株式会社を組織変更する際は、総株主の同意や公告など非常に多くの手続きを経なければなりません。
では、株式会社の組織変更には、どのような手続きが必要なのでしょうか?
また、組織変更のスケジュールは、どのように設定すればよいのでしょうか?
今回は、株式会社から持分会社へと組織変更をすることを前提に、必要となる手続きやスケジュールを解説します。
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株式会社の組織変更とは
組織変更とは、会社が同一性を維持しつつも、他の種類の組織へと変更することです。
たとえば、「株式会社A」がその法人格の同一性を維持しつつ「合同会社A」に変更することや、これとは反対に「合同会社A」から「株式会社A」へと変更する場合などがこれに該当します。
組織変更をする理由はさまざまですが、合同会社が資金調達の幅を広げたり上場の準備をしたりするために株式会社へと組織変更をするケースなどが想定されます。
反対に、株式会社が意思決定を簡素化したり利益配分を柔軟にしたりするために、合同会社などの持分会社へ組織変更することもあります。
なお、有限会社は2006年の会社法施行により廃止されており、2024年現在では新たに設立することはできません。
既存の株式会社を、有限会社に変えることも不可能です。
一方、既存の有限会社は有限会社のままで存続することができるほか、株式会社となることもできます。
既存の有限会社を株式会社に変えるには、定款を変更して商号を変えるだけでよく、この記事で焦点を当てている組織変更手続きは必要ありません。
ちなみに、組織変更と似た用語に「組織再編」があります。
組織再編とは、会社の合併や分割、株式交換など、法人格の変更を伴う組織改編です。
組織変更と組織再編は異なるものであるため、混同しないようご注意ください。
株式会社の組織変更スケジュール例
組織変更をするには、どのような手続きが必要となるのでしょうか?
ここでは、株式会社が合同会社や合名会社などの持分会社へと組織変更をすることを前提に、必要な手続きとスケジュールの例を紹介します。
なお、会社は上場しておらず、取締役会設置会社である前提です。
日程 | 手続 |
---|---|
組織変更計画立案 | |
5/18 | 組織変更計画決定取締役会 |
5/25 | 事前開示書類備置開始 |
同日 | 総株主の同意(効力発生日の前日まで)
株券・新株予約権証券提出の公告・通知 株券・新株予約権証券提出手続(効力発生日まで) |
同日 | 債権者に対する公告・催告
債権者異議手続(効力発生日の前日まで) |
6/1 | 新株予約権買取請求の通知又は公告
新株予約権買取請求(効力発生日の前日まで) |
同日 | 登録株式質権者・登録新株予約権質権者に対する通知又は公告 |
6/30 | 効力発生日の前日 |
7/1 | 組織変更効力発生日 |
7/3 | 株式会社の解散登記、持分会社の設立登記 |
7/30 | (新株予約権買取価格の協議が調わないとき) |
8/1 | 新株予約権買取価格の決定の申立て |
9/29 | 新株予約権の買取りについて協議が調ったときの代金支払期限 |
同日 | 新株予約権買取価格決定の申立期間の満了 |
なお、実際のスケジュールは、状況や定款の内容などによって異なる可能性があります。
ここで紹介するのはあくまでも一般的なケースであるため、実際に組織変更をしようとする際は組織変更手続きにくわしい弁護士へご相談ください。
取締役会を開催する
株式会社が組織変更をする場合には、取締役会において組織変更計画を立案しなければなりません(会社法743条)。
この組織変更計画で定めるべき事項は、次のとおりです(同744条)。
- 組織変更後の持分会社(以下「組織変更後持分会社」といいます)の種類(合名会社、合資会社、合同会社のうち、どの会社形態とするか)
- 組織変更後持分会社の目的、商号、本店の所在地
- 組織変更後持分会社の社員(株式会社でいうところの、株主)についての次の事項
- 1. 社員の氏名または名称と、住所
- 2. その社員が無限責任社員または有限責任社員のいずれであるかの別
- 3. 各社員の出資の価額
- その他、組織変更後持分会社の定款で定める事項
- 組織変更後持分会社が組織変更に際して、組織変更をする株式会社の株主に対してその株式に代わる金銭等を交付するときは、その金銭等についての次の事項
