公開 2024.05.10 更新 2024.05.14BusinessTopics

新株予約権が行使された際の会社側の手続きは?弁護士が流れとスケジュールを解説

会社法

新株予約権者が新株予約権を行使すると、会社の株式を取得することになります。

新株予約権を行使されたら、会社はどのような手続きが必要となるのでしょうか?
また、手続きのスケジュールは、どのような点に注意して設定すればよいのでしょうか?

今回は、新株予約権が行使された際に会社が行うべき手続きを解説するとともに、スケジュールの例を紹介します。

目次
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新株予約権とは

新株予約権とは、あらかじめ定められた条件でその会社の株式を取得できる権利です。

たとえば、1株500円で株式を取得できる内容の新株予約権を有している人(「新株予約権者」といいます)は、たとえその会社の1株あたりの株価が行使時点で1,500円に値上がりしていても、1株あたり500円を払い込むことで株式を取得できます。
この場合、新株予約権者は新株予約権を行使して取得した株式をすぐに市場で売却することで、1株あたり1,000円(=1,500円-500円)の利益を得ることができます。

もちろん、すぐに株式を売却せず長期的に保有することで、配当金の受領やさらなる値上がりによる売却益の獲得を目指すこともできます。

会社が新株予約権を活用する主な場面

会社は、どのような目的で新株予約権を発行するのでしょうか?
ここでは、会社が新株予約権を発行する主な場面を3つ紹介します。

なお、新株予約権は発行時にさまざまな設計ができますが、活用する目的によって適切な設計が異なります。
目的に合った適切な設計を行うため、実際に新株予約権を発行しようとする際は、機関法務にくわしい弁護士のサポートを受けるようにしてください。

役員や従業員のインセンティブとして

新株予約権は、役員や従業員へのインセンティブとして活用されることが少なくありません。
このような目的で用いられる新株予約権を、特に「ストックオプション」といいます。

ストックオプションとして新株予約権を発行する場合、発行時は対象である役員や従業員から対価を受け取らず、無償で付与することが多いでしょう。
新株予約権を有する役員や従業員は、会社の株価が高くなったタイミングで新株予約権を行使することで、市場価格と行使価格との差額分について金銭的なメリットを享受できます。

そのため、自社の役員や従業員に対して新株予約権を付与することで、会社の業績向上により貢献してもらえる効果を期待できます。

資金調達方法として

新株予約権は、資金調達の手段として活用されることがあります。
たとえば、会社が個人投資家や投資ファンドから資金の提供を受ける際に、その対価として新株予約権を付与することが考えられます。

新株予約権は、行使することで株式を取得できる権利であり、融資ではありません。
そのため、新株予約権を活用することで、返済資金を考慮することなく、効率的に資金を調達できます。

また、投資家も将来その会社が成長することで利益を得られるため、メリットが大きいといえます。

買収防衛策として

新株予約権は、買収防衛策として活用されることがあります。

新株予約権は、さまざまな設計が可能です。
そこで、たとえば買収者など一定の者だけは権利を行使できない内容の新株予約権を設計し、これをあらかじめ既存株主に交付することなどが考えられます。

敵対的な買収が仕掛けられた際に他の株主が新株予約権を行使することで、敵対的買収者の持株比率が相対的に低下し、買収が困難となります。
このような買収防衛策を、「ポイズンピル(毒薬条項)」や「ライツプラン」などといいます。

新株予約権の行使を受けた場合の会社側の手続きとスケジュール例

新株予約権者が新株予約権を行使した場合、会社はどのような手続きをする必要があるのでしょうか?
ここでは、会社側に必要となる主な手続きと、スケジュールの例を紹介します。

日程 手続
10/19 有価証券上場申請書等の提出
11/15~ 新株予約権の行使期間開始日
新株予約権の行使・払込み
12/5 証券取引所への通知
12/11 変更の登記

実際に新株予約権が行使されて手続きでお困りの際は、弁護士へご相談ください。

有価証券上場申請書の提出

上場会社が新株予約権の行使を受けると、原則としてその分だけ市場に流通する株式数が増えることになります。
そこで、新株予約権を発行した会社は、証券会社に対してあらかじめ「有価証券上場申請書」を提出しなければなりません(上場規程301条)。

これにより、新株予約権の行使によって発行することになる株券等の数について、一括して上場申請を行います(上場規程施行規則302条1項)。

新株予約権の行使と払込

新株予約権者は、所定の行使期間内に新株予約権を行使できます。

なお、新株予約権者は行使する「権利」があるだけであり、行使する「義務」はありません。
なぜなら、たとえば1株500円で株式を取得できる内容の新株予約権を有している場合、その時点における会社の株価が1株400円であれば、新株予約権を行使するのではなく、通常どおり市場で株式を取得したほうが得策であるためです。

