デジタル資産の流通の仕組みであるNFT(Nonfungible Tokens)市場が広がりを見せています。
NFTとは何なのか、暗号資産とは違うのか、法制度などを解説するとともに、NFT技術を活用した近年のアートの事例などを紹介します。
最近ではGMOインターネットなど大手の参入でも話題です。
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デジタル資産NFTとは
近年、デジタル資産であるNFTが注目されつつあります。
とはいえ、まだまだ新しい仕組みであるため、NFTということば自体を聞いたことがないという方も少なくないのではないでしょうか?
まずは、デジタル資産である「NFT」とは何のことを指すのかという点に加え、暗号資産との違いや法規制などについて解説します。
NFTとは何か
NFTは、非代替性トークンを指す「Nonfungible Tokens」を略したことばで、ブロックチェーン技術を用いたデジタル資産のうち、識別子を有しているものを指します。※1
トークンとは、直訳すると「しるし」や「象徴」という意味で、既存のブロックチェーン技術を利用して発行された仮想通貨のことを指すことが一般的です。
また、非代替性トークンとは、代替がきかない唯一無二のしるしのついたデジタル資産のことを指します。
ブロックチェーン技術とは、一定の取引データなどをブロック単位にまとめ、そのデータを複数のコンピュータに分散して記録し、正しい情報をチェーンのようにつなぐことで取引の信頼性を高めることができる技術です。
ビットコインなどの暗号資産を支える仕組みがブロックチェーンで、ビットコイン誕生のきっかけとなったサトシ・ナカモト氏の論文がベースとなっています。
ブロックチェーン技術を使うことで、デジタル資産取引の信頼性を高めることや、所有権を明確にすることなどが可能となるのです。
このNFTが知られるきっかけとなったのは、2017年後半に公開された「クリプトキティーズ」というゲームでした。
このゲームは、バーチャル空間で独自のネコを育てるゲームですが、自分が育てたデジタル上のネコを、NFTを利用して売買できるようにしたのです。このデジタル上のネコに17万ドルもの大金を投じる人が現れて話題となりました。
当然ですが、デジタル上に存在する作品や製作した独自のネコを、パソコンなどを利用して「見ることができる」ということと、「保有する」ということは異なります。
そのため、NFT技術を使わなければ、デジタルで存在する作品を「一定期間見ることができる」権利を売ることはできるものの、その作品自体を売買することは困難でした。
また、デジタル上に存在する作品は、紙に書いた作品とは異なり、簡単に複製もできてしまいます。
複製した結果も、例えば、画家の作品を別のキャンパスに模写することと違い、「似ている」どころか本物とまったく同じものです。
これでは、どれが正式なルートで売買された作品で、どれが権利なく複製された作品なのか見分けることはできません。
このような問題が、NFTを利用することで解決できます。
ブロックチェーンに取引が記録されているため、どれが正当なルートで売買されたものであるのか証明が可能となるためです。
このように、デジタル世界に存在する作品を安全にやり取りする仕組みが、NFTなのです。
NFTと暗号資産との違い
では、NFTと暗号資産はどのように異なるのでしょうか?
まず、NFTも暗号資産も、ブロックチェーン上のデジタルデータの一種である点は同じです。
両者のもっとも大きな違いは、そのトークンが代替性であるか、非代替性であるかという点にあります。
前述のとおり、NFTは非代替性トークンを指すのに対し、暗号資産は代替性トークンの一つです。
例えば、手元の1万円札と友人の1万円札を交換したとしても、それが偽札でない以上は、通常特に価値は変わりません。
これを、代替性があるといいます。
一方で、例えば「ある年に発行された、特定の番号の1万円札」とすれば、その1万円札に代替性はありません。
さまざまな番号の1万円を収集している人が持っている「希少な番号の1万円札」を、手元の別の1万円札と交換してくれと言っても応じてもらえないでしょう。
これを、非代替性と言います。
前者のように、暗号資産はある人の持っている1BTC(ビットコイン)と、自分の持っている1BTCとを交換しても、それが真正なものでさえあれば問題はないはずです。※2
そのため、これは代替性トークンに分類されています。
一方で、例えば、シリアルナンバーの付いたデジタルアート作品のように、代替性のない唯一無二の資産を管理するための手法がNFTなのです。
NFTの法規制
暗号資産は、資金決済法や金融商品取引法の規制対象となっています。
例えば、金融庁の登録なしに暗号資産の取引業を営むことはできませんし、顧客に代わって暗号資産を保管のうえ顧客の指定するアドレスに移転する暗号資産カストディ業(他人のために資産を管理する業務)を営むこともできません。
また、FX取引と同様に、個人が取引をする場合のレバレッジに制限も設けられています。
では、NFTもこれらの規制対象となるのでしょうか?
