「著作権フリー」とインターネット上で検索をすると、さまざまなウェブサイトが見つかります。
ホームページの開設時やブログ記事への画像挿入など、これらの素材を利用したことがある方も少なくないでしょう。
では、著作権フリーとうたわれている素材などは、何ら制限を受けることなく自由に利用してよいのでしょうか?
また、利用の際にはどのような点に注意すべきなのでしょうか?
今回は、著作権フリー素材を利用する際の注意点や著作権フリーに関するよくある誤解などについて、弁護士がくわしく解説します。
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著作権とは
著作権とは、絵画や小説、曲、写真などの著作物を創作した人(「著作者」といいます)や、著作者などから権利を譲り受けた人が持っている、著作物に関する権利です。
「著作権」とは、実は一つの権利ではありません。
まず、広義の「著作権」の中には、狭義の「著作権(財産権)」と、著作者人格権が存在します。
そして、狭義の著作権(財産権)の中には、著作物を印刷などで複製する「複製権」やウェブサイト上に掲載する「公衆送信権」、二次的著作物を創作する権利である「翻訳権」や「翻案権」など、さまざまな権利が含まれています。
これらの権利は、たとえば「複製権」のみを譲渡するなど、権利の一部を移転することも可能です。
また、「著作者人格権」には、次の3つが含まれます。
- 公表権:著作物を公表するかどうかなどを決める権利
- 氏名表示権:著作者の氏名表示の要否などを決める権利
- 同一性保持権:著作物を勝手に改変されない権利
著作者人格権は著作者固有の権利であり、譲渡などをすることはできません。
「著作権」は一つの権利ではありませんので、著作権フリー素材を利用する際には、どの権利が「フリー」となっているのかよく確認したうえで利用する必要があります。
「著作権フリー」の3パターン
著作権フリーとは一般的に、利用に伴い著作権者から許諾を得て、かつ利用料を支払う必要のない著作物です。
一口に著作権フリーといっても、これには次の3つのパターンが存在します。
著作権者が著作権放棄
1つ目のパターンは、著作権者が著作権の全部または一部を放棄しているケースです。
この場合、ある著作物を利用するにあたって著作権者から利用許諾を得る必要はないですし、利用料の支払いも求められません。
以下、この記事ではこのパターンを念頭に置いて解説します。
なお、著作権の放棄まではしておらず、単に利用料の支払いを求めない「ロイヤリティフリー」という意味で「著作権フリー」と表記している場合も少なくありません。
特に、無料で素材をダウンロードして利用できるいわゆる「著作権フリー素材サイト」の大半は、著作権者が著作権の放棄まではしておらず、ロイヤリティフリーであることに注意が必要です。※1
著作権の保護期間満了
著作権には保護期間が定められており、この期間を経過することで著作権フリーとなります。
著作権の保護期間は、原則として著作者(「著作権者」ではなく、著作物を製作した者を意味する「著作者」です)の死後70年です。
ただし、死亡の概念がない団体名義の著作物や多くの関係者が携わる映画の著作物は、原則として公表後70年とされています。※2
そもそも著作権の対象外
次のものは著作物ではあるものの、著作権の対象とはなりません(著作権法13条)。
- 憲法その他の法令
- 告示、訓令、通達など
- 裁判所の判決、決定、命令、審判など
- 上記の翻訳物及び編集物で、国や地方公共団体などが作成するもの
そのため、これらは特に誰かに許可を得ることなく、自由に利用することが可能です。
なお、法律の条文や判例には著作権がないものの、これらを解説した記事には著作権がありますので、誤解のないよう注意しましょう。
著作権フリーのよくある誤解
「著作権フリー」に関しては、誤解が少なくありません。
よくある誤解は、次のとおりです。
誤解①:個人がインターネットに投稿した作品は著作権フリー
個人がインターネットに投稿した写真やイラスト、ブログ記事などは、原則としてすべて著作権の対象です。
たとえばTwitterなどのSNSに投稿をしたからといって、そのことをもって著作権を放棄したわけではありません。
そのため、無断で転載をしたり加工をしたりすれば著作権侵害となります。
誤解②:有料で買った雑誌記事などは自由に転載できる
雑誌や新聞記事などにも、著作権は存在します。
そのため、たとえお金を払って購入したものであっても、著作権法の権利制限規定にあたらない態様で社内にコピーを配布したり無断でSNSに投稿したりすることは著作権法違反です。
なお、著作権法には、事実の伝達にすぎない雑報および時事の報道は著作物に該当しないとの規定があります(10条2項)。
しかし、これはたとえば「〇山太郎氏(元〇〇常務)11月1日死去、80歳。」程度の、思想や感情が入り込まない事実報道のみが該当する規定です。
実際には「事実の伝達にすぎない」新聞記事や雑誌記事はほとんどありません。
誤解③:「著作権フリー」ならどのように利用してもよい
「著作権フリー」であるからといって、自由に利用してよいわけではありません。
すべての著作権を放棄しているわけではない可能性があるうえ、著作者人格権の放棄はできないためです。
こちらについては、次でくわしく解説します。
著作権フリー素材を利用する際の注意点
インターネット上には、著作権フリーで素材をダウンロードしたり利用したりできるウェブサイトがいくつか存在します。
では、これらのサイト上からダウンロードしたフリー素材を利用する際には、どのような点に注意すればよいのでしょうか?
