会社が株式を併合する場合は、全体の流れを踏まえてスケジュールを検討しなければなりません。
株式の併合とは、具体的にどのような手続きを指すのでしょうか?
また、株式を併合したい場合、手続きはどのようなスケジュールで進めればよいでしょうか?
今回は、取締役会設置会社が株式を併合して1株未満の端株が生じるケースを前提に、弁護士がスケジュールの一例を解説します。
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株式の併合手続きとは
株式の併合とは、複数の株式をこれより少ない株式とすることです。
たとえば、これまでの2株を1株としたり、これまでの3株を1株としたりすることがこれに該当します。
2株を1株とする株式併合をした場合、これまで40株を有していた株主の持ち株数は20株となります。
一方、これまで21株を有していた株主の持ち株数は10.5株となりますが、1株に満たない端株は原則としてそのまま所有することができないため、この端株の処理が別途必要となります。
上場会社であっても株式の併合はできるものの、投資家保護などの観点から、流通市場に混乱をもたらすおそれ又は株主の利益の侵害をもたらすおそれのある株式併合などを行ってはならないこととされています(例えば東京証券取引所・有価証券上場規程433条)。
株式の併合手続のスケジュール例
ここでは、会社が株式の併合を行う際のスケジュールの例を紹介します。
ここで紹介するのは、取締役会設置会社が株式を併合し、1株未満の端株が生じるケースです。
併合した株式の効力発行日が8月5日とした場合のスケジュール例
日程 | 手続 | 法定期間・期限 |
---|---|---|
5/21 | 株式の併合の取締役会決議 | |
同日 | 適時開示・変更申請(上場会社の場合) | 株式の併合の取締役会決議後、直ちに |
保振機関への通知(振替株式の場合) | 株式の併合の取締役会決議後、速やかに | |
6/13 | 事前開示書類等備置開始 | 株主総会の2週間前の日 |
6/28 | 株式の併合の株主総会特別決議 | |
同日 | 臨時報告書の提出(上場会社の場合) | 株式の併合の株主総会特別決議後、遅滞なく |
7/6 | 変更上場申請 | 効力発行日より前に |
7/14 | 株主らへの通知または公告 | 効力発行日の20日前まで |
同日 | (損害を及ぼすおそれのある種類株主への通知又は公告) | 効力発行日の20日前まで |
7/19 | 振替機関への通知(振替株式の場合) | 効力発行日の20日前まで |
(反対株主の株式買取請求) | 20日前から前日までの間に | |
8/5 | 効力発行日 | |
8/6 | 事後開示書類等備置開始 | 効力発行日から遅滞なく |
同日 | 株主名簿の記載 | |
同日 | 端数処理手続 | |
8/12 | 変更の登記 | 効力発行日から2週間以内 |
(株式の価格の決定の協議) | 事後開示書類等備置開始から30日以内 | |
(株式買取価格決定の申立期間満了) | 協議期間満了後30日以内 | |
(反対株主の株式買取代金の支払期限) | 効力発行後60日以内 | |
2/5 | 事前・事後開示書類等備置期間終了 | 事前開示書類等措置開始もしくは、株主らへの通知または広告のいずれか早い日を起点に、効力発生後6ヶ月を経過する日まで |
取締役会で決議する
取締役会設置会社では、業務執行については取締役会が決定します。
そのため、株式の併合についての話が浮上したら、はじめに取締役会で決議します。
適時開示をする
上場会社である場合、取締役会の決定によって株式併合について株主総会に付議することが決まった時点で、適時開示を行います。
適時開示とは、上場会社が適時適切な情報開示をするため、金融商品取引所の規則によって定められている制度です。
東京証券取引所の有価証券上場規程によると、「株式の分割又は併合」を行うことについての決定をした場合は、直ちにその内容を開示しなければなりません(上場規程402条1号)。
また、株式を併合すると上場株式の数量が変わることとなるため、有価証券変更上場申請書の提出も必要となります(同305条1項)。
ただし、この有価証券変更上場申請書に記載すべき事項が適時開示に含まれている場合、別途変更申請をする必要はないこととされています(同ただし書)。
証券保管振替機構へ通知する
株式会社が「株式等振替制度」を活用している場合は、取締役会が株式の併合を決議したら速やかに証券保管振替機構(通称「ほふり」)に対して通知しなければなりません。
株式等振替制度とは、株主等の権利の管理(発生、移転及び消滅)を機構や証券会社などに開設された口座において電子的に行うものです。
事前開示をする
株式の併合をする株式会社は、原則として次のうちいずれか早い日から効力発生日後6か月を経過する日までの間、一定の事項を記載した書面または電磁的記録(以下、「書面等」といいます)を、会社の本店に備え置かなければなりません(会社法182条の2第 1項)。
