恐喝罪

恐喝罪とは?

恐喝罪とは、人を恐喝して財物や財産上の利益を得る行為を行った場合に成立する犯罪です。

「恐喝」とは、暴行や脅迫を用いて相手を畏怖させる(怖がらせる)行為を指します。
そして、恐喝罪においては、財物を交付させるための手段として暴行・脅迫をする必要があります。

暴行・脅迫を行った結果、相手方が恐怖心を抱いたために金品などの財物を交付した場合はこの恐喝罪が成立しますが、相手方が畏怖するに至っておらず同情心などから財物を交付した場合には、恐喝未遂罪(刑法249条、250条)が成立するにとどまります。
また、恐喝される者と恐喝罪の実際上の被害者は同一人物でなくともよく、恐喝される者に被害者の財産の処分権限がある場合には、恐喝罪が成立し得ます。

刑法249条 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同行と同様とする。

恐喝罪の刑罰

恐喝罪の法定刑は、10年以下の懲役です。
「人を死亡させた罪であつて禁固以上の刑に当たるもの以外の罪」であり、「長期15年未満の懲役」に当たる罪であるため、恐喝罪の公訴時効は7年間とされています(刑事訴訟法250条2項4号)。

公訴時効とは、犯罪が終了してから一定期間が経過することで検察官が起訴できなくなる期間のことです。
恐喝罪の場合は恐喝行為の時点(財物を交付させるために相手方に対して暴行・脅迫行為を行った時点)で犯罪が終了したといえますが、継続的に恐喝行為が行われているような場合には、最後の恐喝行為があったときから公訴時効の進行が開始します。

どのようなケースが恐喝罪になるか?恐喝罪の特徴

恐喝事件の典型的なものとしては、いわゆるカツアゲが挙げられます。
すなわち、「金を出さないと殴るぞ」、「殺すぞ」などと申し向けて、金品を巻き上げる行為です。

また、借金をしている相手方に対して返済を促すような権利行使の場面であっても、「今すぐ金を返せ。返さないと殺すぞ」など、「社会通念上、一般に忍容すべきものと認められる限度を逸脱」する方法をとった場合は、恐喝罪が成立する可能性があります(最高裁昭和30年10月14日判決)。 

さらに、脅迫の内容をなす害悪の実現は、それ自体が違法といえない場合であっても、恐喝罪が成立する可能性があります。
例えば、他人の犯罪行為を目撃した場合に、通報することをちらつかせて畏怖させた上、口止め料として金品を要求することは、警察への通報自体は適法な行為であるとしても脅迫に当たる可能性があることとなります。

ほかにも、飲食店などにおいて単なるクレームにとどまらない悪質なクレームを入れる場合などが脅迫に当たる可能性として考えられます。

被害の大きさ、継続性や常習性などの事情で、身柄拘束の有無や刑罰の程度が左右されるといえるでしょう。

強要罪との違いとは?

「強要罪」も、脅迫または暴行を用いる点では共通しています。
しかし、恐喝罪における暴行・脅迫が「財物の交付」に向けて行われるのに対して、強要罪では「義務のない行為を行わせること」や「権利行使を妨害すること」に向けて行われる点で、両者は目的が異なるといえます。

刑法223条 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
2 親族の生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
3 前二項の罪の未遂は、罰する。

強盗罪との違いとは?

「強盗罪」も、暴行または脅迫を用いる点では共通しています。
しかし、強盗罪の暴行・脅迫は、相手方の反抗を抑圧するに足る程度のものが求められるのに対し、恐喝罪は反抗を抑圧するに至らない程度の暴行・脅迫を手段とする点で、両者はその程度が異なるといえます。
暴行・脅迫が相手方の反抗を抑圧するに足る程度のものといえるかどうかは、一般人の感覚を基準として、被害者が反抗すれば、直ちにそれを抑圧して財物を奪取すると感じられるといえる程度の強度な暴行・脅迫でなければなりません。
その判断の際には、①被害者の人数・年齢・性別・性格などの被害者側の事情、②犯行の時刻・場所などの行為の状況、③暴行・脅迫自体の行為態様および行為者の人相等の行為者側の事情とが総合的に考慮されます。

刑法236条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

恐喝事件の逮捕率は?

