一定の取引を行う事業者は、特定商取引法を理解し遵守しなければなりません。
特定商取引法の対象となるのは、どのような取引なのでしょうか?
また、特定商取引法ではどのような規制が定められているのでしょうか?
今回は、特定商取引法の概要や規制対象となる取引などについて、弁護士がくわしく解説します。
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特定商取引法とは
特定商取引法とは、事業者による違法・悪質な勧誘行為などを防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。
特定商取引法の1条では、目的について次のように定められています(特定商取引法1条)。
- この法律は、特定商取引(訪問販売、通信販売及び電話勧誘販売に係る取引、連鎖販売取引、特定継続的役務提供に係る取引、業務提供誘引販売取引並びに訪問購入に係る取引をいう。以下同じ。)を公正にし、及び購入者等が受けることのある損害の防止を図ることにより、購入者等の利益を保護し、あわせて商品等の流通及び役務の提供を適正かつ円滑にし、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
特定商取引法では、特に消費者トラブルに発展しやすい7つの取引類型を「特定商取引」として定め、これらの取引を行う事業者に対してさまざまな規制を設けています。
事業者は、自社の展開するビジネスのなかに「特定商取引」があるか否かをまず確認したうえで、特定商取引をする場合にはこの法律の義務を遵守しなければなりません。
なお、消費者取引を展開する場合には、特定商取引法のほか、消費者契約法などにも注意を払うべきでしょう。
特定商取引の対象となる7つの取引類型
特定商取引法はすべての消費者取引を対象としているわけではなく、一定の「特定商取引」に該当する者だけが対象とされています。
ここでは、特定商取引法において「特定商取引」と定義されている7つの類型について、「特定商取引法ガイド」を参照しつつ概要を解説します。※1
訪問販売
1つ目は、訪問販売です。
訪問販売とは、事業者が消費者の自宅などに訪問して、商品や権利の販売、役務の提供を行う契約をする取引類型です。
「訪問販売」でまず想起されるのは、消費者の住居や勤務先をセールスマンが訪問して販売するものでしょう。
しかし、これに限らず、喫茶店や路上での販売も訪問販売に該当します。
また、ホテルや公民館などでの販売であっても、その場所を一時的に借りるなどして行われる展示販売であり、期間や施設等からみて店舗に類似するものとは認められないものも該当します。
また、事業者の営業所などで締結された契約であっても、訪問販売に該当することがあります。
たとえば、次の場合には訪問販売に該当する可能性が高いでしょう。
- 路上などで消費者を呼び止め、営業所などに同行させて契約を締結させた場合(いわゆるキャッチセールス)
- 電話や郵便、SNSなどで販売目的を明示せずに消費者を営業所などに呼び出して契約を締結させた場合
- 「あなたは特別に選ばれました」など、他の者に比べて著しく有利な条件で契約できると消費者を誘い、営業所などで契約を締結させた場合
「1」は、いわゆる「キャッチセールス」、「2」と「3」はいわゆる「アポイントメントセールス」です。
「事業者がこちらから自宅などに出向かなければ訪問販売ではない」「消費者が営業所などに来たなら訪問販売とはなり得ない」はいずれも誤解であるため注意が必要です。
通信販売
2つ目は、通信販売です。
通信販売とは、事業者が新聞や雑誌、インターネットなどで広告し、郵便、電話などの通信手段によって申込みを受ける取引形態です。
ただし、次で解説する「電話勧誘販売」に該当するものは除かれます。
昨今、インターネット通販が非常に活発に行われており、いわゆるECサイトを介しての取引などは原則としてすべてこの通信販売に該当します。
また、消費者に対してカタログやダイレクトメールなどを送り、これを見た消費者が電話やFAXなどで申し込む従来の遠隔取引もこの通信販売の一つです。
電話勧誘販売
3つ目は、電話勧誘販売です。
電話勧誘販売とは、事業者が電話で勧誘し、申込みを受ける取引形態です。
なお、事業者がかけた電話でそのまま申込みを受ける場合のみならず、電話を一旦切った後、消費者が郵便や電話などで申込みをする場合も電話勧誘販売に該当します。
