コラム

パワハラとはどこからを指す?パワハラの定義と6類型を弁護士がわかりやすく解説

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パワハラ(パワーハラスメント)とは、どのような行為を指すのでしょうか?
また、どこからがパワハラであると認定されるのでしょうか?

今回は、法律が定めているパワハラの定義や、厚生労働省によるパワハラの6類型などについて、弁護士がくわしく解説します。

記事を監修した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
第二東京弁護士会所属。明治大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院修了。健全な企業活動の維持には法的知識を活用したリスクマネジメントが重要であり、それこそが働く人たちの生活を守ることに繋がるとの考えから、特に企業法務に注力。常にスピード感をもって案件に対応することを心がけている。
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パワハラとは?どこからがパワハラ?パワハラ防止法による定義

パワハラについて正しく理解していなければ、パワハラであるとの自覚がないままパワハラ加害者となってしまうかもしれません。
また、パワハラを恐れるがあまり、業務上必要な叱責や指導さえできなくなってしまうケースもあるでしょう。

これらの事態を防ぐため、まずはパワハラについて正しく理解しておくことが必要です。

そこで参考となるのが、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(通称「パワハラ防止法」)が定めているパワハラの定義です。※1
この定義によれば、次の3要件にすべて当てはまるものがパワハラとされます。

要件1:優越的な関係を背景とした言動であること

ある言動がパワハラに該当するための1つ目の要件は、優越的な関係を背景とした言動であることです。
上司から部下への言動が、典型的な例であるといえるでしょう。

ただし、同僚や部下からの言動であれば、絶対にパワハラに該当しないというわけではありません。
たとえば、次のようなケースでは、同僚や部下からの言動であってもパワハラになる可能性があります。

  • その言動をした同僚や部下が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その者の協力を得なければ業務の円滑な遂行が困難である場合
  • 同僚や部下からの集団による行為であり、これに抵抗や拒絶をすることが困難である場合

このように実質的に判断されるものであり、職責の上位下位などのみで画一的に判断されるわけではない点に注意しましょう。

要件2:業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること

パワハラに該当する2つ目の要件は、その言動が業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであることです。

この判断にあたっては、その言動の目的や言動を受けた労働者の問題行動の有無、業務の内容、言動の頻度など、さまざまな要素を総合的に考慮することが適当であるとされています。

なお、その言動を受けた労働者側に問題行動があったからといって、パワハラが成立しないわけではありません。
たとえ言動の受け手側に問題行動があったとしても、人格を否定するような言動など業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動がなされれば、パワハラに該当します。

要件3:労働者の就業環境が害されるものであること

ある言動がパワハラとなる3つ目の要件は、ある言動によって労働者が身体的または精神的に苦痛を与えられて就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなどその労働者が就業するうえで看過できない程度の支障が生じることです。

この判断にあたっては、平均的な労働者の感じ方を基準とすることが適当であるとされています。
すなわち、同じような状況で同様の言動を受けた場合に、社会一般の労働者が、就業する上で看過できない程度の支障が生じたかどうかを基準とするというもので、受け手の主観のみで判断されるわけではありません。

パワハラ6類型とは

厚生労働省では、パワハラを6つに分類し、それぞれ典型例などを紹介しています。※2

6類型に分類される各行為がパワハラとなるかどうかを検討する際には、原則として先ほど解説した要件に当てはまるかどうかを個別に検討しなければなりません。
その言動がなされた一場面のみを切り取ってパワハラかどうかが判断されるわけではありませんので、誤解のないよう注意しましょう。

パワハラ6類型①:身体的な攻撃型

身体的な攻撃型のパワハラとは、蹴ったり殴ったりして、体に危害を加えるパワハラです。
上司が部下に対して殴打や足蹴りをすることは、パワハラの3つの要件を満たし、身体的な攻撃型のパワハラに該当する可能性があるでしょう。

身体的な攻撃型のパワハラに該当し得る言動の例

身体的な攻撃型のパワハラに該当する可能性がある言動の例としては、次のものが挙げられます。
(※これらは厚生労働省による企業へのヒアリングで挙げられた、実際に生じたパワーハラスメントまたはそれが疑われたケースであり、必ずしもパワハラに該当することを意味しません。)

  • 指導に熱が入り、手が出てしまった(頭を小突く、肩をたたく、胸倉を掴むなど)
  • 繰り返しミスをする部下に対し、ヘルメットの上から叩くなどの体罰を与えた
  • 指導に熱が入り、物を投げて怪我をさせた
  • 宴会の席でのマナーに関する注意が過熱し、後輩を蹴飛ばした

指導の厳しい会社で長年勤めてきた方の中には、「自分の若い頃はこの程度は普通だった」などと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、以前は黙認されていた行為であったとしても、現代において行うとパワハラとなってしまいかねません。

