生日

吸収合併の効力発生日は、原則として、合併契約であらかじめ定めた日です(同749条1項6号)。
効力発生日時点で消滅会社は解散し、消滅会社の有していた権利義務はすべて存続会社へと承継されます。
同時に、株主の権利の異動の効果も生じます。

なお、消滅会社が許認可を有していた場合、存続会社において許可を承継するためには、何らかの手続きが必要となることが一般的です。
そのため、消滅会社が業務に必要な許認可を有していた場合には、許認可を引き継ぐ手続きについてもあらかじめ確認しておいてください。

合併対価の交付

吸収合併の対価は存続会社の株式とすることが多いものの、それ以外の株式や金銭、社債、新株予約権などとすることもできます。
効力発生日後、あらかじめ定めた期限までに合併対価の交付を行います。

なお、合併前において消滅会社が自己株式を有していることもありますが、この自己株式については対価の割当ては行いません。

事後開示

効力発生日後は、遅滞なく存続会社が次の事項を記載した書面等を作成し、本店に備え置かなければなりません(同801条1項、会社法施行規則200条)。

  1. 吸収合併の効力発生日
  2. 合併の差止請求手続の経過に関する事項
  3. 株式買取請求の経過に関する事項
  4. 新株予約権買取請求手続の経過に関する事項
  5. 債権者異議手続の経過に関する事項
  6. 吸収合併により存続会社が消滅会社から承継した重要な権利義務に関する事項
  7. 消滅会社の事前開示書類等(吸収合併契約の内容を除く)
  8. 変更の登記をした日
  9. その他、吸収合併に関する重要な事項

これらの書面等の備置き期間は、効力発生日から6か月間です(同3項)。
なお、上場会社の場合は、この事後開示書類の写しを証券取引所に提出することも必要です(上場規程402条1号k)。

登記申請

吸収合併をした場合、効力発生日から2週間以内に、本店所在地において登記をしなければなりません(会社法921条)。
吸収合併の場合、次の登記を同時に申請します。

  1. 存続会社:変更登記
  2. 消滅会社:解散の登記

なお、消滅会社の解散は、合併の登記をするまで第三者に対抗できないとされています(同750条2項)。
そのため、吸収合併による登記は2週間の期限を待たず、できるだけ早期に行うことをおすすめします。

まとめ

吸収合併において、存続会社側で必要となる主な手続きとスケジュールを設定するポイントを解説しました。

吸収合併は、会社の株主や債権者などに多大な影響を及ぼします。
そのため、存続会社と消滅会社それぞれで、多くの通知や公告、書類の開示などが必要となります。
必要な手続きが漏れてしまうと大きなトラブルとなる可能性があるため、スケジュールは慎重に設定してください。

また、今回紹介したのは吸収合併における一般的な手続きです。
会社の状況などによって必要な手続きやスケジュールのポイントが異なる可能性があるため、吸収合併の手続きを実際に進める際は、弁護士のサポートを受けるようにしてください。

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