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パワハラ、セクハラ、マタハラなど、職場でのハラスメントの問題は年々増え続け、時代とともに新たな種類のハラスメントを耳にすることが増えてきています。そして、最近では、職場外の顧客から従業員に対してなされるハラスメント行為、すなわちカスタマーハラスメント(カスハラ)という問題が注目されるようになりました。
そこで、本記事では、このようなカスタマーハラスメントについて、そもそもカスタマーハラスメントとはどのようなものを指すのか、カスタマーハラスメントの事業に与える影響や対策について紹介します。
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1.カスタマーハラスメントとは?
カスタマーハラスメントには法律上の定義はありませんが、一般的には、自社の従業員に対する顧客や取引先からの暴言や暴力、悪質なクレームなどの著しい迷惑行為のことをいいます。
カスタマーハラスメントの具体的な例は、以下のようなものです。
- 従業員に対して「役立たず。」などと暴言を吐く。
- 胸倉をつかむ、突き飛ばすなどの暴行を加える。
- 大声で怒鳴りながら長時間にわたって苦情を述べる。
- 金銭や物品で誠意を見せるように不当に金品を要求する。
- SNSで誹謗中傷する。
- 土下座を強要される。
これらの行為は、度が過ぎれば、刑法上の侮辱罪や暴行罪、業務妨害罪、強要罪などの犯罪に当たることもあります。そして、このようなハラスメント行為を顧客や取引先から受ければ、従業員に大きなストレスを与えることになり、従業員の心身の健康を害してしまうことにつながってしまう可能性もあります。このようなハラスメント行為が深刻化していることをもあり、2018年3月、厚生労働省が設置した「職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会」の報告書において、「顧客や取引先からの迷惑行為」として項目が設けられるなど、社会全体でカスタマーハラスメントへの対応についての議論が行われるようになりました。
2.カスタマーハラスメントがなぜ問題となるのか?
⑴ 従業員の心身の健康を害する。
まず、カスタマーハラスメントは、対応する従業員に精神的ストレスを与えるものであり、従業員の心身の健康を害するおそれがあります。「お客様は神様」という精神性は、丁寧な接客など高水準のサービスの提供に通じるものではあります。しかし、この言葉を、どんな苦情に対してもひたすら耐え忍ばなければならない、などという誤った方向に解釈してしまうと、不合理なクレームであっても必死に受け止めようとしてしまい、多大なストレスを抱えて心身に不調をきたし、精神疾患につながるおそれもあります。
⑵ 離職率増加などによる事業の停滞
カスタマーハラスメントへの対策を放置し、従業員のメンタルヘルスに悪影響を及ぼす状況が続けば、離職率が増加するおそれがあります。その結果、人材の流出が進み、事業が行き詰まる事態にもつながりかねません。
⑶ 会社の安全配慮義務違反
労働契約法第5条は、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定しており、企業は従業員の安全(心身の健康)に配慮しなければならないという安全配慮義務を負っています。
このことは、カスタマーハラスメントに対する場面でも同様で、カスタマーハラスメントによって従業員が心身を害することのないよう職場環境を整える義務を負っています。そのため、企業がカスタマーハラスメントを放置して何も対策を取らなければ、安全配慮義務違反を理由に、従業員から損害賠償請求をされてしまう可能性もあります。カスタマーハラスメント対策を施さなければ、企業も従業員に対する加害者になりかねないのです。
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3.カスタマーハラスメントと正当なクレームの違い
実際に顧客等からの迷惑行為があったとしても、それがカスタマーハラスメントといえるのか、それとも正当なクレームの範疇なのか迷う場面があるかもしれません。例えば、会社自身に落ち度がある場合などは、度を超えたクレームだったとしても正当な理由によるものと考えて、毅然とした対応をとることができない場面も予想されます。
