ビジネスやブランドを展開するうえでは、商標法違反に注意しなければなりません。
商標法違反をすると、罰則が適用されたり損害賠償請求などの対象となったりするほか、企業の信頼が失墜するおそれもあるためです。
では、商標法違反となるのは、どのようなケースなのでしょうか?
また、商標法に違反した場合、どのような法的責任が生じる可能性があるのでしょうか?
今回は、商標法違反について、弁護士がくわしく解説します。
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商標法とは
商標法とは、商標を保護することで商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、産業の発達に寄与し、需要者の利益を保護することを目的とする法律です(商標法1条)。
有名な商標の一つに、「Louis Vuitton」があります。
多くの人が「Louis Vuitton」と表記された商品や著名なモノグラムが表示された商品に安くない対価を支払うのは、それがLouis Vuitton社が製作したものであると信頼しているからでしょう。
仮に、誰もが自由に「Louis Vuitton」と称した商品を製作・販売できるとなれば、「Louis Vuitton」と書かれている商品でもそれはまったく別の企業が製作した粗悪品かもしれず、商標への信用が揺らいでしまいます。
また、このような「ただ乗り」を許してしまうと、企業がブランドを開発したり育成したりする意義が薄れ、産業が衰退するおそれも生じます。
そこで、商標法では商標を保護し、他者の商標への「ただ乗り(無断利用や、模倣行為)」を禁止する規定などを設けています。
商標法違反(商標権侵害)となる事例
商標法違反(商標権侵害)となるのは、どのようなケースなのでしょうか?
ここでは、商標法に違反する主なケースを3つ紹介します。
ただし、商標法違反は故意犯です。
つまり、制作したものが偶然他者の商標に類似したなど、偶然の一致は有罪とはなりません。
とはいえ、Louis Vuittonなど著名な商標の場合、これをまったく知らなかったとの主張には無理があるでしょう。
また、たとえ商標法違反により有罪とならなくても、後ほど解説する差止請求などの対象とはなり得ます。
商標権侵害を疑われてお困りの場合は、弁護士へご相談ください。
他者の商標を無断で利用した場合
1つ目は、他者の商標を無断で利用した場合です。
たとえば、許諾などを受けていないにもかかわらず、自社で製作したバッグを「Louis Vuitton」と称して販売した場合や、Louis Vuitton社製品を模倣して製作した製品を販売した場合などが、これに該当します。
他者の商標に類似する商標を無断で利用した場合
2つ目は、他者の商標に類似する商標を無断で利用した場合です。
一般的に想定される悪意を持った模倣はもちろん、いわゆる「パロディ」もこれに該当します。
実際に、ある製菓会社がお土産として有名なお菓子の商品名の商標権を有しているところ、無関係の会社が当該商品に類似したパロディ商品を発売し、損害賠償請求に発展した事例があります。
本件では両者に和解が成立したことで刑事事件には発展しなかったものの、パロディであっても和解できない場合などには刑事事件に発展するおそれがあります。
商標法では「パロディであれば問題ない」などの規定はなく、パロディであっても模倣と同様に商標法違反となり得る点に注意が必要です。
他者の商標を無断で利用する準備をした場合
3つ目は、他者の商標を無断で利用する準備をした場合です。
商標法違反は模倣品や類似品を市場に売り出して初めて成立するものではなく、これらを市場に売り出す準備をすること自体でも成立します。
商標法37条には「侵害とみなす行為」が規定されており、次の行為が挙げられています。
- 登録商標や類似商標の使用
- 登録商標や類似商標を付したものの譲渡、引渡し、輸出のために所持する行為
- 登録商標や類似商標を付したものを用いたサービスを提供するために所持し、または輸入する行為
- 登録商標や類似商標を付したもの用いてサービスを提供させるために譲渡し、引き渡し、または譲渡・引渡しのために所持し、もしくは輸入する行為
- 登録商標や類似商標を使用するために、登録商標や類似商標を表示する物を所持する行為
- 登録商標や類似商標を使用させるために、登録商標や類似商標を表示する物を譲渡し、引き渡し、または譲渡もしくは引渡しのために所持する行為
- 登録商標や類似商標の使用をし、または使用をさせるためにこれらを表示させる物を製造し、または輸入する行為
- 登録商標や類似商標を表示する物を製造するためにのみ用いる物を業として製造し、譲渡し、引き渡し、又は輸入する行為
つまり、たとえば「Louis Vuitton」社のバッグの模倣品を販売した場合はもちろん、販売のために製造・輸入した場合や、その模倣品の製造だけに使う機械を仕事として製造したり販売したりした場合であっても、商標法違反になるということです。
「まだ売っていないから商標権違反とはならない」というわけではないため、誤解のないようご注意ください。
商標法違反(商標権侵害)をした場合に生じる法的責任
商標法違反や商標権侵害をした場合、どのような法的責任が生じるのでしょうか?
