最近では、飲食店や宿泊先など、利用するサービスを選ぶ際に、口コミサイトの情報を参考にする方が多いと思います。それゆえ、口コミサイトに掲載される内容は、書かれた側にとって大きな影響があるといえます。しかし、口コミサイトには、事実無根なことを書かれるという問題だけでなく、その仕組みを悪用するマッチポンプ業者の問題もあります。今回は、口コミサイトでの名誉毀損やマッチポンプ業者への対処などについてご説明します。
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら
<メディア関係者の方>取材等に関するお問い合わせはこちら
名誉毀損とは?
そもそも、どういった場合に名誉毀損といえるのでしょうか?
名誉毀損とは、公然と、事実を摘示して、人の品性、徳行、名声、信用などの人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉を違法に侵害することをいいます(刑法230条1項参照)。
ここでいう「公然と」とは、不特定または多数人が認識し得る状態となることをいうので、口コミサイトにおいては、この公然性の要件は当然に満たされるでしょう。
また、意見や論評であっても名誉毀損が成立し得ます。
もっとも、他人の名誉を毀損する事実を摘示する行為であっても、その行為が①公共の利害に関する事実に係り、②専ら公益を図る目的に出た場合には、③摘示された事実が真実であるときは、その違法性が阻却され、名誉毀損は成立しないことになります(刑法230条の2第1項参照)。
また、他人の名誉を毀損する意見や論評の表明であっても、①公共の利害に関する事実に係り、②専ら公益を図る目的に出た場合には、③表明に係る内容が人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものではなく、④意見等の前提としている事実の重要な部分が真実であるときは、違法性が阻却され、名誉毀損は成立しないことになります(最判平成9年9月9日民集51巻8号3804頁)。
加えて、名誉毀損行為の行為者において、摘示した事実を真実と信じるに足りる相当の理由があるときには、過失が否定され、名誉毀損は成立しないともされています。
名誉毀損に該当する場合とは
名誉毀損に該当するかどうかは、先に述べた基準で判断されますので、否定的な内容の口コミだからといって、必ずしも不法行為が認められるわけではありません。
口コミサイトへの投稿は、その性質上、投稿者の表現の自由の問題であるとともに、投稿を見る人への情報提供という意味合いもあるため、その保護の程度は高いものとお考えいただくのがよいでしょう。
それでは、具体的にはどのような口コミが名誉毀損で、どのような口コミが名誉毀損ではないといえるのでしょうか?
結論としては、文脈などにより判断は異なるため、一概に「この表現は名誉棄損」「この表現は名誉棄損ではない」ということはできません。
そのうえで、参考程度ということになりますが、たとえば、「おいしい」「まずい」「上手い」「下手」「高い」「安い」程度であれば主観によるものも大きく、また、個人の感想として許容される可能性が高いでしょう。
これに対し、たとえば「食べた料理に虫が入っていてまずかった」となれば、個人の感想を含むものの、提供される料理に虫が入っているという事実が摘示されており、かつ、飲食店としての社会的評価を低下させると判断される可能性が高いため、仮にこれが真実でないのであれば名誉毀損と評価される可能性が高いでしょう。
名誉毀損以外に主張できることはあるのか?
名誉毀損以外に権利侵害として考えられるのは、営業権の侵害です。
もっとも、営業権の侵害の場合、「具体的にどのような営業的な損害が生じたのか」という点を主張立証しなければならず、一般的にこの点を主張立証することは非常に難易度が高いため、基本的には難しいものであるとご理解いただくのがよいでしょう。
また、営業権の侵害の場合、法的に削除請求を行うことができないこともデメリットの1つです。
マッチポンプ商法とその対処法
「マッチポンプ」という言葉は、「意図的に問題を起こし、それを自ら解決することで利益を得る」「自作自演によって自己の評価を上げる」といった意味で使われます。
本記事においては、GoogleMapなどの口コミサイトにおいて、ある店舗にあえて低評価の口コミを投稿した上、ダイレクトメールなどの手段によって、当該店舗に対し、低評価の口コミを削除する旨の広告を打ち、自ら投稿を削除することによって報酬を得るような商法を「マッチポンプ商法」と呼ぶこととします。
近年、GoogleMapなどの口コミサイトにおいて、マッチポンプ商法が疑われる投稿が多くなされています。
また、SNS上などでも、マッチポンプ商法が疑われる投稿があったことの報告が数多く見られます。
マッチポンプ商法は、病院、歯科医院などの医療機関の口コミ欄で行われることが多いようです。
それでは、マッチポンプ商法が疑われる投稿がされた場合、これに対処する手段はあるのでしょうか?
