デジタル庁では、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を。」をミッションに掲げている。
「誰ひとり取り残さないデジタル化というところにイノベーションがある」と語る平井氏に、
前編に引き続き、デジタル庁の特徴や目指す姿、今後の取り組みなどについて話を聞いた。
取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 写真/板山哲也 Tetsuya Itayama
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アナログの大切さを知っているからこそ、デジタルの恩恵を正しく定義できる
- 日本のみならず世界が大きく変革を求められた2020年、コロナ禍以降の社会。日本のデジタル化を推進するデジタル庁が、そのような時期に誕生したのは運命の巡り合わせなのかもしれない。
平井 卓也氏(以下、平井氏):今回のパンデミックは、後に歴史が検証するでしょうけれども、まさに100年1回の大変革期だと思います。こんなに大きく変わるチャンスは、我々が生きている間にはもうないと思うんですよね。いまは守るときではなく、チャレンジする。変化の中に活路を見出すことが企業にも求められると感じています。日本の企業はまさかのときのディフェンスを考えることには長けているのですが、いまは変化に対応できなければ飲み込まれてしまう時代です。チャレンジこそ最大の防御と言っていいでしょう。
- 国会において、一貫して日本のデジタル化に取り組んできた平井氏だが、だからこそ痛感していることもある。アナログの大切さを知っているからこそ、デジタルの恩恵を正しく定義できる。
平井氏:デジタル社会とは何か。デジタルが上手く実装されて、我々が生きている空間の選択肢が増えて、より安全でより幸せになることがデジタル社会が目指す方向性だとしたら、人が人を助けるとか、幸せを感じる空間というのはアナログ空間なんですよね。人間のインターフェイスがアナログである以上は。たとえばこのコロナ禍で、介護の現場や看護師さん、マッサージ屋さんとか、お医者さんもそうですね。エッセンシャルワーカーと呼ばれた皆さんの仕事はデジタルには置き換えられないんです。これは人間がアナログの存在である以上、永久に無くならないと思います。
そうすると、そういったサービスの価値が相対的に上がったと思うんですよね。たとえば美味しい料理を作る店というのは、デジタルに変わらないので、価値が上がる。ライブやエンタテインメントも、ネットでいくら見たってダメで、空間の中に身を置いて初めて楽しめる。今後、そういった仕事に就いている人たちの価値が上がっていくでしょう。それらが正当に評価される社会になっていくんじゃないかと思います。
誰ひとり取り残さない、人に優しいデジタル化を
- デジタル庁では、「誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化を。」をミッションに掲げている。このミッションには、付随して「一人ひとりの多様な幸せを実現するデジタル社会を目指し、世界に誇れる日本の未来を創造します。」との一文が添えられている。
平井氏:今回、『誰ひとり取り残さない人に優しいデジタル化を。』というのをデジタル庁の憲法とも言えるデジタル社会形成推進基本法のなかに盛り込みました。IT基本法を廃止してまで、です。これを真正面から真面目に言っている国は日本しかないと思います。私は、誰ひとり取り残さないデジタル化というところにイノベーションがあると思っているんです。世界各国の取り組みを見ても、この部分がどの国でも最後に問題になっています。
いろんな機器のインターフェイスを作成するにあたって、デジタル庁では全盲のエンジニアも当初から採用して考えてきました。高齢化や、地理的なハンデ、お金がないことも含めたハンデも、誰ひとり漏らさずデジタル化のメリットを受けられるようにする。そのためには、アナログの世界とのシームレスな連携が必要なんです。これは台湾のオードリー・タンさんもまったく同じ意見で、末端の人に無理やりスマホを買え、パソコンを買えというのではなく、人が代替して助けてあげられる社会を実現する。それでデジタルのメリットを提供することを考えないといけないと思っています。
- 平井氏は宿願でもあったデジタル庁の創設を見届け、次のミッションに取り組んでいる。次世代のデジタル庁人材の育成だ。
平井氏:2代目大臣の牧島かれんさん、副大臣の小林史明さん、大臣政務官の山田太郎さんは、私がデジタル社会推進特別委員長だったときの事務局を担っていただいた3人なので、デジタル庁のミッション、ビジョン、バリューを明確に分かっているんですよね。今後も、これらの理念について分かっている人を送り込まないとうまく機能しないと思います。人材を送り込むために、私がデジタル社会推進本部の本部長になって、次世代の人材を作っていきたいと思っています。当選回数が多くなってきたから、この人に大臣をやってもらおうではまったく務まらないんですよ(笑)。私のこれからの役割は、人材を作ることですね。
- スタートアップ企業同様、創設者の明確な理念が柱となり、枝葉についてはその時々の状況や問題に合わせて柔軟に対応していく。日本初の非霞ヶ関的省庁が国内に生み出すイノベーションに、今後も期待したい。
Profile
平井 卓也氏
1958年香川県高松市出身。上智大学外国語学部英語学科卒業後、広告代理店勤務を経て1987年から西日本放送代表取締役社長。
2000年の第42回衆議院議員総選挙で政界に転じ、以後、自民党内でデジタル政策を推進していく。IT担当大臣、デジタル改革担当大臣、初代デジタル大臣などの要職を歴任。
趣味は読書、陶芸、卓球、サッカー、ギター。