コラム
公開 2024.10.25

電子帳簿保存法の違反に罰則規定はある?弁護士がわかりやすく解説

電子帳簿保存法が、2024年1月1日から全面施行されました。
電子取引のデータ保存に関する猶予期間(「宥恕期間」といいます)も、2023年12月31日をもって終了しています。

電子帳簿保存法に未だ対応できていなかったり、結局のところ何をすべきなのか正確に理解できていない企業もあるかもしれません。
しかし、電子帳簿保存法に対応しなければ罰則の対象となるなど不利益が生じるおそれがあるため、早急な対応が必要といえます。

今回は、電子帳簿保存法の概要や罰則などについて弁護士がくわしく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。明治大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院修了。健全な企業活動の維持には法的知識を活用したリスクマネジメントが重要であり、それこそが働く人たちの生活を守ることに繋がるとの考えから、特に企業法務に注力。常にスピード感をもって案件に対応することを心がけている。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら

電子帳簿保存法とは

電子帳簿保存法は、正式名称を「電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律」といいます。

はじめに、電子帳簿保存法について知っておくべき基本事項をまとめて解説します。

電子帳簿保存法の概要

電子帳簿保存法は、帳簿書類を電子的に保存する際の手続などを定めた法律です。
正式名称からもわかるように、「国税関係帳簿書類」の保存方法について定めています。

国税とは、法人税や所得税などの税金です。
国税の納付義務を果たすには、計算の根拠となる書類や帳簿を保存しなければなりません。

税務申告にあたって、証憑の保存が一切不要である場合、自己申告により「今年も赤字だったので、税金は払いません」という事態がまかり通り、適正な課税の実現は困難でしょう。
同様に、申告後はすぐに書類を捨ててよいとなれば、税務調査も困難を極めます。
そのため、国税通則法や各税法において、帳簿や証憑の保存義務について定められています。

しかし、近年では電子データでの取引が増えたことやテレワークの普及などを受け、これまで原則として「紙で保存すべき」とされていた規定が現状にそぐわなくなってきました。
そこで、電子帳簿保存法では、一定の要件を満たすことで、電子データとして帳簿や商標書類を保存することを可能としています。

また、当初から電子データでやり取りされた書類については、紙に印刷するのではなく、むしろ電子データのままで保存したほうが改ざんは起きづらいといえます。
そのため、電子帳簿保存法では、はじめから電子でやり取りされたデータについて、データのままで保管する義務を定めています。

電子帳簿保存法の対象書類

電子帳簿保存法の対象となる主な書類は、次のとおりです。

  • 国税関係帳簿(仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳など)
  • 決算関係書類(棚卸表、貸借対照表、損益計算書など)
  • 取引関係書類(注文書、見積書、請求書、領収書、納品書など)

このように、国税を適正に計算するために必要な書類が、電子帳簿保存法の対象書類に該当します。

ただし、手書きで作成された国税関係帳簿については、電子帳簿保存法の対象外です。
電子帳簿保存法は、手書きで作成されている現金出納帳などをわざわざ電子化して保存すべきとしているわけではなく、手書きで作成した帳簿は従来どおり紙ベースで保存しなければなりません。

電子帳簿保存法による3つの保存区分

電子帳簿保存法では、保存方法が3つに区分されています。

  • 電子帳簿等保存
  • スキャナ保存
  • 電子取引

ここでは、それぞれの保存形態の概要について解説します。

電子帳簿等保存

電子帳簿保存とは、パソコンを使って自己が作成した帳簿書類などを、そのまま電子データとして保存する方法です。
電子帳簿保存の対象となるのは、次の帳簿や書類です。

  • 自己が電子で作成した国税関係帳簿書類(仕訳帳、現金出納帳、売掛金元帳、買掛金元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳など)
  • 自己が電子で作成した決算関係書類(棚卸表、貸借対照表、損益計算書など)
  • 自己が電子で作成した取引関係書類(注文書、見積書、請求書、領収書、納品書などの控え)

たとえば、会計ソフトを使って作成した帳簿を紙に出力せず、そのまま電子データとして保存することが可能です。

なお、電子帳簿保存への対応は任意であり、従来どおり紙に印刷して保管しても問題ありません。
電子帳簿保存法により、従来は紙での保存しか選択肢がなかったところ、電子データのまま保存することも認められるようになったということです。

ただし、紙ではなく電子帳簿保存とするには、原則として税務職員の求めに応じてダウンロードできることや操作マニュアルを備え付けることなど一定の要件を満たさなければなりません。

スキャナ保存

スキャナ保存とは、取引関係書類をスキャニングして、画像データとして保存する方法です。
スキャン保存の対象となるのは次の書類です。

  • 自己が作成した取引関係書類(注文書、見積書、請求書、領収書、納品書などの控え)
  • 取引の相手方から紙で受領した取引関係書類(注文書、見積書、請求書、領収書、納品書など)

