独占禁止法を中心に、デジタル・プラットフォーマーに対する法規制の在り方について検討します。現代の日常生活ではGAFAに代表されるプラットフォーマーがもたらした利便性は大きいですが、不公正な取引慣行に対する法規制の議論が活発になっています。
(なお、本稿作成後、デジタルプラットフォームにおける取引の透明性と公正性の向上を図るために、令和2年5月27日に成立した「特定デジタルプラットフォームの透明性及び公正性の向上に関する法律」が令和3年2月1日に施行されました。)
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デジタル・プラットフォーマーによる「独占」とは?
GAFAのようなデジタル・プラットフォーマーによるビジネスの特徴は、複数の異なる利用者層に対してサービスを提供する多面市場を構成する点にあります。
例えば、Googleが提供する検索エンジンサービスにおいては、ユーザーに対し検索サービスを提供する一方、事業者に対し広告サービスを提供しています。
多面市場においては、利用者が多くなればなるほどサービスの魅力が高くなり、特定の利用者層が増えればそれだけ他方の利用者層にとってサービスの魅力が高まります。
先ほどのGoogleの検索エンジンサービスで言えば、検索エンジンのユーザーが多くなればなるほど広告を出す事業者にとって検索エンジンサービスの魅力が高くなり、広告を出す事業者が多くなればユーザーは広告から情報を得られるため、検索エンジンサービスの魅力が高まるという構図です。
このような構図を取るビジネスにおいては、ある事業者(プラットフォーマー)がいったん基盤となるネットワークやデータベースを構築・確保してしまうと、競業しようとする第三者の参入が困難になることが多いです。
その結果、デジタル・プラットフォーマーによる市場の独占が生まれてしまったのです。
このような独占は日本に限ったものではなく、海外でも問題となっています。
2020年7月には、アメリカ議会下院にてGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)の代表者が発言する公聴会が開催され、各々のビジネスが公正な取引を阻害していないか検討する場が設けられました。※1
5時間にもわたる公聴会の締めくくりとして、公聴会を取り仕切ったシシリン委員長は“独占的な力を持つGAFAは、一部を企業分割するなど適切な処置や規制が必要”との認識を示しています。
この公聴会については、近々、反トラスト法(日本でいう独占禁止法)の改正を盛り込んだ報告書が提出される可能性があります。
また、米国司法省と11の州が、反トラスト法に違反したとしてGoogleを連邦地裁に提訴しました。
本格的な審理は、2023年9月から開始されると報じられています。※2
世界中で、GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーに対する包囲網が形成されつつあると言えるかもしれません。
デジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルと規制の背景
デジタル・プラットフォーマーのビジネスでは、プラットフォーマーが構築したネットワークやデータベースをユーザーが利用し、ユーザーの情報を集積したプラットフォーマーがサービスを向上させるというサイクルで回っています。
ユーザーから見れば、自分のためにカスタマイズされたサービスを受けられるのです。
Amazonでは、一度住所や支払い方法を登録すれば、それ以降は入力の手間が省けますし、購入した商品に似た商品を“おすすめ商品”としてすすめられることもあります。
自分用のサービスの提供を受けていれば、わざわざ他のサービスを利用しようとするユーザーはいないでしょう。
このように、デジタル・プラットフォーマーによるユーザーの“囲い込み”によって独占状態が維持されていると言われています。
そうすると、ユーザーは特定のデジタル・プラットフォーマーを使わざるを得なくなり、“殿様”となったプラットフォーマーが情報開示を怠ったり、一方的に不利な変更を課すといった不公正な対応を取ったり可能性があると指摘されているのです。
このような背景から、デジタル・プラットフォーマーによる不公正な行為をどのように規制するかが大きな問題となっています。
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デジタル社会における独禁法
続いて、現在デジタル・プラットフォーマーに対して取られている措置や法規制に関する政府の動きについて紹介しましょう。
デジタル・プラットフォーマーに対する公正取引措置事例
市場における自由な競争を阻害する行為や、取引上の優越的地位を利用した不当な行為は、独占禁止法によって禁止されています。
日本でサービスを展開する以上は、当然デジタル・プラットフォーマーに対しても独占禁止法が適用されます。
