コラム
公開 2024.10.25

職業安定法とは?違反した際の罰則は?弁護士がわかりやすく解説

労働者募集や職業紹介について規定されている職業安定法が改正され、2024年4月1日から施行されています。
この改正法では、労働条件明示のルールなどが改訂されました。

そもそも、職業安定法とは、どのような法律なのでしょうか?
また、職業安定法に違反すると、どのような罰則が適用されるのでしょうか?

今回は、職業安定法の概要や職業安定法に違反した際の罰則、違反しないための対策などについて弁護士がくわしく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
一橋大学法学部法律学科卒業。元裁判官。企業法務、M&A、労働法、事業承継、倒産法(事業再生含む)等、企業に係わる幅広い分野を中心とした法律問題に取り組む。弁護士としてだけでなく、裁判官としてこれまで携わった数多くの案件実績や、中小企業のみならず、大企業や公的企業からの依頼を受けた経験と実績を活かし、企業組織の課題を解決する多面的かつ実践的なアドバイスを提供している。
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職業安定法とは

職業安定法とは、労働市場において需要供給の適正・円滑な調整機能を有する職業紹介事業などの適正な運営を確保するために、必要なルールを定めた法律です(職業安定法1条)。
職業安定法では、次のことなどを目的としています。

  • 各人にその有する能力に適合する職業に就く機会を与えること
  • 産業に必要な労働力を充足すること
  • 職業の安定を図ること
  • 経済と社会の発展に寄与すること

これらの目的を果たすため、職業紹介に関するルールや労働者募集に関するルールなどを定めています。

労働基準法などは知っていても、職業安定法を意識したことのない事業者も少なくないでしょう。
しかし、有料の職業紹介事業などを営む事業者が職業安定法を理解しておくべきことはもちろん、一般の事業者が求人活動をする際にも職業安定法に違反しないよう注意しなければなりません。

特に、2024年4月に施行された改正は求人活動をする企業にも影響が及ぶものであるため注意が必要です。

職業安定法に違反しないために知っておきたい主なルール

職業安定法には、職業の安定や職業紹介事業の適正運営を実現するためのさまざまなルールが設けられています。
ここでは、職業安定法に違反しないために知っておきたい主な規定を紹介します。

職業紹介に関するルール

1つ目は、職業紹介に関するルールです。
職業紹介に関する主なルールは、次のとおりです。

  • 職業紹介事業を営むには許可が必要である
  • 求職者からの手数料受領は禁止である
  • 求人申し込みは拒否できない
  • 個人情報は厳正に取り扱う

職業紹介事業を営むには許可が必要である

有料・無料を問わず、職業紹介事業を行おうとする場合は、学校が行う場合など一定の場合を除き、厚生労働大臣による許可を受けなければなりません(同30条1項、33条1項)。

許可には一定の基準があり、基準や要件を満たさない場合は不許可となります。
無許可で職業紹介事業を営むと職業安定法に違反するため注意が必要です。

ただし、学校がその生徒に無料で職業を紹介する場合など、例外的に許可を受けることなく行えるケースもあります(同33条の2、33条の3)。

求職者からの手数料受領は禁止である

有料の職業紹介事業を営む場合であっても、求職者側からの報酬受領は禁じられています(同39条)。
職業安定法には「いかなる名義でも、報酬を受けてはならない」と明記されています。
請求名目を変えれば適法になるわけではないことには注意してください。

求人申し込みは拒否できない

職業紹介事業者は、求人の申込みをすべて受理しなければなりません(同5条の6)。
ただし、例外的に次の受理はしないことが可能です。

  1. 法令に違反する求人の申込み
  2. 賃金、労働時間などの労働条件が通常の労働条件と比べて著しく不適当である求人の申込み
  3. 一定の法律の規定に違反し、法律に基づく一定の処分や公表などの措置が講じられた者からの求人の申込み
  4. 業務内容や賃金、労働時間など必要事項の明示が行われない求人の申込み
  5. 暴力団員など一定の者からの求人の申込み
  6. 正当な理由なく、これらに該当するか否かの報告の求めに応じない者からの求人の申込み

個人情報は厳正に取り扱う

個人情報を適正に取り扱うべき旨は、個人情報保護法で定められています。
それに加え、職業安定法においても、求職者などの個人情報を訂正範囲にて使用すべきことが明記されています(同5条の5)。