令和2年における「恐喝」の認知件数1,446件のうち、検挙件数は1,256件であり、検挙率は86.9%となっています。
令和3年版 犯罪白書 第1編/第1章/第1節/1 (moj.go.jp)

2021年の検察登記調査によれば、恐喝罪の総数は1,756件であり、そのうち1,323件が逮捕に至っています(警察で身柄釈放された17件含む。)。
逮捕率は約75%であり、他の犯罪と比しても高くなっています。
検察統計調査 検察統計 被疑者の逮捕及び勾留 21-00-41 罪名別 既済となった事件の被疑者の逮捕及び逮捕後の措置別人員 年次 2021年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口 (e-stat.go.jp)
令和3年版 犯罪白書 第2編/第2章/第3節 (moj.go.jp)も参照)

恐喝事件で逮捕されてしまったら

本人が犯行を認めている場合

逮捕

被疑者を逮捕するには、「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」(刑事訴訟法199条1項本文)があり、「被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要性がない」(刑事訴訟法199条2項但書、刑事訴訟規則143条の3)場合ではないこと、すなわち「逮捕の理由」と「逮捕の必要性」の要件を充足する必要があります。逃亡のおそれや証拠隠滅のおそれは、被疑者の年齢や境遇、犯罪の軽重や態様など、諸般の事情に照らして判断されます。

被疑者が逮捕され、身柄拘束を継続する必要があると判断された場合は、身柄を拘束された時から48時間以内に検察官に送致されます。

勾留

被疑者を勾留するには、「勾留の理由」および「勾留の必要性」の要件を充足する必要があります。
勾留の理由として、①住居不定、②罪証隠滅のおそれ、③逃亡のおそれが刑訴法60条1項各号に定められています。
また、勾留の必要性は、勾留することが相当であること、具体的には、罪証隠滅のおそれや逃亡のおそれの程度や事案の軽重などに照らして、勾留による公益と勾留される被疑者の不利益とを比較して判断することになります。

検察官は、被疑者の身柄を受け取ってから24時間以内、さらに、身柄を拘束された時から計72時間以内に勾留の必要性があると判断した場合に、勾留請求をします。
裁判官による勾留決定がされると、勾留請求の日から最大10日間(延長された場合は最大20日間)勾留されることになります。

起訴不起訴

勾留期間中に、検察官が起訴・不起訴の決定をします。

犯罪を認定するだけの証拠が存在しない場合(嫌疑なし)、犯罪の疑いはあるが、有罪判決になるだけの証拠がそろわなかった場合(嫌疑不十分)、犯罪の疑いは十分に認められるが、被疑者の年齢や境遇など諸般の事情を考慮してあえて起訴しないこととする場合(起訴猶予)には不起訴処分となり、前科が付くこともありません。
ただし、不起訴の場合であっても、捜査機関から犯罪の容疑をかけられて捜査の対象になった「前歴」はつきます。

早期釈放

釈放とは、逮捕勾留された者の身柄拘束を解放することをいいます。
早期釈放を実現するためには、逮捕後勾留決定までの72時間以内という短期間で、捜査機関に対し働きかけを行わなければなりません。
初犯である、被害の程度が軽微、定職がある、家族など身元引受人がいる、被害者と接触するおそれがない、罪を認めている、被害者との示談が成立したなどの事情がある場合には、釈放される可能性が高くなるといえます。

執行猶予

執行猶予とは、有罪判決の言渡しの際に、刑の執行を1年から5年の間で猶予し、その猶予の期間中に再度犯罪を起こさなければ、刑の言渡しの効力が消滅するものをいいます。
期間は、懲役刑の期間と比較して1.5倍から2倍程度で定められることが多く、懲役刑の期間より短く設定されることはほとんどありません。

執行猶予を付すことができる事件は、3年以下の懲役もしくは禁固または50万円以下の罰金を言い渡す場合に限られています。

執行猶予を付すかどうかは、犯罪の性質(悪質か否か)、前科の有無、示談の有無、反省の有無、被害者の処罰感情の程度などを考慮して、裁判所の裁量によって決定されます。

本人が犯行を認めていない場合(否認事件)

否認事件とは、被疑者が犯罪を行ったことについて認めていない事件のことをいいます。
捜査機関による取調べにおいては、身柄拘束下における精神的負担からその意のままに調書が作成され、最悪の場合冤罪が生じる危険性もあります。
そのため、被疑者や被告人が、取調べにおいてどのように対応するべきか、という弁護士のアドバイスが重要となります。

現在の日本の刑事司法の実情においては、一度起訴されてしまうとかなり高い確率で有罪となってしまうため、逮捕直後から迅速に対応することが求められます。
また、実際に犯罪を行っていない場合でも、証拠との関係で被疑者などに不利な状況となるおそれもあるため、身柄拘束からの早期解放や、不起訴処分を獲得するために、示談をすることも考えられます(否認示談)。