法的な対処法は、大きく分けて2つあります。
法的な対処方法①:削除請求
法的な対処法の1つ目は、記事の削除請求を行うことです。
記事の削除請求を行うためには、サイト管理者に削除依頼を出して削除してもらう方法と、裁判所に削除命令を出してもらう方法があります。
裁判所に削除命令を出してもらうためには、当該記事によって、名誉権などの人格権が侵害されているといえる必要があります。
サイト管理者に削除依頼を出して削除してもらう方法の場合も、サイトの利用規約などの内容にもよりますが、基本的には、記事が何らかの権利を侵害していることが必要です。
また、いずれの場合でも、記事を削除してもらうまでに相当の時間がかかります。
法的な対処方法②:損害賠償請求
法的な対処法の2つ目は、マッチポンプ業者に対して損害賠償請求を行うことです。
この場合、「マッチポンプ業者が当該記事を投稿した」といえる証拠を収集する必要があります。
その証拠を収集する方法として、まず考えられるのが、発信者情報開示請求手続を行うことです。
この発信者情報開示請求手続を行うことが、いわゆる正攻法といえるでしょう。
しかしながら、マッチポンプ商法に対して発信者情報開示請求を行うには、大きな障害があります。
1点目は、マッチポンプ商法を行う業者も、発信者情報開示請求がなされるリスクを理解しているため、口コミに投稿される内容が、名誉毀損に該当し得ない、または名誉毀損に該当するというには疑わしい内容となる場合が多いことです。
たとえば、「料理がまずい」などの抽象的かつ主観的な感想のみを投稿することが多く行われています。
2点目は、発信者情報開示請求のタイムリミットとの関係です。
発信者情報開示を受けるためには、投稿者のアクセスログを経由プロバイダに保存してもらう必要があります。
しかし、一般的には、アクセスログが保存される期間は、投稿時から3か月~6か月程度とされます。
マッチポンプ商法が行われる場合には、名誉毀損該当性が疑わしいことも多いため、発信者情報開示請求の裁判手続の審理に時間がかかることが予想されます。
そのため、発信者情報開示のタイムリミットに間に合わないことも、往々にしてあり得ます。
そこで、正攻法である発信者情報開示請求が難しい場合には、あえてマッチポンプ業者に依頼して記事を削除させることで、その事実を一つの証拠として、マッチポンプ業者に対して、損害賠償請求訴訟を提起する可能性が考えられます。
この方法をとる場合の留意点は、以下の2つです。
- 業者に即日~1週間などの極めて短期間で記事を削除させること
- 業者には記事の「非表示」ではなく、記事の削除をさせること
先に説明したとおり、削除請求による記事削除には、それなりの時間がかかります。
また、裁判所に削除命令を出してもらう方法を採るのは、事実上、弁護士でなければ困難です。
その一方で、投稿者が自ら投稿した記事を削除することは一般に可能です。
マッチポンプ業者は、「最短即日」などと、削除までの期間が短いことを宣伝文句にしていることが多くあります。
以上のことを踏まえ、業者がある記事を極めて短期間で削除した事実から、当該業者自身(またはその関係者)が当該記事を投稿したことを推認することができ、これが損害賠償請求の一つの証拠となり得ます。
ただし、マッチポンプ業者の中には、記事の削除ではなく「非表示」を謳っているものもあり、あくまでも「非表示」ではなく記事の削除をさせることが必要です。
弁護士に依頼するメリット
ここまで、民事上の名誉毀損や口コミサイトの特性、マッチポンプ業者などについてご説明してきました。
こういった名誉棄損やマッチポンプ商法であることが疑われる低評価の口コミを投稿されてお悩みの場合には、一度弁護士に相談されることをおすすめします。
いわゆるインターネット上の誹謗中傷という分野は、高度な法的知識や経験が結果に大きく影響します。
また、この分野は、日々の対策や何かあったときの素早い対応が非常に重要ですので、顧問弁護士をつけるという選択肢を検討するのもよいでしょう。
まとめ
口コミサイトにおける名誉毀損やマッチポンプ業者への対処には、高度な知見が求められます。
また、発信者情報開示のタイムリミットの問題から、「迷ったらまずは相談」というフットワークの軽さが後の結果に好影響を及ぼすこともありますので、なるべく早い段階で弁護士に相談するのがおすすめです。
口コミサイトに低評価の口コミを投稿され、それが名誉棄損に該当する可能性がある場合や、マッチポンプ業者の関与が疑われる場合には、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。