株式の分割手続きは、株主総会の普通決議または取締役会設置会社においては取締役会の決議によって行うことができます。
ただし、それのみでは足りず公告などが必要となるほか、上場会社においては適時開示やなども行わなければなりません。
では、株式分割は具体的にどのようなスケジュールで行えばよいのでしょうか?
今回は、株式分割を進める具体的なスケジュール例を紹介するとともに、取締役会設置会社であることを前提としたスケジュール例について解説します。
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株式の分割とは
株式分割とは、既存の株式を細分化する手続きです。
たとえば、従来の1株を2株にしたり、1株を3株などにしたりする場合などが考えられます。
また、必ずしも整数倍にしなければならないわけではなく、1株を1.5株や1.2株などとすることなども可能です。
株式分割は、投資家に株式を購入してもらいやすくなる目的で行われることが少なくありません。
たとえば、株価が300万円であった株式1株を3株へと分割すると、1株あたりの理論上の価格は100万円(=300万円×1/3)となります。
これにより、1株を買うために必要となる資金が少なくなるため、より多くの投資家に株を買ってもらいやすくなる効果が期待できます。
ただし、上場会社は上場規程により、流通市場に混乱をもたらすおそれや、株主の利益の侵害をもたらすおそれのある株式分割を行わないこととされています(例えば東京証券取引所・有価証券上場規程433条)。
そのため、特に上場会社が株式分割を検討する際は、上場企業の支援実績が豊富な弁護士へ十分にご相談ください。
株式を分割するために必要となる手続き
株式分割をするために必要となる主な手続きは、原則としてそれぞれ次のとおりです。
- 取締役会設置会社:取締役会決議
- 取締役会の設置がない会社:株主総会決議(普通決議)
また、原則として別途基準日などに関する公告が必要となるほか、上場会社である場合は上場規程などに基づく手続きを別途行う必要があります。
株式の分割手続きのスケジュール例
株式分割の手続きは、具体的にどのようなスケジュールで進めればよいでしょうか?
ここでは、取締役会設置会社であることを前提に、スケジュールの一例と全体の流れについて解説します。
日程 | 手続 | 法定期間・期限 |
---|---|---|
8/1 | 株式の併合の取締役会決議 | |
同日 | 適時開示(上場会社の場合) | 株式の併合の取締役会決議後、直ちに |
同日 | 保振期間への通知(振替株式の場合) | 株式の併合の取締役会決議後、速やかに |
8/4 | 損害を及ぼすおそれがある種類株主へ通知又は公告 | 効力発生日の20日前まで |
同日 | 決定事項の公告 | 基準日の2週間前まで |
同日 | 振替機関への通知(振替株式の場合) | 効力発生日の20日前まで |
8/24 | 基準日 | |
8/25 | 効力発生日 | |
8/26 | 株主名義の記載 端数処理手続 |
|
9/1 | 変更の登記 | 効力発生後の2週間以内 |
これはあくまでも一例であり、状況によっては一部の手続きを省略することも可能です。
株式分割を検討している場合は、機関法務に詳しい弁護士のサポートを受けつつ、具体的なスケジュールを設定するようにしてください。
取締役会決議をする
株式分割を行う場合、はじめに取締役会を開いて決議を行います。
取締役会では、次の事項を決議しなければなりません(会社法183条2項)。
- 株式の分割によって増加する株式総数の、株式分割前の発行済株式(種類株式発行会社にあっては、分割する種類の発行済株式)の総数に対する割合(以下、「分割比率」といいます)
- 株式の分割に係る基準日
- 株式の分割の効力発生日
- 株式会社が種類株式発行会社である場合には、分割する株式の種類
会社の発行済株式総数が発行可能株式総数を上回ることとなる場合、原則として株主総会の特別決議を行い、定款を変更しなければなりません(同466条、309条2項12号)。
ただし、株式の分割による場合、株主総会の決議を経ることなく定款を変更し、効力発生日の前日の発行可能株式総数に分割比率を乗じて得た数の範囲内で発行可能株式総数を増加させせることができます(同184条2項)。
