2022年以降、世界経済はどちらに進むのか?
いまやあらゆる産業・業界に密接に関連する世界的テクノロジー企業「GAFAM」の動向からメガトレンドを予測する。
合わせて日本が陥っている宿痾、停滞する経済状況から脱するためのヒントを、立教大学ビジネススクール教授の田中道昭氏に話を聞いた。
取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi
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22年のメガトレンドはモビリティとヘルスケア
― GAFAMの2022年以降の動静を教えて下さい。
田中道昭氏(以下、田中氏):巨大テクノロジー企業の代表とも言えるGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)。彼らは世界の多くの事業に影響を与えています。GAFAMの動向から、2022年以降のメガトレンドが見えてきます。
彼らの行動様式を3つの特徴でまとめました(図参照)。
田中氏: 日本は言うまでもなく人口減少かつ少子高齢化が進んでいます。
マーケットの縮小する中でも差別化戦略で勝ち抜いていく方法もありますが、それよりも経営者にとって重要なのはグローバルなメガトレンドをつかんで乗っかることでしょう。
注目されるメガトレンドのひとつがモビリティです。
車だけではなくて電気、電子、テクノロジー、金融、ほとんどすべての分野にオーバーラップする業界です。今後、全産業の勢力図を激変させる可能性があります。
ヘルスケアにも注目です。本格的にGAFAMも参入していますし、徹底したDXとAIの活用で、創業からわずか11年でコロナワクチンの2大供給元のひとつとなったモデルナのような企業も現れています。
ヘルスケア産業がGAFAMのDXで大きく変わっていくことが予測されます。
スマートフォンの次に来るものの最有力として、アンビエントコンピューティングも大きく進化していくでしょう。
AR(拡張現実)やMR(複合現実)などが、またフェイスブックが社名変更を行い注目を集めたメタバースも1年くらいトレンドとして使われる言葉となっていくでしょう。
― メガトレンドをつかむ以外に、特徴的なGAFAMの行動様式はありますか?
田中氏: 「人々の価値観の変化をつかむ」という点は私が最重要視しているところです。物事の進化を決めるのは最終的には人々の価値観です。
昨今ではそれが気候変動対策やサステナビリティとしてグローバルに影響を与えています。
メガトレンドと価値観の変化をつかんだ上で、経営者や日本企業に求められるのは、GAFAMのように「大胆なビジョンを描いて迅速に行動する」ことです。
別の言い方をすると目標を持つということが一番重要ではないかと考えています。
― 3つのうち、日本の経営者に不足している考え方はなんですか?
田中氏: 3つとも不足していると思います。企業の経営者についてはグローバルな視座が決定的に足りないと感じます。
残念ながら日本のほとんどの業界が国内のガラパゴス市場で安穏としています。
人口減と言いながらも1億人以上人口がいますから、良い意味でも悪い意味でも国内だけでビジネスが完結してしまいます。
日本の市場だけ見ていればビジネスができるわけですね。
日本のガラパゴス市場だけを見て、日本のローカル企業に成り下がっている会社が多い、あるいは日本のローカルビジネスパーソンに成り下がっている人が多いのが原因だと感じています。
― そんななか、昨年12月14日にトヨタがEV戦略を発表して話題となりました。これはメガトレンドをつかんだということでしょうか?
田中氏: まったく違います。つかんだのではなく、価値観の変化に抗せざるを得なかったということでしょう。
もともとモビリティはメガトレンドのひとつだし、その中でEVシフトは欧米や中国が仕掛けて先行していました。
一方でトヨタはEVシフトを推進すると業界そのものが崩壊してしまう。
トヨタは日本を守るためにEVに舵を切れなかったわけです。
ただ、さすがにここまで気候変動対策や脱炭素のムーブメントが来てしまうと、自分たちも本腰を入れて対応せざるを得なくなった。それが12月14日の発表ということでしょう。
「世界最大の企業がライバルだとしたら?」と考える
― 日本企業が世界から置いていかれる理由、成長できない理由はどこにあるとお考えですか?
田中氏: かつてはアメリカは短期主義、期間損益主義と言われたし、日本は比較的長い目で事業を成長させると言われましたが、現在では真逆に見えます。
上場企業レベルでは日本企業のほうが短期志向に陥っているし、サラリーマン経営者の場合、自分の任期期間にフォーカスせざるを得ないのですぐに結果を求めたがります。
一方、GAFAMは超長期志向です。日本企業では場合によっては1年で黒字化を求められることもあるでしょう。
しかし、大胆なビジョンを事業化するのに数年で黒字化などできるわけがありません。短期志向や視座の低さが影響しているのではないかと思います。
― 少子高齢化、依然続くガラパゴス化から脱却し飛躍するために経営者に求められることはなんですか?
田中氏: 目標を立てるということでしょう。目標ができることですべて変わりますから。
たとえばテスラが目標だ、ライバルだと思ったらすべてが根本的に変わるわけじゃないですか。
国外の状況、他業種の情報を積極的に取り入れる必要もあるでしょう。たとえば、かつては金融マンなら金融業界の勉強だけしておけばよかったわけです。
しかし、現在の金融にはフィンテックが大きな影響を及ぼしますから、テクノロジーの知識がないと未来予測なんてできるわけがない。これはすべての業界がそうなっています。
国内だけ、業界内だけの視座だけでは、今後苦しくなっていくのは間違いありません。
― 昨年は「日本は30年間給料が上がっていない」と報道され衝撃が広がりました。
田中氏: 30年間にもわたって給料が上がらないというのは異常事態ですよ。
ですから、先進的な経営者たちが社員の給料を上げないといけないと言い出したのは、大変良いことだと思っています。
最近、パーパスやミッション、やりがいだけで人を動かそうとする企業や経営者が多く見られますが、私は絶対におかしいと思っています。
あまりにもそれだけで人を動かそうとしている企業が多い。経営者は給料を上げろと。
その分は人を減らすことで調整するのではなく、先に給与を上げて、それに相応しい生産性や業績にしていくような気概をもつようなリーダーシップが求められていると思います。
Profile
田中道昭(たなか・みちあき)
シカゴ大学経営大学院MBA、テレビ東京WBSコメンテーター。
専門は企業戦略&マーケティング戦略およびミッション・マネジメント&リーダーシップ。
三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)などを経て、
現在は株式会社マージングポイント代表取締役社長。
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