取締役会とは、その株式会社の役員全員によって組織される株式会社の機関です。
取締役会を設置するには、取締役は3名以上でなければなりません。
取締役会を設置している株式会社では、取締役会が業務執行の決定などの権限を持ちます。
では、取締役会の年間スケジュールはどのように検討すればよいのでしょうか?
今回は、会社法の規定に基づいて取締役会の年間スケジュールの考え方について解説します。
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取締役会の基本
はじめに、取締役会の基本について解説します。
取締役会の設置義務のある会社とは
取締役会は、その株式会社のすべての取締役によって組織される機関です(会社法362条1項)。
次のいずれかに該当する株式会社は、取締役会を設置しなければなりません(同法327条1項)。
- 公開会社
- 監査役会設置会社
- 監査等委員会設置会社
- 指名委員会等設置会社
一方、これらに該当しない会社では、取締役会の設置は任意です。
ただし、取締役会を設置するのであれば、取締役は3人以上でなければなりません(同法331条5項)。
取締役会の職務
取締役会は、次の職務を行います(同法362条2項)。
- 取締役会設置会社の業務執行の決定
- 取締役の職務の執行の監督
- 代表取締役の選定及び解職
取締役会が設置されていない株式会社において会社に関するすべての事項を決定するのは、株主総会です(同法295条1項)。
一方、取締役会設置会社における株主総会は、会社法と定款で規定された事項に限って決議ができるとされており、業務執行にまつわる職務などが取締役会に委譲されています(同条2項)。
これは、会社の意思決定を迅速なものとして、会社経営の機動力を高めるためです。
取締役会における主な決議事項
取締役会が業務執行の決定をするとはいえ、日常の業務についてその都度取締役会を開催して決議をすべきとなれば、機動的な経営をすることは困難でしょう。
そこで、日常業務に関する意思決定は個々の取締役に委任されることが一般的です。
しかし、次の事項やその他の重要な業務執行の決定については、個々の取締役に委任することはできません(同法362条4項)。
つまり、これらの事項は取締役会において決議すべきということです。
重要な財産の処分及び譲受け
1つ目は、株式会社が所有する重要な財産を処分する場合や重要な財産の譲受けです。
なお、重要な財産に該当するかどうかは、その財産の価額や会社の総資産に占める割合、保有目的、処分の態様、従来の取り扱いなどの事情を総合的に考慮して判断されるべきこととされています(最判平6.1.20)。
多額の借財
2つ目は、多額の借財です。
なお、多額の借財に該当するかどうかは、その借財の額のほか、その会社の総資産や経常利益などに占める割合、その借財の目的、会社における従来の取り扱いなどの事情を総合的に考慮して判断されるべきこととされています(東京地判平9.3.17)。
支配人その他重要な使用人の選任及び解任
3つ目は、支配人その他重要な使用人の選任や解任です。
なお、会社法における支配人とは「会社に代わってその事業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する(会社法11条)」者であり、支配人に関する事項は登記事項です。
支配人として登記される使用人は、支社長や支店長などの肩書きとされていることが多いでしょう。
支店その他の重要な組織の設置、変更及び廃止
4つ目は、支店やその他の重要な組織の設置や変更、配置です。
なお、支店の定義は会社法にはありませんが、一般的には独自に取引を成立させることのできる組織を指します。
株式会社が支店を設置した場合には、登記しなければなりません(同法911条)。
単なる営業拠点である営業所とは異なるため、混同しないよう注意してください。
募集社債に関する事項
5つ目は、募集社債に関する事項です。
自社が発行する社債を引き受ける者の募集をしようとするときには募集社債の総額や募集社債の利率などを定める必要がありますが、これは取締役会で決定しなければなりません(同法676条1項)。
法務省令で定める体制整備
6つ目は、取締役の職務の執行が法令や定款に適合することを確保するための体制整備などに関する事項です。
