コラム
公開 2024.11.06 更新 2024.11.07

単体5284_新規_不正競争防止法とは?罰則や企業が知っておくべき内容を弁護士がわかりやすく解説

「不正競争防止法」は、すべての事業者に関連する法律の一つです。

では、不正競争防止法では、どのような行為を「不正競争」と定めているのでしょうか?
また、不正競争防止法に違反した場合には、どのようなリスクが生じるのでしょうか?

今回は、不正競争防止法の概要や「不正競争」の内容、違反した場合の罰則などについて、弁護士がくわしく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(千葉県弁護士会)
千葉県弁護士会所属。中央大学法部法律学科卒業、一橋大学法科大学院修了。不動産法務を中心に取り扱うほか、一般民事事件をはじめとする幅広い分野への意欲を持つ。
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不正競争防止法とは

はじめに、不正競争防止法の概要を解説します。

不正競争防止法の目的

不正競争防止法の目的は、国民経済の健全な発展に寄与することです。
この目的を達成するには、事業者間の公正な競争と、これに関する国際約束の的確な実施が確保されなければなりません。

事業者同士による適正な競争が実現すれば、各事業者が消費者から選ばれるために企業努力や工夫を重ね、結果的に経済が健全に発展します。

反対に、たとえば企業努力を重ねてようやく開発した技術が盗まれたり、ようやく完成したデザインを他社に模倣されたりする事態がまかり通れば、経済の健全な発展が妨げられてしまうでしょう。

そこで、不正競争防止法では不正競争の防止と、不正競争に係る損害賠償に関する措置などを定めています(不正競争防止法1条)。

不正競争防止法の位置づけ

不正競争防止法は、不正競争を防止するとの観点から、さまざまな法律の規定を補完する役割を担っています。

不正競争防止法に抵触する「不正競争」は、他の法律にも違反するものが少なくありません。

たとえば、次で解説する不正競争のうち「著名表示冒用行為」は、商標法にも違反することが多いでしょう。

しかし、商標法の保護対象となるのは原則として登録を受けた商標のみであり、登録を受けていないものは保護対象から外れてしまいます。
不正競争防止法では、商標登録を受けていない場合であっても保護の対象となります。

同様に、各不正競争は不法行為にあたることも多く、民法上の損害賠償請求の原因となります。
ただし、民法では不法行為について差止請求(その行為を止めるよう請求すること)はできません。

一方、不正競争防止法では損害賠償請求のほか、差止請求も可能となっています。

このように、不正競争防止法は他の法律を補完する役割を担っています。

不正競争防止法で規定された「不正競争」とは

不正競争防止法では、「不正競争」について定義しています。
ここでは、不正競争防止法による不正競争を紹介します。

周知表示混同惹起行為

1つ目は、周知表示混同惹起行為です(同法2条1項1号)。
周知表示混同惹起行為とは、他人の商品・営業の表示(商品等表示)として需要者の間に広く認識されているものと同一または類似の表示を使用し、その他人の商品・営業と混同を生じさせる行為です。

ここでいう「需要者」とは商品の取引の相手方を指し、最終消費者のみならず各段階の取引事業者も含まれるとされています。

また、全国的に「広く認識」されていることまでは求められず、ある地域で広く認識されていることでも足ります。
なお、「商品等表示」とは次の表示を指します。

  • 業務に係る氏名・商号・商標・標章
  • 商品の容器・包装
  • その他の商品または営業を表示するもの

たとえば、次の行為などが周知表示混同惹起行為に該当します。

     

  • ソニー株式会社の有名な表示である「ウオークマン」と同一の表示を看板などに使用したり「有限会社ウォークマン」という商号として使用したりすること
  •  

  • 広く認識された他社の飲料パッケージに類似した製品を販売すること
  • 有名コーヒーチェーンの「珈琲所コメダ珈琲店」と類似する店舗外観を使用すること
  • 特徴的な形状をした他社のバッグと、外観が類似した製品を販売すること

つまり、需要者がよく知られた他社製品と間違えて買ったり、よく知られた他店と間違えて入店したりすることを誘発させるような行為が規制対象とされています。

著名表示冒用行為

2つ目は、著名表示冒用行為です(同法2条1項2号)。

著名表示冒用行為とは、他人の商品・営業の表示(商品等表示)として著名なものを、自己の商品・営業の表示として使用する行為です。

周知表示混同惹起行為とは異なり、全国的に需要者以外にもよく知られていることが求められます。
たとえば、次の行為などが著名表示冒用行為に該当します。

     

  • 任天堂の「MARIO KART」や「マリオ」などと類似する「MariCar」、キャラクターコスチュームなどの表示を使用すること
  • 三菱の名称や、三菱標章(スリーダイヤのマーク)を、三菱グループやこれに属する企業以外が使用すること
  • Louis Vuittonの著名なモノグラムデザインを、無断で自社製品に使用すること