このように、カスタマーハラスメントと正当なクレームとの違いを判断することは難しいですが、パワハラと同様に考えることで判断しやすくなるかもしれません。
パワハラに該当するかどうかの判断の際には、その行為が「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」かどうか、すなわち①必要なものか、②相当な範囲を超えたか、という点がポイントとなります。これをカスタマーハラスメントに応用するとすれば、①顧客等の行為が会社の商品の不具合、サービスの問題、会社の落ち度等を伝えるための必要な苦情か、②その態様が苦情を伝えるための方法として相当な範囲のものかどうか、という点を目安に考えることになります。
例えば、商品に問題があると言って商品の返品を求めてきたものの、商品を確認したら何ら問題がなかったとなれば、それは必要な苦情とはいえないでしょう。また、仮に商品に問題があったとしても、それを理由に何時間も従業員を拘束する、大声で罵倒する等の行為があった場合には、それは相当な範囲を超えたものといえます。
このように、カスタマーハラスメントと正当なクレームとの判断は難しい場合もありますが、上記の2点を参考に整理すると判断しやすくなるでしょう。
4.カスタマーハラスメントへの対策・取組
厚生労働省は、カスタマーハラスメントに対して企業がとるべき対策・取組について、指針を告示しています(パワーハラスメントに関して雇用管理上講ずべき措置等について定めた指針等(令和2年厚生労働省告示第5号))。
この中で挙げられているカスタマーハラスメントに対する対策としては、以下のようなものがあります。
⑴ 企業が従業員からの相談に対して適切かつ柔軟な対応をとるために必要な体制を整えること
- 相談先(上司、職場内の担当者等)をあらかじめ定め、その内容を従業員に周知しておく。
- 相談を受けた者が、内容や状況に応じて適切に対応できるようにしておく。
⑵ 被害を受けた従業員に対する配慮のための取組
- 被害を受けた従業員のメンタルヘルス不調への相談対応
- カスタマーハラスメントを行っている顧客・取引先等に対する対応が必要な場合に、従業員一人で対応させない等の取組を行うこと
⑶ 被害を防止するための取組
- カスタマーハラスメントへの対応に関するマニュアルの作成・研修の実施
実際にカスタマーハラスメント行為に遭遇した際には、暴言や不当な要求を繰り返す顧客等に対して、毅然と断る姿勢が必要です。このような場面でよく使うフレーズ集や対応フローをマニュアルにまとめておく、対応する可能性のあるスタッフはロールプレイングを通じて練習しておくなどの準備をしておくことも有用でしょう。
また、実施に対応する際には、会話の内容を録音しておくことも効果的です。後になって言った言わないの論争となることにならないよう、もし裁判に発展した場合の証拠とすることができます。そのほか、録音をすることを相手に伝えることによって相手がひるみ、過激な発言をしないように牽制する効果も期待できます。
さらに、従業員が注意してもハラスメント行為を中止しない場合には、警察や弁護士に相談することもおすすめです。カスタマーハラスメント行為が侮辱罪や暴行罪、業務妨害罪等、強要罪等の犯罪に該当すれば、警察に通報して注意・説得してもらう、逮捕を求める等も可能です。また、カスタマーハラスメントによる被害を被った場合には、弁護士に相談して被害の回復、再発防止等の解決を目指すことも考えられます。
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5.終わりに
カスタマーハラスメントを起こすのは、顧客や取引先のような、いわば会社の外の人間であり、事前にカスタマーハラスメントが起きないように対策を練ることは困難です。一方で、消費者の権利意識の高まりや、過剰なサービスへの過度な期待、携帯電話やSNSの普及によるクレームの増加等の背景もあり、カスタマーハラスメントが今後も増えていく可能性は否定できません。
そのような状況の中で企業がとるべき行動としては、たとえカスタマーハラスメントが起こったとしても、会社として従業員をしっかりと守り、従業員が安心して働くことができる環境を整えることが重要です。会社が悪質なクレーマーから従業員を守るための手段をしっかりと整備し、従業員を守る姿勢を明確にすることが必要といえるでしょう。
お困りの場合には、一度弁護士に相談することをお勧めします。