- 1. 金銭等が組織変更後持分会社の社債であるときはその社債の種類と、種類ごとの各社債の金額の合計額または算定方法
- 2. 金銭等が組織変更後持分会社の社債以外の財産であるときは、その財産の内容と数、もしくは額または算定方法
- 金銭等を交付する場合には、組織変更をする株式会社の株主(組織変更をする株式会社を除く)に対するその金銭等の割当てに関する事項
- 組織変更をする株式会社が新株予約権を発行しているときは、次の事項
- 1. 新株予約権の新株予約権者に対して交付する、新株予約権に代わる金銭の額またはその算定方法
- 2. 組織変更をする株式会社の新株予約権の新株予約権者に対する金銭の割当てに関する事項
- 組織変更の効力発生日
なお、社員を無限責任社員とするか有限責任社員とするかは、組織変更後の会社形態によってそれぞれ次のとおりです。
- 合同会社:全員が有限責任社員
- 合名会社:全員が無限責任社員
- 合資会社:有限責任社員と無限責任社員が混在
事前開示書類を作成し備え置く
組織変更にあたっては、一定の事項を記載した書面等を作成し、本店に備え置かなければなりません(同775条1項)。
これを、事前開示書類といいます。
事前開示書類に記載すべき事項は、次のとおりです(同775条1項、会社法施行規則180条)。
- 組織変更計画の内容
- 新株予約権を発行しているときは、新株予約権者に交付する金銭等の相当性に関する事項
- 組織変更をする株式会社に最終事業年度がないときは、その株式会社の成立の日における貸借対照表
- 組織変更後持分会社の債務の履行の見込みに関する事項
- 2から4の内容に変更が生じたときは、変更後の内容
事前開示書類は、次のうちいずれか早い日から、組織変更の効力発生日まで備え置かなければなりません(同775条2項)。
- 組織変更計画について、組織変更をする株式会社の総株主の同意を得た日
- 組織変更をする株式会社が新株予約権を発行しているときは、新株予約権買取請求に係る通知または公告日のいずれか早い日
- 債権者異議手続の催告または公告日のいずれか早い日
備え置き期間中は、会社の株主と債権者は会社の営業時間中に限り、これらの書類を閲覧したり謄本の交付を請求したりできます(同3項)。
なお、謄本の交付などにあたっては、会社は必要な費用の請求が可能です。
総株主の同意を得る
株式会社が組織変更をする場合、効力発生日の前日までに、組織変更計画について総株主の同意を得なければなりません(同776条)。
株主が分散している場合には、このステップが最大のハードルとなるでしょう。
株主の同意が得られずお困りの際は、弁護士へご相談ください。
株券等の提出手続きをとる
株式会社が株券を発行している場合は、株主から株券の提出を受ける必要があります。
そこで、株券の提出が必要となる旨を、効力発生日の1か月前までに公告するとともに、株主と登録株式質権者に対して通知しなければなりません(同219条1項5号)。
同様に、株式会社が新株予約権証券を発行している場合も、新株予約権者から証券の提出を受ける必要があります。
そのため、新株予約権の提出が必要となる旨を、効力発生日の1か月前までに公告するとともに、新株予約権者と登録新株予約権質権者に対して通知しなければなりません(同293条1項2号)。
債権者異議手続をとる
債権者異議手続とは、会社の債権者が組織変更に対して異議を述べる機会を設けるための手続きです。
組織変更をする会社の債権者は、組織変更について異議を述べることが可能です(同779条1項)。
組織変更をする場合、債権者が異議を申し立てられる期間を1か月以上確保しなければならず、公告や催告から1か月が経過しないと組織変更の効力を生じさせることができません(同745条6項)。
そのため、遅くとも効力発生日の1か月前までには、次の事項に関する公告と知れている債権者への催告が必要です。
- 組織変更をする旨
- 株式会社の計算書類に関する事項として法務省令で定めるもの
- 債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨
ただし、次のいずれかの公告をした場合には公告だけで足り、知れている債権者がいる場合であっても個別の催告は不要となります(同779条3項)。
- 官報への公告
- 定款に定めた公告方法(日刊新聞への掲載または電子公告)
債権者が期間内に異議を申し入れた場合、組織再編によってその債権者の害するおそれがあるときは、会社はその債権者に対して弁済や担保の提供、信託などの対応をしなければなりません(同5条)。
