コラム
公開 2020.07.30 更新 2022.09.15

利用規約見直しのススメ

利用規約見直しのススメ

いつも「Legal Tips」をお読みいただきありがとうございます。

緊急事態宣言の自粛解除を受け、皆様これからビジネスのドライブをかけようとしているのではないかと思います。このような時ほど、思わぬことで足をすくわれないよう、自社の防御手段が有効か、再度確認しておくことが大切です。

防御手段と聞いて、自社と顧客の契約条件を定めた利用規約を思い浮かべる方も多いでしょう。たしかに、利用規約において自社に免責を与えておくことは非常に重要となります。しかし、この利用規約に散見される、「当社は一切損害を賠償しません」との免責条項について、消費者契約法に違反するとして、本年2月5日にさいたま地方裁判所で差止請求が認められたことはご存知でしょうか。

今回は、この判決を題材に、利用規約見直しの必要性について解説します。お時間の無い方は、第5項が結論部分になりますので、そこだけでもご一読ください。

記事を監修した弁護士
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1 利用規約に関する直近の法改正

利用規約に関しては、本年4月1日施行の改正民法で新たに追加された「定型約款」の規定への対応をされた企業様が多いと思います。その際は、主に、①規約への同意の取得方法の見直し、②不当条項の見直し、③変更規定の見直し、この3点を確認された企業様が多いのではないでしょうか。今回の記事は、消費者契約法の観点からの解説になるため、改正民法対応については割愛しますが、この確認すら行っていない場合は、なるべく早めに確認した方がよいでしょう。

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2 さいたま地裁令和2年2月5日判決の概要

それでは、今回の主題である消費者契約法対応について解説します。
今回取り上げる裁判例は、埼玉消費者被害をなくす会というNPO法人が、ディー・エヌ・エー社が運営するポータルサイトであるモバゲーの利用規約が、消費者契約法に違反するとして差し止めを求めたものです。裁判所は、原告の主張を一部認め、ディー・エヌ・エー社を免責する条項の一部の使用を差し止めることとしました。差し止められた条項の一例をあげます。下線を引いた箇所の使用が差し止められました。

第7条 モバゲー会員規約の違反等について
第1項 モバゲー会員が以下の各号に該当した場合、当社は、当社の定める期間、本サービスの利用を認めないこと、又は、モバゲー会員の会員資格を取り消すことができるものとします。ただし、この場合も当社が受領した料金を返還しません。

  • a. 会員登録申込みの際の個人情報登録、及びモバゲー会員となった後の個人情報変更において、その内容に虚偽や不正があった場合、または重複した会員登録があった場合
  • b. 本サービスを利用せずに1年以上が経過した場合
  • c. 他のモバゲー会員に不当に迷惑をかけたと当社が合理的に判断した場合
  • d. 本規約及び個別規約に違反した場合
  • e. その他、モバゲー会員として不適切であると当社が合理的に判断した場合

第2項 当社が会員資格を取り消したモバゲー会員は再入会することはできません。
第3項 当社の措置によりモバゲー会員に損害が生じても、当社は、一切損害を賠償しません。

ポータルサイトやSNSサービスを提供している会社の利用規約では一般的ですが、この条項は、会員の違反行為に対して会社側の取ることができる手段を定めるとともに、当該手段によって損害を被ったと主張するクレーマーから会社を守る条項と見て取ることができます。以前は、このような定めを置く会社が一般的であり、ある意味、王道的な利用規約の条項とも思えます。
果たして、この条項のどこが問題であるとされたのでしょうか。
まず、そもそも、問題となった消費者契約法についてみてみましょう。

3 消費者契約法の定め

消費者契約法とは、事業者と消費者には、情報の質及び量並びに交渉力の格差に鑑みて、両者の契約締結交渉過程や契約内容において、事業者がこの格差を濫用する場合に、消費者を保護する法律です。
そのため、消費者契約法は、所謂toBの契約には適用されず、toCの契約に適用があります(厳密にいうと、例外はありますが)。
そして、消費者契約法では以下のように定められています。

