廃棄物の不法投棄は社会問題となっており、廃棄物処理法は、違反時に懲役刑の対象ともなり得る非常に厳しい法律の一つです。
では、廃棄物処理法に違反するのは、どのようなケースなのでしょうか?
また、廃棄物処理法に違反しないためには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
今回は、廃棄物処理法違反の概要や罰則などについて、弁護士がくわしく解説します。
目次
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら
廃棄物処理法とは
廃棄物処理法は、正式名称を「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」といい、「廃掃法(はいそうほう)」と略されることもあります。
廃棄物処理法とは、「廃棄物の排出を抑制し、及び廃棄物の適正な分別、保管、収集、運搬、再生、処分等の処理をし、並びに生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的」とする法律です(廃棄物処理法1条)。
廃棄物が適切に処理されなければ、生活環境や公衆衛生が悪化しかねません。
また、2021年に熱海市で起きた土砂崩れは、違法に投機された建設残土が原因であったとされています。※1
このような事態を避けるため、廃棄物処理法では廃棄物の分別や運搬、処分などに関するルールが定められています。
なお、廃棄物処理法においては「事業者は、その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない」とされている点に注意しなければなりません(同3条)。
つまり、廃棄物を排出する事業者は、廃棄物運搬や処分を担う事業者に任せたからといって責任を逃れるのではなく、委託先の事業者が不適切処理をした場合は一定の責任を負うこととなります。
そのため、廃棄物の処理を業として担う事業者はもちろん、すべての事業者は廃棄物処理法を理解しておく必要があります。
廃棄物処理法における「廃棄物」の種類
業務として廃棄物を取り扱うには、その廃棄物の種類に沿った許可が必要となるため、廃棄物の区分を正しく理解しておかなければなりません。
ここでは、廃棄物の種類について概要を解説します。
一般廃棄物
まず、廃棄物は大きく「一般廃棄物」と「産業廃棄物」に区分されます。
産業廃棄物の収集運搬業許可で一般廃棄物を運搬することは違法であり、その反対も同様です。
一般廃棄物は、し尿、ごみ、特別管理一般廃棄物に分類され、その中でもごみは次の2種類に分類されます。
- 家庭から排出されたごみ
- 事業系ごみ
家庭から排出されたごみ
いわゆる「家庭ごみ」は、一般廃棄物に該当します。
毎週決まった日に指定のごみ袋に入れて地域のごみ収集場に出すごみなどが、これに該当します。
また、粗大ごみなど地域のごみ処理場に持ち込むごみも、一般家庭から排出される以上は一般廃棄物です。
事業系ごみ
事業活動から生じたごみがすべて産業廃棄物になるのではなく、一部は一般廃棄物に該当します。
産業廃棄物はその品目ごとに区分されており、「事業活動によって出た以上はどの業種からでたものでも産業廃棄物になる」品目と、「一定に事業活動から出たものは産業廃棄物に該当し、それ以外の業種から出たものは一般廃棄物になる」品目が混在しています。
たとえば、「家畜ふん尿」という品目は、畜産農業から排出される場合のみ「産業廃棄物」となります。
同じ「家畜ふん尿」であっても、たとえば法律事務所が看板犬を飼っている場合、その犬の糞尿は「一般廃棄物」です。
同様に、「紙くず」という品目は建設業やパルプ製造業、出版業などから排出される限り「産業廃棄物」である一方、その他一般の事業所から排出された場合は「一般廃棄物」に分類されます。
なお、事業系ごみは「一般廃棄物」とはいえ、地域の集積場に捨てることはできません。
事業系一般ごみを家庭ごみと混ぜて集積場に捨てれば、廃棄物処理法違反となります。
事業系一般ごみの捨て方は自治体によって異なるため、あらかじめ自治体に確認しておきましょう。
特別管理一般廃棄物
一般廃棄物の中でも、取り扱いに特に注意が必要なものは「特別管理一般廃棄物」に分類されます。
特別管理一般廃棄物に分類されるのは、爆発性や毒性、感染性のある廃棄物です。
たとえば、廃エアコンや廃テレビなどに含まれる「PCB使用部品」や、水銀使用製品が一般廃棄物となったものから回収した「廃水銀」などがこれに該当します。
産業廃棄物
産業廃棄物とは、事業活動によって生じた廃棄物のうち、一定のものです。
「汚泥」や「廃油」、「燃え殻」、「がれき類」など、どの業種から排出されても産業廃棄物に該当するものがある一方で、先ほど解説したように、排出業種によって産業廃棄物となるか事業系一般廃棄物となるかが分かれるものもあります。
特別管理産業廃棄物
特別管理産業廃棄物とは、産業廃棄物のうち爆発性や毒性、感染性など人の健康や生活環境への影響を及ぼすおそれがあることから、取り扱いに特に注意を要するものです。
たとえば、引火性の廃油や医療機関から排出される感染性産業廃棄物、PCBが染み込んだ紙くずなどがこれに該当します。
特別管理産業廃棄物の収集運搬や処分を委託する場合は、特別管理産業廃棄物を取り扱える許可を有する事業者を選定しなければなりません。
廃棄物処理法に違反する主な事例
産業廃棄物処理法に違反するのは、どのような場合なのでしょうか?
