脅迫罪

脅迫罪とは?

生命、身体、自由、名誉または財産に対して害を加える旨を告知して人を脅迫した場合には、刑法222条1項の脅迫罪が成立します。

「脅迫」とは、人を畏怖させるに足りる害悪の告知、すなわち、「客観的に判断して、一般人が恐怖を感じる程度に害悪を告げること」を指します。

一般人が恐怖を感じる程度の害悪の告知がされればよく、被害者が現実に恐怖心を抱いたことは犯罪の成立とは無関係です(抽象的危険犯)。

刑法第222条 生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、二年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者も、前項と同様とする。

脅迫罪の刑罰

脅迫罪が成立すると、2年以下の懲役または30万円以下の罰金に処されるおそれがあります。
そのため、「長期5年未満の懲役若しくは禁固又は罰金に当たる罪」として、同罪の公訴時効は3年となっています(刑事訴訟法第250条2項6号)

公訴時効とは、犯罪が終了してから一定期間が経過することで検察官が起訴できなくなる期間のことです。
脅迫罪の場合には、脅迫行為があった時点で犯罪が終了したとして、公訴時効の進行が開始します。

脅迫事件の対象となる相手は限られている

脅迫罪における害悪は、被害者本人(刑法222条1項)か親族(同条2項)の法益に関するものに限られており、友人や恋人に対する害悪を告知しても脅迫罪は成立しません。

また、裁判例(大阪高判昭和61年12月16日(高刑集39・4・592)、高松高判平成8年1月25日(判時1571・148))は、脅迫罪が成立するのは「自然人に対しその生命、身体、自由、名誉又は財産に危害を加えることを告知する場合」に限るとして、法人に対しての脅迫罪の成立を否定し、法人の代理人や代表者への害悪の告知とみられる場合に限って脅迫罪の成立を認めています。

どのようなケースが脅迫罪になるか?脅迫罪の特徴

脅迫罪は、刑法222条に列挙された生命、身体、自由、名誉、財産に対する害悪の告知によって成立します。
告知の方法は面と向かって言う場合に限らず、手紙、メール、SNSを利用してする場合も含まれます。
具体例は以下の通りですが、名誉から生命まで幅広い法益が保護されており、最近よく耳にするパワハラも脅迫罪に該当する可能性があります。

脅迫罪に似た犯罪として「強要罪」(刑法223条)がありますが、脅迫罪が脅迫行為自体で罪に問われるのに対し、強要罪は、脅迫(または暴行)によって「他人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した」場合に成立することが特徴です。

「義務のないこと」としては、土下座や辞職願の提出などが考えられ、また、「権利の行使」としては株主総会への出席など法律上の権利のみならず、競技大会への出場などの権利も広く含まれると考えられます。

刑法第223条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前二項の罪の未遂は、罰する。

脅迫事件の逮捕率は?

令和2年における「脅迫」の認知件数3,778件のうち、検挙件数は3,299件であり、検挙率は87.3%となっています。
脅迫の認知件数は増加傾向にあり、脅迫罪が知人間トラブルで発生しやすいことや、近年はSNS上でのトラブルが多いことが影響していると考えられます。
(『令和3年版 犯罪白書 第1編/第1章/第1節/1』)

2021年の検察統計調査によれば、脅迫罪の総数は2,343件であり、そのうち1,384件が逮捕に至っています(警察で身柄釈放された40件含む。)。
逮捕率は59%であり、低いとは言えないでしょう。
(『検察統計調査 21-00-41 罪名別 既済となった事件の被疑者の逮捕及び逮捕後の措置別人員』)

脅迫事件で逮捕されてしまったら

本人が犯行を認めている場合

逮捕

被疑者を逮捕するには、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法199条1項本文)があり、「被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要性がない」(刑事訴訟法199条2項但書、刑事訴訟規則143条の3)場合ではないこと、すなわち「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」の要件を充足する必要があります。逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれは、被疑者の年齢や境遇、犯罪の軽重や態様など、諸般の事情に照らして判断されます。

