企業間で公正な競争が実現されなければ、経済の健全な発展が妨げられるおそれがあります。
そこで、公正な競争を実現する目的で設けられているのが、不正競争防止法です。
不正競争防止法に違反するのは、どのような行為なのでしょうか?
また、不正競争防止法に違反すると、どのような罰則が適用されるのでしょうか?
今回は、不正競争防止法違反の概要や罰則、予防策などについて弁護士がくわしく解説します。
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不正競争防止法とは
不正競争防止法とは、事業者間の公正な競争やこれに関する国際約束の的確な実施を確保し、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする法律です(不正競争防止法1条)。
この目的を実現するため、不正競争の防止や、不正競争に係る損害賠償に関する措置などを定めています。
不正競争防止法の違反行為の事例
不正競争防止法に違反するのは、どのようなケースなのでしょうか?
ここでは、不正競争防止法に定められている「不正競争」の区分を紹介するとともに、各区分における違反事例を紹介します。※1※2
周知表示混同惹起行為
周知表示混同惹起行為とは、他人の商品や営業の表示(商品等表示)として需要者の間に広く認識されているものと同一または類似の表示を使用し、その他人の商品や営業との混同を生じさせる行為です。
たとえば、次の行為などは周知表示混同惹起行為に該当し、不正競争防止法違反となります。
- ソニー株式会社の有名な表示である「ウォークマン」と同一の表示を看板などに使用したり、「有限会社ウォークマン」という商号として使用したりした行為(千葉地判平8.4.17)
- 有名コーヒーチェーンの「珈琲所コメダ珈琲店」と類似する店舗外観を使用した行為(東京地判平28.12.19)
- 原告のユニットシェルフ(パーツを選んで組み合わせることができる棚)と、類似の形態のユニットシェルフを販売した行為(知財高判平30.3.29)
- 原告の三角形のピースを敷き詰めるように配置することなどからなる形態のバッグ(BAO BAO)と、類似の形態のバッグを販売した行為(東京地判令元.6.18)
なお、「広く認識」されるとは、必ずしも全国的に知名度が高いことまでは求められず、一定の地域で広く認識されるだけでも足りるとされています。
また、「需要者」は最終消費者に限られず、各流通段階における取引事業者も含まれます。
著名表示冒用行為
著名表示冒用行為とは、他人の商品や営業の表示(商品等表示)として著名なものを、自己の商品や営業の表示として使用する行為です。
たとえば、次の行為などは著名表示冒用行為に該当し、不正競争防止法違反となります。
- 原告のモノグラムと類似のモノグラムを付したバッグ等を販売した行為(知財高判平30.10.23)
- 任天堂の「MARIO KART」や「マリオ」などと類似する「MariCar」や、キャラクターコスチュームなどの表示を営業上使用した行為(知財高判令2.1.29)
なお、先ほど解説した周知表示混同惹起行為と著名表示冒用行為は類似する概念であるものの、構成要件では次の点で相違があるとされています。
周知表示混同惹起行為 | 著名表示冒用行為 | |
商品等表示の知名度や認知度 | 需要者の間で広く知られている(周知) | 全国的に需要者以外にも広く知られている(著名) |
混同惹起行為の要否 | 必要 | 不要(混同惹起為は必要ない) |
また、周知表示混同惹起行為や著名表示冒用行為は不正競争防止法に違反するとともに、商標法にも違反する可能性があります。
形態模倣商品提供行為
形態模倣商品提供行為とは、他人の商品の形態を模倣した商品を譲渡などする行為です。
たとえば、次の行為などは形態模倣商品提供行為に該当し、不正競争防止法違反となります。
- 原告の商品の形態を模倣した婦人用コートを販売した行為(東京地判平30.8.30)
- 原告の商品の形態を模倣したサックス用ストラップを販売した行為した行為(知財高判平31.1.24)
なお、形態模倣商品提供行為は不正競争防止法に違反するとともに、意匠法にも違反する可能性があります。
営業秘密侵害行為
営業日秘密侵害行為とは、窃取などの不正の手段によって営業秘密を取得し、自ら使用したり第三者に開示したりする行為などです。
たとえば、次の行為などは営業秘密侵害行為に該当し、不正競争防止法違反となります。
- 日本の鉄鋼メーカーの元従業員である被告が、変圧器などに使う「方向性電磁鋼板」の製造技術を韓国の同業者に対して開示した行為(東京地判平31.4.24)
- 大手ITコンサルの執行役員である被告人が同業者にヘッドハンティングされて二重雇用にある間に、顧客向けの金融システム提案書や技術者名簿等を転職先から貸与されたデバイスにコピーするなどした行為(東京地判平31.3.26)