つまり、株式分割による場合は、たとえ発行可能株式総数が変わることとなる場合であっても、原則として株主総会の特別決議は不要です。
一方で、会社が種類株式発行会社である場合、原則どおり発行済可能株式総数を変更するために株主総会の特別決議が必要です(同184条2項)。
また、会社が種類株式発行会社であり、株式分割によってある種類の株式の種類株主に損害を及ぼすおそれがある場合、原則としてその種類株主総会の特別総会を経ないことには、株式分割の効力を生じないこととされています(同322条1項2号)。
これにも例外があり、定款の定めによって種類株主総会の決議を要しないこととされている場合は、この種類株主総会の特別決議は不要です(同2項)。
適時開示をする
株式分割をする企業が上場企業である場合、取締役会決議が済んだら、直ちにその内容を開示しなければなりません(上場規程402条1号g)。
株式分割は、株主に対して直接影響が及ぶ重要な事項であるためです。
併せて、原則として証券取引所に対して変更を申請する書類の提出も必要です(同421条、305条1項)。
ただし、変更申請書類に記載すべき内容が適時開示に含まれている場合、適時開示をもって変更申請をしたこととみなされるため、別途変更申請を行う必要はありません(同305条1項ただし書)。
証券保管振替機構へ通知する
会社が株式振替制度を活用している場合、取締役会決議がされたら速やかに証券保管振替機構(通称「ほふり」)へ通知しなければなりません。
上場会社の場合、株式振替制度を活用していることが原則です。
株式等振替制度とは、機構や証券会社などが、株主の権利の発生や移転などの記録を電子的に行う制度を指します。
損害を及ぼすおそれがある種類株主に通知または公告をする
株式分割にあたって、ある種類株式の株主に損害が生じるおそれがある場合、あらかじめその種類株主総会による決議を経なければなりません。
一方、定款に決議を不要とする旨の定めがある場合、例外的に決議が不要となります。
ある種類株主に損害が及ぶおそれがあるものの、定款の定めによって決議が不要とされた場合、株式分割の効力発生日の20日前までに、その損害を及ぼす可能性のある種類株主に対して会社から通知または広告をしなければなりません(会社法116条3項4項)。
この場合、116条2項各号に該当する株主は、会社に対して効力発生日の20日前から前日までの間に、自己の有する株式を公正な価格で買い取るよう請求することが可能です(同5項)。
この請求は、買取請求をする株式の種類と、種類ごとの株式数を明らかにして行わなければなりません。
この買取請求がされた場合、会社は買取価格についてその請求者である株主と協議が調ったときは、効力発生日から60日以内に対価を支払う必要があります(同117条1項)。
また、効力発生日から30日を経過してもなお買取価格についての協議がまとまらない場合、株主または会社が裁判所に対して、価格決定の申立てをすることが可能です(117条2項)。
この申立ては、その期間満了の日(効力発生日から30日を経過した日)から30日以内に行わなければなりません。
買取価格が決まらないことによって本来の期限(効力発生日から60日)までに買取対価を支払えない場合は、会社は買取対価に加え、本来の期限以降の利息を支払う必要が生じます(同4項)。
ただし、最終的な買取価格が決める前であっても会社が公正であると考える価格を支払うことが可能であり、この場合は支払い日以降の利息の負担が不要となります(同5項)。
決定事項を公告する
株式分割の基準日を定めた場合は、原則として次の事項を公告します(同124条3項)。
- 基準日
- 基準日株主が行使することができる権利(基準日を基準として、株式の分割を行うこと)
この公告は、株式分割の基準日の2週間前までに行わなければなりません。
振替機関に通知する
会社が株式振替制度を利用している場合は、振替機構に対して分割対象となる株式の銘柄や分割比率、基準日などを通知しなければなりません。
この通知は、分割の効力発生日の2週間前までに行う必要があります。
基準日が到来する
あらかじめ定めた基準日が到来します。
基準日時点で株式を有する株主は、この基準日に有する株式数に分割比率を乗じて得た株式を、効力発生日に取得することとなります(同184条1項)。
基準日と次の効力発生日の間隔などについて、法令で明確な定めはありません。