ここでは、産業廃棄物処理法に違反する主なケースを紹介します。
なお、各項目では行為者への罰則を記載していますが、法人の業務の一環として違反が行われた場合には、法人も別途罰金刑の対象となります(同32条)。
法人への罰金刑は「3億円以下」など非常に高額に設定されています。
不法投棄
廃棄物処理法では「何人も、みだりに廃棄物を捨ててはならない」と規定されています(同16条)。
不法投棄はこの規定に違反し、5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科の対象となります(同25条1項14号)。
不法焼却
廃棄物処理法では、一定の基準に沿っている場合を除き、廃棄物の焼却を禁じています(同16条の2)。
この規定に違反した場合、5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科に処されます(同25条1項15号)。
無許可営業
廃棄物の収集運搬や処理の委託を受けるには、取り扱う廃棄物の種類などに応じて必要な許可を取得しなければなりません(同7条1項、14条1項など)。
これらの規定に違反し、無許可で廃棄物処理を請け負った場合は5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科の対象となります(同25条1項1号)。
無許可業者への処理委託
廃棄物処理法では排出者責任が原則とされており、他者に処理を委託する場合は必要な許可を有する事業者に委託しなければなりません(同6条の2 6項、12条5項など)。
これに反して無許可業者に廃棄物処理を委託した場合には、5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれらの併科の対象となります(同25条1項6号)。
再委託禁止違反
廃棄物の収集運搬の委託を受けた事業者や廃棄物処分の委託を受けた事業者は、一定の場合を除き、他の事業者にこれを再委託してはなりません(同7条14項、14条16項など)。
この規定に違反して再委託した場合には、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの併科に処されます(同26条1号)。
マニフェスト保存義務違反
産業廃棄物の処理を他者に委託する際、事業者は管理票(マニフェスト)を交付し、これにより廃棄物の処理状況を管理することとなります(同12条の3)。
このマニフェストを交付しなかった場合や虚偽の内容を記載した場合、適正に保管しなかった場合は廃棄物処理法違反となり、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処されます(同27条の2)。
措置命令違反
廃棄物処理法に違反した場合、措置命令がなされることがあります(同19条の4、19条の5など)。
この措置命令に従わない場合、5年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金またはこれらの併科の対象となります(同25条5号)。
改善命令違反
廃棄物処理法に違反した場合、改善命令が出されることがあります(同19条の3など)。
この改善命令に従わない場合、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金、またはこれらの併科の対象となります(同26条2号)。
廃棄物の不法投棄で違反となり得るその他の法令
廃棄物の不法投棄をした場合、廃棄物処理法以外の法令に違反する可能性があります。
ここでは、違反となる可能性がある主な法令を2つ紹介します。
道路法
道路法では、道路上にみだりに物を置くなど交通に支障を及ぼすおそれのある行為が禁止されています(道路法43条)。
道路上に不法投棄をするなどしてこの規定に違反すると、1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処されます(同102条3号)。
刑法(住居侵入罪・建造物侵入罪)
正当な理由なく人の住居や建造物に侵入した場合、刑法の住居侵入罪や建造物侵入罪が成立します(刑法130条)。
この罪を犯した場合、3年以下の懲役または10万円以下の罰金刑の対象となります。
たとえば、他者が管理する資材置き場や倉庫などに侵入して不法投棄をした場合は、この罪に問われる可能性があります。
廃棄物処理法に違反するとどうなる?