被疑者が逮捕され、身柄拘束を継続する必要があると判断された場合は、身柄を拘束された時から48時間以内に検察官に送致されます。

勾留

被疑者を勾留するには、「勾留の理由」および「勾留の必要性」の要件を充足する必要があります。
勾留の理由として、①住居不定、②罪証隠滅のおそれ、③逃亡のおそれが刑訴法60条1項各号に定められています。
また、勾留の必要性は、勾留することが相当であること、具体的には、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれの程度や事案の軽重などに照らして、勾留による公益と勾留される被疑者の不利益とを比較して判断することになります。

検察官は、被疑者の身柄を受け取ってから24時間以内、さらに、身柄を拘束された時から計72時間以内に勾留の必要性があると判断した場合に、勾留請求をします。
裁判官による勾留決定がされると、勾留請求の日から最大10日間(延長された場合は最大20日間)勾留されることになります。

起訴・不起訴

検察官は、勾留期間中に起訴・不起訴の決定をします。
犯罪を認定するだけの証拠が存在しない場合(嫌疑なし)、犯罪の疑いはあるが、有罪判決になるだけの証拠がそろわなかった場合(嫌疑不十分)、犯罪の疑いは十分に認められるが、被疑者の年齢や境遇など諸般の事情を考慮してあえて起訴しないこととする場合(起訴猶予)には不起訴処分となり、前科が付くこともありません。
ただし、不起訴の場合であっても、捜査機関から犯罪の容疑をかけられて捜査の対象になったという「前歴」はつきます。

早期釈放

釈放とは、逮捕勾留された者の身柄拘束を解放することをいいます。
早期釈放を実現するためには、逮捕後勾留決定までの72時間以内という短期間で、捜査機関に対し働きかけを行わなければなりません。
初犯である、被害の程度が軽微、定職がある、家族など身元引受人がいる、被害者と接触するおそれがない、罪を認めている、被害者との示談が成立したなどの事情がある場合には、釈放される可能性が高くなるといえます。

執行猶予

執行猶予とは、有罪判決の言渡しの際に、刑の執行を1年から5年の間で猶予し、その猶予の期間中に再度犯罪を起こさなければ、刑の言渡しの効力が消滅するものをいいます。
期間は、懲役刑の期間と比較して1.5倍から2倍程度で定められることが多く、懲役刑の期間より短く設定されることはほとんどありません。

執行猶予を付すことができる事件は、3年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金を言い渡す場合に限られています。

執行猶予を付すかどうかは、犯罪の性質(悪質か否か)、前科の有無、示談の有無、反省の有無、被害者の処罰感情の程度などを考慮して、裁判所の裁量によって決定されます。

本人が犯行を認めていない場合(否認事件)

否認事件とは、被疑者が犯罪を行ったことについて認めていない事件のことをいいます。
捜査機関による取調べにおいては、身柄拘束下における精神的負担からその意のままに調書が作成され、最悪の場合冤罪が生じる危険性もあります。
そのため、被疑者や被告人が、取調べにおいてどのように対応するべきか、という弁護士のアドバイスが重要となります。

現在の日本の刑事司法の実情においては、一度起訴されてしまうと約99%の確率で有罪となってしまうため、逮捕直後から迅速に対応することが求められます。
また、実際に犯罪を行っていない場合でも、証拠との関係で被疑者などに不利な状況となるおそれもあるため、身柄拘束からの早期解放や、不起訴処分を獲得するために、示談をすることも考えられます(否認示談)。

脅迫事件の弁護のポイント

「脅迫」にあたるか否かは客観的に判断されるため、その該当性について発言内容、当事者の属性、当事者の関係性、そのときの状況など諸般の事情を考慮して争うことになります。

脅迫事件においては、その内容によっては早期釈放や執行猶予を得ることのできる可能性が高いものもあります。
また、現在の日本の刑事司法の実情においては、一度起訴されてしまうと約99%有罪となるため、今まで通りの社会生活を送るためには不起訴処分や執行猶予を得ることが必要です。
事実関係を否定して犯罪成立そのものを否定したり、早期釈放を目指したりするのであれば、早い段階から事実確認や証拠収集に取りかかることが重要です。