労働者募集に関するルール

2つ目は、労働者募集に関するルールです。

労働者募集をする際、企業は次の事項を最低限明示しなければなりません(同5条の3、職業安定法施行規則4条の2 3項、労働基準法施行規則5条)。
明示する方法は原則として書面であるものの、求職者からの希望があればメールの提示も可能です。

  • 業務内容
  • 契約期間
  • 試用期間
  • 就業場所(勤務地)
  • 就業時間
  • 休憩時間
  • 休日
  • 時間外労働時間
  • 賃金
  • 健康保険、厚生年金、労災保険、雇用保険の加入の有無
  • 就業場所における受動喫煙を防止するための措置
  • 募集者の氏名または名称

このほか、裁量労働制を採用している場合にはその旨など、状況に応じてその他の記載も必要となります。

なお、この労働条件の明示義務は職業紹介事業者を介して労働者を募集するときだけではなく、自社ホームページなどで求人をする場合にも適用される規定です。
必要事項の記載が漏れて職業安定法などに違反しないよう、不安がある場合はあらかじめ弁護士などの専門家に確認を受けることをおすすめします。

労働者供給に関するルール

3つ目は、労働者供給に関するルールです。
労働者供給に関するルールについて、概要を解説します。

労働者供給とは

職業安定法における労働者供給とは、供給契約に基づいて、労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることを意味します(職業安定法44条)。
たとえば、供給元であるA社が供給契約に基づいて別のB社に労働者を供給し、その労働者についてはB社が雇用契約を締結したり事実上の指揮命令関係となったりするものの、供給元であるA社も労働者に対して支配関係を有する形態などがこれに該当します。

労働者供給は原則として禁止される

職業安定法では、労働者供給は原則として禁止されています。
労働者供給では指揮命令関係が曖昧となりがちであり、労働者の地位が不安定なものとなりやすいためです。

ただし、労働組合などが厚生労働大臣の許可を受けた場合は、例外的に、無料での労働者供給事業が可能となります。
一般の事業者としては、労働者供給は禁止であると捉えておけば問題ないでしょう。

労働者供給と人材派遣との違い

労働者供給が原則として禁止されている一方で、人材派遣は厚生労働大臣による許可を受けることで適法に行うことが可能です。
これらの違いは、労働者がどの企業と雇用関係にあるかという点です。

労働者派遣では、労働者と雇用関係を締結するのは派遣元の企業であり、派遣先企業との間で雇用関係を締結するわけではありません。
そのため、労働者の地位が明確です。

一方で、労働者供給の場合、労働者は供給先の企業と雇用関係を締結します。
また、職業紹介とは異なり、その後も供給元事業者と労働者の間には支配関係などが継続するため、労働者の立場が不安定なものとなります。

このような違いから、人材派遣が許可を受けることで適法に営むことができる一方で、労働者供給は一部の例外を除き禁止されています。

2024年4月施行の改正ポイント

2024年4月、改正職業安定法が改正されました。

先ほど解説したように、求人をする企業や職業紹介事業者が労働者の募集を行う場合などには、募集する労働者の労働条件を明示しなければなりません。
今回の改正では、この際に明示すべき項目が追加されました。※1

改正によって追加された明示項目は、次のとおりです。

  1. 従事すべき業務の変更の範囲
  2. 就業の場所の変更の範囲
  3. 有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項(通算契約期間または更新回数の上限を含む)

この改正は、職業紹介事業を営む企業のみならず、求人をする企業にも関連する内容です。
特に、自社ホームページなどで求人をする場合などには、改正後に追加された項目の明示を失念しないよう注意しましょう。

求人や雇用に関する法令に不明点がある場合には、弁護士などの専門家へご相談ください。

職業安定法に違反するとどうなる?

