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消費者契約法とは
消費者契約法とは、消費者の利益の擁護をはかるための法律です。
これにより、国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的としています(消費者契約法1条)。
契約の基本ルールを定める民法では、「契約自由の原則」を設けています。
つまり、たとえ一方に不利益な内容であったとしても、公序良俗に反するものなどでない限り、当事者が合意すれば成立させられるということです。
しかし、この原則を消費者契約にそのまま当てはめてしまうと、消費者が不利益を被るおそれが高くなります。
なぜなら、消費者と事業者の間には、情報の質や量、交渉力などの格差があることが一般的であるためです。
そうであるにもかかわらず、契約自由の原則をそのまま当てはめて「契約したのだから一方的には取り消せません。取り消すのであれば、契約書の記載どおり多額の違約金を支払ってください」となると、健全な経済発展の妨げとなるでしょう。
このような状況では、消費者をうまく丸め込もうとする事業者が跋扈(ばっこ)するおそれがあり、消費者が安心して契約を締結することができないためです。
そこで、消費者契約法では次の3つの規定から、消費者の利益保護をはかっています。
- 不当な勧誘により締結した契約は、後から「取消し」できる旨
- 消費者の利益を不当に害する契約条項は、「無効」となる旨
- 事業者に対する「努力義務」
消費者契約を行う事業者の立場では、消費者契約法を遵守しなければ後から一方的に契約が取り消される可能性が生じたり、契約条項が無効となったりすることに注意しなければなりません。
消費者契約法の対象となる契約
消費者契約法の対象となるのは、あらゆる消費者契約です。
消費者との契約に関連する法律としてよく比較されるものに「特定商取引法」があり、こちらは対象となる契約類型が限定されています。
消費者契約法は、特定商取引法と異なり対象となる契約類型は限定されていないため、混同しないようご注意ください。
消費者契約法で消費者が一方的に契約を取り消せるケース
消費者契約法では、一定の場合に、消費者から一方的に契約を取り消せるとしています(同4条)。
契約が取り消されると、契約当事者の双方が原状回復(対価の返還義務や、商品の返還義務など)をしなければなりません。
ただし、消費者がその商品などを給付された時点で契約が取り消せると知らなかった場合には、現存する限度において返還義務を負うこととされています(同6条の2)。
たとえば、取り消し対象となった消費者契約でサプリメントを5箱購入したものの、2箱は消費している場合には、原則として残っている3箱を返還すればよいこととなります。
一方、事業者側は、原則として5箱分の代金を返還しなければなりません。
ここでは、消費者契約法による取り消しの原因となる行為について解説します。※1※2
※1 政府広報オンライン:契約トラブルから身を守るために、知っておきたい「消費者契約法」
※2 消費者庁:知っていますか? 消費者契約法
不実告知
不実告知とは、重要事項について事実と異なる説明をすることです。
たとえば、真実に反して「あなたの乗っている車のタイヤは大きくすり減っていてこのまま走ると危ない、タイヤ交換が必要」などと告げ、 新しいタイヤを販売する行為などがこれに該当します。
断定的判断の提供
断定的判断の提供とは、不確実な事項について「確実」であるように説明することです。
たとえば、値上がり確実ではない金融商品について、「確実に値上がりする」「必ず儲かる」などと説明して販売する行為などがこれに該当します。
不利益事実の不告知
不利益事実の不告知とは、消費者にとって不利益な情報を告げないことです。
たとえば、隣地に眺望や日照を妨げるマンションの建設計画があることを知りながら、そのことを消費者に説明せず、「眺望・日照良好」などと告げ住宅を販売する行為などがこれに該当します。
不退去
不退去とは、事業者が消費者の自宅や勤務先などに強引に居座ることです。
たとえば、消費者の自宅などで消費者が事業者に対して「お引き取りください」と告げても「契約するまで帰らない」などと居座り、強引に契約させる行為などがこれに該当します。
退去妨害
退去妨害とは、消費者が退去したい旨を伝えたにもかかわらず、強引に引き留めることです。
たとえば、事業者の販売店や事務所などで勧誘された消費者が何度も帰りたい旨を告げても、「まだ説明が終わっていない」などと強く引き留め、契約させる行為などがこれに該当します。
