所有者がわからなくなった「所有者不明土地」の問題が取り沙汰されていますが、所在不明者に関していえば、株主の所在不明も大きな問題です。
所在不明株主の所有する株式を売却したり競売にかけたりするには、どのような手続きを踏めばよいのでしょうか?
また、手続きはどのようなスケジュールで進めればよいのでしょうか?
今回は、所在不明株主の株式の競売等の概要とスケジュールについて弁護士が詳しく解説します。
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所在不明株主とは
在不明株主が有する株式は、競売や売却が可能です。
所在不明であり決議に参加しない株主がいると、会社にとって不利益であるほか、配当を支払おうにも受領されないなど会社にとって事務負担が増えてしまいかねません。
では、所在不明株主とは、どのような状態の株主を指すのでしょうか?
会社法では、次のいずれにも該当する株主について、競売等をすることができると定義しています(会社法197条、196条1項、294条2項)。
- 次のいずれかに該当する場合
- 株主に対してする通知または催告が5年以上継続して到達しない場合
- 会社が取得条項付新株予約権の取得を引き換えに新株予約権者に対して株式を交付する場合において、無記名式新株予約権証券が提出されない場合
- その株式の株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかった場合
ただし、登録質権者がいる場合において、その登録質権者に通知が到達していたりその登録質権者が配当を受領したりしていた場合には、たとえ株主本人に通知等が到達しなかったとしても株式の競売等をすることはできません(同197条5項)。
所在不明株主の株式の競売等の概要
所在不明株主の株式の競売等はどのような目的で行い、手続きを進めるにはどのような要件を満たす必要があるのでしょうか?
ここでは、所在不明株主の株式の競売等の目的と要件について解説します。
目的
所在不明株主の株式の競売等の目的は、所在不明株主を整理し、会社の決議や事務処理を円滑化することです。
所在不明株主は、株主総会に参加せず、議決権を行使することがありません。
しかし、株主である以上は議決権の母数には含まれます。
たとえば、株主総会の普通決議の要件は原則として、行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数が賛同することです。
また、特別決議の要件は、行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上による多数が賛同することです。
いずれも、「行使できる議決権の過半数を有する株主が出席」が要件であり、出席する見込みのない所在不明株主が増えると、株主総会の正常な運営が難しくなるおそれがあります。
また、たとえ不達となる見込みが高いとわかっていても、株主である以上は通知の送付先から除外することも困難です。
さらに、受領される見込みが薄い場合でも、配当も交付しなければなりません。
そこで、所在不明株主の株式の競売等をして所在不明者を株主から排除することで株主総会の運営がスムーズとなるほか、事務手続きのコストや労力を引き下げることが可能となります。
要件
所在不明株主の株式の競売等をするには、その株主が先ほど解説した所在不明株主に該当しなければなりません。
このうち、「2」として挙げた「その株式の株主が継続して5年間剰余金の配当を受領しなかった場合」は、たとえ会社がその5年間配当をしていなかった場合であっても、満たすことが可能です。
一方、「1」として挙げた「株主に対してする通知または催告が5年以上継続して到達しない場合」は、実際に株主に通知などを送付して不達となった記録などが必要となります。
株主総会は少なくとも年に1回は開催する必要があるものの、非上場会社などの中には株主総会を開催していない会社もあるでしょう。
また、会社の独断によって、一度不達となった時点で所在不明株主への通知をやめてしまうこともあると思います。
このような場合には、「株主に対してする通知または催告が5年以上継続して到達しない場合」の要件を満たすことができません。
その場合、その後5年間に渡って通知を送ってから所在不明株主の株式の競売等を行うほか、その他の方法による買取を検討することとなります。
所在不明株主を株主から除外したいとお考えの際は、機関法務に強みを持つ弁護士へお早めにご相談ください。
所在不明株主の株式の競売等のスケジュール
所在不明株主の株式の競売等は、どのような手順で進めればよいのでしょうか?