たとえば、次の事項などがこれに該当します(会社法施行規則100条)。
- 取締役の職務の執行に係る情報の保存と管理に関する体制
- その株式会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制
- 取締役の職務の執行が効率的に行われることを確保するための体制
いわゆる内部統制システムの強化に関する取り組みが、これに該当するものと考えられます。
定款の定めに基づく取締役、監査役らの責任免除
7つ目は、取締役や監査役らの責任免除に関する定款の定めに関する事項です。
取締役や会計参与、監査役などの役員がその任務を怠ったときは、これによって株式会社に生じた損害を賠償する責任を負います(会社法423条1項)。
そして、この責任を免除するには、原則として総株主の同意を得なければなりません(同法424条)。
しかし、監査役設置会社など一定の株式会社では、その役員などが善意でかつ重大な過失がない場合に限り、取締役会の決議によって一定額を限度として責任を免除できる旨を定款で定めることが認められています(同法426条1項)。
この定款の定めをするには、取締役会による決議が必要です。
取締役会の年間スケジュール決定の基本
取締役会の年間スケジュールを検討する際には、まず次の事項を考慮しましょう。
少なくとも3か月に1回以上の開催が必要
取締役会設置会社では、次の者がその取締役会設置会社の業務を執行します(同法363条1項)。
- 代表取締役
- 代表取締役以外の取締役であって、取締役会の決議によって取締役会設置会社の業務を執行する取締役として選定されたもの(業務執行取締役)
そして、これらの者は3か月に1回以上自己の職務の執行状況を取締役会に報告しなければならならず、この報告を省略したり報告頻度を減らしたりすることはできません(同法363条2項、372条2項)。
そのため、この報告の機会を設けるため、少なくとも3か月に1度は取締役会を開催する必要があります。
上場企業は四半期報告書の提出期限を意識する
上場企業では、会計監査を経た四半期報告書を、各期間経過後45日以内に内閣総理大臣に提出しなければなりません(金融商品取引法24条の4の7・1項、金融商品取引法施行令4条の2の10・3項)。
そして、この報告書の内容についてあらかじめ取締役会で報告をする必要があります。
そのため、上場企業の場合には、この四半期報告書の期限も加味しつつ取締役会の開催スケジュールを検討する必要があるでしょう。
取締役会の年間スケジュール(3月決算の場合)
取締役会の年間スケジュールを決める際には、上で解説したように、まず3か月に1度以上の開催が必須である点を踏まえなければなりません。
そのうえで、上で紹介をした四半期報告書の提出時期を意識してスケジュールを検討します。
ここでは、上場企業を念頭に置き、取締役会の年間スケジュールを検討するにあたって考慮すべき事項を紹介します。
決算発表承認等の決議
上場会社では事業年度における決算の内容や配当の予想値が定まったら、直ちにその内容を開示しなければなりません。
これは東京証券取引所が定めている上場規程(404条、405条)による要請であり、「決算短信」などと呼ばれています。
この開示に対応するため、決算内容や配当の予想値が定まった時点で取締役会を開催し、承認決議を行うことが一般的です。
併せて、年度の上期に係る資金計画を承認するほか、多額の借財などをする場合などにはこれに関する決議を行います。
定時株主総会招集等の決議
定時株主総会とは、会社法において毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないとされている株主総会です。
株主の権利行使の基準日との兼ね合いで、事業年度終了後3か月以内に招集されることが多いでしょう。
この株主総会を招集するにあたっては、あらかじめ取締役会を開催しなければなりません。
なぜなら、株主総会の株主総会の日時や場所、議案などを取締役会で決議する必要があるためです(会社法298条1項、4項)。
また、招集通知には計算書類や事業報告を添付する必要がありますが、これについてもあらかじめ取締役会の承認を受ける必要があります(同法437条、436条3項)。
この取締役会を経てから招集通知などの発送をすることとなるため、これを踏まえてスケジュールを決める必要があるでしょう。