スキャン保存への対応は任意であり、従来どおり紙のまま保存しても構いません。
電子帳簿保存法により、従来は紙での保存しか選択肢がなかったところ、電子データ化して保存することも認められるようになったということです。
これらの書類をスキャン保存することで、紙の保存義務から解放され、電子データだけを保存すればよいこととなります。

ただし、適法にスキャン保存をするにはさまざまな要件を満たす必要があります。
検索性を確保すべきであるほか、一定の重要書類では最長でも「受領後2か月+7営業日以内」にデータ化しなければなりません。

そのため、省スペース化やリモートワークへの対応などのためにスキャン保存を行おうとする際は、スキャン保存の要件を十分に確認したうえで行う必要があるでしょう。

電子取引

電子取引とは、電子で授受された取引書類をそのまま電子データで保管することです。
電子取引の対象となるのは次の書類です。

  • 電子的に授受された取引データ(注文書、見積書、請求書、領収書、納品書など)

なお、「電子的に授受」とは、クラウドサービス上でやり取りされたもののほか、電子メールやチャットサービスでやり取りされたものなどが該当します。

電子取引についての対応は強制であり、これまでのように印刷した紙を保存することはできません。
電子的に授受された請求書などの取引データは、そのまま電子データとして保存すべきということです。

また、単にダウンロードデータを保存すればよいわけではなく、次の要件を満たさなければなりません。

  • 真実性の確保
    • 1.タイムスタンプの付与:速やかにタイムスタンプを付与するなど一定の対応をすること
  • 可視性の確保
    • 1.関連書類の備え付け:システム概要書など関連書類を備え付けること
    • 2.見読性の確保:保存場所に電子計算機やプログラムなどの操作説明書を備え付けることなど
    • 3.検索機能の確保:一定条件で検索できるようにすること

電子取引への対応は任意ではなく、電子帳簿保存法への対応としてもっとも重要となるのがこの電子取引といえるでしょう。
対応のために必ずしも新たなソフトを導入する必要はないものの、作業環境に合わせて適切な業務フローを構築しなければなりません。
お困りの際は、弁護士や税理士などの専門家へご相談ください。

電子帳簿保存法への対応期限

電子帳簿保存法への対応期限は、原則として2024年1月1日です。
すでに期限を過ぎているため、特に電子取引について対応できていない場合には早急に対応を進めなければなりません。

なお、システム等の整備が間に合わないなど期限までに対応できない相当の理由がある場合は、一定期間における猶予措置が受けられるとされています。
お困りの際は、弁護士などの専門家へご相談ください。

電子帳簿保存法に違反する4つのケース

電子帳簿保存法に違反するのは、どのようなケースなのでしょうか?
ここでは、電子帳簿保存法違反となる主なケースを4つ紹介します。

データ保存の要件を満たせていない場合

1つ目は、データの保存要件を満たせていない場合です。

たとえば、本来であればスキャン保存が認められない書類をスキャン保存し、元となる書類を破棄してしまった場合などがこれに該当します。

検索要件を満たせていない場合

2つ目は、検索要件を満たせていない場合です。

電子帳簿保存法では、スキャン保存や電子取引の保存などをする場合、一定の検索要件を満たすことが求められます。
電子化したデータが適切に検索できない場合、電子帳簿保存法違反となります。

保存期限が過ぎている場合

3つ目は、保存期間が過ぎている場合です。

スキャン保存では、スキャンまでに期限が設けられています。
この期限は改正によって「受領後2か月+7営業日以内」へと緩和されたものの、期限が撤廃されたわけではありません。

そのため、この期限を過ぎてから書類をデータ化し元の書類を破棄した場合などには、電子帳簿保存法違反となります。

保存期間が不足する場合

4つ目は、保存期間が不足する場合です。

各税法では書類や電子データなどの保管期限が設けられており、法人の場合は原則として7年間(一定の場合は10年間)です。
この期限を待たずして書類や電子データを破棄した場合は、電子帳簿保存法違反となります。

電子帳簿保存法違反の罰則規定と主なリスク

電子帳簿保存法に違反した場合、どのようなリスクが生じるのでしょうか?
ここでは、違反時の罰則などについて解説します。

過料が科せられる可能性がある

電子帳簿保存法自体には、罰則は定められていません。
しかし、会社法において、帳簿の保存義務に違反した場合、100万円以下の過料の対象とする旨の規定があります(会社法976条)。

青色申告の承認が取り消される可能性がある

電子帳簿保存法に違反すると、青色申告が取り消される可能性があります。
青色申告とは、一定の帳簿書類を備え付けてこれに日々の取引を正確に記録することを条件に、欠損金の​繰越控除や繰り戻し還付、一括償却など税制上のメリットが享受できる制度です。

電子帳簿保存法違反とはすなわち、適切な帳簿の備え付けができていないことを意味します。
そのため、青色申告の要件を満たさず、承認が取り消されるおそれがあります。

追加徴税や追加課税が発生する可能性がある

電子帳簿保存法に違反し適切な帳簿や書類の備え付けができていないということは、税務申告の証拠書類に不備があるということです。
そのため、適切な帳簿や証憑のない取引が経費として認められず、追徴の対象となる可能性があります。