- 株主総会の日の2週間前の日
- 株主らへの通知の日または公告の日
ただし、単元株式数を定款で定めている場合おいては、単元株式数に1株未満の端数が生じないのであれば、事前開示は必要ありません。
事前開示書面等で記載すべき主な事項は、次のとおりです(182条の2 第1項、会社法施行規則33条の9)。
- 併合の割合
- 併合の効力発生日
- 種類株式発行会社である場合には、併合する株式の種類
- 効力発生日における発行可能株式総数
- 株式の割合等に関する定めの相当性に関する事項
- 最終事業年度の末日の後に重要な財産の処分や重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じたときは、その内容
- 最終事業年度がないときは、設立日における貸借対照表
- 備置きの開始後に一定の変更が生じたときは、その変更事項
株主は営業時間内はいつでも、会社に対してその書面等の閲覧の請求や謄本の交付の請求などをすることができます(会社法182条の2 第2項)。
謄本の交付などを受けるには、会社が定める手数料を支払わなければなりません。
株主総会を開催する
次に、株主総会を開始します。
株式会社が株式の併合をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めることが求められます(同180条2項)。
- 併合の割合
- 併合の効力発生日
- 種類株式発行会社である場合には、併合する株式の種類
- 効力発生日における発行可能株式総数(公開会社は、効力発生日における発行済株式の総数の4倍を超えるとすることができません)
株式併合では、併合によって端株を有することとなる株主が不利益を被る可能性があります。
そのため、取締役はこの株主総会において、株式の併合をすることを必要とする理由を説明しなければなりません(同4項)。
また、株式の併合を実現するには、株主総会の特別決議が必要です(同309条2項4号)。
なお、株式併合をしようとしている会社が種類株式を発行している場合、株式併合によって種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、原則としてその種類株主による特別決議も必要となります。
ただし、この決議を不要とする定款の定めがある場合やその種類株主総会で議決権を行使できる種類株主がいない場合は、この限りではありません(同322条1項・2項)。
臨時報告書を提出する
上場会社である場合は、株式併合に関する事項が株主総会で決議されたら、金融商品取引法の規定により、その後遅滞なく内閣総理大臣(財務局長)に対して臨時報告書を提出しなければなりません(金商法24条の5 第4項)。
株主などへの通知または公告をする
会社は、株主と登録株式質権者に対して、株主総会で決議された次の事項を通知または公告しなければなりません。
- 併合の割合
- 併合の効力発生日
- 種類株式発行会社である場合には、併合する株式の種類
- 効力発生日における発行可能株式総数
通知または公告の期限は、それぞれ次のとおりです。
- 原則:効力発生日の2週間前まで(会社法181条1項)
- 株式の併合をすることにより株式の数に一株に満たない端数が生ずる場合:効力発生日の20日前まで(同182条の4 第3項)
損害を及ぼすおそれのある種類株主への通知または公告をする
先ほど解説したように、株式の併合によって種類株主に損害を及ぼすおそれがあるときは、原則としてその種類株主総会による決議を経なければなりません。
しかし、定款の定めにより、この決議を不要とすることも可能です(同322条2項)。
この定款の定めがある場合は、種類株主総会の決議は不要となります。
ただし、株式の併合によって損害を及ぼすおそれのある種類株主に対しては、効力発生日の20日前までに通知または公告をしなければなりません(同116条3項)。
そのうえで、株式の併合によって損害を被るおそれのある種類株主は、効力発生日の20日前から効力発生日の前日までの間、会社に対して自己の有する株式を公正な価格で買い取るよう請求することができます(同5項)。
この請求がされた場合、会社は原則として効力発生日から60日以内に対価を支払わなければなりません(同117条1項)。
振替機関へ通知する
振替株式である場合は、会社は株式併合の効力発生日の2週間前までに、振替機関に対して次の事項などを通知しなければなりません。
- 併合する株式の銘柄
- 併合の割合
- その他必要な事項
反対株主からの株式買取請求を受ける
冒頭で解説したように、株式を併合すると1株未満の端株が生じることがあります。
この場合において併合に反対する株主は、会社に対して次の要件をいずれも満たす場合に、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までに、原則として自己の有する株式のうち1株に満たない端数となるものの全部を公正な価格で買い取るよう請求することができます(同182条の4第 1項)。