このように、事業者からの電話を契機として契約を締結する取引が、電話勧誘販売です。
ただし、消費者側から電話を掛けた場合であっても、次の場合には電話勧誘販売に該当するとされています。
- 電話、郵便、信書便、電報、FAX、メールなどの電磁的方法、ビラやパンフレットの配布などで、契約の締結について勧誘するためのものであることを告げずに電話をかけることを要請した場合
- 電話、郵便、信書便、電報、FAX、メールなどの電磁的方法により、他の者に比して著しく有利な条件で契約を締結できることを告げ、電話をかけることを要請した場合
連鎖販売取引
4つ目は、連鎖販売取引です。
連鎖販売取引とは、個人を販売員として勧誘し、さらにその個人に次の販売員の勧誘をさせるという形で、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品や権利、役務の取引形態です。
いわゆる「マルチ商法」がこれに該当します。
マルチ商法が直ちに違法となるわけではないものの、嘘をついたり威迫(※人をおどしたり不安を感じさせたりして、従わせようとすること)して困惑させたりして勧誘すると、特定商取引法に違反します。
特定継続的役務提供
5つ目は、特定継続的役務提供です。
これは、長期・継続的な役務の提供と、これに対する高額の対価を約する取引形態を指します。
他の取引類型とは異なり、この特定継続的役務適用取引だけは、対象が次の7業種に限定されています。
- エステティック
- 美容医療
- 語学教室
- 家庭教師
- 学習塾
- 結婚相手紹介サービス
- パソコン教室
業務提供誘引販売取引
6つ目は、業務提供誘引販売取引です。
これは、「仕事を提供するので収入が得られる」という口実で消費者を誘引し、仕事に必要であるとして商品などを販売し、金銭負担を負わせる取引形態です。
たとえば、次のものなどがこれに該当します。
- 販売されるパソコンとコンピューターソフトを使用して行うホームページ作成の在宅ワーク
- 販売される着物を着用して展示会で接客を行う仕事
- 販売される健康寝具を使用した感想を提供するモニター業務
- 購入したチラシを配布する仕事
- ワープロ研修という役務の提供を受けて修得した技能を利用して行うワープロ入力の在宅ワーク
訪問購入
7つ目は、訪問購入です。
訪問購入とは、購入業者が、消費者の自宅など店舗等以外の場所で契約を締結等して行う物品の購入取引です。
消費者の自宅に出向いて、着物や貴金属、楽器などを買い取るサービスなどが該当します。
特定商取引法の主な規制内容
特定商取引法では、取引形態ごとにさまざまな規制が設けられています。
ここでは、各取引に共通して規定されている主な規制内容について、概要を解説します。
実際に特定商取引を行おうとする際は、その取引類型ごとの規制内容や書面への記載内容などを十分ご確認ください。
氏名等の明示の義務付け
1つ目は、氏名等の明示の義務付けです。
特定商取引をしようとする際は、あらかじめ氏名(名称)や勧誘目的であることを告げなければなりません。
特に、訪問購入では購入しようとする物品の種類まで明示する必要があるため注意が必要です(同58条の5)。
不当な勧誘行為の禁止
2つ目は、不当な勧誘行為の禁止です。
特定商取引においては、不当な勧誘行為をしてはなりません。
不当な勧誘行為とは、次の行為などです。
- 価格や支払条件等について嘘の告知をすること
- 価格や支払条件等について故意に告知しないこと
- 消費者を威迫して困惑させること
広告規制
3つ目は、広告規制です。
特定商取引について広告をする際は、所定の重要事項を表示しなければなりません。
また、虚偽や誇大な広告が禁止されています。
書面交付義務
4つ目は、書面交付義務です。
特定商取引に係る契約を締結する際は、所定の重要事項を記載した書面を交付しなければなりません。
なお、特定商取引法には、一定期間は消費者側から一方的に契約を解除できる「クーリング・オフ」に関する規定が設けられています。
このクーリング・オフに関する事項も書面に記載すべき事項の一つであり、その書面が交付された時点からクーリング・オフができる期間のカウントがスタートします。
特定商取引法に違反するとどうなる?
特定商取引法に違反した場合、どのような事態が生じるのでしょうか?