ただし、上場企業である場合は、基準日の翌日を効力発生日として定めることが原則です(上場規程427条1項)。
また、上場会社が発行可能株式総数の増加に係る株主総会の決議を要するなど一定の事項に該当する場合は、その株主総会決議などによって株式分割が確定した日から起算して3日目以後の日を基準日として設定することとされています(同2項)。
効力発生日が到来する
次に、効力発生日が到来します。
この日に株式分割の効力が発生し、株主の有する株式数が増加することとなります。
株主名簿に記載する
株式分割の効力が生じたら、会社は株主名簿記載事項を株主名簿に記載または記録しなければなりません(同132条3項)。
会社が株式振替制度を利用している場合は、この記載や記録は振替機関から通知を受けた口座管理機関によって行われるため、この規定の適用が排除されています。
端数処理手続きをする
株式分割では、1株に満たない端数が生じることがあります。
1株を2株や3株など整数倍とする場合、端数は発生しないものの、たとえば1株を1.5株とするなどの株式分割も可能であるためです。
たとえば、1株を1.5株とする株式分割を行った場合、これまで5株を保有していた株主の所有株式数は、株主分割によって7.5株となります。
この0.5株分の取り扱いが問題となります。
株式の分割によって1株に満たない端株が生じる場合、その端数の合計数に相当する数の株式を競売したうえで、これによって得られた代金を端株の数に応じて株主に交付しなければならないこととされています(同235条1項)。
ただし、対価をそれぞれ次の価額としたうえで、競売によらずに売却することも認められています(同2項、234条2項)。
- 市場価格のある株式:市場価格として法務省令で定める方法によって算定される額
- 市場価格のない株式:裁判所の許可を得た額
株式を競売や市場で売却する代わりに、買い取る株式数や取得対価を取締役会で決議することによって、会社がこの株式の全部または一部を買い取ることも可能です(同234条4項)。
変更登記をする
会社の発行済株式総数や、種類株を発行している場合の種類ごとの株式数は、登記事項とされています(同911条3項9号)。
株式分割ではこれらの内容に変更が生じることから、変更登記をしなければなりません。
この場合における変更登記の期限は、株式分割の効力発生日から2週間以内です(915条1項)。
期限に余裕がないため効力発生後に準備に取り掛かるのではなく、あらかじめ変更登記の準備を整えたうえで、効力発生後にはすみやかに登記申請することをおすすめします。
まとめ
取締役会設置会社が株式分割をする手続きに関して全体の流れを解説するとともに、各期限などに留意したスケジュールの一例を紹介しました。
株式分割は株式併合と比較して、株主に損害を与える可能性が低くなります。
株式併合よりは手続きが簡略化されていることが特徴です。
株式分割についてのスケジュールを検討する際のポイントは、効力発生日の2週間前までに基準日公告が必要となることです。
そのため、取締役会決議から基準日までは最短で2週間は必要となることが原則です。
ただし、小規模な企業が株主全員による協力が得られる場合は定款に定めを置くことで、基準日公告を不要とする道もあります。
一方で、上場会社である場合はこれらに加えて、適時開示の手続きや振替機関への通知などもしなければなりません。
このように、株式分割のスケジュールや必要な手続きは、会社の規模や状況、上場の有無などによって大きく異なります。
手続きに不備があり株主に損害を及ぼしてしまうと、会社が責任を追及されるリスクが生じます。
そのため、株式の分割をご検討の際はあらかじめスケジュールや必要な手続き、法令の根拠をよく確認したうえで、株式併合など機関法務を得意とする弁護士のサポートを受けて進めるようにしてください。
記事監修者
山口 広輔
(第二東京弁護士会)第二東京弁護士会所属。明治大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院修了。健全な企業活動の維持には法的知識を活用したリスクマネジメントが重要であり、それこそが働く人たちの生活を守ることに繋がるとの考えから、特に企業法務に注力。常にスピード感をもって案件に対応することを心がけている。
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