このように、著名な製品や企業の商標を無断で使用する行為が、著名表示冒用行為として規制されています。

形態模倣商品の提供行為

3つ目は、形態模倣商品の提供行為です(同法2条1項3号)。
形態模倣商品の提供行為とは、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡などする行為です。
人気のあるおもちゃと形態の似たおもちゃを模倣して販売する行為や、特徴的な形状の衣服と形状の似た衣服を模倣して販売する行為などがこれに該当します。

形態模倣行為は意匠法侵害ともなり得るものの、不正競争防止法では、意匠権の登録を受けていなくても保護対象となります。

営業秘密の侵害

4つ目は、営業秘密の侵害です(同法2条1項4号から10号)。
営業秘密の侵害とは、窃取などの不正な手段によって営業秘密を取得し、自ら使用し、もしくは第三者に開示する行為などです。

営業秘密には、次のものなどが該当します。

  • 営業情報:顧客名簿、新規事業計画、価格情報、対応マニュアルなど
  • 技術情報:製造方法、ノウハウ、新規物質情報、設計図面など

ただし、保護の対象とされるには、次の要件をすべて満たさなければなりません。

  1. 秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の情報であること
  2. 事業活動に有用な技術上または営業上の情報であること
  3. 公然と知られていない情報であること

限定提供データの不正取得等

5つ目は、限定提供データの不正取得等です(同法2条1項11号から16号)。

限定提供データの不正取得等とは、窃取などの不正の手段によって限定提供データを取得し、自ら使用したり第三者に開示したりする行為を指します。

限定提供データとは対象を限定して提供されるデータであり、企業間で複数者に提供や共有されることで新たな事業の創出につながったりサービス製品の付加価値を高めたりするなど、その利活用が期待されているデータです。

限定提供データとして保護を受けるためには、次の3つの要件を満たさなければなりません。

  1. 業として特定の者に提供する情報であること
  2. 電磁的方法により相当量蓄積されていること
  3. 電磁的方法により管理されている技術上または営業上の情報(秘密として管理されているものを除く)であること

技術的制限手段無効化装置などの提供行為

6つ目は、技術的制限手段無効化装置などの提供行為です(同法2条1項17号、18号)。

技術的制限手段無効化装置などの提供行為とは、技術的制限手段により制限されているコンテンツの視聴や記録、プログラムの実行、情報の処理を可能とする(技術的制限手段の効果を無効化する)装置やプログラム、指令符号、役務を提供などする行為です。

たとえば、ファイル共有ソフトを使って、B-CASカードを不正に改変してテレビの有料放送を無料で見られるようにするプログラムをインターネット上に公開し提供することなどがこれに該当します。

ドメイン名の不正取得等の行為

7つ目は、ドメイン名の不正取得等の行為です(同法2条1項19号)。

ドメイン名の不正取得等の行為とは、図利加害目的で他人の商品・役務の表示(特定商品等表示)と同一・類似のドメイン名を使用する権利を取得・保有したり、そのドメイン名を使用したりする行為です。

たとえば、原告の商号である「電通」と類似する「dentsu.org」など8つの「dentsu」を含むドメイン名を取得・保有し、原告に10億円以上の金員で買い受けるように通告する行為などがこれに該当します。

誤認惹起行為

8つ目は、誤認惹起行為です(同法2条1項20号)。

誤認惹起行為とは、商品・役務またはその広告などに、その原産地、品質・質、内容などについて誤認させるような表示をする行為や、その表示をした商品を譲渡などする行為です。

たとえば、富山県氷見市内で製造もされず、その原材料が氷見市内で産出されてもいないうどんに「氷見うどん」などの表示を付して販売する行為などがこれに該当します。

信用毀損行為

9つ目は、信用毀損行為です(同法2条1項21号)。

信用毀損行為とは競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知し、または流布する行為です。

たとえば、枕、マットレスなどの輸入販売を行う被告が、ネット通販サイト運営者に対して、原告の商品が被告の商標権を侵害するものであるなどと虚偽の告知をする行為などがこれに該当します。

代理人などの商標冒用行為

10個目は、代理人などの商標冒用行為です(同法2条1項22号)。
代理人などの商標冒用行為とは、パリ条約の同盟国などにおいて商標に関する権利を有する者の代理人が、正当な理由なくその商標を使用などする行為を指します。

条約で禁止されている不正競争行為

不正競争行為には、条約で禁止されているものもあります。

ここでは、国際条約で禁止されている不正競争行為について、その概要を解説します。

外国の国旗などの商業上の使用禁止

外国の国旗や紋章、外国政府などの印章、記号のうち一定のものを商標として使用することは禁止されています。

また、外国紋章を、原産地を誤認させるような方法で使用することもできません。

国際機関の標章の商業上の使用禁止

国際機関の標章のうち一定のものを、その国際機関と関係があると誤認させるような方法で、商標として使用することは禁止されています。

国際機関の標章とは、国際連合の標章や世界貿易機関(WTO)の標章、国際オリンピック委員会(IOC)の標章などです。

外国公務員等への贈賄

外国公務員などに対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、贈賄などをすることは禁止されています。

