交通事故というと自動車のイメージですが、「歩行者が自転車にはねられた」という事故の報道を目にすることも多くあります。
とはいえ、自転車にはねられて事故の被害者になったときにどのように対処すべきかは、意外と分からないものです。
自転車にひき逃げされた・されそうになったらどうすべきか、いざという時のために確認しておきましょう。
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自転車にはねられるのも「交通事故」!
まず、そもそも「ひき逃げ」とは何でしょうか?
ひき逃げとは、自動車などを運転中に人と接触してケガをさせた、あるいは死亡させたにもかかわらず、必要な処置をすることなくその場から立ち去ることをいいます。
道路交通法では、第72条第1項に以下のような規定があります。
交通事故があったときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(中略)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。
この規定に違反すること(救護義務違反)により、人をはねることだけでなく、現場から逃げること自体も罪に問われるのです。
そして、条文の中の「車両等」とは何かというと、同じく道路交通法の第2条第1項第3号に「自動車、原動機付自転車、軽車両及びトロリーバスをいう。」という規定があります。
自転車はこのうちの「軽車両」に該当するので、「自転車に追突されてケガをしたが、その自転車はそのまま走り去ってしまった」という場合、これを「交通事故でひき逃げの被害に遭った」というのは決して大げさなことではないのです。
自転車にはねられたらどうする?
「自転車にはねられてケガをする」というのはごく身近にありえることですが、それがれっきとした交通事故被害であることはご理解いただけたと思います。
では、自転車にはねられて加害者に逃げられそうな場合、あるいは実際にひき逃げに遭ってしまった場合にはどのような対応をすればよいのでしょうか?
もしもの時のためにも整理しておきましょう。
1.可能な限り加害者を特定できるようにする
自転車相手の事故に限らず、交通事故に遭った際に加害者から「大丈夫ですか?」と聞かれたら、思わず「大丈夫です」と答えてしまう人は多いです。
しかし、先に説明したように、事故直後に自分のケガの状況を冷静に判断することは難しいものです。
加害者に「特にケガはない」と伝えればその場から立ち去られてしまい、結果的にひき逃げとなってしまう可能性が高いので、ケガをしたかもしれないことを伝えたうえで、身分証の写真を撮らせてもらうことにより氏名・住所などを特定できるようにしましょう。
また、連絡先も必ず聞いておきましょう。
携帯電話の番号であれば、その場で電話をかけることで本当の電話番号かを確認することができますし、勤務先の名刺をもらうのも一つの方法です。
もしケガの有無を聞かれることもなく、加害者が急いで走り去ろうとしたような場合には、加害者やその自転車を携帯電話のカメラで撮影することが望ましいでしょう。
逃げられる恐れがなさそうな場合でも、事故現場の状況の写真とあわせて、加害者の許可を得たうえで自転車などの写真も残しておくことができればベストです。
もし加害者に逃げられてしまった場合は、周囲に目撃者がいないか確認し、必要に応じて証言してもらえるよう連絡先を教えてもらいましょう。
2.必ず警察に連絡する
ここまで説明してきたとおり、自転車対歩行者の事故は交通事故です。
そして、交通事故が発生した場合、警察への報告義務があります。
警察に人身事故として交通事故を届け出ると、実況見分(現場検証)が行われ、それをもとに「実況見分調書」が作成されます。
そして最も重要なことが、警察に事故の発生を届け出なければ、交通事故があったという公的な記録となる「交通事故証明書」を発行してもらえないという点です。
事故の被害に遭ったことを証明するためにも、警察への届出は重要なのです。
加害者から「警察には連絡しないでほしい」あるいは「人身事故にしないでほしい」と言われるかもしれませんが、事故の直後は全くケガをしていないと思っても、後になってから体に痛みが出てくることや、長期間の通院が必要となることもありえます。
交通事故でケガを負った「人身事故」であれば、ケガの治療費等だけでなく、精神的損害に対する慰謝料を請求することもできます。
相手の言い分にかかわらず、必ず人身事故に遭った旨を警察に連絡するようにしましょう。
また、相手に逃げられてしまった場合も、加害者を特定するためには警察による捜査が不可欠です。
加害者が逃げ去ってしまったとしても、警察には必ず連絡しましょう。
3.早急に病院を受診する
「自転車にはねられたぐらいで病院に行くのは大げさでは?」と考える方もいるかもしれません。
しかし、自転車にはねられることで負うケガは軽症のものばかりではありません。
先に説明したとおり、事故直後には気が動転して痛みに気付かなくても、実は骨折していた場合や、時間が経ってから症状が出たりする場合もあるのです。
このようなケースにおいて、事故直後には病院に行かず、数日経ってから病院を受診したりすると、「自転車にはねられた時ではなく別の理由で痛みが生じたのでは?」というように、症状と交通事故の因果関係を疑われてしまうかもしれません。
一方、事故に遭った直後にレントゲンやMRIといった画像検査を受け、骨折などが判明すれば、自転車にはねられたことが原因であることの有力な証拠になりえます。
ひき逃げされたとしても、後に加害者が特定できれば損害賠償を請求することが可能です。
自転車にはねられた場合は、痛みがなくてもなるべく早期に病院を受診し、適切な治療や検査を受けましょう。
ひき逃げの加害者が特定できなかったらどうする?