恐喝事件の弁護のポイント

「恐喝」に当たるか否かは、具体的な行為事情を踏まえて実質的に判断されるため、この点について争うことが考えられます。
具体的には、暴行・脅迫の態様、犯行場所、犯行時刻、周囲の状況、相手方の性別・年齢・体格なども考慮して争います。

また、恐喝事件においても早期釈放や執行猶予を得ることも可能であるため、証拠隠滅や逃亡の恐れのないことの主張、被害弁償や示談交渉、悪質性のないことの主張などを行います。
事実関係を否定して犯罪成立そのものを否定したり、早期釈放を目指したりするのであれば、早い段階から事実確認や証拠収集に取りかかることが重要です。

恐喝事件で前科をつけないためには

前科とは、有罪判決を受けたことがあることをいいます。

すでに述べたとおり、起訴された場合の有罪率は非常に高いため、前科を付けないためには不起訴処分を目指すのが現実的です。
不起訴となるためには、逮捕前から弁護士による早急な対応を行い、被害者と示談を行うことが重要です。
示談があれば、被害届が取り下げられる可能性や、検察官に示談を評価されて不起訴処分となる可能性が高まります。

なお、執行猶予期間が経過した場合には、刑の言渡しの効力は失いますが、前科自体が消滅するわけではないため、資格制限を受けたり、一定の職業に就けない場合があります。

恐喝事件の示談について

恐喝事件の示談金は、恐喝行為によって取得した財産の価額に精神的損害分を上乗せした額になるのが一般的と考えられますが、恐喝の経緯、態様、程度、被害者の処罰感情などによって示談金の額を協議することとなります。

示談は両当事者の話し合いによって成立します。
しかし、被害者の多くは加害者に連絡先を知られることを拒むため、当事者間で話し合いを行うことは困難です。
弁護士に依頼することで、被害者が交渉に応じてくれる可能性が高まり、どのように謝罪を伝えるかなども経験に基づいて適切な方法をお伝えできるため、示談交渉を速やかに進められる可能性が高まります。

示談が成立したからといって、必ずしも警察の捜査が終了するというわけではありませんが、捜査初期の段階であれば捜査が終了する可能性も高いです。
また、起訴前であれば不起訴となる可能もあります。

起訴後に示談が成立すれば、有罪であったとしても、その量刑や執行猶予の有無において被告人にとって有利な事情となりますが、有罪判決には変わりありません。
そのため、示談は起訴される以前に行う必要があるといえます。

恐喝事件の慰謝料について

慰謝料とは、被害者の精神的損害に対する賠償のことをいいます。
恐喝罪の慰謝料は数万円から数十万円程度と考えられますが、恐喝の経緯、態様、程度などを考慮することとなります。

恐喝事件、なるべく早く弁護士に依頼するほうがよい理由

刑事事件の被疑者として身柄拘束された場合、最大72時間の逮捕の後、さらに最大20日間勾留により身柄を拘束されることがあります。
令和3年における恐喝罪の起訴率は29.1%ですが(検察統計調査 検察統計 被疑事件の推移 21-00-05 被疑事件の罪名別起訴人員、不起訴人員及び起訴率の累年比較 年次 2021年 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口 (e-stat.go.jp))、起訴された場合には有罪となる見込みが極めて高く、前科が付くことによって社会生活上様々な不利益を被ることとなってしまいます。

身柄拘束を回避したり、不起訴処分を獲得したりして社会生活を維持するためには、できるだけ早く弁護士にご相談いただくのがおすすめです。
有罪判決となる可能性が高い場合でも、早めに弁護士の助言を受けることで、必要以上に不利益な刑罰などを防げる可能性があります。

ご家族が恐喝事件を起こしてしまったら

ご家族の逮捕前に弁護士を介した示談を行うことで、被害者が被害届を出すことなく解決する可能性がありますし、逮捕された場合であっても弁護士によるはたらきかけによって不起訴処分など有利な結果を得られる可能性が高まります。

当事者同士で話し合いをすることも手段の一つですが、加害者と被害者の関係であるため、円滑・円満な解決を期待することは難しいと思われます。
また、弁護士から助言を得ることで、今後の流れやご家族にできることを理解し、冷静に対処することもできます。

そのため、事件後は速やかに弁護士にご相談いただくことをおすすめします。

記事を監修した弁護士
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