退去困難な場所への同行
退去困難な場所への同行とは、勧誘することを告げずに消費者を退去困難な場所へ連れて行き、消費者が退去困難であることを知りながら勧誘をすることです。
たとえば、旅行に行こうと告げて消費者を交通の便の悪い山奥の別荘に連れて行き、帰宅が困難な状況で商品を販売する行為などがこれに該当します。
威迫する言動を交えて相談の連絡を妨害する行為
威迫する言動を交えて相談の連絡を妨害する行為とは、消費者が契約を締結するか否かを相談するため電話などで第三者に連絡したいと伝えたものの、事業者が威迫する言葉を交えて連絡を妨害して勧誘することです。
たとえば、消費者が「親に相談してから決めたい」と告げたにもかかわらず、「もう成人なのだから自分で決めないとダメだ」などと威迫する言動を交えて勧誘し、契約させる行為などがこれに該当します。
不安をあおる告知
不安をあおる告知とは、消費者が社会生活上の経験が乏しいことから、願望の実現に抱いている過大な不安に付けこみ、不安をあおるような勧誘をすることです。
たとえば、就職活動中の消費者に対して「このままでは一生成功しない、成功するにはこの就職セミナーが必要」と不安をあおるような勧誘をして契約させる行為などがこれに該当します。
好意の感情の不当な利用
好意の感情の不当な利用とは、いわゆるデート商法です。
たとえば、異性の勧誘者に好意を抱いた消費者に対し、「この商品を買ってくれないと関係を続けられない」などと告げて契約させる行為などがこれに該当します。
判断力の低下の不当な利用
判断力の低下の不当な利用とは、加齢や心身の故障により現在の生活の維持に不安を抱いていることを知りつつ不安をあおることです。
たとえば、加齢により判断力が低下した消費者に対し、「投資用マンションを買わなければ定期収入がなくなり、今のような生活を送ることは困難になる」などと不安をあおるような勧誘をして契約させる行為などがこれに該当します。
霊感などによる知見を用いた告知
霊感などによる知見を用いた告知とは、いわゆる「霊感商法」です。
たとえば、「あなたの病気は悪霊のせい。この数珠を買わないと悪霊を除去できない」などと不安をあおるような勧誘により契約させる行為などがこれに該当します。
契約締結前における債務内容の実施
契約締結前における債務内容の実施とは、契約締結前に契約による義務の全部または一部を実施したり、目的物の現状を変更したりすることで、実施前の原状の回復を著しく困難にする行為です。
たとえば、貴金属の買取りの際に指輪に付いていた宝石を鑑定のために取り外し、元に戻すことを著しく困難にして勧誘することなどがこれに該当します。
また、他県から勧誘に来た事業者に対して消費者が断ろうとしたところ、「あなたのためにここまで来た、断るなら交通費を支払え」と請求する行為もこれに該当します。
過量契約
過量契約とは、その消費者にとっての必要量を著しく超えることを知りながら、多過ぎる分量の契約を締結することです。
たとえば、あまり外出せず着物を着る機会の少ない高齢の消費者であることを知りながら、何十着もの着物を勧誘し契約させる行為などがこれに該当します。
消費者契約法で無効となる契約条項
消費者契約法では、たとえ契約を締結しても、一定の条項が無効になる旨を定めています。
ここでは、消費者契約法の規定により無効となる契約条項について解説します。
事業者に責任があっても「損害賠償責任はない」とする条項
事業者に責任がある場合を含め、事業者が一切損害賠償責任を負わないとする条項や、損害賠償責任を負うか否かを事業者側の判断に委ねる条項は無効です。
たとえば、次の条項などがこれに該当します。
- 「当ジムは、会員の施設利用に際して生じた傷害や盗難など、いかなる事故についても一切責任を負いません」
- 「当社のコンピューターシステムの故障、誤作動により生じた損害については、当社は免責されるものとします」
- 「当社が、当社に過失があると認めた場合に限り、損害賠償責任を負うものとします」
免責範囲が不明確な条項
事業者側の責任について、「当社は、軽過失の場合には、1万円を限度として損害賠償責任を負う」など一定の免責条項を設けること自体は問題ありません。
しかし、その免責範囲が不明確な条項は無効となります。
たとえば、次の条項などがこれに該当します。
- 「当社は法律上許される限り、1万円を限度として損害賠償責任を負う」
「法律上許される限り」とはどのような状況を指すのか不明瞭であり、消費者が実際には認められるはずの賠償請求を諦めてしまうおそれがあります。