- 日本の工具メーカーの元従業員が、中国の同業者への転職にあたって、製品の設計データをUSBメモリなどにコピーした行為(名古屋地判令元.6.6)
- 大手塗料メーカーの元執行役員である被告人が、塗料の商品設計に関する情報をUSBメモリに複製して保存し、競合企業に転職後、書面やメールで開示した行為(名古屋地判令2.3.27)
限定提供データの不正取得行為
限定提供データの不正取得行為とは、窃取など不正の手段によって限定提供データを取得し、自ら使用したり第三者に開示したりする行為などです。
「限定提供データ」とは、企業間で複数者に提供や共有されることで新たな事業の創出につながったり、サービス製品の付加価値を高めたりするなど、その利活用が期待されているデータを指します。
たとえば、自動車メーカーが車両の走行データを提供し、道路状況把握などに役立てることなどが想定されます。
限定提供データはこのように相手を限定して提供されるものであり、これを不正に取得し自社が使用したり第三者に開示したりすることは、不正競争防止法に違反します。
技術的制限手段無効化装置等の提供行為
技術的制限手段無効化装置等の提供行為とは、技術的制限手段により制限されているコンテンツの視聴や記録、プログラムの実行、情報の処理を可能とする(つまり、技術的制限手段の効果を無効化する)装置やプログラム、指令符号、役務を提供などする行為です。
たとえば、次の行為などは技術的制限手段無効化装置等の提供行為に該当し、不正競争防止法違反となります。
- 原告がアクティベーションの必要なCADソフトウェアを販売していたところ、アクティベーションを不要としたクラック版をオークションサイトで販売した行為(東京地判平30.1.30)
- インターネットからダウンロードした違法コピーソフトをニンテンドーDSで起動させることができる「マジコン」と呼ばれる機器を輸入・販売した行為(東京地判平21.2.27)
- マイクロソフト社の「Office2013ProfessionalPlus」のライセンス認証システムによる認証を回避し、製品を実行可能にするクラックプログラムをインターネットを通じて販売した行為(大阪地判平28.12.26)
ドメイン名の不正取得行為
ドメイン名の不正取得行為とは、図利加害目的で、他人の商品や役務の表示(特定商品等表示)と同一・類似のドメイン名を使用する権利を取得することや保有すること、またはそのドメイン名を使用する行為です。
たとえば、次の行為などはドメイン名の不正取得行為に該当し、不正競争防止法違反となります。
- 原告の著名な商品等表示である「maxell」と類似する「maxellgrp.com」というドメイン名を使用しウェブサイトを開設して、その経営する飲食店(風俗業)の宣伝を行った行為(大阪地判平16.7.15)
- 原告の商号である「電通」と類似する「dentsu.org」など8つの「dentsu」を含むドメイン名を取得・保有し、原告に10億円以上の金員で買い受けるように通告した行為(東京地判平19.3.13)
誤認惹起行為
誤認惹起行為とは、商品や役務、その広告などに、原産地・品質・質・内容などについて誤認させるような表示をする行為や、その表示をした商品を譲渡などする行為です。
たとえば、次の行為などは誤認惹起行為に該当し、不正競争防止法違反となります。
- 鉄鋼メーカーである被告人が金属製品の検査データを改ざんし、品質に関する基準を満たしていないにもかかわらず、これを満たしたかのように偽り顧客に交付した行為(立川簡判平31.3.14)
- 富山県氷見市内で製造もされず、その原材料が氷見市内で産出されてもいないうどんに「氷見うどん」などの表示を付して販売した行為(名古屋高判平成19.10.24)
- 食肉加工事業者が鶏や豚などを混ぜて製造したミンチ肉に「牛100%」などと表示し、取引先十数社に約138トンを出荷するなどして代金を詐取した行為(札幌地判平20.3.19)
信用毀損行為
信用毀損行為とは、競争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知したり流布したりする行為です。
たとえば、次の行為などは信用毀損行為に該当し、不正競争防止法違反となります。
- 家具の考案について実用新案権を有する被告が、競争関係にある原告の取引先に対し、原告の商品が実用新案権に抵触している旨などの通知をした行為(大阪地判平27.3.26)
- 枕、マットレスなどの輸入販売を行う被告が、ネット通販サイト運営者に対して、原告の商品が被告の商標権を侵害する旨を告知した行為(東京地判令2.7.10)
代理人等の商標冒用行為
代理人等の商標冒用行為とは、パリ条約の同盟国などにおいて商標に関する権利を有する者の代理人が、正当な理由なくその商標を使用などする行為です。
これは民事のみの規定であり、刑事罰の規定はありません。
不正競争防止法に違反した場合の罰則
不正競争防止法に違反した場合、どのようの事態となり得るのでしょうか?
