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特定商取引法とは
特定商取引法とは、通信販売等の特定の取引に関し、事業者による違法若しくは悪質な勧誘行為等を防止して、消費者の利益を守ることを目的とする法律です。※1
具体的には、訪問販売や、通信販売等の消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールと、クーリング・オフ等の消費者を守るルール等を定めています。
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さて、本来、契約はお互いが合意さえすれば、ある程度自由な内容で契約を結ぶことが可能です。
しかし、一般的に消費者は事業者と比べてその商品や取引についての知識が少ないため、当人同士の自由に任せると、その知識格差のせいで、消費者が一方的に不利な契約をさせられてしまうかもしれません。
こうした事態を防ぐため、事業者にいくつかの義務や守るべきルールを課しているのです。
対象となる類型
もっとも、消費者を保護する目的とはいえ、スーパーマーケット等での日常的な買い物にいちいち特定商取引法を適用していては、事業者側にとって非常に煩雑です。※1
また、折角契約を締結したのに、消費者からクーリング・オフをされて一方的に契約を解除されるのかどうかわからない状態のままですと、事業者は安心して商売をすることは難しいでしょう。
そこで、特定商取引法では、特に消費者トラブルが生じやすい取引に限定してルールを定めています。
特定商取引法の対象となる取引類型は、次のとおりです。
訪問販売
訪問販売とは、事業者が消費者の自宅等を訪問して、商品や、株式等の特定の権利の販売又は役務の提供を行う契約をする取引のことです。
消費者の自宅以外でも、例えば路上でのキャッチセールス、喫茶店、ホテルのロビー等へ呼び出して契約する取引等、販売業者等の営業所等ではない場所での取引であれば、原則として訪問販売に該当します。
通信販売
通信販売とは、事業者が新聞や雑誌、テレビコマーシャル、インターネット等で広告して、郵便や電話等の通信手段により申込みを受ける取引のことです。
電話勧誘販売は別で定義がされているため、電話で勧誘をするものはここには含まれません。
電話勧誘販売
電話勧誘販売とは、事業者が電話で勧誘を行い、申込みを受ける取引のことです。
電話をいったん切った後で消費者が郵便や電話等によって申込みを行う場合や、事業者が嘘をついたり勧誘であることを隠したりして消費者に電話をかけさせて勧誘した場合も該当します。
連鎖販売取引
連鎖販売取引とは、いわゆる「マルチ商法」のことです。
個人を販売員として勧誘し、さらにその個人に次の販売員の勧誘をさせる形で、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品・役務の取引のことを指します。
入会金や保証金、サンプル商品の購入、受託販売等の名目を問わず、取引を行うために消費者に何らかの金銭負担があるものはすべてこれに該当します。
特定継続的役務提供
特定継続的役務提供とは、長期かつ継続的な役務の提供と、これに対する高額の対価を約する取引のことです。
2021年現在、次の7つの役務のうち5万円を超えるもので、かつ類型に応じて1ヶ月または2ヶ月を超えるものが対象とされています。
- エステティックサロン
- 美容医療
- 語学教室
- 家庭教師
- 学習塾
- パソコン教室
- 結婚相手紹介サービス
業者提供誘引販売取引
業者提供誘引販売取引とは、仕事を提供するので収入が得られる等の口実で消費者を誘引し、仕事に必要であるとして商品やサービス等を購入させて、消費者に金銭負担を負わせる取引のことです。
例えば、ホームページ作成の在宅ワークを紹介するとの口実でパソコンやソフトウェアを販売すること等が該当します。
取引をする際に、商品を購入させ、取引料、登録料、保証金その他いかなる名義でも、消費者に何らかの金銭負担がある場合に該当します。
訪問購入
訪問購入とは、事業者が消費者の自宅等を訪問して、物品の購入を行う取引のことです。
自宅へ訪問して行う不用品買い取りや着物買い取り等が該当します。
この規制がかかる物品については、消費者の利益を損なうおそれがないと認められる物品や、規制されると流通が著しく阻害されるおそれがある物品で、政令で定めるものは除かれています。
主なルール
特定商取引法で事業者に課される主なルールは次のとおりです。※1
違反行為は、業務改善の指示や業務停止命令、業務禁止命令の行政処分、または罰則の対象となります。
氏名等の明示の義務付け
事業者は、勧誘開始前に事業者名や勧誘目的であること等を消費者に告げなければなりません。
不当な勧誘行為の禁止
事業者は、価格や支払い条件等について、嘘の告知をしたり、故意に告知をしなかったりしてはなりません。
仮にこれらの行為を原因として消費者が誤認して契約の申込み等をしたときには、消費者はその意思表示を取り消すことができます。
また、消費者を威迫して困惑させたりする勧誘行為も禁止されています。
広告規制
事業者が広告をする際には、重要事項を表示することを義務付けています。
また、虚偽や誇大な広告をしてはなりません。
書面交付義務
事業者は、契約締結時等に重要事項を記載した書面を交付しなければなりません。
なお、消費者の同意を条件として電子で交付することを認める改正がなされています。
これについては問題点も指摘されていますので、後ほど詳しく解説します。
クーリング・オフ
消費者は、法律で決められた書面を受け取ってから一定の期間内であれば、無条件で解約することができます。
損害賠償等の額の制限
消費者が中途解約する際等に事業者が消費者に請求できる損害賠償額には、上限が設けられています。