なお、上場会社の場合には、定時株主総会の日の2週間前までに招集通知を発送することが必要です(同法299条1項)。
代表取締役の選定等の決議
株主総会において、役員の改選に関する決議がなされることは少なくありません。
株主総会で新たに取締役が選任された場合などには、その後開催される取締役会において代表取締役や業務執行役員を選任するほか、それぞれの役員の業務分担などを定めることとなります。
この場合には、株主総会の直後に取締役会を開催することとなるでしょう。
なお、役員の異動は登記事項であり、選任から2週間以内に変更の登記をしなければなりません(同法915条、911条3項)。
この期限も踏まえ、取締役会の日程を調整する必要があるでしょう。
コーポレート・ガバナンス報告書の提出決議
上場企業においてはコーポレート・ガバナンス体制の整備が義務付けられており、株主総会の終了後に遅滞なくコーポレート・ガバナンス報告書を提出しなければなりません。
これは、東京証券取引所が定めている上場規程(419条など)による要請であり、提出した報告書は公衆の縦覧に供されます。
これに対応するためあらかじめ取締役会を開き、コーポレート・ガバナンス報告書の内容についての評価や検討を行っておくことが必要となります。
剰余金配当方針承認等の決議
企業によっては、中間配当を行う場合があります。
決算配当をする場合と同様に、中間配当をする場合も配当の予想値が定まったら直ちにその内容を開示しなければなりません(上場規定405条)。
そのため、中間配当をする場合には、これに関する方針について取締役会での決議を行います。
中間決算の承認等の決議
中間決算とは、事業年度の中間に行われる決算です。
3月決算である場合には9月末で期間を区切り、ここまでの業績を公表します。
上場企業であれば中間決算を含む四半期決算の開示が義務付けられており、内容が定まった場合は直ちにその内容を開示しなければなりません(上場規程404条)。
これに備えるため、中間決算を含む四半期決算期ごとに取締役会を開催し、承認決議を経る必要があります。
重要な組織改正等の決議
上で解説したように、支店など重要な組織の設置や変更、廃止などをする際には、取締役会での決議を経なければなりません。
そのため、これらを行う際には取締役会を開催する必要があります。
これらを行うタイミングは会社によって異なるものの、新事業年度の開始に併せてこれらの組織変更をする場合が多いでしょう。
翌年度予算編成方針等の決議
上で解説したように、重要な財産の処分や譲受けは取締役会での決議事項です。
設備投資に関する予算を組む時期は会社によって異なるものの、事業年度の開始後間もなくこれらの決定をする会社は少なくないでしょう。
その場合には、翌事業年度開始後の決定に備え、翌年度予算方針や設備投資の計画などについてあらかじめ取締役会で審議しておくことが必要です。
まとめ
取締役会の年間スケジュールの考え方について解説しました。
取締役会の年間スケジュールは、まず3か月に1回以上開催すべきことを念頭に置いたうえで、各法令による要請を踏まえて検討する必要があるでしょう。
しかし、取締役会のスケジュールは他の期限から逆算して定めるべきものが少なくないうえ、決定すべき事項も多岐にわたります。
たとえば、株主総会を開く前には原則として2週間前までに招集通知を送るべきであり、その招集通知に記載すべき事項を定めたり、招集通知に同封すべき決算書類を承認したりするために取締役会を開催すべきであるなどです。
取締役会のスケジュール設定を誤ってしまうと、連鎖的にスケジュールがずれてしまい、法令違反につながるかもしれません。
自社における取締役会の年間スケジュールの設定に不安がある際には、機関法務に詳しい弁護士を活用するとよいでしょう。
記事監修者
伊藤 新
(第二東京弁護士会)第二東京弁護士会所属。大阪市立大学法学部卒業、大阪市立大学法科大学院法曹養成専攻修了(法務博士)。企業法務に注力し、スタートアップや新規事業の立ち上げにおいて法律上何が問題となりうるかの検証・法的アドバイスの提供など、企業 のサポートに精力的に取り組む。また、労働問題(使用者側)も取り扱うほか、不動産法務を軸とした相続案件などにも強い意欲を有する。
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