「指導の一環であるから」「部下に非があるから」「飲み会の場であるから」などという理由でパワハラから除外されるわけではありませんので、十分注意しておきましょう。

身体的な攻撃型のパワハラに該当しない例

業務上関係のない、単に同じ企業の同僚間のけんかは、身体的な攻撃型のパワハラに該当する可能性が低いでしょう。
なぜなら、上で解説をしたパワハラの定義のうち「要件1」または「要件2」に当てはまらないためです。

パワハラ6類型②:精神的な攻撃型

精神的な攻撃型のパワハラとは、脅迫や名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など精神的な攻撃を加えるパワハラです。
上司が部下に対して人格を否定するような発言をした場合などには、精神的な攻撃型のパワハラに該当する可能性があるでしょう。

精神的な攻撃型のパワハラに該当し得る言動の例

次のような言動は、精神的なパワハラに該当する可能性があります。
(※これらは厚生労働省による企業へのヒアリングで挙げられた、実際に生じたパワーハラスメントまたはそれが疑われたケースであり、必ずしもパワハラに該当することを意味しません。)

  • 「馬鹿」「ふざけるな」「役立たず」「給料泥棒」「死ね」などの暴言を吐く
  • 大勢の前で叱責する
  • 大勢を宛先に入れたメールで暴言を吐く
  • 指導の過程で個人の人格を否定するような発言で叱責する
  • ため息をつく、物を机にたたきつけるなど威圧的な態度をとる

特に、大勢の前での叱責などは、パワハラであるとの認識がないままに行ってしまうことがあるかもしれません。
しかし、これらの行為はパワハラに該当する可能性がありますので、パワハラとなり得る行為についてよく理解しておきましょう。

精神的な攻撃型のパワハラに該当しない例

遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない部下に対して上司が強く注意をする場合には、パワハラに該当する可能性は低いでしょう。
なぜなら、上で解説をしたパワハラの要件のうち、「要件2」と「要件3」に該当しないためです。

ただし、たとえ部下側に遅刻などの問題行動があったとしても、人格を否定する言動などがなされればパワハラであると認定される可能性があるでしょう。

パワハラ6類型③:人間関係からの切り離し型

人間関係からの切り離し型のパワハラとは、隔離や仲間外れ、無視など個人を疎外するパワハラです。

自身の意に沿わない社員に対して仕事を外し、長期間にわたり別室に隔離したり、自宅研修させたりした場合には、人間関係からの切り離し型のパワハラに該当する可能性があるでしょう。

人間関係からの切り離し型のパワハラに該当し得る言動の例

人間関係からの切り離し型のパワハラに該当し得る行為の例は、次のとおりです。
(※これらは厚生労働省による企業へのヒアリングで挙げられた、実際に生じたパワーハラスメントまたはそれが疑われたケースであり、必ずしもパワハラに該当することを意味しません。)

  • ある社員のみを意図的に会議や打ち合わせから外す
  • 仕事を割り振らず、プロジェクトから疎外する

パワハラというと暴力や暴言などをイメージする人が多いかもしれませんが、それだけでなく、人間関係から切り離す行為もパワハラとなる可能性があります。

人間関係からの切り離し型のパワハラに該当しない例

新入社員を育成するために短期間集中的に個室で研修などの教育を実施する場合は、人間関係からの切り離し型のパワハラに該当しないと考えられます。
他の社員と分離したとしても、このように業務上必要かつ相当な範囲のもの(要件2)であれば、パワハラには該当しません。

パワハラ6類型④:過大な要求型

過大な要求型のパワハラとは、業務上明らかに不要なことや遂行不可能な業務を押し付けるパワハラです。
上司が部下に対して、長期間にわたる肉体的苦痛を伴う過酷な環境下での作業で、かつ勤務に直接関係のない作業を命じた場合には、過大な要求型のパワハラに該当する可能性があるでしょう。

過大な要求型のパワハラに該当し得る言動の例

次の言動は、過大な要求型のパワハラに該当する可能性があります。
(※これらは厚生労働省による企業へのヒアリングで挙げられた、実際に生じたパワーハラスメントまたはそれが疑われたケースであり、必ずしもパワハラに該当することを意味しません。)

  • 英語が苦手な社員を海外業務に就かせる
  • 十分な指導を行わないまま、過去に経験のない業務に就かせる
  • 自分の業務で手一杯であるのに、他の同僚の仕事を振られる
  • 資料作成を行うため、休日出勤を強いる

ただし、これらの行為が直ちにパワハラに該当するわけではなく、先ほど解説したパワハラの要件と照らし合わせて、事案ごとに検討する必要があるでしょう。

過大な要求型のパワハラに該当しない例

社員を育成するために現状よりも少し高いレベルの業務を任せる行為は、業務上必要かつ相当な範囲のもの(要件2)といえ、過大な要求型のパワハラには該当しないと考えられます。

パワハラ6類型⑤:過小な要求型

過小な要求型のパワハラとは、業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事を与えなかったりするパワハラです。
過小な要求型のパワハラに該当し得る例としては、上司が管理職である部下を退職させるため、誰でも遂行可能な受付業務を行わせるというものが挙げられます。