なお、金銭や物品が少額であるからといって、処罰を免れるというわけではありません。

不正競争防止法に違反をした場合のリスク

不正競争防止法に違反した場合、どのようなリスクが生じるのでしょうか?
ここでは、主なリスクについて解説します。

刑事罰の適用対象となる

不正競争防止法に違反すると、刑事罰の対象となります。

なかでも「営業秘密の侵害」は特に刑が重く設定されており、10年以下の懲役または2,000万円以下の罰金の対象となるほか、これらが併科されることもあります(同法21条1項)。

これ以外の侵害行為の刑罰は、原則として5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはこれらの併科です(同法21条3項)。

これに加え、不正競争防止法違反が法人の業務の一環としてなされた場合は行為者が罰せられるほか、法人も罰金刑の対象となります。

法人の罰金刑は違反内容に応じて「10臆円以下」や「5億円以下」など、非常に高く設定されています(同法22条1項)。

また、一定の違反行為によって得た財産については、上限無く没収できるとされている点にも注意が必要です(同法21条13項)。

民事上の請求がなされる

不正競争防止法に違反した場合、民事上の請求の対象となります。
主な民事上の請求は次のとおりです。

  • 損害賠償請求
  • 差止請求
  • 信用回復措置請求

損害賠償請求

損害賠償請求とは、不正競争によって生じた損害を賠償するよう求めることです。

とはいえ、不正競争による損害額を立証することは容易ではありません。
そこで、不正競争防止法では、損害額の推定規定が設けられています。

差止請求

差止請求とは、不正競争による利益侵害がなされているときや利益侵害がなされるおそれがあるときに、不正競争行為などを辞めるよう求めることです。

不正競争防止法では、次の請求が可能です(同法3条)。

  1. 侵害行為の停止の請求
  2. 侵害のおそれのある行為をする者に対する侵害の予防の請求
  3. 侵害行為を組成した物(侵害行為によって作成された物など)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却、その他の侵害の停止・予防に必要な措置の請求

信用回復措置請求

信用回復請求とは、不正競争によって営業上の信用を害された場合に、その信用を回復するための措置を求めることです。
たとえば、謝罪広告の掲載を求めることなどがこれに該当します。

企業の信頼が失墜する

不正競争防止法に違反すると、企業の信頼が失墜するおそれがあります。

いったん毀損した信用を回復することは、容易ではありません。
このような事態を避けるため、企業は不正競争行為に手を染めないよう、十分に対策を講じるべきでしょう。

不正競争防止法を遵守するための対策

不正競争防止法を遵守するには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
最後に、企業が不正競争防止法を遵守するための主な対策を2つ紹介します。

どのような行為が「不正競争」にあたるか理解する

1つ目は、どのような行為が「不正競争」にあたるのかを正しく理解することです。

先ほど解説したように、不正競争防止法では「不正競争」を非常に広く定義しています。
これらを正しく理解したうえで、知らず知らずのうちに不正競争にあたる行為をしてしまわないよう注意しましょう。

また、経営陣だけが不正競争についての意識を高めていても、従業員が不正競争に無頓着であれば、経営陣が気付かない間にある部署などで不正競争が起きてしまうかもしれません。

そのような自体を避けるため、他の法令などと併せて、定期的にコンプライアンス研修を実施するとよいでしょう。

迷う場合はあらかじめ弁護士へ相談する

2つ目は、弁護士へ相談する体制を構築することです。

自社の行為が不正競争にあたるか否か、判断に迷うこともあるでしょう。
このような困りごとは、インターネットで検索して簡単に答えが見つかるものではありません。

無理に自社だけで判断しようとすれば、判断を誤り不正競争にあたる行為をしてしまうおそれが高くなります。

そのような事態を避けるため、判断に迷う場合には、あらかじめ弁護士へご相談ください。
弁護士へ相談することで、不正競争行為を未然に防ぐことができるほか、不正競争にあたる可能性が低いと判断された場合は安心して業務を進行することが可能となります。

まとめ

不正競争防止法の概要や「不正競争」にあたる行為を紹介するとともに、違反した場合のリスクや違反を避ける対策などについて解説しました。

不正競争防止法では「周知表示混同惹起行為」や「営業秘密の侵害」など不正競争の類型を定義したうえで、違反した場合の罰則などを定めています。

不正競争行為をしてしまうと、罰則の適用対象となるほか、損害賠償請求など民事上の責任を追及される可能性が生じます。

どのような行為が「不正競争」にあたるかを理解したうえで、不正競争行為をしないよう十分に注意しましょう。

Authense法律事務所では、企業法務に特化した専門チームを設けており、不正競争防止法など法令違反を防ぐ体制構築についても多くのサポート実績があります。

不正競争防止法など各法令に違反しない体制を構築したい場合や、他社の不正競争行為により被害を被っている場合などには、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。

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