リーガルエッセイ
公開 2020.07.17 更新 2021.08.13

自分で110番通報したのに「自首は成立せず」?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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先日、裁判所で、あるコンビニ強盗事件の被告人に判決が言い渡されたことが報じられていました。
犯行後、被告人は、自ら警察に110番通報し、その後逮捕されたとのこと。
この裁判では、自首が成立するかどうかが争点になっていたものの、判決では、自首は認められないと判断されたそうなのです。
「逮捕される前に自分で110番通報しているのだから自首が成立しないのはおかしいのではないか?」と思われるかもしれません。
今回は、自首についてとりあげます。

発覚してしまったら自首は成立しない

自首という言葉は、ドラマやニュースで聞く機会があり、イメージはわきやすいのではないでしょうか?
でも、意外に正確に理解されていない言葉かもしれません。
自首を正確に表現すると、「犯人が捜査機関に対して自発的に自己の犯罪事実を申告し、その訴追を含む処分を認めること」をいうとされています。
自首すると、刑が軽くなることがあります。
自首が認められた場合は、裁判官が、刑を軽くすることができるとされているのです。
自首したら刑が軽くなるかもしれないとすることで、犯人に自首の動機づけをすることになり、これにより、捜査や犯人の処罰を容易にする効果があるといえるでしょう。

自首が認められるためには、一定の条件が必要となります。
そのひとつが、犯罪事実が、捜査機関に「発覚する前」に申告する必要があるということです。
発覚というのは、ある犯罪が起きたこと自体が発覚していない場合はもちろん、犯罪が起きたことはすでに発覚していても犯人がだれだか特定されていないという場合も含まれます。
今回の判決では、被告人が110番通報する前の時点で、すでに防犯カメラ映像で警察官が犯人を特定できていたと認められたため、犯人が発覚した後の申告であるとして自首は成立しないと判断されたようです。
もし、防犯カメラ映像に犯人が写っていなかったり、その映像から犯人を特定できる状態でなかったり、店員のかたも犯人がだれかわからなかったりという状況で、被告人の110番通報で初めて犯人が被告人であることが発覚したというのであれば自首は成立したといえるでしょう。
実は、裁判で、発覚前の申告といえるかどうかで自首の成否が争われることはとても多くあります。
たとえば、過去にこんな裁判例があります。
ある殺人の犯人が、犯行の10分後に、自首しようと決めて交番に行ったら、警察官がたまたま不在だったために、電話で自首しようと考えて、公衆電話を探しまわったそうなんです。
そして、見つけた公衆電話から警察に電話し、応対した警察官に自分がしたことと名前とを申告したら、なんと、その電話の2分前に、犯人の妻が110番通報したことにより、すでに捜査機関には自分が犯人であることが発覚してしまっていたとのこと。
もし、交番に行ったときに警察官がその場にいれば、犯人発覚前に自分がしたことを申告できたはずなのに、警察官がいなかったという、犯人とは無関係の偶然のせいで、申告が遅れ、結果として捜査機関に発覚した直後の申告になってしまったのです。
1審の裁判では、申告が発覚の後だった以上自首は成立しないと判断しましたが、控訴審では、事情を全体として考察して自首は成立すると判断しました。
たしかに、このケースで、交番に警察官がいてくれさえすれば自首が成立したのに、いなかったがために自首は成立しなくなるというのは、さすがに酷な気がしますよね。
このように、自首の成否というものは、案外微妙で、評価が分かれるところがあるために、裁判では検察側と弁護側でこの点をめぐって争われることは多いのですが、量刑への影響ということでいうと、私が経験してきた限りでは、あまり大きな差はないように感じます。
というのも、そもそも、自首による減軽は必須というものでなく、あくまでも裁判官の任意ですし、一方、仮に自首成立と評価されないケースでも、自ら悔いて自分から警察に出頭したという事実があれば、それ自体を真摯な反省の情のあらわれとして考慮することがあるからです。

弁護人としては、自首が成立するといえるケースでは、その成立がきちんと認定されるよう立証することはもちろんですが、自首の成立が難しいケースでも、犯行後の言動を丹念に調査し、真摯な反省の気持ちがあることを裁判官に伝え、その気持ちを最大限考慮した適切な量刑が言い渡されるための立証をしていくことに努めます。

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