実は、これは一概に言えるところではありません。
NFTだから規制の対象になるとか、NFTだから規制の対象にならないとかいうことではなく、そのNFTの性質によって個別に判断をする必要があるのです。
NFTが資金決済法などの対象になるかどうかは、NFTがこの法律に規定する暗号資産の定義に該当するかどうかによります。
資金決済法で規定する暗号資産の定義は、次のとおりです。
(資金決済法第2条5項)
この法律において「暗号資産」とは、次に掲げるものをいう。ただし、金融商品取引法(昭和二十三年法律第二十五号)第二条第三項に規定する電子記録移転権利を表示するものを除く。
一 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
二 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
また、日本銀行ホームページでは、この暗号資産の定義が次のようにまとめられています。※3
- 不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できる
- 電子的に記録され、移転できる
- 法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではない
これらの定義に該当しないのであれば、NFTは資金決済法などの対象にはなりません。
一方で、これらに該当するのであれば、そのNFTは資金決済法の対象です。
とはいえ、現実的には明確な線引きは困難であり、悩んでしまう場合も少なくないかと思います。
お困りの際には、弁護士への相談をおすすめします。
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NFTアートの事例
それでは、NFTが実際に活用された事例を見ていきましょう。
ここでは、NFTを活用したアートとして、3例紹介します。
50ドルで売却されたNFTアートの家
2021年3月、デジタルの家が50万ドル(約5,500万円)を超える価格で販売されました。
この家は、購入者の仮想世界であるメタバースにアップロードして、アバターが住む家として使用できます。
また、この家はイタリアのガラス家具メーカーに依頼すれば、現実の世界で再現でき、マイクロLEDディスプレイに映し出すことも可能とのことです。
このNFTアートの家は、トロント在住の人物が、約51万2712ドル(約5,650万円)相当の暗号通貨イーサリアムと引き換えに購入しました。
デジタルアート作品が75億円で落札
2021年3月、競売大手クリスティーズのオークションで、デジタルアート作家であるBeeple(ビープル)の作品「5000 Days」がNFTで販売されたところ、6,930万ドル(約75億円)で落札されました。
ワシントン・ポストによれば、この金額は存命するアーティストの中で歴代第3位を記録するものとのことです。
BeepleはInstagram上で200万人のフォロワーを持つ、人気のデジタルアーティストで、
購入者は仮想通貨企業の起業家でした。
村上隆氏とNFTアート
現代美術家である村上隆氏が、NFTマーケットプレイスのOpenSea(オープンシー)へ作品を出品したものの、その後その出品を取り下げて話題となりました。
これは、NFT自体ではなく、使用していたトークンの性質やプラットフォームでの取引の性質上、付加したい契約内容がトークンに正確に反映されなかったためとされています。
NFTに使用するトークンの種類は一つではなく、そのトークンの種類によってはコンテンツが消失してしまう恐れがあると示唆された他、契約内容がすべてトークンに反映させることができない場合もあるという点で参考となる事例です。
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アート以外のNFT活用事例
NFTの利用としてはアートが最も一般的ではあるものの、その他に活用した事例も多く存在します。
ここでは、アート以外への活用事例を紹介しましょう。
試合映像とNFT
ゲームプラットフォームの「NBAトップショット」では、プロバスケットボールリーグのNBA選手たちが試合中に披露した決定的瞬間をおさめた「モーメント(Moments)」と呼ばれる動画を、ユーザー間で売買することが可能です。
「NBAトップショット」はブロックチェーンを基盤としており、プラットフォームの立ち上げから数ヶ月で2億ドル(約210億円)を超える売り上げを記録しました。
ゲームとNFT
2021年3月、株式会社スクウェア・エニックスが、ブロックチェーンアプリケーション開発企業であるdouble
jump.tokyo株式会社と、NFTコンテンツの開発で協業をすることを発表しました。
株式会社スクウェア・エニックスは人気ゲームである「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエストシリーズ」などを手掛ける大手ゲームメーカーです。
ゲームコンテンツは、そのゲームキャラクターやアイテムを唯一無二なものへとカスタマイズすることなどで、NFTとの相性が良いとされています。