主なポイントは、次のとおりです。
著作者人格権は放棄できない
冒頭で解説したように、広義の著作権には狭義の著作権(財産権)のほかに、著作者人格権が存在します。
著作権(財産権)は自由に放棄をしたり譲渡したりすることができる一方で、著作者人格権は譲渡したり放棄したりすることができません。
そのため、いくら著作権フリーであったとしても、勝手に改変をしたり(同一性保持権の侵害)、著作者が氏名の表示を求めているにも関わらず氏名の表示を勝手に省略したり(氏名表示権の侵害)することは著作者人格権の侵害にあたる可能性がありますので、注意しましょう。
なお、中には一定範囲での改変を認めていたり、氏名の表示を不要としていたりするケースもあります。
そのため、素材が配布されているウェブサイトの利用規約などをよく読み、利用規約に違反しない範囲で使用するようにしてください。
著作権のすべてを放棄しているとは限らない
冒頭でも触れたとおり、著作権は非常に細分化されています。
これらは、すべてを放棄することができる一方で、一部のみを放棄することも可能です。
たとえば、著作物をコピーして利用できる複製権などは放棄しているものの、そのイラストなどの著作物をLINEスタンプとして販売したり、その写真の著作物をカレンダーとして販売したりすることなどまでは認めていないことが多いでしょう。
また、そもそも単に利用の対価を受け取らないというのみであり、著作権の放棄まではしていないケースも少なくありません。
そのため、利用の際にはあらかじめウェブサイトの利用規約などをよく確認してください。
利用条件に制限がある場合がある
著作権フリーであっても、素材の利用方法に制限がある場合があります。
たとえば、写真素材を一定の枚数以内であれば無料でダウンロードができる「写真AC」の利用規約には、次のような内容が定められています。※3
(1)人物を特定できる写真をポルノグラフィや違法その他の不道徳な目的に使用すること、その人物の評判を落としかねない方法で使用すること、あるいは「お客様の声」のように製品やサービスの推奨者として表示する目的で使用することは認められません。
(2)本サイトの写真のモデル(人物、物品、風景など一切を指します)の特徴、品位、名誉または信用を害する態様での使用はできません。
(3)違法、虚偽あるいは中傷を内容とする記事、映像、宣伝、広告等に関して写真を使用することはできません。
(4)写真を公序良俗に反する方法で使用し、又は公序良俗に反する業務、活動に供する目的で使用はできません。また、公序良俗に反するか否かを問わず、アダルト雑誌やアダルトビデオ(その他、DVD、CD-ROM、WEBサイト等、媒体の如何を問いません)に関して、表紙、パッケージ、記事、映像、宣伝、広告、その他一切の態様による使用はできません。また、ポルノや風俗(合法・違法、営利・非営利、個人・法人、その他態様を問わず、性風俗に関する一切の事項を指します)に関する記事、映像、宣伝、広告、その他一切の態様による使用もできません。
(5)写真をそのまま、または加工して、独立の取引対象として頒布(販売、賃貸、無償配布、無償貸与など)したり、公衆送信(インターネットのホームページや放送などを利用した送信)などを利用して提供することは、営利、非営利を問わずできません。
(以下略)
禁止されている内容や態様で素材を使用することは、利用規約違反や著作権法その他の法律違反となりますので、行わないよう注意しましょう。
素材を配布しているサイトの信頼性を確認する
フリー素材を利用する場合、その素材を配布しているウェブサイトの信頼性が高い場合には、原則としてそのウェブサイトの利用規約を遵守すれば問題ありません。
しかし、中にはそもそもそのウェブサイト自体が著作権侵害をしているケースも存在します。
たとえば、アフェリエイト広告収入などを目的として、インターネット上で見つけた画像を無断でウェブサイト上に貼り付けて「著作権フリーです」と表記する場合などです。
また、フリー素材を配布するウェブサイトに素材を提供することで対価を受け取れる場合において、遵法意識の低い利用者が報酬目的で他者の著作物を勝手に素材として提供してしまう場合もあるでしょう。
この場合には、ウェブサイト制作者のみならず、このウェブサイトからダウンロードした素材を利用している者に対しても、著作権侵害として利用の差し止め請求や損害賠償請求などがなされる可能性があります。
そのため、著作権フリー素材をダウンロードする場合には、配布しているウェブサイトの信頼性を確認しておきましょう。
著作権侵害のリスク
万が一著作権侵害をしてしまった場合には、どのようなリスクがあるのでしょうか?
著作権侵害の主なリスクは、次のとおりです。
罰則の適用
著作権侵害をした場合には、著作権法の規定により罰則が科される可能性があります。
罰則は、原則として10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金です(119条1項参照)。
また、侵害者が法人である場合には、侵害をした行為者に罰則が科されるほか、法人に対して3億円以下の罰金刑が処される可能性があります(124条1項参照)。
損害賠償請求
著作権侵害をした場合には、権利者から著作物使用の差し止めのほか、損害賠償請求がなされる可能性があります。
企業イメージの低下
企業が著作権侵害をした場合において、その事実が報道されてしまったりSNS上で話題になってしまったりすれば、企業イメージが大きく低下する可能性があります。
まとめ
著作権フリーについては、誤解も少なくありません。
特に企業が誤った使い方をしてしまえば非常に高額な罰則の対象となり得るほか、著作権違反をした商品の回収や損害賠償が必要となる可能性もあります。
著作権侵害はうっかり行ってしまうリスクもありますので、フリー素材利用時の注意点などを社内に周知徹底の上、侵害をしてしまうことのないよう十分注意する必要があるでしょう。
Authense法律事務所には、著作権法などの企業法務に強い弁護士が多数存在しており、日々問題の解決にあたっています。
著作権侵害をされてお困りの場合や、著作権侵害により損害賠償請求をされてお困りの場合などには、ぜひAuthense法律事務所までご相談ください。