一方、期間内に債権者が異議を述べなかったときは、その債権者は組織再編を承認したものとみなします(同4条)。
新株予約権買取請求に対応する
株式会社の新株予約権は、組織変更の効力発生日に消滅します(同745条5項)。
合同会社や合名会社などの持分会社は、新株予約権を発行できないためです。
そのため、先ほど解説したように、組織変更計画では新株予約権に代わる金銭の交付について定めなければなりません。
これに不満のある新株予約権者は、新株予約権を公正な価格で買い取るよう会社に対して請求できます(同777条1項)。
この請求(「新株予約権買取請求」といいます)は、効力発生日の20日前から効力発生日の前日までに、買い取ってほしい新株予約権の内容と数を明らかにして行います(同5項)。
新株予約権買取請求の機会を確保するため、会社は効力発生日の20日前までに、すべての新株予約権者に対して組織変更の通知または公告をしなければなりません(同3項、4項)。
新株予約権者から新株予約権買取請求がなされた場合、買取価格は会社とその新株予約権者との協議で定めることが原則です。
協議がまとまった場合、会社はその新株予約権者に対して、効力発生日から60日以内に対価を支払わなければなりません(同778条1項)。
しかし、買取価格について協議がまとまらないこともあるでしょう。
効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、会社または新株予約権者は、その期間の満了日から30日以内に限り、裁判所に対して価格の決定の申立てをすることができます(同2項)。
一方、価格の協議がまとまっていないにもかかわらず、この期間内(効力発生日から60日以内)に裁判所への申立てがされない場合は、新株予約権者はこの期間の満了後、いつでも新株予約権買取請求を撤回できます(同3項)。
なお、裁判所が価格を決定した場合、会社は期間満了日後の法定利率による利息も支払わなければなりません(同4項)。
利息の支払いを避けるため、会社は新株予約権の価格の決定がなされる前に、新株予約権者に対して会社が公正であると考える額を支払うことができます(同5項)。
登録質権者等に通知または公告をする
会社は、組織変更の効力発生日の20日前までに、登録株式質権者と登録新株予約権者に対して、組織変更をする旨の通知をしなければなりません(同776条2項)。
この通知は、公告に変えることも可能です(同3項)。
組織変更の効力が発生する
会社が組織変更計画によってあらかじめ定めた日に、組織変更の効力が発生します(同744条1項9号)。
この日をもって株式会社は持分会社となり、株主はその持分会社の社員となります。
ただし、会社は当初定めた効力発生日を変更できます(同780条1項)。
効力発生日を変更した場合、会社は変更後の効力発生日を公告しなければなりません(同2項)。
効力発生日変更の公告期限は、それぞれ次のとおりです。
- 原則:変更前の効力発生日の前日まで
- 変更後の効力発生日が、変更前の効力発生日より前である場合:変更後の効力発生日の前日まで
登記をする
会社が組織変更をした場合、効力発生日から2週間以内に本店所在地において登記をしなければなりません(同920条)。
組織変更の場合は、次の2つの登記を同時に申請することとなります(商業登記法78条1項)。
- 株式会社の解散登記
- 持分会社の設立登記
ただし、登記が遅れてしまうと効力発生日から登記申請日までの間に登記を確認した者が組織形態を誤認してトラブルとなるおそれがあります。
そのため、2週間を待たず、効力発生後すみやかに登記申請ができるよう準備しておくことをおすすめします。
まとめ
株式会社から持分会社(合同会社や合名会社など)への組織変更で必要となる一般的な手続きとスケジュールについて解説しました。
組織変更をする際は総株主による同意を得る必要があるほか、新株予約権者や債権者の権利を保護するため、さまざまな通知や公告が必要となります。
組織変更は特に株主や債権者、新株予約権者などに与える影響が大きいことから、必要な手続きを漏らさないよう、十分注意して進めなければなりません。
必要な手続きを洗い出して適切なスケジュールを設定するため、組織変更をしようとする際は、組織変更にくわしい弁護士のサポートを受けるようにしてください。
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