前述のとおり、NFTの注目もゲーム上のネコのキャラクターの売買が発端でした。
NFT化することにより、ゲームの枠を飛び越えた横断的な仕組みが期待されるところです。
トレカとNFT
NFTは、トレーディングカードとの相性も良いとされています。※4
実際に、アイドルグループSKE48がNFTを活用したトレカを販売しました。
これは、ブロックチェーン技術を用いたサービスを展開する株式会社coinbookが手掛ける新しいデジタルトレーディングカードプラットフォーム、「NFTトレカ」のサービス第一弾として企画されたものです。
また、テニス選手であるジェシカ・ペグラもNFTを活用したデジタルトレーディングカードの限定版を出すことを発表しました。
唯一無二性のあるデジタルトレーディングカードとNFTとは相性が良く、今後も増えていくものと思われます。
初ツイートとNFT
2021年3月、Twitter社のJack Dorsey
CEOが、ツイッターで15年前に投稿された自身の初ツイートを、290万ドル(約3億2,000万円)で売却し、話題となりました。※5
NFTにより、落札者がその初ツイートのオンラインデータの所有していることを証明する形です。
落札したのはマレーシアに拠点を置くブロックチェーン技術関連企業のシーナ・エスタビ最高経営責任者でした。
業界をリードする企業のNFT参入
NFTは、あらゆるデジタルデータへの活用が考えられます。
NFTはデジタルデータの流通を促進する他、海賊版を締めだす効果もあるためです。
最近では、業界をリードする企業がNFTへ参入するケースも増えています。
このような流れの中で、特に「NFT」を意識することなく、NFT技術を用いたサービスを利用する機会も増えていくのではないでしょうか。
ここでは、NFT参入について2社の事例を紹介します。
GMOインターネットグループの参入
2021年4月、GMOインターネット株式会社などを擁するGMOインターネットグループが、希少性が証明されたアートや音楽作品などの流通プラットフォームを数ヶ月以内に構築することを目指していると発表しました。※6
このプラットフォームにはNFTの技術が活用される見込みです。
GMOインターネットグループは、アート作品や音楽、ゲーム、アニメに加え、会員権やチケットといった日付などの情報を含んだコンテンツの取引での利用を想定しているとされています。
大手企業の参入で国内のNFT市場はますます活性化しそうです。
エイベックス・テクノロジーズ株式会社の参入
エイベックス・テクノロジーズ株式会社は、コンテンツの違法なコピーを防ぐため、NFTを活用する見込みです。
エイベックス・テクノロジーズ株式会社は、デジタルコンテンツの著作権などの情報を一元管理する次世代型著作権流通システムである「AssetBank」をプレローンチしました。
違法コピーされやすいデジタルコンテンツは、IPホルダー(知的財産権の保有者のこと)に対する権利侵害が後を絶ちません。
そこでNFT技術を活用し、デジタルコンテンツに証明書を付与することで、そのコンテンツが適正に流通したものであることを証明する「A trust」を開発したのです。
その上で、IPホルダーが保有する権利を守りながら安心してデジタルコンテンツを流通させることができる、「AssetBank」の設計を行いました。
NFTは遅かれ早かれ、著作権管理の仕組みさえも変えていきそうです。
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沸騰の背景と今後の行方
アメリカでのNFT市場の規模は現在2億5,000万ドルほどで、暗号資産市場全体の規模の2兆ドル超と比較すれば、その規模はまだまだ相当小さいとされています。
しかし、NFTは単なるブームやバブルではなく、デジタルコンテンツ流通のインフラとしての役割を担う可能性の高い技術です。
NFTを活用したというだけで価値が高騰するような状態が長く続くとは思えませんが、デジタルコンテンツの保有者の証明や著作権の管理をベースとした流通の仕組みとして、今後も広く活用されていくことでしょう。
とはいえ、NFTを念頭に置いた法整備はまだまだ進んでいないのが現状です。
そもそも、日本の法令では、デジタルデータに所有権は認められていません。
そのデジタルデータに著作物性が認められれば、著作権法である程度の保護が可能である一方、著作権が認められない場合など、知的財産としての保護ができない際に、そのようなデジタルデータの購入者を保護する仕組みが、日本では確立されていないのです。
世界に出遅れてしまわないためにも、NFT活用のための法整備が望まれます。
まとめ
NFTは日本でも大手企業が参入していることからもわかる通り、いわゆる一部のマニアが熱狂しているだけの状態から脱しつつあります。
今後は、特にNFTを意識せずとも、NFT技術を使ったサービスを利用する機会も増えていくことでしょう。
とはいえ、NFTはまだまだ新しい市場です。
今後、いっそうさまざまな商品やサービスと組み合わされ、市場が広がっていくことが期待されます。