新株予約権の行使手続き

新株予約権の行使は、新株予約権者が会社に対して次の事項を明らかにして行います(会社法280条1項)。

  • 行使する新株予約権の内容と数
  • 新株予約権を行使する日

また、会社が新株予約権証券を発行している場合は、行使にあたってその新株予約権証券を会社に提出する必要があります(同2項)。
なお、会社は自社の新株予約権を自己新株予約権として取得することができますが、この自己新株予約権は行使できません(同6項)。

新株予約権の行使にともなう払込

新株予約権の行使にあたっては、新株予約権の内容としてあらかじめ定められた金銭を全額払い込むことが必要です(同281条1項)。
支払いは、指定口座への振り込みなど、会社が定めた方法によって行います。

また、例外的なケースですが、金銭ではなく現物財産を出資の目的とする場合もあります。
この場合においては、新株予約権を行使する日に、その財産を会社に対して給付しなければなりません(同2項)。
給付する財産の額に不足がある場合は、その不足分を金銭で支払います。

なお、新株予約権者が会社に対して貸し付けをしているなど、債権を有している場合もあるでしょう。
この場合であっても、債権との相殺によって新株予約権の行使にあたっての払い込みはできません(同3項)。

新株予約権者が株主となる時期

新株予約権を行使した新株予約権者は、原則として新株予約権を行使した日に株主となります(同282条1項)。
ただし、新株予約権の行使に係る払い込みなどを仮装(いわゆる「見せ金」による支払いなど)した者は、仮装された金銭の全額を支払ってからでなければ、その新株予約権の目的である株式について権利を行使できません(同2項)。

1株未満の端数が生じる場合

新株予約権の行使によって交付する株式の数に、1株に満たない端数が生じる場合があります。
この場合には、会社がその新株予約権者に対して、その端数に次の額を乗じて得た額相当の金銭を交付しなければなりません(同283条)。

  1. 株式が市場価格のある株式である場合:その株式1株の市場価格として、法務省令で定める方法により算定される額
  2. 1以外の場合:1株あたりの純資産額

ただし、新株予約権の内容として、1株未満の端数を切り捨てる旨の定めをした場合には、これに従って端数を切り捨てることができます。

証券取引所への通知

新株予約権が行使される場合は、証券会社に上場株式数報告書の提出や新株予約権の行使通知をしなければなりません(上場規程421条、上場規程施行規則421条1項)。
上場会社である場合、提出や通知の期限はそれぞれ次のとおりです。

  • 上場株式数報告書:翌月初まで
  • 新株予約権の行使通知:それぞれ次のとおり
    • 上場額面総額のすべてについて新株予約権の行使が行われた場合:直ちに
    • 上場している新株予約権証券の数が1,000単位未満となった場合と、1単位未満となった場合:その都度直ちに

変更登記

会社の発行済株式総数や新株予約権の数は、登記事項です。
新株予約権が行使されると、これらの数に変更が生じます。
そのため、新株予約権が行使されたら、変更登記をしなければなりません(会社法915条3項1号、911条3項9号)。

とはいえ、新株予約権者が権利を行使するタイミングは同時でないことも多く、その都度変更登記を申請すれば多大な労力とコストがかかります。
そこで、新株予約権の行使による変更である場合は、毎月末日時点における事項を、末日から2週間以内にすれば足りることとされています。

行使期間中は毎月のように変更登記が必要となる可能性があるため、手続きを失念しないようご注意ください。

まとめ

新株予約権の行使について、会社側に必要となる手続きやスケジュールを解説しました。

新株予約権の行使は会社側の承認などを要するものではなく、会社から株主や新株予約権者などに対して行う手続きはほとんどありません。
一方で、新株予約権の行使によって上場株式数などに変更が生じることから、上場規程に基づく届出や通知などが必要となります。
また、変更登記をすべき時期が他の変更登記の期限とは異なるため、誤らないよう注意してください。

新株予約権には、役職員へのインセンティブや資金調達手段、買収防衛策など、さまざまな活用方法があります。
新株予約権を発行する目的によって適切な制度設計が異なるため、新株予約権を発行する際は弁護士のサポートを受けるとよいでしょう。
発行の段階から弁護士の支援を受けることで、行使期間中に生じた困りごとについても相談したり対応を依頼したりしやすくなります。

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記事監修者

Authense法律事務所
弁護士

松井 華恵

(第二東京弁護士会)

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