ここでは、公開会社であり取締役設置会社であることを前提に、所在不明株主の株式の競売等を行うスケジュールを紹介します。
日程 | 手続 |
---|---|
8/1 | 株主の競売又は売却に関する取締役会決議 |
8/2 | 公告並びに株主及び登録株式質権者に対する催告 |
8/3 | 保振機構に対する公告事項等の通知 |
8/30 | 保振機構に対する所在不明株主の株主等コード等の通知 |
11/5 | 保振機構に対する情報提供請求に係る事前連絡 |
11/7 | 保振機構に対する情報提供請求 株式の競売又は売却 |
なお、実際のスケジュールは会社の状況によって変動することがあります。
実際に所在不明株主の株式の競売等を行う際は、弁護士へご相談ください。
競売等の要件を満たしているか確認する
はじめに、所在不明株主の株式の競売等の要件を満たしているかどうかを確認します。
特に、これまで株主総会を開催せず株主に通知を送っていなかった場合には、その時点では要件を満たせない可能性があります。
要件を満たしているかどうか判断に迷う場合や、その他に何かよい方策がないか知りたい場合などには、機関法務に詳しい弁護士へご相談ください。
取締役会決議をする
所在不明株主の株式の競売等の要件を満たすことが確認できたら、取締役会を開催して決議をします。
公告と株主等への催告をする
所在不明株主の株式の競売等をする際は、会社はその所在不明株主と登録株式質権者に対して一定の事項を催告するとともに、異議を述べられる旨の公告をしなければなりません。
催告や公告をすべき事項は、次のとおりです(同198条1項、会社法施行規則39条)。
- 株式の株主その他の利害関係人が3か月以内に異議を述べることができる旨
- 競売対象株式の競売または売却をする旨
- 競売対象株式の株主として株主名簿に記載又は記録がされた者の氏名又は名称及び住所
- 競売対象株式の数(種類株式発行会社にあっては、競売対象株式の種類及び種類ごとの数)
- 競売対象株式につき株券が発行されているときは、その株券の番号
なお、この催告は省略することができません(会社用198条4項、196条1項)。
異議の申し立てができる期間(3か月間)のうちに異議がなかった場合は、その時点で競売対象株式に係る株券は無効となり、株式を競売または売却することが可能となります(同198条5項)。
(公開会社の場合)保振機構に公告事項等の通知をする
公開会社の場合、公告や催告をしたら、保振機構に対して速やかに公告事項などを通知します。
なお、株主が一般口座(特定口座などで管理していない、上場株式等を管理する口座)を有している場合は保振機構にその旨を通知する必要がありますが、会社がその旨を判断できないこともあるでしょう。
その場合は、保振機構に対して一般口座が含まれるかどうか不明である旨を通知したうえで、遅滞なく調査を行い、2週間以内に改めて保振機構に結果を通知しなければなりません。
また、調査にあたって必要となる場合は、保振機構に対して株主等照会コード(すべての特別口座に係る加入者口座コードに紐づくコード)を照会することが可能です。
(公開会社の場合)保振機構に株主照会コード等の通知をする
所在不明株主の口座に一般口座が含まれている場合は、保振機構に株主照会コード等の通知をする手続きが必要です。
一般口座がある場合、会社は催告や公告から3週間以内に保振機構に対して次の事項を通知しなければなりません。
- 所在不明株主の氏名
- 所在不明株主の住所
- 株主照会コード
この通知を受け、保振機構は通知から2週間以内に、その一般口座を管理する口座管理機関(証券会社など)に対して次の事項を通知します。
- 公告事項
- 所在不明株主の口座に一般口座が含まれる旨
- 一般口座に係る所在不明株主の加入者口座コード
この通知を受けた口座管理機関は、加入者(所在不明株主)に対して必要に応じて連絡や確認を行います。
(公開会社の場合)保振機構に情報提供請求に関する事前連絡をする
所在不明株主の口座に一般口座が含まれている場合は、保振機構に情報提供請求に関する事前連絡をする手続きも必要となります。
一般口座がある場合において、異議申立期間内に異議がなかった場合は、会社は保振機構に対して所在不明株主についての情報提供請求を行います。
この情報提供請求に先立って、会社は保振機構に対して事前連絡をしなければなりません。
