アメリカでは、感謝祭・ブラックフライデー・サイバーマンデーから始まるホリデーシーズンが、もっとも小売・Eコマースでものが売れるタイミングです。
サイバーウィークのEコマースの売上が、インフレ率を考慮するとマイナス成長になっていることが分かりました。
コロナ禍に急成長を遂げたアメリカのEコマースの売上停滞はどのような原因で起こっているのでしょうか?来年2023年のアメリカのEコマースの展望はどのようになるのでしょうか?
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アメリカのホリデーシーズンの小売・Eコマースの特徴
アメリカでは、伝統的に感謝祭(11月の第4木曜日)翌日の金曜日(ブラックフライデー)から年末セールが始まり、感謝祭の休暇中、実店舗は買い物客で混雑します。その後、感謝祭の休暇明けに自宅や職場に戻った人たちがオンラインショッピングをすることによって、次の月曜日にオンラインショップの売上が急増することから、サイバーマンデーと呼ばれています。
コロナ禍では、小売のオンライン化が進み、実店舗が主戦場だったブラックフライデーとオンラインが主戦場だったサイバーマンデーの垣根が事実上消え去り、感謝祭(木曜日)からサイバーマンデー(月曜日)までをまとめて「サイバーウィーク」と呼ぶ人も出てきています。
アメリカの小売は、第四半期(10-12月)に売上を大きく伸ばす企業が多く、決算を読み解く上では、第四半期の売上・利益を見逃すことは出来ません。
アメリカのEコマース売上、ホリデーシーズン大苦戦
2022年のホリデーシーズンのEコマース売上に大きくブレーキがかかったことが判明しました。
Adobe Analyticsによると、2022年のブラックフライデーの推計売上は、$9.12 billionと前年よりは増えたものの、前年同期比2.3%増という低成長にとどまっています。
サイバーウィーク全体で見ても同様のトレンドで、アメリカのEコマース売上は、1年で最も売れるはずのホリデーシーズンで大苦戦しています。
アメリカのEコマースは、2019年から2022年にかけて、コロナ禍で前年同期比20%以上増という急成長をとげました。多くの消費者が、コロナ感染を恐れて、実店舗ではなくオンラインでの購買を好んだためですが、2020年以降、オンラインショッピングの成長が停滞していることは明らかです。
2022年10月時点でのアメリカのインフレ率(正確にはConsumer Price Index, 消費者物価指数)は7.7%と依然として高いままで、物価が前年同期比で7.7%上がっている中で、売上が同2.3%しか増えていないわけですから、事実上のマイナス成長とも言えます。
インフレ率を少しでも抑えるために、フェデラル・ファンド金利を上げてきており、本稿執筆時点では、フェデラル・ファンド金利は4%にも達しています。
ローン購入や分割払いでの購入が(日本よりも)多いアメリカにおいて、これだけ短期間に金利がこれだけ急上昇しているのが、Eコマース売上の成長停滞に効いていることは間違いありません。
7.7%という(アメリカでは)異次元のインフレ、そして4%という高いフェデラル・ファンド金利のダブルパンチで、多くの消費者が財布の紐を閉めざるを得ないというのが2022年末時点でのアメリカの現状だと言えるでしょう。
2023年のアメリカEコマースはどうなる?
では、2023年のアメリカのEコマースはどうなるのでしょうか?
インフレと高金利が、Eコマース売上停滞の原因であるとすれば、これらが解決するまでは、Eコマースの再成長は戻ってこないと考えるのが自然でしょう。
2023年前半においても、(上昇スピードこそ遅くなると予想されていますが)金利上昇は続く見込みです。インフレを抑えるために金利を上げているわけなので、インフレ率が下がりはじめるまでは高金利を覚悟する必要がありそうです。
そう考えると、2023年のアメリカのEコマースの売上成長にはあまり期待できないと言えるのではないでしょうか。
実際、ナイキやアディダスは、2023年の製造量を30〜40%程度削減するという予想も出ています。
アメリカのEコマースにとって、冬の時代はしばらく続きそうです。
日本のEコマースも同じように苦戦するのか?
では、日本のEコマース業界もアメリカと同様に苦戦するのでしょうか?筆者は、2つの理由から、アメリカほどは苦戦しないと見ています。
1つ目に、コロナ禍でアメリカのEコマース率は、コロナ以前と比べて大きく上昇しました。(マッキンゼーによるとコロナ前の15%程度からコロナ禍では30%超まで急上昇)し日本では、アメリカに比べてEコマース化率が低かった上に、コロナ禍でもアメリカほどは上昇しておらず、コロナ後のより戻しも小さいのではないかと予想できます。
2つ目に、日本では、アメリカほどのインフレがまだ起こっていません。日本でも、コロナ前に比べてインフレ率が上がってくることは有り得ますが、7%を超えるアメリカほどの水準になるとは想像しにくく、その点でもEコマースへの打撃は限定的だと考えられます。
Profile
シバタ ナオキ 氏
元・楽天株式会社執行役員、東京大学工学系研究科助教、スタンフォード大学客員研究員。
東京大学工学系研究科博士課程修了(工学博士、技術経営学専攻)。
スタートアップを経営する傍ら「決算が読めるようになるノート」を連載中。