ここでは、商標法違反によって生じ得る主な法的責任を4つ解説します。
お困りの際は、早期に弁護士へご相談ください。
【刑事】罰則の適用対象となる
商標法に違反した場合は、罰則の適用対象となります。
まず、他者の商標権を侵害した場合、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金の対象となるほか、これらが併科されることもあります(同78条)。
また、その違反が法人の業務に関して行われた場合は行為者が罰せられるほか、法人も3億円以下の罰金刑の対象となります(同82条1項)。
そして、先ほど解説した「侵害とみなす行為」をした場合は5年以下の懲役または500百万円以下の罰金の対象となるほか、これらが併科されることもあります(同78条の2)。
この場合も、法人の業務に関して違反がなされた場合は、法人も3億円以下の罰金刑の対象となります(同82条1項)。
【民事】差止請求の対象となる
商標法に違反して他者の商標権を侵害した場合には、差止請求の対象となります(同36条)。
差止請求とは、侵害行為を辞めるよう、商標権者が侵害者に対して請求することです。
商標権の差止請求には、次の請求があります。
- 侵害行為をする者に対するその行為の停止の請求
- 侵害のおそれのある行為をする者に対する侵害の予防の請求
- 侵害行為を組成した物の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却その他の侵害の予防に必要な措置の請求
侵害品の流通を辞めるよう請求できるのみならず、その侵害品の廃棄や侵害品の製造に必要な設備の除却などまで請求される可能性があるということです。
【民事】損害賠償請求の対象となる
商標法に違反して他者の商標権を侵害した場合には、損害賠償請求の対象となります。
損害賠償請求とは、商標権侵害によって商標権者に生じた損害を金銭で賠償するよう侵害者に対して求めることです。
とはいえ、商標権侵害による損害額を正確に算出することは容易ではありません。
そこで、商標法では損害額の推定規定(同38条)を設けており、次の額を損害額として損害賠償請求ができるとしています。
逸失利益額の認定による損害賠償額の算定方法
逸失利益(侵害行為がなければ権利者が得られたはずの利益額)を算定しこれをもとに損害額を算定する方法です。
この方法では、次の式で損害額を算出します。
- 損害額=侵害品の販売数量×権利者の単位あたりの利益
たとえば、侵害者が1万個の模倣品を売却し、商標権者は1商品あたり1,000円の利益を得ていたことを立証できた場合、損害額は次のとおりとなります。
- 1万円×1,000円=1,000万円
なお、侵害者の営業努力や代替品の存在等の事情が存在し、侵害品の譲渡数量の全部又は一部を販売する能力を超えて販売しているような場合には、その部分を逸失利益として算定することはできません。
このような場合には、権利者の能力を超えた部分についてはライセンス料相当額を損害額として算定できる場合もあります。
侵害者の利益の額を権利者の損害額と推定する方法
侵害者が得た利益の額を、権利者の侵害額と推定する方法です。
この場合における損害額は、原則として次のとおりとなります。
- 損害額=侵害者が得た利益
ただし、侵害者が販売した商品やサービスによっては、商標権侵害をしなくても挙げられたはずの利益が含まれている場合もあるでしょう。
この場合は、模倣品の売上げに対して商標が貢献した部分を考慮して損害額が算定されます。
ライセンス料相当額を損害額とする方法
商標のライセンス料相当額を損害額とする方法です。
この方法による損害額は、原則として次のとおりとなります。
- 損害額=ライセンス相当額
侵害者が侵害行為によって利益を得ていなかった場合などに、この方法を用いることがあります。
ただし、その商標を使用しても顧客誘引にまったく寄与しなかったことを侵害者が証明できれば、損害が発生していないとされる場合もあります。
商標権の取得や維持に通常要する費用相当額を損害額とする方法
商標権の取得や維持に通常要する費用に相当する額を、商標権者が受けた損害の額とする方法です。
TPP協定上、商標の不正使用について商標権の法定損害賠償制度や追加的損害賠償制度の導入が要求されており、これにより設けられている規定です。