職業安定法に違反した場合、どのような事態が生じるのでしょうか?
ここでは、職業安定法に違反した場合に企業に生じ得る事態について解説します。

罰則の適用対象となる

職業安定法に違反すると、刑事罰の対象となる可能性があります。
職業安定法違反による刑事罰は、違反内容によって異なっています。

たとえば、無許可で有料の職業紹介事業を営んだ場合や虚偽の申請で職業紹介事業の許可を受けた場合の罰則は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金です(同64条)。
また、暴行や脅迫、監禁など精神や身体の自由を不当に拘束する手段によって職業紹介や労働者の募集、労働者の供給を行った場合などには、1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金の対象となります(同63条)。
さらに、実態とは異なる好条件など虚偽の情報を記載して求職者をだました場合は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金に処されます(同65条1項9号)。

なお、求人募集をする企業による求人の表現では、職業安定法のほかに労働基準法や男女雇用機会均等法、雇用対策法などにも注意しなければなりません。

行政処分の対象となる

職業安定法に違反した場合、行政処分の対象となります。

たとえば、職業紹介事業を営む者が一定の違反をした場合には、許可が取り消される可能性があります。
また、指導や助言、改善命令、勧告などの対象となるほか、これらに従わない場合は企業名などが公表されることもあります。

企業の信頼が失墜する可能性がある

職業安定法に違反すると、企業の信頼が失墜する可能性が生じます。

職業紹介業を営む事業者が職業安定法に違反した場合、求人募集をする企業が自社の信頼を守るため、その職業紹介会社の利用を控えるおそれがあるでしょう。
また、企業が虚偽の内容で求人することが常態化している場合などには、SNSなどで情報が拡散されるおそれがあり、求職者から選ばれづらくなる可能性が生じます。

職業安定法に違反しないための対策

企業が職業安定法に違反しない場合には、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
最後に、職業安定法に違反しないための主な対策を3つ紹介します。

職業安定法を理解する

1つ目の対策は、職業安定法を理解することです。

たしかに、求人をハローワークや求人情報誌、求人サイトなどを介して行っている場合は、自社で職業安定法について調べる機会は少ないかもしれません。
求人にあたって企業が提示した内容に必要な情報が含まれていなければ、ハローワークや求人情報誌の営業担当者などが指摘してくれることが多いためです。
そのため、虚偽の情報を記載しないということ以外は、さほど意識する必要はないでしょう。

一方で、自社ホームページや自社SNSなどで求人をする場合、職業安定法や求人に関するその他の法令の理解が不可欠です。
職業安定法を理解しないまま求人情報を掲載すると、必要な情報が漏れてしまい、職業安定法違反となるかもしれません。

求人情報に変更がある場合は速やかに変更する

2つ目は、求人情報に変更があった際は速やかに変更することです。

求人の掲載をした後で、条件などの変更が生じる場合もあると思います。
その際は、速やかに掲載情報を変更してください。

あえて虚偽の情報を掲載したわけではなかったとしても、変更前の情報を信じて応募した者がいた場合、職業安定法違反を疑われる可能性があるためです。
また、求職者との間でトラブルが生じるおそれもあるでしょう。

弁護士に相談する

3つ目は、迷った場合には弁護士などの専門家へ相談することです。

先ほど解説したように、企業が求人にあたって注意すべき法令は少なくありません。
職業安定法のほか、労働基準法や男女雇用機会均等法、雇用対策法などです。
さまざまな法令に規制の内容がまたがるため、企業がこれらをすべて把握するには相当の労力が必要でしょう。

そのため、求人募集をする際は弁護士など専門家によるサポートを受けることをおすすめします。
「記載すべき内容」や「記載してはいけない内容」などを正しく理解しておくことで、職業安定法などの法令に違反する事態を避けやすくなります。

まとめ

職業安定法に違反しないために知っておきたい主な規制内容や、職業安定法に違反した場合の罰則などについて解説しました。

職業安定法は、職業の労働市場の適正化や円滑化を目的として、職業紹介事業に関する規制や求人に関する事項などを定めている法律です。
職業紹介事業などを営む事業者はもちろん、求人をする企業も違反しないよう注意しなければなりません。

しかし、求人に関する法規制は職業安定法のほか、労働基準法などさまざまな法令にまたがっています。
適正な求人を行い、職業安定法などに違反しないようにするには、弁護士へご相談ください。

Authense法律事務所では、企業法務に特化した専門チームを設けており、職業安定法など求人や雇用に関するリーガルサポートも可能です。
職業安定法などに違反しないためサポートを受ける弁護士をお探しの際などには、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。

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