リーガルエッセイ
公開 2024.09.11

完食指導について

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記事を執筆した弁護士
Authense法律事務所
弁護士 
(第二東京弁護士会)
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。司法試験に合格後、検察官任官。約6年間にわたり、東京地検、大阪地検、千葉地検、静岡地検などで捜査、公判を数多く担当。検察官退官後は、弁護士にキャリアチェンジ。現在は、刑事事件、離婚等家事事件、一般民事事件を担当するとともに、上場会社の社外役員を務める。令和2年3月には、CFE(公認不正検査士)に認定。メディア取材にも積極的に対応している。
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完食指導について思うこと

先日、会食恐怖症に関するある記事を読みました。
子ども時代、保育園で出される給食をすべて完食しないといけないという完食指導がされたことで他人と食事することが困難になったかたがいると報じられていました。

今回は、この報道を少し離れ、完食指導について考えてみたいと思います。

私は、子どものころ、苦手な食べ物が多くて、給食によく出ていたものでいうと、グリーンピース、マッシュルーム、たけのこ、マスタードあたりを食べることができませんでした(ちなみに、マスタードは、食パンに塗って食べるものとして出されていました)。
グリーンピースなんて、カレーにも、シチューにも、野菜炒めにも…とにかくいろいろなおかずに入っていて、週の半分以上はグリーンピースが入った給食だったように記憶しています。
そして、私は、グリーンピースがおかずに入ったとたん、グリーンピースそれ自体のみならず、全体としてのおかずも口にすることができなかったので、基本的に、給食をほとんど食べることができませんでした。
給食に対する考え方は、担任の先生によってかなり差があり、「すべて食べ終わるまで席を立ってはいけない」という考え方の先生もいれば、残しても何も言わない先生もいました。
私は、小学校中学年くらいのころ、「すべて食べ終わるまで席を立ってはいけない」という考え方の先生にあたりました。
私は、苦手な食材については、何があっても絶対に口にすることができなかったので、先生が、「もうこれ以上給食を片付けないと給食室のかたがたに迷惑をかけてしまう」と判断して怒りながら「片付けなさい」と言ってくるまでじっと給食をにらみつけて時間が過ぎるのを待っていました。
今思い出すと、本当にご迷惑をおかけしてしまったなと思いますが、でも、私にとっては当時とてもしんどい時間でした。
よく、先生から「作ってくださったかたに失礼だよ」と言われたのですが、もちろん、それはよくわかっていても、どうしても口にできないのだから、最初から、器によそわず、給食をもっと食べたいという子が食べてくれたら、給食を作ってくださったかたにも失礼にならないし、みんながハッピーなのではないかとひそかに思っていました。

完食指導ということを考える上では、給食が学校教育活動の中でどう捉えられているかということを知っておく必要があると思います。

文部科学省が定める学習指導要領によれば、給食は「特別活動」に分類されています。
特別活動というのは、集団や自己の生活上の課題を解決することを通して、資質・能力をはぐくむことを目指す教育活動のこと。
つまり、特別活動である給食の時間は、ただご飯を食べる時間というわけではなく、健康によい食事のとり方など、望ましい食習慣を作ったり、食事を通して人間関係をよりよくすることを学んだりするという教育目的があるのです。

そう考えると、子どもが好まない食事について、成長のためにどのような役割を果たすものなのかを教え、指導すること自体は、むしろ特別活動としての目的に沿うことなのだろうと思います。

ただ、「全部食べないと休み時間にさせない」「食べ終わるまで家に帰れない」などというペナルティと結びつけて完食を強制することは教育として不適切なのではないかと思うのです。
学校教育法11条では「教育上必要があると認めるとき」は懲戒を加えることができるとされていますが、罰を伴う完食指導に教育上の必要性が認められるかは疑問です。

では、完食指導によりPTSDになったという場合、学校側(公立であれば市町村など)に慰謝料等を請求することができるのか。
法的には考えられると思います。
ただ、指導とPTSD発症との間の因果関係の立証にはハードルがあるのではないかと考えます。
ひとくくりにして評価することは難しいですが、やはり因果関係の立証には課題がありそうです。

そうなってくると、考えたいのは、事前の対応です。
お子さんが特定の食材について強い不安がある場合、あらかじめ、保護者から学校側に伝え、話し合いの機会を持つのがよいのではないかと思います。
その際は、ただただ、一方的に希望を伝えるというよりは、給食に関する学校の教育方針を聴きながら、家庭の考え方も伝え、お子さんの特性なども踏まえ、どう対応していくのがよいか、じっくり話し合いをしてみるのがよいのかなと思うのです。
もしかすると「給食の話でそこまでするのか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
先生方もお忙しい中、相談がしにくいというお気持ちもあるかもしれません。
でも、苦手な食材があったり、たくさんの子たちがいる中で食事をすることについて細やかに気にしてしまったりするお子さんにとって、給食の時間をどう乗り越えるかということが大きな悩みになっているかもしれません。
指導のされ方によっては、将来の食生活に大きな影響が出るような事態になるかもしれません。
もちろん、これは、給食だけの問題ではなく、家での食事にも関わることかもしれませんね。
お子さんの給食の時間にご不安がある場合は、一度、ご家庭でお話してみるのもよいと思います。

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