加害者を特定することができれば、ひき逃げであっても損害賠償の支払いを求めることができます。
しかし、加害者が見つからなかった場合には、治療費などの損害を加害者に請求することができません。
こうなると、すべての費用を自己負担しなければならないのでしょうか?
自身が加入している保険の補償を受ける
加害者に損害賠償を請求できない場合、被害者自身が加入している傷害保険や任意自動車保険から保険金の支払いを受けられる可能性があります。
ただし、自転車にはねられた場合に保険金の請求ができるかどうか、あるいはどの程度のケガで保険金の支払いを受けられるかといった点は各保険会社によって異なる場合があります。
加入している保険の契約内容については、保険会社や代理店の担当者に確認しましょう。
政府保障事業による救済は受けられない点に注意
自動車にひき逃げされ、加害者が不明な場合利用できる制度として、「政府保障事業」というものがあります。
健康保険や労災保険など、他の社会保険の給付を受けてもなお補償しきれない損害がある場合に、自賠責保険の基準による一定の金額まで損害のてん補を受けることができるという制度です。
しかし、この政府保障事業は、加害車両が自賠責保険の対象であった場合しか利用できません。
自転車は軽車両であり、自賠責保険の対象外なため、自転車にひき逃げされた場合は政府保障事業を利用することができないのです。
このことから、自転車にはねられる事故においては、最初に説明した「加害者を特定できるようにしておく」という点が非常に重要といえます。
警察に捜査を求めるうえでの注意点
相手が自転車で、かつ特定できていなくても、ひき逃げの加害者に対して刑事告訴することは可能です。
しかし、自分で告訴状を作成して管轄の警察署に提出しても、受理してもらえない場合があります。
そのような場合の対応策として選択肢になるのが、交通事故に精通した弁護士に告訴状の作成を依頼することです。
ただ、自転車にはねられた事故で弁護士に相談するのは決して大げさなことではないとはいえ、弁護士費用の面が心配な方もいらっしゃるでしょう。
そこで、弁護士への依頼を検討するのであれば、一度ご自身やご家族の加入している任意自動車保険などに、弁護士費用を保険金でまかなうことができる「弁護士費用特約」がついていないか確認してみることをおすすめします。
この特約を使うことができれば、自己負担なく弁護士に依頼できる可能性があります。
ただし、保険契約の内容によっては弁護士費用特約が自動車事故にしか適用されないこともありえますので、もしものときのためにも任意保険の内容をしっかり確認しておきましょう。
まとめ
ひき逃げ事故に遭った場合、加害者を特定して損害賠償を請求できればベストですが、相手が分からないという不安もありますし、一人で考えてもどうすればいいのか分からないことが多いのではないかと思います。
そのような場合でも、交通事故に詳しい専門家に相談することで、被害を回復するために何をすればいいのかの筋道を立てることができます。
自転車によるひき逃げにより、治療が必要なケガを負った場合は、交通事故に精通した弁護士に一度相談してみることをおすすめします。
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