 

  1. 事業者の損害賠償責任の全部を免除する規定は無効(第8条1項1号・3号)
  2. 事業者に故意または重過失がある場合には、責任の一部を免除する規定も無効(第8条1項2号・4号)

これらの規定により、事業者側の免責を認める条項は、軽過失時(単なる過失と区別しない見解が一般的です)に、損害の一部免除を行うものまでしか認められないことなります。

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4 さいたま地裁令和2年2月5日判決の判断

さいたま地裁令和2年2月5日判決では、モバゲーの規約が、消費者契約法で無効と判断される規約に該当するかが争われました。
NPO法人側は、先ほどの規約第7条第3項について、事業者は、アカウントのBAN(アカウントの停止・削除等の措置)をするにあたって、要件に該当するかを自己の判断で行うことができると第1項で規定されているが、第3項は、故意過失に基づいて誤った判断をし、その結果、会員に損害を与える事態が生じた場合などを除外することなく、文言上、被告が一切損害を賠償しなくともよいという規定となっているので消費者契約法に違反すると主張しました。
これに対し、事業者側は、規約第7条第3項は、確認的に規定されたものであって、仮に事業者側が故意・重過失でBANを行った場合は、そもそも、規約第7条の適用がないと主張をして反論をしました。つまり、NPO法人が指摘する条項は、消費者契約法違反となるような形で解釈・運用される条項ではないという主張をしました。
これに対し、裁判所は、「法3条1項において,事業者に対し,消費者契約の条項を定めるに当たっては,消費者契約の内容が,その解釈について疑義が生じない明確なものであって,かつ,消費者にとって平易なものになるよう配慮することを求めていることに照らせば,事業者は,消費者契約の条項を定めるに当たっては,当該条項につき,解釈を尽くしてもなお複数の解釈の可能性が残ることがないように努めなければならないというべきである。」とし、さらに、今回の請求が差止請求(個別具体的な紛争の解決を目的とするものではなく,契約の履行などの場面における同種紛争の未然防止・拡大防止を目的として設けられたもの)であることからすれば、「差止請求の対象とされた条項の文言から読み取ることができる意味内容が,著しく明確性を欠き,契約の履行などの場面においては複数の解釈の可能性が認められる場合において,事業者が当該条項につき自己に有利な解釈に依拠して運用していることがうかがわれるなど,当該条項が免責条項などの不当条項として機能することになると認められるときは,法12条3項の適用上,当該条項は不当条項に該当すると解することが相当である。」と判断しました。
要約すると、不当な条項として解釈される可能性がある条項について、事業者が自己に有利な解釈で運用することは許されない。ということを判断したものといえます。

5 さいたま地裁令和2年2月5日判決の判断を踏まえて規約の見直しの必要

利用規約については、一度作成された後、見直しをしていない企業様も多いでしょう。
しかし、解説した裁判例が立てた基準によれば、消費者契約法違反となりうる解釈ができる条項については、無効と判断される可能性があります。
無効と判断される場合のリスクですが、今回のように、適格消費者団体から、差止請求を起こされ、会社のレピュテーションが低下する可能性があります。
適格消費者団体は、当初、企業に対し、利用規約の利用停止や変更の申し入れを行い、これに応じない場合は、訴訟を提起しますが、申入書、回答内容、訴状や判決など一連の流れをホームページ上に掲載するのが通常です。そのため、企業として消費者(ユーザー)に対して不誠実な対応をとっている場合は、それらを全て公開されてしまうのです。
また、差止請求という形ではなく、直接ユーザーからの損害賠償請求をされた場合にも、消費者契約法違反の利用規約は、有効な防御手段として機能してくれない可能性もあります。
そのため、皆様におかれましては、今一度、自社の利用規約について、専門家の目から見て、消費者契約法上も問題がないものか、確認されることをお勧めします。

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