脅迫事件で前科をつけないためには

前科とは、有罪判決を受けたことがあることをいいます。

すでに述べたとおり、起訴された場合の有罪率は非常に高いため、前科を付けないためには不起訴処分を目指すのが現実的です。
不起訴となるためには、逮捕前から弁護士による早急な対応を行い、被害者と示談を行うことが重要です。
示談があれば、被害届が取り下げられる可能性や、検察官に示談を評価されて不起訴処分となる可能性が高まります。

なお、執行猶予期間が経過した場合には、刑の言渡しの効力は失いますが、前科自体が消滅するわけではないため、資格制限を受けたり、一定の職業に就けない場合があります。

脅迫事件の示談について

示談金については、脅迫罪の罰金刑の額である10万円から30万円が一定の目安になると考えられますが、実際には、脅迫の経緯、態様、程度などによって金額を協議することとなります。

例えば、電話越しに物を壊すことを示唆するなど脅迫の程度が低い場合には数千円から数万円程度になり、殺人予告など悪質性の高い場合や、継続的に脅迫行為がなされる場合などには、数十万円から数百万円になることもあります。

示談は両当事者の話し合いによって成立します。
しかし、被害者の多くは加害者に連絡先を知られることを拒むため、当事者間で話し合いを行うことは困難です。
弁護士に依頼することで、被害者も交渉に応じてくれる可能性が高まり、どのように謝罪するかなど、経験に基づいて適切な方法をお伝えできるため、示談交渉を円滑に進めることができます。

示談が成立したからといって、必ずしも警察の捜査が終了するというわけではありませんが、捜査初期の段階であれば終了する可能性も高いです。
また、起訴前であれば不起訴処分を受けることも可能です。

起訴後に示談が成立すれば、量刑や執行猶予の有無において被告人にとって有利に働きますが、それでも有罪判決のおそれがなくなるわけではありません。
そのため、示談は起訴される以前に行う必要があるといえます。

脅迫事件の民事責任について

脅迫の加害者は、刑事上の責任だけでなく、慰謝料等の民事上の賠償責任も負うこととなります。

慰謝料とは、被害者の精神的損害に対する賠償のことをいいます。

また、脅迫事件においては、被害者が脅迫によって精神疾患を抱え、日常生活を送ることが困難になり会社を休むことになるという事態が生じる可能性もあります。
そのため、治療費、通院費、休業損害などの損害賠償請求を受けるおそれもあります。

脅迫事件、なるべく早く弁護士に依頼するほうがよい理由

脅迫罪は、その内容、程度、回数などによっては逮捕の可能性があります。
刑事事件は一度逮捕されると、逮捕から勾留決定が最大72時間以内に行われ、勾留が開始されると最大20日間、身柄拘束されることとなります。
その後、起訴された場合には有罪となる見込みが極めて高く、前科が付くことによって社会生活上様々な不利益を被ることとなってしまいます。

今まで通りの社会生活を送るためには、早期に身柄拘束からの解放に向けて活動することが求められます。
また、被害者との示談を弁護士が仲介してスムーズに行うことで、勾留期間を短縮できたり、不起訴処分を得たりできる可能性が高まります。
そのため、脅迫事件でも、なるべく早く弁護士に依頼するのがよいでしょう。

ご家族が脅迫事件を起こしてしまったら

ご家族の逮捕前に弁護士を介した示談を行うことで、被害者が被害届を出すことなく解決する可能性がありますし、逮捕された場合であっても弁護士によるはたらきかけによって不起訴処分など有利な結果を得る可能性が高まります。

当事者同士で話し合いをすることも手段の一つですが、加害者と被害者の関係であるため、円滑・円満な解決を期待することが難しいと思われます。
また、弁護士から助言を得ることで、今後の流れやご家族にできることを理解し、冷静に対処することもできます。
そのため、事件後は速やかに弁護士にご相談いただくのがよいでしょう。

記事を監修した弁護士
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Authense法律事務所記事監修チーム
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