【民事】信用回復請求の対象となる
商標法に違反して他者の商標権を侵害した場合には、信用回復請求の対象となります。
たとえば、「A」という他社商標を無断で使用して「A」と冠した粗悪品を流通させた場合、Aのブランドイメージが毀損してしまいかねません。
そこで、謝罪広告の掲載など、信用回復請求が求められることがあります。
商標法違反で問われる可能性があるその他の罪
商標法違反をした場合、商標法の規定を超えて他の罪に問われる可能性があります。
ここでは、商標法以外に問われる可能性のある罪を2つ紹介します。
不正競争防止法違反
商標権を侵害した場合、不正競争防止法違反の罪に問われる可能性があります。
不正競争防止法とは、国民経済の健全な発展に寄与することを目的として、不正競争の防止や不正競争に係る損害賠償に関する事項を定めている法律です。
不正競争防止法では「不正競争」を定義しており、そのなかに「著名表示冒用行為 」や「形態模倣商品の提供行為」などが挙げられています。
これらの不正競争行為をすると、5年以下の懲役または500万円以下の罰金刑に処される可能性があるほか、これらが併科される可能性があります(不正競争防止法21条)。
また、法人も別途、罰金刑の対象となります。
詐欺罪
商標権を侵害した商品を販売した場合、刑法の詐欺罪に該当する可能性があります(刑法246条)。
なぜなら、購入者は「A」のブランド力を信じてその価格で購入したのであって、実際にはその商品が「A」の商標を無断で冠したものであれば、少なくともその価格では購入しなかった可能性が高いと考えられるためです。
詐欺罪に問われると、10年以下の懲役の対象となります。
商標法違反で刑事事件になるとどうなる?
商標法違反で刑事事件に問われた場合、「罰金さえ素直に払えば終わり」という簡単なものではありません。
最後に、商標法違反で刑事事件に発展した場合の基本的な流れを解説します。
お困りの際は、早期に弁護士へご相談ください。
必要に応じて家宅捜索がされる
商標法違反が疑われると、必要に応じて家宅捜索がなされます。
つまり、会社や自宅など関係先に警察官などが訪れ、商標法違反の証拠などを調べられるということです。
必要に応じて逮捕される
商標権違反が疑われる場合、必要に応じて逮捕されます。
ただし、逃亡や証拠隠滅の可能性が低いと判断された場合には身柄は拘束されず、在宅のまま(つまり、通常の生活を送りながら)捜査が進むこともあります。
警察や検察で取り調べがなされる
逮捕後は、まず警察で取り調べがなされます。
その後は検察に身柄が送られ、検察でも取り調べがなされます。
捜査のために身柄が拘束される期間は、最大で23日間(警察最長48時間+検察原則24時間+検察延長最大20日間)です。
捜査が終了して起訴が決定された場合には、さらに身柄が拘束される可能性もあります。
起訴・不起訴が決まる
捜査や取り調べの結果、起訴か不起訴かが決まります。
起訴とは、刑事裁判を開始することです。
一方、不起訴とは刑事裁判を開始しないことであり、事実上罪を問われないこととなります。
刑事裁判が開始され有罪・無罪などが決まる
起訴されると刑事裁判が開始されます。
ここで、有罪・無罪や具体的な量刑、執行猶予の有無が決まります。
執行猶予とは、一定期間を問題なく過ごすことで、刑の言い渡しの効果を消滅させる制度です。
いずれにしても、商標法違反で捜査が開始されると、日常生活や事業運営に大きな影響が及びかねません。
商標法違反をしないよう日頃から注意すべきであることはもちろん、他社から商標権侵害を疑われているなどお困りの際は、早期に弁護士へご相談ください。
まとめ
商標法違反の罰則や、商標法違反によって生じ得るその他の事態について解説しました。
商標権を侵害すると損害賠償請求や差止請求などの対象となるのみならず、罰則が適用されて前科がつくおそれもあります。
商標法違反の罪は非常に重く設定されているため、万が一にも侵害することのないよう、日ごろから注意する必要があるでしょう。
Authense法律事務所では企業法務に特化したチームを設けており、商標法など各種法令に違反しないための体制整備や内部統制システムの構築などもサポートしています。
商標法違反を避けるための体制構築を行いたい際や、他社から商標権侵害を疑われてお困りの際などには、Authense法律事務所までお早めにご相談ください。