「一切のキャンセル・返品・交換を認めない」とする条項
消費者の解除権を放棄させる条項や、事業者が消費者の解除権の有無を自ら決定する条項は無効です。
たとえば、次の条項などがこれに該当します。
- 「いかなる理由があっても、キャンセル・返品、返金、交換は一切できません」
- 「当社に過失がある旨を当社が認めた場合を除き、キャンセル・返品、返金、交換はできません」
成年後見制度を利用すると契約が解除される旨の条項
成年後見制度とは、判断能力が低下した者に代わって財産管理や契約締結を行う者を、裁判所に選任してもらう制度です。
この成年後見制度を使ったことを理由に、契約が解除されるとの条項は無効です
消費者が負うキャンセル料や遅延損害金が高過ぎる条項
消費者が負うキャンセル料や遅延損害金を契約書に定めること自体は可能です。
ただし、消費者が負うキャンセル料や遅延損害金が高過ぎる条項は、その高過ぎる部分が無効となります。
なお、キャンセル料が高過ぎるか否かは、契約解除に伴う平均的な損害額を超えるか否かによって判断されます。
一方、遅延損害金は、年利14.6%を超える部分が無効です。
消費者が一方的に不利になる条項
民法などの法令と比較し、消費者が一方的に不利となる条項(消費者の権利を不当に制限したり、義務を加重したりする条項)は無効です。
たとえば、売買契約の目的物の種類や品質が契約内容に適合していない場合、民法ではそのことを知ってから1年以内に通知をすれば補償の対象になるとされています。
この期間を、正当な理由なく不当に短く定める条項などは無効となります。
企業が消費者契約法を遵守するためのポイント
企業が消費者契約法を遵守するには、どのような対策をすればよいのでしょうか?
最後に、企業が消費者契約法を遵守するための主なポイントについて解説します。
消費者をだまそうとしない
1つ目は、消費者をだまそうとしないことです。
なかには、消費者をうまくだませば、利益を上げられると考える事業者もいるかもしれません。
しかし、消費者契約法は、消費者をだましたり無理に契約させたりすることを広く規制しています。
消費者をだますようなことをすると、消費者契約法の規定により取消しがなされるのみならず、損害賠償請求の対象となったり、刑法上の詐欺罪などに問われたりする可能性も生じます。
また、そのような事業者に関する情報はSNSなどで拡散されることもあり、長期的に利益を上げ続けることは困難でしょう。
そのため、「何とか法の網をかいくぐろう」とするのではなく、まずは消費者をだまそうとしない組織風土を構築することが先決です。
契約書の作成時に弁護士のサポートを受ける
2つ目は、契約書を作成する際、弁護士のサポートを受けることです。
先ほど解説したように、消費者契約法ではさまざまな「無効になる条項」を規定しています。
これらを正しく理解せずに契約書を作成すると、無効な条項が入った契約書となってしまうかもしれません。
一方で、事業者としてはトラブル発生時に自社の身を守る条項も設けたいことでしょう。
このあたりの「バランス」を自社で検討することは、容易ではありません。
そのため、契約書を作成する際は、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
消費者契約法を理解する
3つ目は、経営陣のみならず、消費者と接するすべての従業員が消費者契約法を理解することです。
経営陣が消費者契約法を遵守し契約書の条項などを作り込んでいても、ノルマに追われた従業員が、取消しの対象となる勧誘行為をしてしまうかもしれません。
そのような事態を避けるため、経営陣が消費者契約法を理解すべきであることはもちろん、定期的に研修を実施するなど、消費者と関わる従業員全員が消費者契約法を理解する体制構築が必要です。
まとめ
消費者契約法の概要や、取消しの対象となる勧誘行為、無効となる条項などを解説しました。
消費者契約法は、すべての消費者契約に適用されます。
そのため、BtoCビジネスを展開するすべての事業者は、消費者契約法を理解しておかなければなりません。
消費者契約法を遵守する体制を構築したい際は、弁護士のサポートを受けるとよいでしょう。
Authense法律事務所では、企業法務に特化した専門チームを設けており、消費者契約法の遵守についても多くのサポート実績があります。
消費者契約法を踏まえた契約書を作成したい際や、消費者契約法など法令遵守の体制を構築したいとお考えの際などには、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。