独占禁止法を執行する公正取引委員会は、これまでデジタル・プラットフォーマーに対し独占禁止法に違反する可能性があるとして調査や措置を行っています。
以下がその主な例です。
- 2016年11月18日:ワン・ブルー・エルエルシーに対する、取引妨害を理由とする独占禁止法違反事件の処理
- 2017年6月1日:アマゾンジャパン合同会社に対する、拘束条件付取引を理由とする独占禁止法違反事件の処理
- 2018年5月23日:みんなのペットオンライン株式会社に対する、排他条件付取引を理由とする独占禁止法違反被疑事件の処理
- 2018年7月11日:アップル・インクに対する、携帯電話事業者との契約に係る独占禁止法違反被疑事件の処理
- 2018年10月10日:エアビーアンドビー・アイルランド・ユー・シー及びAirbnb Japan株式会社に対する、私的独占、拘束条件付取引、排他条件付取引を理由とする独占禁止法違反被疑事件の処理
- 2019年4月11日:アマゾンジャパン合同会社に対する、優越的地位の濫用を理由とする対応
これらの措置は、一定の成果を得ているとの評価がある一方、公正取引委員会の措置は迅速性に欠けるため、事前規制の必要性も主張されています。
デジタル・プラットフォーマー規制に関する政府の動き
前述の通り、プラットフォーマーによるビジネスでは、特定のプラットフォーマーがいったんネットワークやデータベースを確保してしまうと、他の参入が困難になります。
また、公正取引委員会の対応は、不公正な行為が行われてから後出しで行われるため、事後的な規制にすぎません。
そこで、デジタル・プラットフォーマーに対する事前規制の議論が活発化しています。
一口に事前規制といっても、その内容はさまざまです。
デジタル・プラットフォーマーのビジネスの世界では、テクノロジーや環境の変化の速度がすさまじく、事前に禁止行為を類型化することが困難です。
プラットフォーマーについて登録制や許認可制とする方法も考えられますが、過度な規制となり産業を衰退させてしまうおそれもあります。
2018年6月には「未来投資戦略2018」が閣議決定され、この中では「プラットフォームの寡占化が進む中で、新たなプラットフォーム型ビジネスが次々と創出され、活発な競争が行われる環境を整備する」ことが記載されています。※3
これ以降もさまざまな検討が行われており、2018年7月にはデジタル・プラットフォーマーを巡る取引環境整備に関する検討会が設置されています。
議論を経て2019年5月には、「取引環境の透明性・公正性確保に向けたルール整備の在り方に関するオプション」が公表されました。※4
さらに、2020年9月には「デジタル市場競争本部」が設置され、デジタル・プラットフォーマーと不公正な取引慣行の是正に関する議論はさらに進められています。※5
規制の大まかな方向性としては、デジタル・プラットフォーマービジネスが継続的に変化し複雑化することを前提に、3つの選択肢が提示されています。
- 過度な規制による産業の衰退を避けるためデジタル・プラットフォーマー自身による自主的な規制にゆだねる自主規制の方法
- 実効的かつ強力な規制とするため法律によってデジタル・プラットフォーマーに対し一定の義務や禁止行為を定める法規制の方法
- 抽象的に義務や禁止行為を定め具体的規律についてはデジタル・プラットフォーマーの自主規制にゆだねる共同規制の方法
3つの方法にはそれぞれメリットやデメリットがありますが、産業の発展、ユーザーの利便性、公正な取引の確保のバランスの取れた規制が望ましいでしょう。
デジタル・プラットフォーマーによってもたらされた恩恵
ここまで、デジタル・プラットフォーマーによる不公正な取引慣行や法規制の在り方について検討してきました。
この問題を検討するうえで忘れてはならないのは、GAFAに代表されるデジタル・プラットフォーマーのビジネスモデルは従来にはなかったマッチングを実現し我々の生活に大きな利便性をもたらしたという点です。
過剰な規制により、消費者や事業者の利便性が損なわれてしまっては本末転倒です。
今後もデジタル・プラットフォーマーによるさらなるイノベーションを促進するためにも、過剰な規制一辺倒の議論では妥当な結論は得られないでしょう。
まとめ
デジタル・プラットフォーマーに対しては、ネットワークやデータベースを確保することで顧客を囲いこみ独占していることが問題視されています。
不公正な取引慣行の是正を目的とした規制の必要性が活発に議論されています。
しかし、消費者や事業者はデジタル・プラットフォーマーのイノベーションにより、大きな恩恵を受けていることもまた事実です。
新型コロナウイルスの感染拡大により自宅で過ごす時間が多くなった状況下においては、ますますデジタルの重要性が増したと言えます。
デジタル・プラットフォーマーに対する規制を検討する際には、不公正な取引慣行の是正、事業者や消費者の利便性、産業の発展のバランス感覚が求められます。