電子帳簿保存法違反で罰則の対象とならないための対策

電子帳簿保存法に違反しないようにするには、どのような対策を講じればよいのでしょうか?
最後に、違反を避けるための主な対策を3つ解説します。

「自社には関係がない」と思い込まない

1つ目は、「自社には関係ない」と思い込まないことです。

たしかに、3つの保管のうち「電子帳簿保存」や「スキャナ保存」については、無理に対応する必要はありません。
紙の取り扱いに慣れている場合は、従来どおり紙で適切に保管すれば問題ないでしょう。

一方で、電子取引への対応は義務であり、電子上で取引データのやり取りがある以上は対応しなければなりません。
取引先などと請求書などをメールでやり取りすることがなかったとしても、クレジットカードの明細や電気代の明細などは、電子化されていることも多いでしょう。

決算時などに、何らかの書類を「ダウンロードして印刷する」工程がある場合、電子帳簿保存法上の電子取引である可能性があります。
関係ないと思い込むのではなく、今一度自社の取引を確認することをおすすめします。

電子帳簿保存法の内容を理解する

2つ目は、電子帳簿保存法の内容を理解することです。

電子帳簿保存法について、「紙の請求書も電子化しなければならない」などと誤解しているケースは少なくありません。
しかし、先ほど解説したように、紙で受け取った請求書などはそのまま紙で保存すればよく、むしろスキャン保存などをする場合は一定の要件を満たす必要が生じます。

勘違いからすべての請求書などを電子化して書類を破棄してしまうと、スキャン保存の要件を満たせず、電子帳簿保存法違反となるかもしれません。

弁護士に相談する

3つ目は、弁護士などの専門家に相談することです。

電子帳簿保存法はやや複雑であり、自社が何をすべきかわからないということも多いでしょう。
その際はぜひ、弁護士へご相談ください。

弁護士のサポートを受けることで、自社でやるべきことが明確となり、知らず知らずに違反するといった事態を避けやすくなります。

まとめ

電子帳簿保存法の概要や違反時の罰則、違反しないための対策などについて解説しました。
電子帳簿保存法は2024年1月1日から全面施行されており、すべての企業は対応しなければなりません。

とはいえ、対応が必須なのは「電子取引」についてだけであり、「電子帳簿保存」や「スキャナ保存」への対応は任意です。
まだ対応できていない場合は、電子帳簿保存法を正しく理解し、自社が何をすべきか把握するところから対応を始めるとよいでしょう。

Authense法律事務所では、企業法務専門のチームを設けており、電子帳簿保存法など企業が知っておくべき法令について対応のサポートを行っています。
電子帳簿保存法への対応でお困りの際や、その他法改正があった際に相談できる弁護士をお探しの際には、Authense法律事務所までお気軽にご相談ください。

Authense
Professional Group
サービス紹介

Authenseの顧問弁護士

Authenseの知見と総合力で企業を全面サポート。電子契約書サービス付帯、実務に即した顧問弁護士プラン。

法務クラウド(旧名称「ALS」)

法務部員の急な退職や繁忙期にフレキシブルに対応。法務責任者の右腕となる弁護士を最速でアサイン。

広告審査アウトソーシングサービス

即戦力人材を即アサイン。弁護士が担当者として関係部署と連携、スムーズな広告審査の体制構築をサポート。

弁護士へご相談可能な時間帯
平日:10:00~最終受付18:00 /
土日祝:10:00~最終受付17:00

近日開催のウェビナー

Authenseの無料メルマガ充実の企業法務コンテンツ

Authense法律事務所のメールマガジンでは、実務に役立つ企業法務や労務情報、
最新の法改正情報などの資料ダウンロードのご案内、セミナー情報などをお届けしています。
ご登録は無料です、ぜひご登録ください。

01

契約書の雛形や法改正情報などの
資料ダウンロード

契約書の雛形や法改正資料など、実務にすぐにお役立ていただける資料のダウンロードURLをご案内しています。

02

多彩な内容のセミナーに
ワンステップでお申し込み

生成AIの業務活用法から労務や企業法務の基本知識などを弁護士がわかりやすく説明するセミナーを多数開催しています。

03

ビジネスマガジン「THE INNOVATORS」の
記事が読める

Authenseが発刊しているビジネスマガジン「THE INNOVATORS」。各分野のトップのインタビューや最新ビジネストピックスなど、ここでしか見られないコンテンツが多数揃っています。

\簡単1分で登録完了/
今すぐメルマガ登録keyboard_arrow_right

INNOVATORS

Authenseが発刊する経営者向けビジネスマガジン

CONTACT

法律相談ご予約のお客様
弁護士へご相談可能な時間帯
平日:10:00~最終受付18:00 /
土日祝:10:00~最終受付17:00

ご相談から解決までの流れ