コラム
公開 2023.04.25

しなやかに、そして軽やかに。史上初の女性総理大臣への道
衆議院議員 野田聖子氏 インタビュー(前編)

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2023年現在、当選回数10回を数え「重鎮」となった野田聖子氏。女性議員としてではなく、人口減少社会や障害者支援の拡充に挑む一政治家として国内外で大きな存在感を放っている。
野田氏が国会議員となったのは1993年。根強い男性至上主義がはびこる政治の世界で成果を上げるのは並大抵のことではなかった。
「前編」では、野田氏が政治家を志したきっかけから衆議院議員選挙に初当選するまでをお届けする。

取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 取材協力/上野友香 Yuka Ueno
写真/西田周平 Shuhei Nishida

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岐阜弁で話す一本の電話が野田氏の運命を変えた

- 大学卒業後は帝国ホテルでホテルマンとしての基礎を徹底的に叩き込まれた。一流のスタッフによる一流のおもてなしを目の当たりにし、自分はこの先もここで成長していきたい。そしていつか、平凡な結婚をし家庭に入るだろう、そう思っていた人生が一本の電話から一変する。

野田 聖子氏(以下 野田氏):ある日、聞き慣れない岐阜弁の電話が来て言うんです。『私たちはあなたのおじいさんを応援していた』、『おじいさんが落選したことで、我々は地元で芽を失った。どうしてくれる』って。

- 野田氏の祖父、野田卯一氏は建設大臣や経済企画庁長官などを歴任した大物国会議員だった。しかし、1979年の第35回衆議院議員総選挙で落選すると、そのまま引退していた。

野田氏:また選挙に出るかと思ったら引退してしまったので、彼らは『自分たちははしごを外された』と怒っているんですよね。なんとか巻き返したい、だから政治の世界に入ってくれと口説かれたんです。

- 野田氏は幼い頃から政治的なトレーニングを受け、満を持して26歳で岐阜県議会選挙に出馬したというまことしやかな噂がある。しかし、これはまったくのデタラメだ。

野田氏:政治家の子どもって大きくふたつに分かれるんですよ。政治家である親を崇拝してその道に続く人と、徹底的な政治アンチになって近寄らない人と。私の父は後者だったんですね。そのおかげで政治家の良い面も悪い面も知らずに育ったんです。

- 政治についてはずぶの素人。右も左も分からない。ためらいしかない。

野田氏:『若い女性であることが大事なんだ」『お前はそこにいればいい、知恵はオレたちがつけるから心配するな』と言うんですよね。選挙のやり方から県議会での立ち居振る舞いまで、みんな指導する。面倒見るから、体一つで来いというのが口説き文句でした。

- 1980年代後半、野田氏の地元である岐阜県議会に女性議員はいなかった。若い女性となればなおさらだ。まずは若い女性議員を生み出すこと、そこに存在させることが大事なんだ、その訴えに最終的に野田氏が折れた。

野田氏:でもね、それで良かったといま振り返ると思うんです。最初から高い志を掲げていると周りが見えなくなってしまいますから。今も昔も、私のコンテンツは全部外から。国民からもらっているので、自分の感情や思いで動いていたら心が折れるだろうなって。
私は託されて、代弁しているにすぎないからやってこれたのかなと思います。

- 1987年、岐阜県議会議員選挙に自由民主党公認で立候補し、当時、史上最年少の26歳で当選。政治家への道を歩み始める。

「間違っていることは間違っている」。自分の心には嘘をつかない

野田聖子氏 インタビュー
- 野田氏の30年以上に及ぶ政治活動は苦難の歴史だった。最初の大きな苦難は1990年に早くも訪れる。
 
野田氏:岐阜県議会議員を3年務めた29歳のときでした。社会党(当時)の土井たか子さんを中心としたマドンナブームが吹き荒れて、女性議員に注目が集まりました。メディアも『女性議員=社会党』のように報じていて、自分が否定されているように感じたんです。あの頃、自民党の女性議員は衆議院にいなかったので『出たい』と、ここで初めて自分の意見を押し通したんです。

- 長年、欠員が続いていた自民党の女性衆議院議員を作りたい。しかし、自民党からの公認を得られず落選してしまう。

野田氏:私はもうこれで政治はいいかなと思ったんですよ。支援してくれる方々のなかでも意見が二分して、『もうかわいそうだから勘弁してやろう』という人と『ふざけるな、オレたちは命をかけて応援しているんだ。一生祟るぞ』という人とがいて。祟られるのは怖いなって(笑)。

- ならば、もう一回だけ衆議院議員選挙に立候補しよう、そう心に決めて選挙活動を再スタートする。野田氏が「もう二度とやりたくない」と語る日々が始まった。

野田氏:3年間で9万軒以上訪問して政策ブックレットを渡しに行くんですね。岐阜は田舎なので一軒一軒の距離が遠いんですよ。場所によっては山を越えて行くこともありました。歓迎もされないわけですよね。塩を撒かれたことや犬に噛まれたこともありましたよ。最後は歩きすぎてかかとが疲労骨折ですよ。アスリートみたいでしょ(笑)。

- 3年間の選挙活動は無事実を結び、1993年の第40回衆議院議員総選挙で当選。以後、当選回数10回を数えていくことになる。

<中編に続きます>

Profile

野田 聖子 氏

1960年福岡県北九州市出身。大卒後、帝国ホテルで勤務。1987年に岐阜県議会議員選挙に立候補。当時史上最年少の26歳で当選する。1993年の衆議院議員総選挙で当選、以後、当選10回を重ねる。1996年に第2次橋本内閣で郵政政務次官、1998年には小渕内閣で当時最年少の37歳で郵政大臣に抜擢される。以後、内閣府特命担当大臣、総務大臣など重職を歴任。現在は自由民主党情報通信戦略調査会長を務める。夫と長男との3人家族。

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