リーガルエッセイ
公開 2020.06.22 更新 2021.07.18

「違法とは知らなかった」法律を知らなかったら罪に問われない?

記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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「違法とは知らなかった」

先日、フリマアプリで、必要な届け出をせずに違法に肥料を売ったとしたとして男女7人が書類送検されたと報じられました。
自家製肥料を売った人もいれば、正規の業者から買った肥料を小分けにして売った人もいるそうです。

肥料取締法は、肥料の品質を保ち、その公正な取引と安全な使われ方を確保することで、農業の維持増進や国民の健康の保護を目的とする法律です。
そして、この法律では、業として肥料を売るにあたっては、肥料によって、法律で決められた事項が書かれた保証票があるものしか売ってはいけないとか、そもそも都道府県知事に届け出をしなければ売ってはいけないとかいうことが定められていて、違反した場合の罰則としては、懲役刑や罰金が定められています。

今回、フリマアプリで肥料を売っていた人たちは、いずれも都道府県知事への届け出をしていなかったことなどで肥料取締法に違反したとして立件されたのですが、報道によれば、みな一様に「(自分のしたことが)違法とは知らなかった」と供述しているとのこと。

たしかに、フリマアプリのガイドを読むと、売ってはいけないものとしていろいろ掲げられている中に肥料などの記載もあります。
でも、そもそも、売っていいのかどうか?という迷いすら持つ機会がなかったら、わざわざガイドを調べようとも思わないでしょうし、しかも、出品したら、ちゃんと投稿もされて、その後削除をされることもなかったとすると、違法だと知るきっかけもなかったかもしれませんね。

私自身は、以前、肥料取締法の改正に関わる記事を見つけたことをきっかけにたまたまこの法律の存在を知りましたが、たとえば、お酒を飲んで運転してはいけないとか、人に暴力を振るってはいけないとか、そのようなことと少し違って、肥料に関わる業界と離れたところで生活している場合、この法律の存在すら知らなかったという人は相当多いのではないかと思います。

法律を知らなかったら罪に問われないの?

刑法には、「罪を犯す意思がない行為は、罰しない。」という条文があります。
故意がない行為は罰しないというルールです(故意がなくても、過失がある場合に、特に過失犯を処罰するという場合などは別です)。
簡単に言うと、これをやってはいけないという規範に直面していたのに(または直面することが可能だったのに)あえてこれを乗り越えたときに罰せられる、ということです。
そうなると、今回のように、法律の存在すら知らなかったというときには、故意を問うことはできず、罪に問われないのではないか、と思いませんか?
でも、刑法は、同じ条文で、「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。」と定めています。
法律を知らなかったとしても、そのことで故意が否定されませんよ、ということです。
ここは、私自身も初めて大学で勉強したときに、何が何だか分からず、とても混乱した記憶があります。
この点については、そもそもいろいろな考え方もあり、正確に解説しようとするととても込み入った話になってしまうので解説を省きますが、いずれにしても、今回取り上げた件でも、「肥料取締法なんて知りませんでした」と説明したとしても、そして、そのこと自体が嘘ではなかったとしても、そのことにより故意がなかったこととされ、罪に問われない、ということにはならないのです。

では、この法律があることを知らずに、届け出をしないままに何度か肥料を売ってしまったというときに、そのことだけで起訴されて懲役刑が言い渡されるか、というとそれはないのではないかと思います。
もちろん、売っていた人の仕事、経歴、売るに至った経緯、売っていた回数、どのような文言で売っていたかなど個別の事情によっては、いくら「知らなかった」と説明しても、違法だと知っていただろうと認められるケースはあるでしょうし、そうでなくとも、個別事情によって刑事責任の程度は全く違ってくるとは思います。

でも、肥料の販売等と関係のない仕事をしてきて、肥料を売ったことでフリマアプリや捜査機関からの注意を受けたこともなく、違法の認識をもつ機会すら持てなかった人が、届け出をせずに、自家製の肥料を何度か売ってしまったという場合、犯罪は成立するけれども起訴には値しないと判断されて起訴猶予とされる可能性も十分にあるのだろうと思います。

とはいえ、ちょっとした注意で避けられるのであれば、知らずに法律違反をしているなどという事態は避けたいですよね。
この機会に、フリマアプリで出品するときには、いったん立ち止まって、売ってはいけない物のリストを確認してみたり、それでも不明なときは、公的な機関(警察など)に相談してみることをおすすめします。

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