今回の記事では、BNPL市場の概要や主要企業について、決算を交えながら解説していきます。
昨年2021年は、米国の急成長スタートアップAffirmや、PayPalによる3,000億円の買収で注目を集めた日本発スター
トアップPaidy、12月に東証一部にIPOを果たしたネットプロテクションズなど、BNPL企業に盛んな動きがあっ
た1年でした。
2022年も注目のマーケットです。ぜひこの機会にチェックしてみてください。
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BNPL(Buy Now Pay Later)とは?
「BNPL」というワードを初めて聞いた方もいらっしゃるかもしれません。まずは、BNPLの概要や、注目される背景について簡単に解説していきます。
BNPL(Buy Now Pay Later)とは、その名の通り「今買って後で払う」を実現するサービスです。
「後払いソリューション」と考えて頂けると分かりやすいでしょう。
BNPLの仕組みは、上記の図の通りです。
ユーザーは小売店における購入の際に、「Paywith Affirm」のような形でBNPLサービスを利用することで、BNPL事業者が支払を立替してくれます。
その後、ユーザーは、BNPL事業者に対して一括あるいは分割払いで料金を「後払い」します。
そして、サービスの対価として、小売店はBNPL事業者に対して決済手数料を支払う仕組みです。
BNPLサービスは、ユーザーと小売店の双方にメリットをもたらします。
ユーザーにとってのメリット
1.クレジットカードを作れなくても事前審査なしに後払いが可能
2.その場では支払い手続きをせずにすぐに商品を受取ることが可能
小売店にとってのメリット
1.クレジットカードを持たないユーザーの決済が可能になることで機会損失を軽減(購入機会の創出)
2.支払いのUX向上やオペレーションの効率化
日本にいるとあまり実感が湧きにくいかもしれませんが、クレジットカードを作ろうとしても信用がない(測れない)ために作れない人が世の中には大勢います。
その下図は、米国だけでも5,000万人近く、世界では数十億人とも言われています。
このような世の中の課題を解決するソリューションとして、BNPLサービスが台頭してきているわけです。
加速するBNPLマーケットの動き
2021年には、BNPL市場が一気に加速しました。
1月のBNPLを代表するスタートアップAffirm のIPOに始まり、ゴールドマン・サックスによる個人宅のリフォーム向けBNPLサービスを提供するグリーンスカイの買収、
PayPalによる日本のBNPLスタートアップPaidy の3、000億円という巨額買収と大きなニュースが続きました。
さらに、年末には、「NP後払い」で知られるBNPLの老舗企業であるネットプロテクションズが東証一部に上場を果たし、非常にダイナミックな1年だったと言えるでしょう。
コロナ禍でECサービスの需要が爆発的に増加しましたが、そのようなトレンドを受けて、多くのBNPLサービスも急成長を遂げています。
例えば、AffirmのGMV(取扱高)は、前年同期比(YOY)+106%と大幅に伸びています。
「Ex-Peloton Growth(大型顧客Pelotonを除いた成長率)」は+178%とまさに破竹の勢いです。
このように、Affirmの決算資料を見てみると、Affirm自身の時系列の傾向は掴むことができますが、企業としての特徴を掴むためには、同業種の企業との「横比較」が適しています。
次の章では、グローバルBNPL大手として、Affirm に加えて、Afterpay、Klarna、そして日本のBNPL大手ネットプロテクションズの4社の主要KPIを比較してみましょう。
BNPL企業4社の主要KPIを横比較してみると?
図は、BNPL企業4社の主要KPIを比較した表です。
図から読み取れることを整理していきましょう。
まず、GMV(取扱高)を見ると、Klarnaが約19、500億円と頭一つ抜けています。
Klarna は、ご存知ではない方も多いと思いますが、スウェーデンのストックホルム発のスタートアップで、欧州を中心に展開しています。
余談ですが、ストックホルムと言えば、SkypeやSpotify創業の地としても有名です。
続いて、GMVの成長率を見ると、今度はAffirm が最も高い水準です。Affirm、Klarna、Afterpayの3社では、
GMVの大きさは「Klarna→Afterpay→Affirm」の順番ですが、GMV成長率は「Affirm → Afterpay → Klarna」と反対になっています。
一方で、ネットプロテクションズは、GMVの規模に対して成長率が控えめな水準になっています。
地理的な市場が異なるため単純な比較はできないものの、上場後の資金の使い途と成長率の変化に注目です。
また、AOV(注文単価)も大きく差が出ています。
Affirmは5万円近くと高額ですが、これは主要顧客Pelotonの数十万円程度の家庭用エクササイズマシンなど、高額な商材が平均価格を押し上げているものと考えられます。
ネットプロテクションズは6. 667円と最低水準のため、改善の余地があるかもしれません。
このように、同業種の企業を横比較してみると、単体の数字だけでは見えなかった傾向が掴めるようになります。
今回は、BNPL市場に目を向けてみましたが、いかがだったでしょうか?
今後も、決算資料を読み解くヒントを皆さんにお届けしていければと思います。
Profile
- シバタ ナオキ
- 元・楽天株式会社執行役員、東京大学工学系研究科助教、スタンフォード大学客員研究員。
東京大学工学系研究科博士課程修了(工学博士、技術経営学専攻)。
スタートアップを経営する傍ら「決算が読めるようになるノート」(https://irnote.com/)を連載中。