廃棄物処理法に違反すると、どのような事態が生じるのでしょうか?
ここでは、違反によって生じ得る主な事態を解説します。
罰則が適用される
廃棄物処理法に違反すると、先ほど解説したとおり刑事罰の適用対象となります。
廃棄物処理法の刑事罰には懲役刑もあり、重く設定されています。
万が一刑事罰の対象となると、その影響は甚大なものとなるでしょう。
許認可が取り消される可能性がある
廃棄物処理業の許可を受けている事業者が廃棄物処理法に違反すると、その許可が取り消される可能性があります(廃棄物処理法14条の3の2など)。
また、違反により一定の刑事罰に処された場合、建設業許可など他の許認可を失う可能性も生じます(建設業法8条7号、同29条)。
企業の信頼が失墜する
廃棄物処理法に違反した場合、企業の信頼が失墜するおそれがあります。
特に廃棄物処理事業者が違反した場合にはコンプライアンスを重視する企業から処理委託先として選ばれづらくなり、収益に大きな影響を及ぼす可能性が高いでしょう。
廃棄物処理法に違反しないポイント
廃棄物処理法に違反しないためには、どのような対策をとればよいのでしょうか?
最後に、企業が廃棄物処理法に違反しないための主なポイントを4つ解説します。
廃棄物処理法を正しく理解する
1つ目は、廃棄物処理法を正しく理解することです。
廃棄物処理法については、誤解が少なくありません。
なかでも、「廃棄物の処理は委託先の処理業者に責任があり、委託した時点で自社は責任を免れる」と誤解している事業者は少なくないでしょう。
しかし、廃棄物の処理責任は排出事業者にあり、無許可業者に委託した場合などには排出事業者も責任を問われる可能性があります。
廃棄物処理法に関しては多くの研修などが実施されているため、受講することも一つの方法でしょう。
許可を有する事業者に処理を委託する
2つ目は、必要な許可を有する事業者に処理を委託することです。
企業が廃棄物処理を委託する際は、委託先が必要な許可を持っていることを必ず確認しておきましょう。
確認は口頭などではなく、許可証を確認することをおすすめします。
廃棄物処理業の許可証には取り扱いのできる品目も記載されているほか、特別管理産業廃棄物の処理ができる場合にはその旨が記載されています。
許可証を確認することで、無許可業者に依頼してしまう事態を避けられるほか、その事業者に委託できる処理の範囲や品目も明確になります。
廃棄物処理には相応の費用がかかることを理解しておく
3つ目は、廃棄物の処理には相応の費用がかかることを理解することです。
ごみの処理にできるだけコストをかけたくないと考える企業は、少なくないでしょう。
しかし、廃棄物の適正な処理には、ある程度の費用がかかるものです。
コストを重視して非常に安い料金と提示する処理事業者に委託すれば不法投棄につながり、排出事業者としても責任を問われるおそれが生じます。
不明点は弁護士へ相談する
4つ目は、不明点が生じたら弁護士に相談することです。
廃棄物処理法はやや複雑であり、自社だけでは判断に迷うこともあると思います。
その際は、あらかじめ弁護士などへご相談ください。
弁護士へ相談することで、知らず知らずのうちに廃棄物処理法に違反する事態を避けやすくなるでしょう。
まとめ
廃棄物処理法の概要や違反となるケース、廃棄物処理法に違反した場合の罰則などを解説しました。
廃棄物処理法は廃棄物処理を業として行う企業はもちろん、すべての企業が知っておくべき法律の一つです。
廃棄物処理法を理解していないと、無許可業者に処理を委託するなどして罰則の対象となるおそれがあります。
廃棄物処理法に違反しないよう、廃棄物処理法による規制を正しく理解したうえで、不明点が生じた場合はあらかじめ弁護士へ相談できる体制を構築するとよいでしょう。
Authense法律事務所では、企業法務に特化したチームを設けており、廃棄物処理法に違反しないためのアドバイスや体制整備のサポートも行っています。
廃棄物処理法への違反を避けたい企業様や廃棄物処理法に関してお困りの企業様は、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。