過小な要求型のパワハラに該当しない例

経営上の理由によって、一時的に能力に見合わない簡易な業務に就かせるケースなどは、パワハラに該当しないと考えられます。

なぜなら、業務上の必要性がある以上、冒頭で解説したパワハラの「要件2」に該当しないためです。

パワハラ6類型⑥:個の侵害型

個の侵害型のパワハラとは、私的なことに過度に立ち入るパワハラです。

プライベートに関する話題は、コミュニケーションの潤滑油となる場合もありますが、過度な立ち入りや執拗な質問などはパワハラとなる可能性があるため注意しましょう。
思想や信条を理由とし、集団で同僚1人に対して職場内外で継続的に監視したり、他の従業員に接触しないよう働きかけたり、私物の写真撮影をしたりするといった行為は、個の侵害型のパワハラに該当する可能性があります。

個の侵害型のパワハラに該当し得る言動の例

次の言動は、過大な要求型のパワハラに該当する可能性があります。
(※これらは厚生労働省による企業へのヒアリングで挙げられた、実際に生じたパワーハラスメントまたはそれが疑われたケースであり、必ずしもパワハラに該当することを意味しません。)

  • パートナーや配偶者との関係など、プライベートを詮索する行為
  • 職場の懇親会を欠席するに当たり理由を言うことを強要する行為

個の侵害型のパワハラに該当しない例

社員への配慮を目的として、社員の家族の状況などについてヒアリングを行う行為は、個の侵害型のパワハラに該当しないと考えられます。

なぜなら、先ほど解説したパワハラの要件のうち「要件2」や「要件3」に該当しないためです。
ただし、社員への配慮やケアを目的としていても、無理にヒアリングを行うことはパワハラに該当する可能性もあるので注意が必要です。

職場でのパワハラを予防するための対策方法

万が一職場でパワハラが発生してしまうと、職場の雰囲気が悪化してしまいます。
それどころか、使用者責任などを問われて会社自体に損害賠償請求がなされる可能性もあるでしょう。

では、パワハラを防止するため、企業はどのような対策を講じれば良いのでしょうか?
パワハラを予防するために企業が講じるべき主な対策は次のとおりです。

パワハラ相談窓口を設置する

企業のパワハラ対策として、職場でパワハラが起きてしまった場合に備えた社内の相談窓口を設置し、社内に周知しておきましょう。

これは、パワハラ防止法でも要請されている内容です。
相談窓口を設けておくことで、万が一パワハラが発生した場合であっても発見しやすくなり、早期の対策を取りやすくなります。

また、相談窓口を設置することで、企業がパワハラに対して厳しい姿勢をとっていることが社内で明確となるため、抑止力としての効果も期待できるでしょう。

パワハラ研修を定期的に実施する

パワハラの中には、加害者である本人がパワハラであると自覚がないままパワハラをしているケースも存在します。
反対に、パワハラを恐れるがあまり必要な指導さえ控えてしまったりする場合もあることでしょう。

これらはいずれも、パワハラについての理解が不足していることが原因です。
そのため、社内で定期的にパワハラ研修を実施し、パワハラについての理解を深めておくことが有効な対策の一つとなります。

研修の講師は社内で募ることも一つの手ですが、可能であれば弁護士など外部の専門家へ依頼するとよいでしょう。
専門家へ依頼することでより正しい知識が得やすくなるほか、最新の裁判事例などを学びやすくなるからです。

就業規則にパワハラ発生時の懲戒処分規定を定める

就業規則にパワハラ発生時の懲戒処分規定を定めていない場合には、早期にこれを定めておくべきでしょう。

なぜなら、懲戒処分規定がない以上、万が一パワハラが生じた場合に加害者を懲戒処分することが困難となってしまうためです。
また、懲戒処分規定を定めて社内に公表することで、パワハラの抑止効果も期待できます。

なお、加害者の行為に対して懲戒処分規定が重過ぎてしまうと、規定に従って処分を課した場合に、加害者側から処分の無効や損害賠償請求をされてしまいかねません。
そのため、懲戒処分規定を定める際には、労使問題にくわしい弁護士とともに作成することをおすすめします。

パワハラが起きたら早期に対応する

社内でパワハラが起きてしまったら、たとえ小さな問題に感じられたとしても、できるだけ早期に対応しましょう。
なぜなら、企業がパワハラ問題を放置することで、パワハラが悪化したりパワハラが蔓延したりする可能性があるためです。

また、会社がパワハラについて適切に対処しなかったとなれば、会社に対して損害賠償請求がなされる可能性もあるでしょう。

まとめ

今や、パワハラはどの企業であっても起きえる問題です。
パワハラについて経営者が正しく知り、社内に周知するなどして、パワハラ予防に努める必要があるでしょう。

また、万が一社内でパワハラが起きてしまったら、それ以上社内にパワハラが拡がってしまわないよう、早期の対応が必要です。

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パワハラの予防策を講じたい場合や、社内で起きたパワハラの対応に苦慮している場合などには、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。

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