- 株主総会に先立って、その株式併合に反対する旨を株式会社に対し通知したこと
- 株主総会においてその株式の併合に反対したこと
この請求がなされた場合は、会社とその株主との間で株式の買取価格を協議します。
無事に価格の協議がまとまったら、会社は効力発生日から60日以内に株式を買い取り、対価を支払わなければなりません(同182条の5 第1項)。
一方、価格の協議がまとまらないこともあるでしょう。
効力発生日から30日以内に協議がまとまらない場合は、この期間の満了から30日以内に、裁判所に対して価格決定の申立てができます(同2項)。
この場合において、会社は本来買取対価を支払うべきであった「効力発生日から60日」時点以降の利息(法定利率による)も支払わなければなりません(同4項)。
ただし、裁判所の決定があるまでの間に株主に対して会社が公正な価格と認める額を支払うことができ、この場合は以後の利息支払いが不要となります。
効力発生日が到来する
株主総会で取り決めた日に、株式併合の効力が発生します。
効力発生日において、株主が有する株式数の変更の効力が生じます。
株主名簿の記載をする
株式の併合をした場合には、株主名簿の記載等をしなければなりません(同132条2項)。
ただし、振替株式の場合は効力発生前に振替機関に通知することにより、振替機関から連絡を受けた口座管理機関が、自動的に記録の書き換えを行います。
事後開示をする
株式併合の効力が生じたら、会社は遅滞なく一定の事項が記載された書面等を作成し、これを本店に据え置かなければなりません(同182条の6第 1項)。
据置きが必要な期間は、株式併合の効力発生日から6か月間です(同2項)。
この書面等に記載すべき事項は次のとおりです(会社法施行規則33条の10)。
- 株式併合が効力を生じた時における発行済み株式総数
- 株式併合の効力発生日
- 株式併合をやめることの請求に係る手続きの経過
- 反対株主の株式買取請求の手続きの経過
- その他株式の併合に関する重要な事項
株式併合をした会社の株主や効力発生日に株主であった者は、その株式会社に対して、営業時間内であればいつでもこの書面等の閲覧や謄本の交付などを請求することができます(会社法182条の6 第3項)。
謄本の交付などを受けるには、会社が定める手数料の支払いが必要です。
端数処理手続きをする
株式の併合では、端株が生じることが少なくありません。
端株とは、1株に満たない株式です。
株式の併合によって端株が生じる場合には、その端数の合計数に相当する数の株式を競売したうえで、これによって得られた代金を端株の数に応じて株主に交付しなければなりません(同235条1項)。
ただし、対価をそれぞれ次の価額とすることで、競売によらずに売却することも可能です(同2項、234条2項)。
- 市場価格のある株式(上場株式等):市場価格として法務省令で定める方法により算定される額
- 市場価格のない株式:裁判所の許可を得た額
株式を競売や市場で売ることに限らず、取締役会決議で買い取る株式の数や取得対価を定めることにより、会社がこの株式を買い取ることもできます(同234条4項)。
変更登記をする
発行済株式総数や種類株を発行している場合の種類ごとの株式数は、登記事項です(同911条3項9号)。
株式の併合ではこれらの内容に変更が生じるため、変更の登記をしなければなりません。
変更登記の期限は、株式併合の効力発生日から2週間以内です(915条1項)。
期限が短いため、あらかじめ変更登記の準備を行ったうえで、効力発生後はすみやかに登記申請することをおすすめします。
まとめ
取締役会設置会社が株式を併合する手続きの流れを解説するとともに、スケジュールの一例を紹介しました。
株式の併合でスケジュールを検討する際のポイントは、株主総会で特別決議が必要となることと、効力発生日の2週間前(一定の場合は20日前)までに株主などに対して通知や公告が必要となることです。
上場会社である場合は、これらに加えて適時開示の手続きや振替期間への通知などもしなければなりません。
株式の併合では端株が生じることが多く、これによって一部の株主が不利益を被る可能性があります。
手続きに不備があると不利益を被った株主から責任を追及され、トラブルとなるおそれがあります。
そのため、株式の併合をご検討の際はあらかじめ全体の流れをよく確認したうえで、手続き面でのサポートが受けられる弁護士へご相談ください。
記事監修者
山口 広輔
(第二東京弁護士会)第二東京弁護士会所属。明治大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院修了。健全な企業活動の維持には法的知識を活用したリスクマネジメントが重要であり、それこそが働く人たちの生活を守ることに繋がるとの考えから、特に企業法務に注力。常にスピード感をもって案件に対応することを心がけている。
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