ここでは、不正競争防止法に違反した場合の罰則やその他生じ得る責任などについて解説します。
刑事罰の対象となる
不正競争防止法では、罰則規定が設けられています。
なかでも「営業秘密侵害行為」の罰則は重く設定されており、10年以下の懲役もしくは2,000万円以下の罰金またはこれらの併科の対象となります(不正競争防止法21条1項)。
これ以外の不正競争行為の罰則は、5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金またはこれらの併科です(同3項)。
なお、法人の業務の一環として不正競争行為がなされた場合には行為者が罰せられるほか、法人にも罰金刑が課されます。
法人の罰金刑は、違反の内容に応じて「5億円以下」や「3億円以下」など非常に高額に設定されています。
民事上の責任を問われる
不正競争防止法に違反した場合、民事上の責任を問われる可能性があります。
民事上の主な請求は次の3つです。
- 損害賠償請求
- 差止請求
- 信用回復措置請求
損害賠償請求
損害賠償請求とは、不正競争行為によって被った損害を金銭で支払うよう請求することです。
なお、不正競争防止法には、実際の損害額がわからない場合であっても、損害額を推定する規定が設けられています。
差止請求
差止請求とは、不正競争防止法に違反する不正競争行為によって営業上の利益を侵害され、または侵害されるおそれがある場合侵害行為を辞めるよう請求することです。
たとえば、次の請求が可能です。
- 侵害行為をする者に対する、その行為の停止の請求
- 侵害のおそれのある行為をする者に対する、侵害の予防の請求
- 侵害行為を組成した物(侵害行為によって作成された物を含む)の廃棄、侵害の行為に供した設備の除却、その他の侵害の停止・予防に必要な措置の請求
信用回復措置請求
信用回復請求とは、不正競争行為によって営業上の信用を害された場合、信用回復のために必要な措置を講じるよう求めることです。
具体的には、謝罪広告の掲載などが求められることが多いでしょう。
企業の信頼が失墜する
不正競争防止法に違反すると、刑事上や民事上の責任を負うのみならず、企業イメージが失墜するおそれがあります。
一旦失墜したイメージは回復に時間がかかる傾向にあり、業績に長期的に影響する可能性も否定できません。
このような事態を避けるため、企業は不正競争防止法に違反する行為をしないよう対策を講じることが必要です。
不正競争防止法に違反しないための主な対策
最後に、不正競争防止法に違反しないための主な対策を2つ紹介します。
どのような行為が不正競争防止法違反となるか理解する
1つ目は、どのような行為が不正競争防止法違反となるのか、よく理解しておくことです。
どのような行為が不正競争にあたるのかを知っておくことで、違反を未然に防ぎやすくなります。
あらかじめ弁護士へ相談する
2つ目は、自社が行おうとする行為が不正競争防止法違反になるか否か迷ったら、あらかじめ弁護士へ相談することです。
あらかじめ弁護士へ相談することで、「不正競争ではない」との誤認から不正競争行為をする事態を避けることが可能となります。
まとめ
不正競争防止法に違反するケースや、違反した場合の罰則などについて解説しました。
不正競争防止法では、不正競争にあたる行為を定めています。
不正競争防止法に違反すると、刑事罰の対象となるほか、損害賠償請求などの対象となったり企業の信頼が失墜したりするおそれがあります。
知らず知らずに違反することのないよう、不正競争防止法違反について正しく理解しておきましょう。
Authense法律事務所では、企業法務に特化したチームを設けており、不正競争防止法違反を抑止する体制構築のサポートも可能です。
不正競争防止法違反を避けたい場合や、他者から不正競争防止法に違反する行為を受けてお困りの際などには、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。