この事前連絡には、次の事項を記載します。
- 売却対象株式の銘柄と銘柄コード
- 所在不明株主の株主等照会コード
- 所在不明株主ごとの売却対象株式の数
- 株式売却等に係る事務処理日程(株主確定日や公告掲載日、異議申立期間、情報提供の予定日、株式の売却予定日など)
なお、所在不明株主が一般口座を有しておらず特別口座のみを有している場合は、この手続きは必要ありません。
(公開会社の場合)保振機構に情報提供請求をする
保振機構に情報提供請求をする手続きは、所在不明株主の口座に一般口座が含まれている場合にのみ必要です。
1つ前で行った情報提供請求に関する事前連絡を提出したら、その提出の翌営業日以降に保振機構に対して情報提供請求を行います。
この請求をすると、保振機構から会社に対して、所在不明株主の加入者口座コードなどの情報が提供されます。
株式を競売または売却する
最後に、株式の競売または売却を行います。
所在不明株主の株式を競売または売却する方法には、主に次の選択肢があります。
なお、株式の購入対価は本来、所在不明株主が受け取るべきものです。
しかし、所在が不明である以上、代金を交付することはできません。
会社が弁済の準備をしつつ所在不明株主が現れることを待つ方法もありますが、いつ現れるかわからない株主のためにいつまでも資金を手元に置いておくことは会社にとって負担が大きいことでしょう。
そこで、代金を供託することが現実的な選択肢となります。
競売する
1つ目は、株式を競売する方法です。
競売は、民事執行法に記載の手続きによって行われます。
不特定の者が株主になることを会社が許容する場合には、競売も選択肢に入ります。
ただし、競売には費用や手間を要するため、上場株式であれば次の「売却する」が有力な選択肢となるでしょう。
売却する
2つ目は、株式を市場で売却する方法です。
上場株式など市場価格がある株式である場合は、これが有力な選択肢の一つとなります。
この場合の売却価格は、市場での取引価格となります。
なお、振替株式であり一般口座に係る株式である場合は、所在不明株主の一般口座を管理する口座管理機関に対して会社が振替申請を行うこととなります。
また、所在不明株主の口座が特別口座のみである場合は、保振機構に対して振替請求を行います。
一方、非上場株式など市場価格のない株式であっても、裁判所の許可を得ることで競売によらない売却が可能です。
この場合、裁判所への許可申立ては、取締役全員の同意によって行わなければなりません(会社法197 条2項)。
会社が買い取る
3つ目は、株式の発行会社が株式を買い取る方法です。
所在不明株主の株式を売却するにあたって、会社がその株式を買い取ることもできます。
この場合は、取締役会決議によって次の事項を定めなければなりません(同197条3項、4項)。
- 買い取る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類と種類ごとの数)
- 株式の買取りをするのと引換えに交付する金銭の総額
なお、交付する金銭の総額は、分配可能額を超える額とすることができない点に注意が必要です(同461条1項6号)。
分配可能額は買取の効力発生日における剰余金の額や自己株式の帳簿価格などをベースとして計算しますが、やや複雑な計算が必要であり、自社での算定が難しいこともあるでしょう。
自社で計算することが難しい場合は、弁護士などの専門家へご相談ください。
まとめ
所在不明株主の株式の競売や売却の概要とスケジュールの例について解説しました。
自社の株主の中に長期にわたって通知が到達しない者や、配当金を受領しない者がいる場合は、所在不明株主としての要件を満たすことを確認したうえで、所在不明株主の株式の競売等の手続きを進めることをおすすめします。
今すぐには問題が生じていなかったとしても、将来重要な決議をする際などに問題が生じるかもしれません。
そのため、所在不明株主がいる場合は弁護士へ相談し、所在不明株主の有する株式を売却するなどの対策をとっておくとよいでしょう。
本文で解説したように、所在不明株主の株式の競売等には3か月以上の期間を定めた公告が必要となることから、お早めにご相談ください。
記事監修者
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