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特定商取引法改正のポイント
特定商取引法は、新たな課題に対応するため比較的頻繁に改正がされる法律です。※2
最近では、令和3年6月16日に改正法が公布されました。
改正内容は、次のとおりです。
サブスク取引の規制
消費者が一度限りの取引だと誤認をして申込みをしたものの、実は定期購入の契約がなされていたとのトラブルが頻発しています。
例えば、「初回限定価格」等と銘打ち、格安で商品を販売する広告が表示され、消費者は一度限りの取引だと思い、申し込みます。
しかし、実はいわゆる「サブスク取引」の申込みとなっており、次回以降も自動的に商品が送付され、料金が請求されるような形です。
こうした不意打ちで定期購入の申込みをさせるトラブルが増加していることを受け、主に次の改正がなされました。
- 定期購入でないと誤認させる表示等を直接取り締まる罰則の創設
- 上記の表示によって申込みをした場合に申込みの取消しを認める制度の創設
- 通信販売の契約の解除の妨害に当たる行為の禁止規定の創設
- 上記の誤認させる表示や解除の妨害等を適格消費者団体の差止請求の対象に追加
これらの規定は、公布の日から起算して1年を超えない日までに施行される予定です。※2
送り付け商法対策
送り付け商法とは、購入を申し込んでいない消費者に対し事業者が一方的に商品を送り付け、その代金を請求する商法を指します。※3
警察庁によると、叙勲者に皇室の写真集や叙勲者名簿を送り付けて、しつこく代金を請求する等のケースがあるようです。
従来は、届いた商品はそのまま送り返すか、使用せず保管する場合は14日間が経ってから処分する必要がありました。
これは、14日以内であれば事業者からの返還請求が認められていたためです。
しかし、これでは一方的に商品を送り付けられた消費者に負担が生じてしまいます。
そこで、売買契約に基づかずに送付された商品について、改正により送付した事業者が返還請求できない規定が整備されました。
これにより、購入の申込みをしていない消費者が勝手に送付された商品を保管する必要はなくなり、直ちに処分をすることが可能となっています。
この改正は、令和3年7月6日から既に施行されています。※2
消費者利益の擁護増進を図るための規定の整備
消費者の利益を守り、増進するため、主に次の改正もなされました。
- 消費者からのクーリング・オフの通知について、電子メールの送付等で行うことを可能とされた
- 事業者が交付しなければならない契約書面等について、消費者の承諾を得て、電子メールの送付等で行うことを可能とされた
- 違反した事業者への行政処分を強化した
これまで書面で行うこととされていた消費者からのクーリング・オフが、電子メール等で可能となれば、消費者にとってクーリング・オフのハードルは低くなることが予想されます。
これは、より消費者の利益が守られることへとつながるでしょう。
一方、事業者から交付すべき契約書面の電子化にはいくつかの問題があります。
これについては、後ほど解説します。
これらの規定のうち、契約書面等の交付に代えて、消費者の承諾を得て、電子契約等により提供することができることに係る改正は、公布の日から起算して2年を超えない日までに、その他の規定は公布の日から起算して1年を超えない日までに施行される予定です。※2
契約書面電子化の課題
契約書面等が電子化されれば、確かに便利な面もあるでしょう。
また、ペーパーレス化ができるため、エコでもあります。
しかし、契約書面等が電子化されることによる弊害も指摘されているのが現状です。
消費者保護機能が失われるおそれがある
契約書面等が電子化されることの最も大きな懸念事項は、消費者保護機能が失われる可能性があることです。※4
そもそも、従来の特定商取引法で書面の交付を求めていた理由は、消費者を保護することにあります。
契約書面等に記載すべき項目も特定商取引法で定められており、そのうちの1つにクーリング・オフについての記載があります。※5
しかも、クーリング・オフについては、契約書面等で、消費者に対する注意事項として、書面をよく読むべきことを、赤枠の中に8ポイント以上の大きさの赤字で記載すべきとのルールが定められており、契約書面等には、消費者にクーリング・オフ制度を知らせる役割も担わせていたのです。
しかし、この書面を電子メール等で交付できることとしてしまえば、消費者がクーリング・オフ等の重要な事項に気がつく機会を奪ってしまいかねません。
契約書の電子交付が認められることで、消費者がクーリング・オフ制度を知らないままにクーリング・オフができる期限を過ぎてしまうようなケースが多発することが懸念されています。
電子化の同意が書面で必要となれば電子化する意味が半減する
契約書面が電子で交付されることに対する消費者の同意自体も電子で行われてしまえば、
消費者は、しっかりと確認しないままに電子交付に同意をしてしまい、結果的にクーリング・オフ等について知る機会が損なわれるかもしれません。
このような事態を防ぐためには、契約書面等の電子化への同意を、電子ではなく書面で取り付けることを義務付けることが考えられます。
しかし、電子交付への同意を書面で取り付けるとなれば、そもそもの電子化の意味が半減してしまいます。
いずれにしても、書面をやり取りするのであれば、契約書面等を従来どおり、実際に書面で交付する方がむしろシンプルであるためです。
この結論はまだ出ていませんので、消費者保護と利便性の両立のバランスをどのように取っていくのか、今後の情報に注意しましょう。
まとめ
特定商取引法は、消費者保護に重きを置いた法律です。
対象となる事業を行っている場合には、遵守すべき義務をよく理解しておきましょう。
また、特定商取引法は頻繁に改正がなされる法律の一つです。
改正がなされると、これまで使用していた契約書面等の文言を見直す必要が生じる場合もあります。
改正に随時対応していくために、弁護士の活用もご検討ください。