ここでは、違反時に生じ得る主な事態をまとめて紹介します。
行政処分の対象となる
特定商取引法に違反した場合、行政処分の対象となります。
具体的には、業務改善指示や業務停止命令、業務禁止命令などがなされる可能性があります。
業務停止や業務禁止が命じられればその間の事業収入が途絶えることとなり、事業者にとっては厳しい処分といえるでしょう。
刑事罰の対象となる
特定商取引法に違反した場合、刑事罰の対象となる可能性があります。
たとえば、勧誘時に不実の内容を告げた場合や業務停止命令に違反した場合などには、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの併科の対象となります(同70条)。
また、所定の書面を交付しなかった場合は、6か月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこれらの併科に処されます(同71条)。
これに加え、法人の業務の一環として違反が行われた場合は、法人も一定の罰金刑の対象となることがあります。
法人への罰金刑は「3億円以下」や「1億円以下」など高額に設定されているものも多いため、注意が必要です(同74条)。
クーリング・オフの期間カウントが進行しない
先ほど解説したように、通信販売以外の特定商取引には、原則として クーリング・オフの規定が適用されます。
クーリング・オフができる期間には、その取引類型に応じて「8日以内」( 訪問販売・電話勧誘販売・特定継続的役務提供・訪問購入)や「20日以内」(連鎖販売取引・業務提供誘引販売取引)などの制限があるものの、このカウントが開始されるのは、消費者が所定の書面を受け取った時点です(同9条など)。
つまり、契約が成立していたとしても、事業者が所定の書面を交付していない場合やその書面にクーリング・オフについて正しく記載されていなかった場合などには、いつまでもクーリング・オフの期間カウントが進行しないこととなります。
そのため、事業者が特定商取引法に違反して所定の書面を交付しなかった場合などには、契約から非常に長い期間が経ってからクーリング・オフがなされる事態となりかねません。
消費者から一方的に契約が取り消される
特定商取引法に違反をして不実告知などを行った場合、たとえクーリング・オフ期間を経過していても、消費者から一方的に契約を取り消される可能性があります(同9条の3など)。
つまり、事業者としては長期に渡って契約が解除されるリスクを抱え続けることとなり、資金繰りの計画が立てづらくなります。
企業が特定商取引法に違反しないための対策
企業が特定商取引法の違反しないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
最後に、違反を避けるための対策を3つ解説します。
自社の事業が対象取引であるか否かをよく確認する
1つ目は、自社の事業が特定商取引法の対象であるか否かをよく確認することです。
先ほど解説したように、「訪問販売」は必ずしも事業者が自宅などに出向く場合だけを指すのではなく、いわゆるキャッチセールスやアポイントメントセールスも対象となります。
このように、対象類型のタイトルだけを見ていては内容までの理解は困難であり、誤解の原因となりかねません。
それぞれの取引類型の内容や定義を十分確認したうえで、自社の事業が対象であるか否かを慎重に判断することが、違反を避ける第一歩目となります。
従業員研修を実施する
2つ目は、従業員研修を実施することです。
特定商取引法を遵守するには、実際に消費者と接する従業員が規制内容を理解していなければなりません。
そのため、企業が特定商取引法を遵守するには、定期的に研修を開催するなどして従業員の理解を深めることが不可欠です。
契約書の作成時は弁護士のサポートを受ける
3つ目は、契約書や消費者へ提示する書面などを作成する際に弁護士のサポートを受けることです。
特定商取引法には、クーリング・オフ など契約時に書面で提示すべき事項が多く設けられています。
弁護士のサポートを受けて書面を整備しておくことで、必要な記載事項が漏れ特定商取引法に違反する事態を避けやすくなります。
なお、消費者と締結する契約では、消費者契約法や個人情報保護法などにも注意する必要があります。
この点からも、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
まとめ
特定商取引法の概要や対象となる取引類型、違反時の罰則などを解説しました。
特定商取引法は、一定の「特定商取引」を対象とする法律です。
自社の事業が特定商取引に該当するか否かを確認したうえで、該当する事業がある場合には遵守体制を整備しましょう。
特定商取引法などへの遵守体制の整備は、弁護士のサポートを受けて行うことをおすすめします。
Authense法律事務所では、企業法務に特化した専門チームを設けており、特定商取引法にまつわるリーガルサポートについても豊富な実績があります。
特定商取引法への遵守体制を整備したい際や、特定商取引法に関してトラブルが生じてお困りの際などには、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。